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第17挑☆襲い掛かる風刃切り! 挑vs関根 前
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俺の名前は大一文字挑。ヘーアンの国の大統領の娘・藤花がアゲハ陣営のプレイヤー二人組にさらわれた。藤花を助けるために、カイソン、ポワロン、モコといっしょに前大統領の屋敷を目指して走っているところだ。
前大統領の屋敷は、だだっ広い田んぼの中にぽつんとある小高い丘の上にあった。遠目からでもわかる。この国の歴代大統領は、目立つところに目立つ建物を建てるのが好きなのかね。ドラキュラでも出そうな、赤い屋根の洋館だ。
その、小高い丘を駆け下りてくる、武装した人間が一人。
「なんだあ?」
そいつは、俺たちには目もくれず、必死で走り過ぎて行こうとした。
「おいっ」
俺が呼び止めると、そいつは急ブレーキをかけたように足を止め、転びそうになりながらなんとか踏ん張ってこちらに振り向いた。
「なななななんだ!?」
「お前、もしかして藤花を助けに行ったのか?」
「行ったけど、もう行かない! 怖すぎるもんっ」
おおお……おっさんが「もんっ」て言わないでくれよ。しかも半泣きじゃねえか。一応武装しているのによ。
俺は呆れながら訊ねた。
「何があったんだよ」
「炎を操るヤバい奴と、人を蹴り殺すヤバい奴がいたんだよ! あんなの無理。大統領に、おとなしく言うこと聞くしかないですって伝えないと」
「赤鬼と関根か……」
「もういいでしょっ。ぼくは早くお家に帰りたいんだから! じゃあねっ、バイバイ」
そう言って、武装したおっさんは走り去っていった。
「なんだありゃ、情けねえな」
「よほどヤバい目に遭ったっぽいっすね……あれ?」
前大統領の屋敷を見やったカイソンが、何かに気付いた。カイソンの視線の先を追う。
「あっ」
黄色と黒の縞模様の羽をひらひらさせて、一匹のバタフライが飛んでいる。
体長2メートル以上のバタフライばかり見て来たからか、体長1メートルくらいのバタフライじゃあ小さく見えるようになっちまった。
「あれは、ヒメギフチョウよ」
ポワロンが教えてくれた。
「ノーマルのバタフライね。こっちに来るわ」
「あいつも、もしかして飼い主がやられたのか……」
「一匹で飛んでいるってことは、そうかもしれないっすね」
ヒメギフチョウは俺たちの前で止まった。
「なんだよ、連れて行ってほしいのか?」
ヒメギフチョウが黒い触覚をピクピク動かした。どうも、いっしょに行きたいようだ。
「このヒメギフチョウの能力を使えば、攻撃を与えた対象の動きを一定時間止めることができる。ムチとか糸とか相手を縛ることができる武器を持っていれば、相手の動きを止める確率が上がるんだけど」
そんな武器はねえ。
残念そうな顔をしているポワロンに、カイソンが言った。
「攻撃を当てりゃいいんでしょ。それで充分っすよ」
カイソンが言うなら、大丈夫だろう。
俺たちはヒメギフチョウを仲間に加えて、前大統領の洋館の前まできた。黒い柵の門は開かれている。
洋館の前に立っているのは黒いシャツに迷彩柄のズボンを履いた、いかつい男。緑色の髪は短く刈り込んでおり、一重まぶたの下の小さな目には鋭い輝きがある。
関根だ。
そしてもう一人、燃え盛るような赤く長い髪に、黒い道着を身に着けた男が立っている。浅黒い肌に精悍な顔つき。身長はやや低く見えるが、170センチはあるか。その身体よりも長い野太刀を握っている。
こいつが、赤鬼か。
俺たちは洋館の敷地に入り、関根と赤鬼の二人と対峙した。
「お前は来ると思っていた。挑」
関根が声をかけてきた。俺は軽く笑って拳を鳴らした。
「負けたままじゃ終われねえからな」
「こちらとしても、ムラサキ陣営のプレイヤーと知ったからには生かしておけない」
ゆるい風が吹いている。互いに見合ったまま、束の間の静寂が流れる。
――――来る!
