ダンジョンに潜るニート、大人気配信者と最強のタッグとなる

雑談

「そういや配信の時お前はどうするんだ？」
「な、何がですか？」
「名前や顔の事だ。私は偽名で仮面を付けてる。仮面は自由だがせめて配信用の名前を決めた方がいいだろ」
「あっ、な、なるほど……確かに私も仮面付けたいですね。顔は余り出したくないので」
「分かりました。そんな事もあろうかと」

バックから仮面を取り出す
（予備あるのか）
澪と恋歌に手渡す
澪の仮面は同じ物、恋歌の仮面は少し形が違う
区別が付くようにしている

「零さんも仮面破損してますし変えておいてください」
「あぁありがとう。丁度欲しかった所だ」

丁度欲しかった澪は仮面を付け替えようとする

「はいストップ、零さんはダンジョン内で」

タクシーの窓から見える為身バレ防止の為に止める、恋歌に関してはもう仕方がない
このタクシーの運転手はシズクの知り合いで自他ともに認める口が硬い人
シズクが手配をした

「ありがとうございます！」
「ちなみにダンジョンの主は配信予定です。中ボスはどうします？」
「もはや私は別に構わんぞ？」
「わ、私も、だ、大丈夫です！ あ、あと名前は恋《れん》で」
「OK、それじゃ中ボス前から配信するよ。名前は恋ねぇ……さん付けた方がいい？」
「い、いえ、むしろ呼び捨てで」
「私も呼び捨てで構わんが」
「零さんは零さん呼びの方が受け良いと思うのでそのままで」
「……？ あぁ、分かった」

リスナーの中でもレイさんで定着している
3級ダンジョンの中ボス2人討伐と言う偉業を二回も成した時点でかなりの注目株となっている
その為更に視聴者を増やす為にもキャラ付けが必要となる
（澪さんはやはりクールキャラですね、男口調という点もポイント高い！ 恋歌ちゃんは……普段はオドオドしてるけど戦闘では誰よりも前で戦うギャップ萌えかなぁ）
シズクは考える
根っからの配信者、使える物は使う
2人には伝えない、キャラとして演技するのではなくあくまで自分自身で居て貰う
素人の演技は売れない、その上キャラに集中して本来の力を発揮出来なくなったらそれは本末転倒

「そう言えば恋ちゃんは学生？」
「はい、学生です。学校にも通ってます」
「今日はそう言えば休日か」
「そうですよ。ちなみに私も学生ですが不登校です」

日付を特に気にする必要のない澪は今日が休日だと言う事を思い出す
学生兼探索者は結構な人数居る、危険故に学生のダンジョン侵入は禁止と言う決まりがあるがむしろ増える一方だ
学生の場合は小遣い稼ぎの為にやっている者が多い
恋歌のような学生でのめり込むように戦っているタイプは本当に珍しい

「学校行ってないのか」
「はい、正直今稼げてますから」
「まぁそうだな」

澪は何かを言える立場には居ない
今は探索者兼無職、ほぼニートのような生活をしている
将来の為に学校に行くべきだとかは言えない
高校を出て一度は就職していながら仕事を辞めて探索者になっているのだから

「学校に行くべきだとか言わないんですね」
「まぁ行けるなら行くべきだとは思うがそこは結局個人の意思によるし実際シズクは稼げてるしな。探索者なんて不安定な物はいつか出来なくなるかもしれないとか言う人は居るだろうけどそれはどの仕事でも言える事だしな」
「そうですか？ 安定した仕事はあると思いますが」
「事故で病気でできなくなるかもしれない。会社が不祥事で倒産するかもしれない。人間関係で仕事を辞める事になるかもしれない、どこまで行っても可能性に過ぎないけど探索者が続かないという物も今はただ可能性に過ぎん」
「まぁ可能性の話ではありますよね」
「まっ、稼げるうちに稼いどけばいいって話だよ。金さえ持ってれば文句言われまい」
「それはもう結構稼いでます。レイさんの出てる動画再生数ヤバいですし」
「す、凄いですよね。た、確かトレンドにもなってましたし」

悪い笑みを浮かべてシズクが言う
探索配信自体かなり人気の高いコンテンツ
その中でもシズクチャンネルは元々大人気配信者であった
そのチャンネルが突如休止を宣言しその上で休止中に予告無しのゲリラ配信
インパクトはこれだけでもかなり高いのに今までどの配信にも乗っていない仮面を付けた謎の槍使い、そして中ボスを2人で討伐する
多くの人間の目に止まるのも必然だろう
最小人数にして最速の討伐記録を2日連続で更新した結果ニュースでも話題になっていたくらいだ
探索者のコンテンツは世界的な物、国々は自国の強く良い記録を持つ人間を優遇していたりする
どの国が最もダンジョン攻略を進めているのかと言う争いをしているのだ
世界中が注目している
（再生数増えたのはいいですが……）
シズクは懸念していた事が起きていた
世界中でも注目されている、それは良い意味だけでは無い
疑いの目を向ける者、嫌う者、単純に誹謗中傷する者、敵意を剥き出しにする者、脅迫する者まで色々とシズクの元に来ている、中には日本人だからと言う点で色々と言う者も居る
多くの人の目に映るそれは危険を孕んでいる行為なのだ

「本当に人間って面倒」

3人に聞こえないような小声で呟く
タクシーは目的のダンジョンに着く