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2つの呪い

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「見覚えのない魔物だな」

 いつも通りダンジョンの中で魔物を倒していた
 そんな中、見覚えのない魔物まものが現れた
 他の魔物とは違う雰囲気を感じる

「嫌な気配だな……スキル起動」

 素早く接近して刀を振るう
 大抵の魔物であればこの一撃で切り倒せる
 魔物は動いていない、魔法を使う様子もない

 殺れる

 ただ倒せる事を確信した
 その瞬間、全身に激痛が走る
 全身が焼かれるような痛みが走り刀を落としその場に膝を付く
 それから時間にして数秒、体感では数分にも及ぶ苦しみを耐え切り再び刀を握る
 刀がやたら重く感じる
 周りを見渡すが魔物の姿は無い

「消えた? ……は?」

 声を出した事で違和感に気付く
 声が高い
 普段の声は成人男性らしい低い声、しかし今は少女のような声の高さをしている
 他に感じた違和感の確認の為に手を見る
 するとそこにあったのは普段見なれた両手ではなかった
 綺麗で小さな手をしていた、普段から刀を握り魔物狩りをしている俺の手はこのような見た目ではなかったはず
 恐る恐る身体を見るとやはり小さい
 使っている戦闘用の服はダンジョン製の装着者そうちゃくしゃのサイズに合わせる物である為ピッタリと合っているが見るからに身体が小さくなっている

「なんだこれは、魔物の魔法まほう……いや呪いの類か」

 突然の肉体の変化に驚きを隠せないがすぐに原因を考える
 魔物の中にも魔法や呪いと言った類の力を使う者が居る
 先程遭遇した魔物がその手の魔物であった可能性はある
 聞いた事のない事例だがダンジョンでは未知の事例など日常茶飯事、良くありすぎるくらいな物だ
 自身のステータスを確認する
 ダンジョンに一度でも入った者はダンジョン内におけるレベルやステータスが数値化された物を見る事が出来る
 肉体の変化が生じている今、ステータスに何かしらの影響を与えていてもおかしくない

「なっ……は!? レベル1!?」

 レベル1、ダンジョンに入ってすぐの探索者のレベル
 ステータスも初期の頃に近いステータスをしている

「呪い」

 見覚えのない文字を見かけそれを読む

「性別変換の呪いと弱化の呪い、性別変化の影響でレベル及び身体ステータスリセット+弱化じゃくかの呪いによってステータスを半分以下に!?」

 今ここはダンジョンの中、それも深い階層
 レベル1で太刀打ち出来るような場所では無い
 付近に魔物は居ないが来ないとは限らない

「仕方ない。一先ず撤退だ」

 バックから道具を取り出す
 緊急時に入口に移動出来る魔導具
 かなりレアな魔導具まどうぐな上、使い捨て
 ダンジョン内で偶然1個だけ見つけて持っていた
 地面に叩きつけて砕く
 すると足元に陣が浮かび入口に転送される

 突然現れた少女に周りの人々は驚く

「うぉっ!? なんだ?」
「突然現れたな」
「転移の魔導具だ……くっそレアな」
「噂には聞いた事あったが」
「美少女だ、あんな探索者居たのか」
「見覚えがないな初心者か」

 ……見た目が変わっているのは確かみたいだな

 周りの声を聞いて自分の姿が少女になっていると再認識する

 ……呪いや魔法の類でって言って信じるか分からないな。ステータスには表記されているが他人に見えるか分からないな。一先ず試しておくか

 受付に行く

「初めての方ですか?」
「違う」

 身分証を出す
 見た目が全く違うどころか性別も違う為受付の男性は見比べて少し困惑したような表情をする

「えぇっとこの身分証は知人のかな?」
「違う、本人、魔物によって呪いをかけられた」
「呪いですか?」
「証拠」

 ステータスを表示して見せるが受付の男性にはその呪いは見えない

「何も異常は無いように見えますが」

 ……見えない呪いか

「ならなんでもない」

 受付を離れる

 ……身分証が役に立たないとなるとマンションに帰れねぇ。仕方ない、あいつの家に転がり込むか

 親友が住むマンションへ向かう
 事前にメールを飛ばしておく

「面倒事になった」
『面倒事かそりゃ大変だ』
「身分証使えなくなったから家泊めてくれ」
『身分証が? どういう状況?』
「ダンジョンで呪いを受けた」
『身分証が使えなくなる呪い? そんな現代に生きる者を殺すような限定的な呪いがあるなんて恐ろしい』
「そんな限定的な呪いじゃねぇよ。しかし、説明して分かる物なのか……」