「モコ!」
名前を呼ぶと同時、モコの触手が俺の両腕に絡みつく。腕が紫色に変色し、毒液が指先にしたたり落ちる。
「ほう、ヒューイットソンキララシジミの幼虫か。幼虫でもやっかいな能力を持つ。早々にお前を始末して、その幼虫はもらっておこうか」
「させるかよ!」
関根の蹴りが俺の右側頭部めがけて飛んでくる! 俺は毒をいきわたらせた腕でガードする。俺の腕に当たった関根の迷彩柄のズボンが溶けて穴が開く。生身の脚に毒が届く前に、関根は左足をひっこめた。
が、一発で終わるわけじゃねえ。すぐさま五月雨のように脚が飛んでくる。俺のガードでズボンに穴は開いても、脚そのものにはダメージが届かねえ。
だがな、これはもうすでに見切っているんだ。
俺は飛んできた関根の左足首を掴んだ。関根はすぐに俺の手を振り払おうと脚に力を込めたが、俺の握力を舐めてもらっちゃあ困る。
俺は思い切り左足首を握った。
「ぐっ……」
このまま毒の力もつかって左足首を潰す!
だが、潰し切る前に、左方から炎が襲い掛かって来た!
「うおっ」
俺は関根の足首を離し、バックステップで炎を回避した。
炎を発したのは赤鬼だ。赤鬼が持つ野太刀の刃は赤く輝いている。俺に向けて炎を放ったときにできた隙をついて、カイソンが赤鬼に向かって突進していた。
だが、カイソンの拳は空を切るだけで、赤鬼に当たらねえ。
なんだよ、至近距離にいけば野太刀で攻撃されるし、距離をとったら火炎放射を放たれるとか、赤鬼の奴、無茶苦茶じゃねえか!
すでにカイソンはあちこち切られているし。俺が関根とやりあっている間、カイソンは赤鬼の相手をしているんだ。
カイソンは強ぇ。赤鬼の動きを少し見ただけでわかる、赤鬼はとんでもなく強ぇ。その赤鬼の攻撃をもろに食らってないのは、カイソンだからだ。
だけどよ、素手で戦えるような相手じゃねえってのに、どうするんだ!?
前大統領の屋敷は、だだっ広い田んぼの中にぽつんとある小高い丘の上にあった。遠目からでもわかる。この国の歴代大統領は、目立つところに目立つ建物を建てるのが好きなのかね。ドラキュラでも出そうな、赤い屋根の洋館だ。
その、小高い丘を駆け下りてくる、武装した人間が一人。
「なんだあ?」
そいつは、俺たちには目もくれず、必死で走り過ぎて行こうとした。
「おいっ」
俺が呼び止めると、そいつは急ブレーキをかけたように足を止め、転びそうになりながらなんとか踏ん張ってこちらに振り向いた。
「なななななんだ!?」
「お前、もしかして藤花を助けに行ったのか?」
「行ったけど、もう行かない! 怖すぎるもんっ」
おおお……おっさんが「もんっ」て言わないでくれよ。しかも半泣きじゃねえか。一応武装しているのによ。
俺は呆れながら訊ねた。
「何があったんだよ」
「炎を操るヤバい奴と、人を蹴り殺すヤバい奴がいたんだよ! あんなの無理。大統領に、おとなしく言うこと聞くしかないですって伝えないと」
「赤鬼と関根か……」
「もういいでしょっ。ぼくは早くお家に帰りたいんだから! じゃあねっ、バイバイ」
そう言って、武装したおっさんは走り去っていった。
「なんだありゃ、情けねえな」
「よほどヤバい目に遭ったっぽいっすね……あれ?」
前大統領の屋敷を見やったカイソンが、何かに気付いた。カイソンの視線の先を追う。
「あっ」
黄色と黒の縞模様の羽をひらひらさせて、一匹のバタフライが飛んでいる。
体長2メートル以上のバタフライばかり見て来たからか、体長1メートルくらいのバタフライじゃあ小さく見えるようになっちまった。
「あれは、ヒメギフチョウよ」
ポワロンが教えてくれた。
「ノーマルのバタフライね。こっちに来るわ」
