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第21挑☆大統領の秘密兵器 オオムラサキ現る 後
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「ぐっ」
俺は両腕を交差させて、巨大な拳を受け止めた。正面からの衝撃と、床に叩きつけられる衝撃。床は拳の圧に耐え切れずに割れた。
「くっ……」
床の割れ目の奥に沈む。普通の奴だったら、全身の骨が砕けてるとこだ。そう、普通の奴だったらな。
男は拳をもとに戻し、がれきの中にいる俺を見下ろした。
「なに……っ⁉」
まあ、びっくりするだろうな。俺のガードが崩れてねえことに。俺は意識も奪われてねえし、まだ立ち上がれるってことにな!
毒手も生きている。俺はゆらりと立ち上がり、唇の端から滴り落ちる血を拳で拭った。
「まあまあ効いたぜ。小2のときと中2のときに車に轢かれてもピンピンしていた俺でも、潰されるかと思ったぜ」
「中2んときは、車と正面衝突して空を舞ってましたけどね。あれでかすり傷って、俺の中じゃチョーさん伝説ベスト10に入ってます」
カイソン、てめーは安全な場所で何を言ってんだ。
黒袴の男は、苦虫を嚙み潰したような表情をしてやがる。
次の瞬間、男の頬が膨らんだ。また酸を飛ばす気だな!
俺は、毒手を思い切り振って毒液を飛ばす。男が噴射した酸と、毒液がぶつかり、弾ける。飛び散る酸と毒液で、互いに少しずつ身体に傷を作りながら、俺と黒袴の男が接近する。
黒袴の男は、俺の攻撃を受け流す戦闘スタイルだ。俺の力を受け流し、倒そうとする。
だったら、俺から攻撃することは悪手だ。黒袴の男に攻撃をさせる。そのときに隙を見極める!
「どうした、疲れてきたのか」
へっ、わざと攻撃を緩めてることに気付いてねえみてえだな。こいつ、能力高ぇし面倒くせえけどよ、戦闘センスは関根や赤鬼のほうがずっと上だ。
だったら、待ってたら来るよな。
「そろそろとどめだ」
拳を巨大化させる技! このとき、拳のせいで相手の姿から視線が外れやすい。だからこそ、拳を巨大化させた張本人は隙だらけだ。まさか、この拳を突きおろそうとするときに、懐めがけて飛び込んでくるなんて思わないもんな!
「なっ⁉」
それが、いるんだよ。俺だ。
俺は、巨大化した拳の下をかいくぐり、黒袴の男の顎をめがけて右腕を突き上げた。
「おらああああ!」
男の顎が割れ、血しぶきとともに歯が数本飛ぶ。男の拳は力を失い、身体は仰向けに倒れた。
毒手で思い切りアッパー食らわせたんだ、顔面半分破壊したぜ。黒袴の男は血の泡を吹いて倒れている。
ふと右方向を見ると、もうひとりの黒袴の男の首が飛んでいた。関根の風刃切りが炸裂したんだ。
関根が涼しい顔でこっちを見た。なんだよ、自分はたいしてダメージ食らわずに勝ったって言いてえのかよ。俺だってまだまだ動けるぜ。
次の瞬間、赤鬼が俺と関根の間を通過し、部屋の入り口まで下がって来た。それは、自ら後方に下がったというより、敵の攻撃を受けて吹き飛ばされてきたという感じだ。
「赤鬼⁉」
名前を呼んだが、赤鬼は野太刀を前にかまえたまま、こちらのほうを見向きもしねえ。赤鬼は今、目前の敵――羅忌のことしか見てねえ。
関根が羅忌に向かってかまえたとき、
「手出し無用」
赤鬼がそれを制した。
羅忌は巨大な扇子を閉じた状態で立てて、唇だけで笑ってやがる。黄色い瞳の奥は冷たい。あれは、戦いだけを楽しむ奴の目――相手の命を奪うことをなんとも思ってねえ、自分が勝てばそれでいいって奴の目だ。
「あらあら、いいんですよ、3対1でも。私が優勢であることに変わりありませんから」
マジで余裕ぶっこいてんな、こいつ。
俺と関根が羅忌ににらみを利かす。だが、赤鬼だけは冷静だった。
「家屋の中で技を使うのは、無駄な被害を生むだけと思い、控えていたのだがな」
赤鬼の声に反応するように、赤鬼の頭上をアカオニシジミが羽ばたく。その赤い身体は炎に包まれた。
次の瞬間、アカオニシジミが天井を突き破り、夜空に舞い上がる!
