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第12挑☆ヘーアンフェスティバル開催! 蕾と藤花の再会 前

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 俺の名前は大一文字挑。舎弟のカイソン、妖精のポワロン、イモムシのモコと一緒に旅をしているムラサキ陣営のプレイヤーだ。っと、イモムシと言ったらモコはイラつくみてえだが。モコは体長2メートルくらいある、バタフライの幼虫だ。

 俺たちは、シロと稲妻を追いかけて、ヘーアンの国に来ている。ヘーアンの国は、米の産地として世界的に有名らしい。
 ここで、農家の娘である蕾と出会った。蕾はヘーアンの国の大統領の娘、藤花と友達らしい。そこで、蕾に藤花を紹介してもらって、藤花を通して大統領に会って、シロと稲妻の居所の手がかりを掴もうと考えた。

 今日は、大統領の娘である藤花の誕生日を祝うフェスティバルだ。
 昨日、俺とカイソンは蕾と一緒に買い物に出かけた。蕾の服や靴を買って、美容室にもいかせたら、所持金は100ゴールドになった。俺たちは相変わらず初心者Tシャツに短パンだが、イケてる野郎は何着てたってイケてるんだよ!
 そんなわけで、今、家の外で蕾の支度が整うのを待っているんだが。

「チョー、カイソン、お待たせ!」

「……おお!」

 家から出て来た蕾は、ボロボロの服を着て農作業をしていた姿と比べると別人になっていた。
 白いノースリーブのフリルシャツに、黒のショートパンツ。小麦色の長い手足を遠慮なく露出しているから、スタイルの良さが際立って見える。足元は厚底のレースアップシューズだ。農作業中はひとつにまとめていた髪も今はおろしていて、黒色の綺麗なストレートヘアが胸元にかかっている。

「いい! 蕾、可愛いじゃねえか」

 俺が褒めると、蕾は照れくさそうに笑った。よく見たら、うっすら化粧もしてるじゃねえか。

「蕾ちゃん、唇の色可愛いね」

 カイソン、褒め方がなんか女慣れしてるな。

「……前に、藤花がくれたリップを塗ったの。小学生のころに、藤花から化粧品をもらったことがあって、それを使ったんだけど。子どもっぽく見えないかな?」

 蕾が上目遣いで訊いてきた。

「全然! むしろ大人っぽくてきれいだよ」

 カイソンに褒められて、蕾は「良かった」と笑った。こうして見ると、カイソンがイケメンなのを思い出す。初心者Tシャツに短パンのくせに。

「よし、準備できたし行くか!」

「ちょっと待って」

 蕾は玄関先からシロツメクサで作った花冠を持ってきた。やたらでっかい花冠だ。

「これ、モコに」

 蕾はモコの頭に花冠を載せた。モコは嬉しそうに触手をうねうねさせている。キモ可愛いというやつだ。

「どうしたんだ、これ」

「今朝、早起きして作ったの」

「蕾、器用だな」

「小さいころからよく作ってるからね」

 そのとき、田んぼから蕾の親父さんが戻って来た。蕾の姿を見て、親父さんは目頭を押さえた。

「えっ、お父さん、どうしたの!?」

 蕾が驚いて親父さんのそばに駆け寄った。

「……いや、お前がきれいな恰好をしているのが嬉しくて」

「……お父さん」

「チョーくん、カイソンくん、ありがとう。今日は、蕾のこと頼みます」

 俺はドンと胸を叩いた。

「任せとけって」

「変な奴が近づいてきたら、チョーさんと俺でシメますんで」

「じゃあ、行ってきます!」

 俺たちは親父さんに手を振って、フェスティバル会場――蕾の通っていた小学校に向けて歩き出した。

「蕾ちゃん、この辺ってバタフライの幼虫禁止なんだろ? モコ連れて行って大丈夫かな」

 今さらのように、カイソンが言うと、蕾は笑って答えた。

「大丈夫、大丈夫! 今日はフェスティバルだもん、他国から遊びに来たプレイヤーってことで許してもらえるよ」

 だが、実際に小学校まで来てみると、バタフライを連れて歩いているのは俺たちだけ。まあ、目立つよな。
 と、言っても、小学校に到着して、祭りに来た人々の視線を一斉に集めたのは蕾なんだけど。
 小さい子供からおっさんまで、男たちは蕾に釘付け。顔を赤くしている奴もいるし。女性陣からも「可愛い」という声や、ちょっと嫉妬めいた視線が投げかけられた。
 ふいに、蕾が俺の背中の後ろにまわった。