「あいつも、もしかして飼い主がやられたのか……」
「一匹で飛んでいるってことは、そうかもしれないっすね」
ヒメギフチョウは俺たちの前で止まった。
「なんだよ、連れて行ってほしいのか?」
ヒメギフチョウが黒い触覚をピクピク動かした。どうも、いっしょに行きたいようだ。
「このヒメギフチョウの能力を使えば、攻撃を与えた対象の動きを一定時間止めることができる。ムチとか糸とか相手を縛ることができる武器を持っていれば、相手の動きを止める確率が上がるんだけど」
そんな武器はねえ。
残念そうな顔をしているポワロンに、カイソンが言った。
「攻撃を当てりゃいいんでしょ。それで充分っすよ」
カイソンが言うなら、大丈夫だろう。
俺たちはヒメギフチョウを仲間に加えて、前大統領の洋館の前まできた。黒い柵の門は開かれている。
洋館の前に立っているのは黒いシャツに迷彩柄のズボンを履いた、いかつい男。緑色の髪は短く刈り込んでおり、一重まぶたの下の小さな目には鋭い輝きがある。
関根だ。
そしてもう一人、燃え盛るような赤く長い髪に、黒い道着を身に着けた男が立っている。浅黒い肌に精悍な顔つき。身長はやや低く見えるが、170センチはあるか。その身体よりも長い野太刀を握っている。
こいつが、赤鬼か。
俺たちは洋館の敷地に入り、関根と赤鬼の二人と対峙した。
「お前は来ると思っていた。挑」
関根が声をかけてきた。俺は軽く笑って拳を鳴らした。
「負けたままじゃ終われねえからな」
「こちらとしても、ムラサキ陣営のプレイヤーと知ったからには生かしておけない」
ゆるい風が吹いている。互いに見合ったまま、束の間の静寂が流れる。
――――来る!
「モコ!」
名前を呼ぶと同時、モコの触手が俺の両腕に絡みつく。腕が紫色に変色し、毒液が指先にしたたり落ちる。
「ほう、ヒューイットソンキララシジミの幼虫か。幼虫でもやっかいな能力を持つ。早々にお前を始末して、その幼虫はもらっておこうか」
「させるかよ!」
関根の蹴りが俺の右側頭部めがけて飛んでくる! 俺は毒をいきわたらせた腕でガードする。俺の腕に当たった関根の迷彩柄のズボンが溶けて穴が開く。生身の脚に毒が届く前に、関根は左足をひっこめた。
が、一発で終わるわけじゃねえ。すぐさま五月雨のように脚が飛んでくる。俺のガードでズボンに穴は開いても、脚そのものにはダメージが届かねえ。
だがな、これはもうすでに見切っているんだ。
俺は飛んできた関根の左足首を掴んだ。関根はすぐに俺の手を振り払おうと脚に力を込めたが、俺の握力を舐めてもらっちゃあ困る。
俺は思い切り左足首を握った。
「ぐっ……」
このまま毒の力もつかって左足首を潰す!
だが、潰し切る前に、左方から炎が襲い掛かって来た!
「うおっ」
俺は関根の足首を離し、バックステップで炎を回避した。
炎を発したのは赤鬼だ。赤鬼が持つ野太刀の刃は赤く輝いている。俺に向けて炎を放ったときにできた隙をついて、カイソンが赤鬼に向かって突進していた。
だが、カイソンの拳は空を切るだけで、赤鬼に当たらねえ。
なんだよ、至近距離にいけば野太刀で攻撃されるし、距離をとったら火炎放射を放たれるとか、赤鬼の奴、無茶苦茶じゃねえか!
すでにカイソンはあちこち切られているし。俺が関根とやりあっている間、カイソンは赤鬼の相手をしているんだ。
カイソンは強ぇ。赤鬼の動きを少し見ただけでわかる、赤鬼はとんでもなく強ぇ。その赤鬼の攻撃をもろに食らってないのは、カイソンだからだ。
だけどよ、素手で戦えるような相手じゃねえってのに、どうするんだ!?
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