「おやおや、屋根を壊しましたか。では、私ももう、お咎めなしですね!」
羅忌が扇子の要を床に打ち付ける。ドンッという音とともに、オオムラサキが巨大な羽根をゆっくりと羽ばたかせて、アカオニシジミが開けた穴を大きく広げて空に舞い上がった。
アカオニシジミが真っ赤に輝く。その光は強く、まぶしい。だが、その光に対し、オオムラサキの影が大きく広がる。
「これでもっと、自由に戦えます」
羅忌は扇子を全開にして、扇面の上にふわりと乗り、夜風に乗って舞い上がった。
「逃がさん」
赤鬼が野太刀を握りしめる。野太刀の刃が赤く光る。やべっ、なんか大きい技がくる!
俺はとっさにカイソンと藤花がいるほうに下がった。関根も赤鬼の後ろに下がっている。
赤鬼が野太刀をふるう。同時に、野太刀から無数の炎の玉が放たれる! その炎の玉は羅忌を燃やすべく飛んでいく。
だが、羅忌は扇子に乗ったまま縦横無尽に飛び回り、炎の玉をすべて避けてしまった。炎の玉が止めば、次に始まるのは羅忌のカウンター。
「小虫は潰すに限ります」
刹那、空中で扇子が閉じた! 羅忌は扇子の天に片手を置き、逆立ちしている。扇子が閉じ、棒状になる。と同時に、広間の柱の数倍太く、巨大化した。
「なにっ」
扇子が高速で降ってきた。俺とカイソンで藤花を庇ってガードする。俺とカイソンの前には、モコがいる。関根は、扇子を避けるようにして俺たちの近くに飛んできた。
次の瞬間、広間の床は完全に破壊された。扇子が落ちた中央は陥没し、深い穴が開いた。この穴に落ちるだけでも死にそうだ。
赤鬼は、穴の外に立っていた。この状況で、空から降りてきて扇子の天の上に立っている羅忌をじっと見ている。
「これを避けましたか。しかし、もうこの広間を通過して大統領のもとに行くことはできなくなりましたね」
羅忌はくすくす笑ってやがる。
そのとき、藤花が俺とカイソンの間から出て、羅忌に向かって叫んだ。
「もうやめてください!」
「何をおっしゃっているのです。今、あなたを救い出そうとしているのですよ? 建物の修繕費用でしたら、何の心配もいらないでしょう。せっせと農民たちが稼いでくれますから」
「そういう……そういう、人を見下すような考えが、私は嫌いです」
藤花は声を震わせた。
「この誘拐は、すべて私が計画したもの。すべて、でっちあげです。この人たちは、何も悪くありません!」
「藤花⁉」
このタイミングで、ばらすのか⁉ まだ、大統領を引きずり出してねえんだけど!
