TS少女は必死に生きる

代永 並木

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前世を思い出す

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 冷たい水粒が身体を打つ
 水粒が赤い液体と混ざり水溜まりを形成する
 視界ははっきりとはしないが散った木材の破片と人の身体の一部が見える
 痛みで身体がろくに動かない

 ……死ぬのかなぁ

 意志に関係無く薄れ行く意識、死が迫っている事を理解する
 先程まで感じていた痛みももう感じない
 死への恐怖も意識と共に薄れていき意識を失う
 変な夢を見た
 その夢は何処か違う世界で男性として生活している夢、最後に強盗に襲われ死ぬ
 終わりが最悪な夢

 目を覚ます
 意識を失う前に居た森の中で目覚めたようだ
 雨が降っていて周囲の死体は腐敗していない
 意識を失っていた時間はそれ程長くは無かったようだ

 ……あれは夢じゃない

 意識を失った時に見た夢
 あれはただの夢じゃない、あれは己の記憶だ
 記憶を取り戻した事で記憶そのままで人格が上書きされる
 16歳の人生よりも27歳の人生の方が人格が大きく影響する

「どういう事だ?」

 2つの記憶を合わせてもこの事象の答えを導き出す物は無い

 ……いや、今はそれは良い

 負っていた怪我は何故か治っている
 これなら動ける
 しかし、この森の事を僕は知らない
 少女の方の記憶でも詳しい事は分からない

「……村は遠い」

 僕が今世で生まれ育った村、そこから王都と呼ばれる大きな街に向かっていた
 その道中で魔物に襲われこの惨事が起きた
 周りを見ると魔物らしき物の死体もあるので恐らくどちらも全滅し僕だけが生き残った
 生き残ったのなら生きる

「確か食料があったはず、バックも欲しいな」

 馬車の残骸を漁って僅かに残った水と食料と比較的損傷の少ないバックを入手する

 ……損傷は少ないけどすぐに破けそう……まぁ仕方ない

「よし、これなら3日……いや2日は持つかな?」

 食料の量を確認する
 現在地が明確では無いが村よりも王都の方が近いのだけは分かる
 ここに留まっていても誰かが助けに来るとは思えないから動かないとならない
 魔物との戦闘経験なんて無い、前世でも戦闘経験は一切無い
 だから見つかれば死前提で見つからないように動く

「この世界の果物や植物の知識は多少あるから最悪食料無くなっても暫くは大丈夫かな」

 今世の記憶で森の食べられる物の知識はある
 取り敢えず馬車の残骸から手頃な先が鋭い木材を拾って手に持つ
 手よりは刃物類の代用にはなるだろう
 一先ず馬車から離れる
 血の匂いに魔物は気付く
 だから早めに魔物が来る前に離れる
 森の中を進む、宛は無い
 馬車の残骸の位置から向かおうとしていた方角は絞れたが馬車から離れた事で目印になる物が無く方向感覚を失う

「疲れた」

 単純に歩いているからだけでは無い
 魔物にいつ襲われるか分からないと言う恐怖と周囲の情報に対して敏感になる感覚
 意識の大半にある死への恐怖
 雨が当たり冷たく濡れた服、雨で土が泥になり足が埋まる
 それらが体力をどんどん奪っていく
 早く出たいが焦って視野が狭くなったら不味い

 ……落ち着け、落ち着けよ……

 頑張って身体を落ち着かせる
 適当に枝や葉っぱを木の傍に集めてその中に入る
 こうすれば外からは姿は見えないし多少なら雨も遮る
 人が来ても見つけて貰えない難点はあるがリスクを減らす方が先決

 ……胸がデカい! 入りづらい!

 身長はまぁ少女らしい身長、明確な事は分からないが同年代の少年達より小さい
 身長は問題では無い、胸だ
 胸が大きいのだ、だから隠れる時にその分大きくスペースが必要になった
 ギュッと体操座りして身体を縮める
 少しでも潜めるように
 そして夜を迎える
 腹が減る前に食事を軽く済ませて眠る
 疲れですぐに眠りにつく
 そしてどれだけ時間が経ったか分からないが目を覚ます
 葉っぱと枝に囲まれている
 ちょっと葉っぱをずらして外を見る
 木々の隙間から光が見える

「明るい……周りは」

 耳を立てて音を聞く
 出た瞬間魔物に遭遇は笑えない

 ……特に声や足音は聞こえない、これなら居ないかな

 念の為に顔を出して周囲を見て確認する
 耳と目でしっかりと警戒する
 ぐっすり寝た事で疲れはだいぶ取れている
 確認を終えて外に出て進む
 森を出られない

 ……昨日も合わせればだいぶ歩いてるのになんで外に付かない

 下手な方向転換などはせずただ真っ直ぐ歩いている
 なのに森の外に出ない
 それだけ遠いのかそれとも気付かないまま変な方向に歩いているのか
 コンパスなんて便利なアイテムは無いからただ歩く事しか出来ない

「馬車が通るんだから道くらい無いのか」

 馬車がこの森に入った時は道があった
 だが魔物に襲われた後、道を外れたのか近くに道は無かった
 襲われた時の記憶は曖昧で探しようがない

 ……どうするか

 既に馬車からはかなり離れている
 戻っても手掛かりがあるか分からない

「いや、真っ直ぐ進もう」

 可能性としては道を見つけるよりも真っ直ぐ進んで行けば森に出る方が高い
 真っ直ぐ進む
 魔物の声や足音が聞こえたら木の裏に隠れて息を殺す

 ……近い……危ない

 焦らず通り過ぎるのを待つ
 足を1歩も動かさない、枯葉や枝を踏めばバレる
 姿を見られてもバレる
 今は気付いている様子は無い
 足音が遠くなっていく
 ホッと安堵する
 暫く歩くと道を見つける
 馬車が通っていた道に酷似している

「道に出た」

 もう道は探していなかった、予想外
 これなら森の外に確実に迎える
 道沿いを通って進む
 暫く歩いているとふと音がするのに気付く

 ……この音、魔物? ……いやこれは馬だ。それも別の音も混じってる

 前方から向かってきている音だ
 そちらの方をよく見てみると馬車がこちらに向かって進んでいた

「馬車!」

 馬車を操作している御者も見える
 これなら助かる、森から手を伸ばして御者に見えるようにアピールする
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