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死者編

深い眠り

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時間をかけて万全な準備を整える

「試しに一度やってみるとかしないんです?」
「一度で出来るなら一度でやるべきだろう。万全な準備を整えてからだ。物事は慎重にやるのが実験の基本だぞ若者」
「まぁそうですね」
「カエデ、暇ならこちらを手伝え」
「あっ、うん……って何運んでるの!?」

ベルが何かの液体が入った物を運んでいる
液体の中に何かが浮かんでいる
カエデがよく見ると液体の中には何かの内臓が浮かんでいる

「何かのホルマリン漬け」
「グロい!」
「それは動物の内臓だ。古代の魔術には触媒が必要でな、あぁ割れないように慎重に扱ってくれたまえ」
「触媒魔術か懐かしい、一々贄を用意しなければならない使い勝手が悪い人の魔術か」
「お主ら魔物も魔石を触媒としているでは無いか」

魔物は自身の魔石を触媒として使用する事で魔術を発動している
基本魔物が一種類の魔術しか使えないのは魔石を触媒としているからである
複数の魔術を使えるベルや塔の魔物はかなりレアケース

「知っていたか」
「えっ? そうなの!?」
「魔石を触媒とする事で効率的に魔術を展開出来る」
「ほへぇ、便利だねぇ」
「あぁ便利だ」

準備に必要な物で足りない物はアルドシアかベルが外に出て掻き集める

「魔物よ、ダンジョンや遺跡で魔導具を掻き集めてくれないか?」
「なぜだ?」
「有益な魔導具があるかもしれぬ、死者の蘇生だ多い方が良い」
「成程な、分かった」
「それなら私も」
「貴様はダメだ魔力を使わないように研究所に籠ってろ」

ベルは研究所を出て知っているまだ攻略されていないダンジョンや遺跡に攻め込み魔導具を掻き集める
攻略中の冒険者が居ても無視してボスを倒し魔導具を持っていく

「……はーい」
「何か身体に不具合があればすぐに報告したまえ」
「はい!」

魔力が日に日に減っていく
その度に体が重く感じる、正確には身体が上手く操れなくなっていく
死が迫ってきているのが分かる
二人が出掛けている間一人で椅子に座ってボーとする
カエデは自分の為なのに自分は何もしていない事に苛立ちを覚えている
(役に立たないのに……まぁ蘇生出来れば彼女にあけ渡せれば……いやそもそも彼女の魂はこの身体にあるのかな)
死後異界の魂のカエデは静かなまま、蘇生したとしてその魂が目覚めるとも限らない
そして本来の器の持ち主のカエデには現在生きる理由は無い

「蘇ってもなんの意味もない」
「返すのだろう?」

ベルがいつの間にか帰ってきていた

「その予定だけど彼女が生き返るのか……」
「死は覆らない、死んでいるのなら貴様が生きればいい本来は貴様の器だろう?」
「私には生きる理由が無いの」
「生きているうちに生きる理由を探せばいい。死ぬまでなら時間はあるだろう」
「……そうかな、そうだね……ねぇベル」
「なんだ?」
「一つお願いがあるの。もし蘇生が成功して彼女が主導権を持ったら……」

ベルは驚いた表情をする
数秒考えた後頷く

「分かった」

それから半月後、死者蘇生の儀式を始める

「まず身体の中にある血を混ぜて魔術を起動する」

カエデが魔力を込める
魔力は魔力を貯める事が出来る魔導具にアルドシアが注ぎ込んでおいた魔力を使う
血を体内に入れていき血管を通って全身にゆっくりと血を巡らせる
全身に血が巡ったのを確認して雷系の魔術が刻まれた魔導具を使用する

「行くぞ」

ベルが担当する、出力を抑えた雷系の魔術が心臓と脳に電気を流す
時間をかけて何度か試すとビクッと身体が飛び跳ねて心臓が小さくだが確実に動き出す
血が流れ段々と生気を取り戻していく
死んで間もない身体であった事が功を称したのか死者蘇生は成功した
カエデは目を覚ますがそこは真っ暗な世界であった