俺たちは驚いて、藤花を見た。
「この人たちを傷つけないでください」
「ふむ……そうはいっても、私の従者を2人も殺しているんですけどね。その罰は受けてもらわないと困りますが」
「それは……」
「屋敷に侵入したことは、千歩譲って藤花様の命令だったとしても、こちらの警備の者を負傷させた罪もありますよ。それに、ここまで大事にしてしまったのです。犯人を殺す以外に、幕引きはないと思いますが」
「ダメです。私は、……私は、国の在り方を変えたかっただけです! 国民をこれ以上苦しめないように、国民が夢を持って生きられるように。大統領に、変わってほしかっただけです」
藤花が「大統領」と言った。「パパ」じゃねえ。親父相手じゃなく、大統領を相手に話がしたかったという意思表示だ。
「あっははははははは」
羅忌が声を上げて笑った。
「そんなの、無理に決まっているでしょう。どこの間抜けが、そんな話を聞きますか?」
……なんだと。
「人は、生まれた瞬間から差別化されるものです。金持ちの子は金持ちの子、貧乏の子は貧乏の子。体格的に恵まれている者、恵まれない者。知能の高い者、低い者。それぞれ、自分の身分をわきまえて生きるしかないんですよ。
藤花様、あなたは大統領の娘です。何不自由なく育ってきて、今もカンダの国で悠々自適に暮らしていらっしゃる。いったい何がご不満なのですか?」
「私だけが自由なんて……おかしいです」
「では、農民の暮らしをしたいのですか⁉」
「そういう意味ではなくて! みんなが……みんなが幸せになる道はないのですか」
「ありません」
羅忌は言い切った。
「誰かの犠牲の上に誰かの幸せが成り立つ。みんななんて綺麗事、仮にも大統領の娘が言うものではありませんよ」
藤花が押し黙った。小さな手を胸の前で握りしめて、唇を嚙んでいる。
……羅忌の野郎、勝ち誇った顔しやがってよ。
「……夢や理想を描けなくなっちまったらよ、なんで生きているのかもわかんなくなっちまうだろうが」
俺は羅忌に向かって怒鳴った。
「今すぐ大統領を出せ! でないと、藤花を殺す。脅しじゃねえ!」
「ちょっと、チョーさん⁉」
「藤花の言ったことはほんの少し嘘だ。俺たちは、本気で藤花を誘拐した。藤花にも考えがあったんだろうがな、そんなもんは関係ねえ。俺が、大統領に要求してんだ。国を変えろってな!!」
羅忌は笑うのを止めた。
「ふむ。せっかく藤花様が庇ってくださったのに、死にたいってことですか」
「死ぬのはてめーだよ」
俺は毒手をかまえた。赤鬼が、「おい」と言いかけたが、関係ねえ。
「とっととこいつを片付けて、大統領を引きずり出そうぜ」
俺が言うと、関根も羅忌に向かってかまえた。赤鬼は仕方がないという代わりに、野太刀をかまえた。
「小虫は集まっても小虫でしかありません」
羅忌が飛び上がると扇子が開く。羅忌は再び扇面に乗って飛び上がった。
今度は赤鬼だけじゃねえ。俺と関根も参戦だ。第2ラウンドといこうじゃねえか!
俺は両腕を交差させて、巨大な拳を受け止めた。正面からの衝撃と、床に叩きつけられる衝撃。床は拳の圧に耐え切れずに割れた。
「くっ……」
床の割れ目の奥に沈む。普通の奴だったら、全身の骨が砕けてるとこだ。そう、普通の奴だったらな。
男は拳をもとに戻し、がれきの中にいる俺を見下ろした。
「なに……っ⁉」
まあ、びっくりするだろうな。俺のガードが崩れてねえことに。俺は意識も奪われてねえし、まだ立ち上がれるってことにな!
毒手も生きている。俺はゆらりと立ち上がり、唇の端から滴り落ちる血を拳で拭った。
「まあまあ効いたぜ。小2のときと中2のときに車に轢かれてもピンピンしていた俺でも、潰されるかと思ったぜ」
「中2んときは、車と正面衝突して空を舞ってましたけどね。あれでかすり傷って、俺の中じゃチョーさん伝説ベスト10に入ってます」
カイソン、てめーは安全な場所で何を言ってんだ。
黒袴の男は、苦虫を嚙み潰したような表情をしてやがる。
次の瞬間、男の頬が膨らんだ。また酸を飛ばす気だな!
俺は、毒手を思い切り振って毒液を飛ばす。男が噴射した酸と、毒液がぶつかり、弾ける。飛び散る酸と毒液で、互いに少しずつ身体に傷を作りながら、俺と黒袴の男が接近する。
黒袴の男は、俺の攻撃を受け流す戦闘スタイルだ。俺の力を受け流し、倒そうとする。
だったら、俺から攻撃することは悪手だ。黒袴の男に攻撃をさせる。そのときに隙を見極める!
「どうした、疲れてきたのか」
へっ、わざと攻撃を緩めてることに気付いてねえみてえだな。こいつ、能力高ぇし面倒くせえけどよ、戦闘センスは関根や赤鬼のほうがずっと上だ。
だったら、待ってたら来るよな。
「そろそろとどめだ」
拳を巨大化させる技! このとき、拳のせいで相手の姿から視線が外れやすい。だからこそ、拳を巨大化させた張本人は隙だらけだ。まさか、この拳を突きおろそうとするときに、懐めがけて飛び込んでくるなんて思わないもんな!