 だいぶ特殊な状況、普通に理解し難い状況なのだ
 それを見てもいない人物に説明しても理解出来るのか分からない
 ましてや相手は探索者たんさくしゃでは無い

『オタクの理解力舐めるな』
「OK、俺は今少女の姿をしている」
『おぉリアルTS、なるほど確かにそれなら身分証が使えないのも納得だ』

 すぐに理解して納得する

 ……オタクというのは全員こうなのか? まぁいい話が早い方が楽だ

「それじゃお前の家に行くから」
『そういや服は? 少女の姿って体格差あるじゃんいつもの服じゃ無理くね? もしかして裸?』
「その点は心配ない。俺の戦闘服は装着者のサイズに合わせる事が出来る」
『へぇ便利』

 親友の住むマンションはダンジョンからそう遠くない
 数十分で着く
 いつもなら余裕な距離、しかし呪いで身体能力が下がっている為、息切れをする

 ……体力が減っているのはダンジョン内だけじゃないのか……これは困った往復で息切れするとなると……ダンジョンなぞろくに進めん

 高級マンションでありセキュリティが硬い
 事前に話していたので問題なく通れ部屋に向かう

「ここか」

 ピンポンを鳴らして扉をノックする
 扉が開く
 背の高い体格のいい男性が出迎える
 卯月うづきはく 25歳、学生の頃からの親友

「おぉ美少女」
「入るぞ」

 靴を脱いで部屋に入る

「すげぇ呪いだな。その体格の変化、質量保存の法則どこ行ったよ」
「知らん」

 いつも使っているソファーに座る
 狛がペットボトルのお茶を持ってくる
 受け取り飲む

「その呪いの解除方法は?」
「あの魔物を倒すか解呪師かいじゅしだな。しかし、後者は今回は恐らく当てにならん」
「知り合いに居ないのか? 探索者の知り合いは多いだろ?」
「受付で確認したが他人にこの呪いは見えないらしい」

 大半の呪いはステータスで見える呪いであり見えない呪いは珍しい
 解呪師は呪いを解呪出来る魔法を持つだけで見えない呪いは解呪が出来ない

「見えないと無理なのか?」
「らしい、前に解呪師の知り合いに聞いた事がある」
「成程、それでどうするんだ? ダンジョン潜れるのか?」
「レベルが下がって尚且つ身体能力も低下したからな……かと言って身分証明出来ないから仕事は出来んしな」
「発行とか出来ないのか?」
「そもそもこんな事態を想定しているかどうか」
「確かにイレギュラーが過ぎる」
「せめて魔法が残ってれば」
「確認した?」

 魔法の欄を確認していない事を思い出す
 あの場で必要な情報だけを見ていた
 すぐにステータスを確認する
 するとスキルや魔法は残っていた

 ……残ってるな。なら行けるか、少し厄介だが

「ステータスってゲームみたいだな」

 狛が後ろからステータスが表示されている薄透明な画面を見る
 探索者では無い狛は初めて見る

「らしいな」

 ゲームに余り触れた事の無い俺はピンと来ない

「スキル色々持ってんな。剣術の心得、縮地しゅくち、防御の心得……全部近接?」
「そうだな。戦闘は近接のみだからな。自然とスキルも近接系が増える」
「近接は身体能力下がってるなら無理じゃね。魔法残ってたら行けるん?」
「いや一つだけ魔法もある。最も一度として使った事は無いがな」
「なんで?」
「発動条件が厄介なんだこれは」
「見せて」
「良いぞ」

 ステータスの魔法の欄に書かれた魔法の詳細を開く
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