「あぁ死んだんだったな。あぁやっぱり魔王討伐なんて無理だったか。魔王以前の話だったけど」
「よかった成功したみたいだね」

カエデの前に同じ姿をしたカエデが立っている
精神世界で同じ体に入る二つの魂が初めて出会う

「誰?」
「誰とは失礼な! 私はカエデ! 本来のね」
「本来の? それはどう言う」
「そのままの意味君なら分かる筈だけど?」
「もしかしてあの身体の本来の魂の持ち主?」
「そう! 大正解!」
「悪い死んでしまった」
「確かにそれは悪いニュースではあるけど良いニュースでもあった。そのおかげで私は封印を破れたんだからそして今し方あの身体は蘇った」
「封印? 蘇った? どういう事?」

死んだ後の話をする

「成程……」

納得しきれてはいないが状況を知った
(蘇ったから俺は目を覚ましたのか。だとして主導権はどっちになる?)

「君に主導権は渡すよ。魔王を倒すんでしょ?」
「なんでそれを」
「この体の記憶なら全て持ってるから……それに君に主導権が渡った時に頼んでる事もあるし」
「頼んでる?」
「死んでる時の記憶を君が持つかは分からないけど起きてからのお楽しみ! 私は多分また深く眠るから」

精神世界に来て理解した、1つの肉体に二つの魂が維持される事はないと
どちらかが消える事になる

「良いのか? この身体は君の」
「私の体だよ。でも君の体でもある。そして生まれてからずっと君が歩んだ人生だ。それは私の人生じゃない、歩み続けて欲しい。悲しむ者がいる君の人生はここで終わってはならない!!」
「……分かった。全力で生き延びてやるよ。俺の人生を生き抜いてやる」
「それで良いの」

精神世界が崩れ始める
目覚めの時間

「君を殺した魔物がいるけどあの子は味方だから大丈夫」
「はっ!? 魔物!? 味方!? それどう言う!?」
「はいはい~さっさと行ってね~」

カエデは精神世界から追い出される
たった一人残った彼女は崩れ行く精神世界に残る

「短い人生だったなぁ……あれ? これなんだろ」

目から何かが溢れ出す
死んでいた体を操っていた時は出る事の無かった物が溢れ出す
それは最初で最後の『涙』

「あぁ……やっぱり消えたくないなぁ」

今更になって消えるが怖くなってきた
主導権を奪えば良かった
そうすれば生きられた
けれどそれは彼女を想う者の願いを踏み躙る行為
そんなわがままが通っていいはずがない

「色々手伝ってくれたアルドシアさんにも感謝出来てないしベルにさようならを言えてないや」

崩れ行く精神世界に灯る光に手を伸ばすが届かず手は空を切る

「ベル、私の唯一の友達、君は私を友達と思ってないだろうけど楽しかったよ。わがままを聞いてくれてありがとう」

この声は誰にも届かない
最後に彼女は泣きながら後悔しながらも『笑う』

「さようなら」

そして深く暗い眠りに落ちていく


目を覚ます、すると二人が椅子に座っていた
片方は殺した張本人、もう片方は知らない老齢の男性

「お目覚めか。貴様はどっちだ?」

中性的な顔立ちの魔物が聞く
身構えそうになるが精神世界で言っていた言葉を思い出す

「君が殺した方だ」

すると目を見開き一瞬落ち込んだように見える

「……そうか。死者蘇生も終わった事だし我は帰る」

そう言って研究所を立ち去る

「死者蘇生に成功した。気分はどうだ?」
「実感がないです」
「だろうな。あぁ儂はアルドシア・ディルブレイズ」
「アルドシアさん!? て事はここは研究所ですか?」
「儂とアルス卿の名をシオン卿に聞いていたな、そうだともここが儂の研究所じゃ」

~~~

復活から時が流れた
感動的な再開もあり困難に挑み順調に力を付けたカエデ達は魔王との決戦を開始する
魔王の封印を解いていざ戦闘という時に空から4枚の翼を広げた人型の魔物が魔王の前に現れる

「何をしに来たんだ?」

カエデは問う
振り返りもせず淡々と

「友との約束を果たしに来た。ただそれだけだ」

そう言ってベルは魔王と対峙する
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