「なっ⁉」
それが、いるんだよ。俺だ。
俺は、巨大化した拳の下をかいくぐり、黒袴の男の顎をめがけて右腕を突き上げた。
「おらああああ!」
男の顎が割れ、血しぶきとともに歯が数本飛ぶ。男の拳は力を失い、身体は仰向けに倒れた。
毒手で思い切りアッパー食らわせたんだ、顔面半分破壊したぜ。黒袴の男は血の泡を吹いて倒れている。
ふと右方向を見ると、もうひとりの黒袴の男の首が飛んでいた。関根の風刃切りが炸裂したんだ。
関根が涼しい顔でこっちを見た。なんだよ、自分はたいしてダメージ食らわずに勝ったって言いてえのかよ。俺だってまだまだ動けるぜ。
次の瞬間、赤鬼が俺と関根の間を通過し、部屋の入り口まで下がって来た。それは、自ら後方に下がったというより、敵の攻撃を受けて吹き飛ばされてきたという感じだ。
「赤鬼⁉」
名前を呼んだが、赤鬼は野太刀を前にかまえたまま、こちらのほうを見向きもしねえ。赤鬼は今、目前の敵――羅忌のことしか見てねえ。
関根が羅忌に向かってかまえたとき、
「手出し無用」
赤鬼がそれを制した。
羅忌は巨大な扇子を閉じた状態で立てて、唇だけで笑ってやがる。黄色い瞳の奥は冷たい。あれは、戦いだけを楽しむ奴の目――相手の命を奪うことをなんとも思ってねえ、自分が勝てばそれでいいって奴の目だ。
「あらあら、いいんですよ、3対1でも。私が優勢であることに変わりありませんから」
マジで余裕ぶっこいてんな、こいつ。
俺と関根が羅忌ににらみを利かす。だが、赤鬼だけは冷静だった。
「家屋の中で技を使うのは、無駄な被害を生むだけと思い、控えていたのだがな」
赤鬼の声に反応するように、赤鬼の頭上をアカオニシジミが羽ばたく。その赤い身体は炎に包まれた。
次の瞬間、アカオニシジミが天井を突き破り、夜空に舞い上がる!
「おやおや、屋根を壊しましたか。では、私ももう、お咎めなしですね!」
羅忌が扇子の要を床に打ち付ける。ドンッという音とともに、オオムラサキが巨大な羽根をゆっくりと羽ばたかせて、アカオニシジミが開けた穴を大きく広げて空に舞い上がった。
アカオニシジミが真っ赤に輝く。その光は強く、まぶしい。だが、その光に対し、オオムラサキの影が大きく広がる。
「これでもっと、自由に戦えます」
羅忌は扇子を全開にして、扇面の上にふわりと乗り、夜風に乗って舞い上がった。
「逃がさん」
赤鬼が野太刀を握りしめる。野太刀の刃が赤く光る。やべっ、なんか大きい技がくる!
俺はとっさにカイソンと藤花がいるほうに下がった。関根も赤鬼の後ろに下がっている。
赤鬼が野太刀をふるう。同時に、野太刀から無数の炎の玉が放たれる! その炎の玉は羅忌を燃やすべく飛んでいく。
だが、羅忌は扇子に乗ったまま縦横無尽に飛び回り、炎の玉をすべて避けてしまった。炎の玉が止めば、次に始まるのは羅忌のカウンター。
「小虫は潰すに限ります」
刹那、空中で扇子が閉じた! 羅忌は扇子の天に片手を置き、逆立ちしている。扇子が閉じ、棒状になる。と同時に、広間の柱の数倍太く、巨大化した。
「なにっ」
扇子が高速で降ってきた。俺とカイソンで藤花を庇ってガードする。俺とカイソンの前には、モコがいる。関根は、扇子を避けるようにして俺たちの近くに飛んできた。
次の瞬間、広間の床は完全に破壊された。扇子が落ちた中央は陥没し、深い穴が開いた。この穴に落ちるだけでも死にそうだ。
赤鬼は、穴の外に立っていた。この状況で、空から降りてきて扇子の天の上に立っている羅忌をじっと見ている。
「これを避けましたか。しかし、もうこの広間を通過して大統領のもとに行くことはできなくなりましたね」
羅忌はくすくす笑ってやがる。
そのとき、藤花が俺とカイソンの間から出て、羅忌に向かって叫んだ。
「もうやめてください!」
「何をおっしゃっているのです。今、あなたを救い出そうとしているのですよ? 建物の修繕費用でしたら、何の心配もいらないでしょう。せっせと農民たちが稼いでくれますから」
「そういう……そういう、人を見下すような考えが、私は嫌いです」
藤花は声を震わせた。
「この誘拐は、すべて私が計画したもの。すべて、でっちあげです。この人たちは、何も悪くありません!」
「藤花⁉」
このタイミングで、ばらすのか⁉ まだ、大統領を引きずり出してねえんだけど!