「ん、どうしたんだ?」

「え……なんか、みんな、見てるから。やっぱり、変だったのかなって」

「何言ってんだよ! 蕾が可愛いからみんな見てるんだろっ。モデルになる奴が、人に見られてビビッてどうすんだよ」

 そう言うと、蕾はムッとした顔をして、

「ビビッてなんかないもん」

俺たちの先頭に立って歩き出した。
 そのとき、校庭のグラウンドに放送が流れた。

「皆さん、ヘーアンフェスティバルにようこそ! まずは、大統領から一言ご挨拶があります」

 大統領? 俺は聞き耳を立てた。

「えー、えー」

 雑音に交じって、野太いおっさんの声が聞こえて来た。

「農民の諸君、客人の皆さん、ようこそヘーアンフェスティバルへ。今日という特別な日を与えられることに心から感謝しなさい」

 ん? 感謝しなさい?

「諸君らが何も考えずに平和に生きていけるのは、この私、ひとえに大統領の力があってこそなのだ。馬鹿でもいいが感謝の気持ちは大切だ。今日は存分に息抜きをして、明日からまた農作業に励むように」

「なんだあ? この挨拶は」

 俺とカイソンがイラついていると、

「以上、大統領からのご挨拶でしたっ」

大統領の挨拶をぶち切るように司会者のセリフが入った。
 司会者のおっさんの声が続く。

「では、今日の主役、大統領のお嬢様でいらっしゃる藤花さまから、皆さんにご挨拶があります。校舎の前のお立ち台に注目してください」

 司会者の紹介のあと、人々がお立ち台に注目する。俺たちも立ち止まって、お立ち台に上がって来た少女を見た。
 長い栗色の髪に、俺の片手に入っちまいそうなほど小さい顔の美少女だ。水色のドレスを着ているが、リアルドールじゃねえか。あれが、藤花!?
 淡いピンク色の唇を動かして、人形みたいな女の子が話し始めた。

「皆様、こんにちは。藤花です。本日はお集りくださり、ありがとうございます」

 やっぱり、あの子が藤花か。思ったよりハスキーな声をしているな。

「本日は、皆様のためにお食事をご用意いたしました。飲んで、食べて、楽しいひとときをお過ごしくださいね」

 藤花が話し終わると、あちこちから拍手があがった。俺もつられて拍手をしていたが、ふと、蕾が両手を下げたままなことに気が付いた。

「蕾、どうしたんだ?」

 蕾は元気がなさそうにうつむいている。

「藤花ちゃんって、モデルだけあってマジで美少女だ」

 カイソンは蕾に気付かず、まだ手を叩いている。俺はカイソンの後ろ頭にチョップした。

「いでっ。何するんっすかっ……と」

 こちらを振り向いたカイソンも、蕾の様子に気が付いて、真顔になった。

「蕾ちゃん……?」

「……藤花、また可愛くなってる。私なんかじゃ、比べ物にならないくらい」

「何言ってんだよ! 蕾だって充分可愛いって。みんな、お前のことを見てただろっ」

「でも、もう藤花しか見てないよ」

「それは……」

「蕾ちゃんっ」

 ふいに、さっきマイク越しで聞いていた声が近くから飛んできた。藤花がお立ち台から降りて、こっちに駆け寄ってきていたのだ。
 蕾は藤花を見て、弾けるように走り出した。

「蕾!?」

 俺は蕾の後を追いかけた。モコとポワロンもついてくる。カイソンだけは、藤花のそばに残った。
 校舎の中庭まで走ったところで、蕾は立ち止まった。

「蕾、どうしたんだよ」

 俺が声をかけると、蕾はその場にしゃがみこんだ。顔を両腕の中に伏せているから、表情が見えない。
 まさか、泣いてる?
 モコが心配そうに触手を伸ばして、蕾の背中をさすっている。
 参ったな。こんなとき、どうしたらいいかわかんねえ。とりあえず、落ち着くまで待つか。



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