俺たちは驚いて、藤花を見た。
「この人たちを傷つけないでください」
「ふむ……そうはいっても、私の従者を2人も殺しているんですけどね。その罰は受けてもらわないと困りますが」
「それは……」
「屋敷に侵入したことは、千歩譲って藤花様の命令だったとしても、こちらの警備の者を負傷させた罪もありますよ。それに、ここまで大事にしてしまったのです。犯人を殺す以外に、幕引きはないと思いますが」
「ダメです。私は、……私は、国の在り方を変えたかっただけです! 国民をこれ以上苦しめないように、国民が夢を持って生きられるように。大統領に、変わってほしかっただけです」
藤花が「大統領」と言った。「パパ」じゃねえ。親父相手じゃなく、大統領を相手に話がしたかったという意思表示だ。
「あっははははははは」
羅忌が声を上げて笑った。
「そんなの、無理に決まっているでしょう。どこの間抜けが、そんな話を聞きますか?」
……なんだと。
「人は、生まれた瞬間から差別化されるものです。金持ちの子は金持ちの子、貧乏の子は貧乏の子。体格的に恵まれている者、恵まれない者。知能の高い者、低い者。それぞれ、自分の身分をわきまえて生きるしかないんですよ。
藤花様、あなたは大統領の娘です。何不自由なく育ってきて、今もカンダの国で悠々自適に暮らしていらっしゃる。いったい何がご不満なのですか?」
「私だけが自由なんて……おかしいです」
「では、農民の暮らしをしたいのですか⁉」
「そういう意味ではなくて! みんなが……みんなが幸せになる道はないのですか」
「ありません」
羅忌は言い切った。
「誰かの犠牲の上に誰かの幸せが成り立つ。みんななんて綺麗事、仮にも大統領の娘が言うものではありませんよ」
藤花が押し黙った。小さな手を胸の前で握りしめて、唇を嚙んでいる。
……羅忌の野郎、勝ち誇った顔しやがってよ。
「……夢や理想を描けなくなっちまったらよ、なんで生きているのかもわかんなくなっちまうだろうが」
俺は羅忌に向かって怒鳴った。
「今すぐ大統領を出せ! でないと、藤花を殺す。脅しじゃねえ!」
「ちょっと、チョーさん⁉」
「藤花の言ったことはほんの少し嘘だ。俺たちは、本気で藤花を誘拐した。藤花にも考えがあったんだろうがな、そんなもんは関係ねえ。俺が、大統領に要求してんだ。国を変えろってな!!」
羅忌は笑うのを止めた。
「ふむ。せっかく藤花様が庇ってくださったのに、死にたいってことですか」
「死ぬのはてめーだよ」
俺は毒手をかまえた。赤鬼が、「おい」と言いかけたが、関係ねえ。
「とっととこいつを片付けて、大統領を引きずり出そうぜ」
俺が言うと、関根も羅忌に向かってかまえた。赤鬼は仕方がないという代わりに、野太刀をかまえた。
「小虫は集まっても小虫でしかありません」
羅忌が飛び上がると扇子が開く。羅忌は再び扇面に乗って飛び上がった。
今度は赤鬼だけじゃねえ。俺と関根も参戦だ。第2ラウンドといこうじゃねえか!
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