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第8挑☆負けたら男失格!? 裏銀の男道
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俺の名前は裏銀。クマノ村のはずれで待ち合わせていた相方と合流するために、気力を振り絞って歩いているところだ。
さっき、初心者プレイヤーと戦ったんだが、まさか右腕を落とされちまうとは。早いところ回復しねえと、まあまあヤバい。
正直、痛みとかは問題じゃねえんだ。バトルしてりゃ、よくあることだ。回復薬を使えば腕も元通りになるし。命まで奪られなければ、なんとでもなるのがこの世界だ。
……でも。
「ちょっと、何? その無様な姿は」
出た。
ボロい小屋の壁にもたれかかっている、田舎にまったく馴染まない美人な女。オレンジと黒のボディスーツは女の美しいボディラインをこれでもかというくらい引き出している。胸元は大きく開いていて、女の豊満な乳房が顔をのぞかせている。
派手なメイク、分厚い唇。俺にとってすべてが完璧と思える外見の持ち主なんだが。
「裏銀、誰にやられたんだ?」
「いや、あの……」
女は、くんっ、と鼻を動かした。
「臭う。男が二人……こっちの世界に馴染んでいない、新しい匂い。裏銀、あんたまさか、初心者にやられたのか?」
この女の嗅覚は半端じゃねえ。匂いの感じから推理する力まで優れている。嘘をついたら、嘘をついたときの匂いがするらしく、ごまかしは効かねえ。
俺が黙っていると、女は大きくため息をついた。
「しんっっっっじらんない! いくら最低限の装備しかしていなかったからって負ける!? アースはいっしょにいたんだろ!? なっさけな! ダサ! 使えな!」
小屋の屋根の上に留まっているアースもしゅんとしている。
女は足元に置いていたリュックから回復薬を一本取り出し、中の液体を俺にぶっかけた。次の瞬間、俺は痛みを感じなくなった。みるみるうちに傷は消え、右腕も元通りになった。
「まったく、相手が何もわかっていない初心者だったから命拾いしたんだよ。ふつうのプレイヤーだったら、あんたぶっ殺されてるよ」
「まあ、運も実力のうちって言うしさ……」
「何言ってんの。あんた、あたしの中でもう人間から格下げ。あんたは人間じゃない」
「ええ? 人間じゃなかったら何なの?」
「呼吸している生き物。その辺のハト。でも、次負けたら、ハトからも格下げするから」
「そんなあ」
女はふんっと鼻を鳴らした。
あー、きっつ。怪我するより負けるより、この女――エルに幻滅されるのが、一番メンタルにくるわ。
エルは、俺がこの世界に来てから初めて会った、アゲハ陣営のプレイヤーだ。わけのわからないゲーム世界で、ひときわ目立つ美人が歩いていたからさ。つい、声をかけてしまったんだ。
そしたら、
「弱い奴は嫌いだよ!」
と、言いながらグーパンしてきた。俺はそれを、顔面でもろに受け止めてしまった。でも、かろうじて倒れないで、俺は、言ったんだ。
「お姉さん、一人?」
……てな。
そうしたら、エルは、
「まあまあ根性あるじゃん」
と言って笑ったんだ。
眉間にしわ寄せて怒ってる顔も美人だが、笑顔の破壊力はもっとヤバい。単純な話、俺はエルに一目ぼれしてしまった。俺がアゲハ陣営の初心者だってわかったら、エルは、
「じゃあ、お前が一人前の男になるまで面倒みてやるよ」
って言った。
エルの口癖は、
「あたしより弱い男は男じゃない」
だ。
だから、俺はエルに男として認めてもらうためにレベルアップを重ねているんだが、今日、人間じゃなくなっちゃったよ。どうしよう。ハトって。
俺がめそめそしているのにもかまわず、エルは訊いてきた。
「で、肝心のものは?」
「あー……それが……」
「まさかと思うけど、最上級レジェンドバタフライの地図まで奪られたとか言うんじゃないよな?」
「いや、初心者に奪られたんじゃないよ。宿で、待ち合わせの男が睡眠薬盛られて寝ていてさ。どうも、シロと稲妻のコンビに盗られたみたいなんだ」
「シロと稲妻だって……?」
エルの形相が般若に変わる。無理もない。稲妻は、エルが前に行動を共にしていたプレイヤーを殺した奴だから。
エルは唇だけを動かして笑った。
「ちょうどいいじゃん。地図を取り返すついでに、稲妻のクソをぶっ殺してやるよ」
怖ぇ。美人が怒ると本当に怖ぇ。でも美人なんだよな……。
エルはオレンジ色の長い髪をかきあげて、俺に言った。
「シロと稲妻は、森のほうに行ったのか?」
「ああ」
「今なら匂いで追跡できるな。行くぞ、裏銀」
エルに言われたら逆らえない。バトルで疲れていようと、眠たかろうと、エルの言うことは絶対だ。
俺はリュックを背負い、エルに続いてクマノ村から出て行った。
さっき、初心者プレイヤーと戦ったんだが、まさか右腕を落とされちまうとは。早いところ回復しねえと、まあまあヤバい。
正直、痛みとかは問題じゃねえんだ。バトルしてりゃ、よくあることだ。回復薬を使えば腕も元通りになるし。命まで奪られなければ、なんとでもなるのがこの世界だ。
……でも。
「ちょっと、何? その無様な姿は」
出た。
ボロい小屋の壁にもたれかかっている、田舎にまったく馴染まない美人な女。オレンジと黒のボディスーツは女の美しいボディラインをこれでもかというくらい引き出している。胸元は大きく開いていて、女の豊満な乳房が顔をのぞかせている。
派手なメイク、分厚い唇。俺にとってすべてが完璧と思える外見の持ち主なんだが。
「裏銀、誰にやられたんだ?」
「いや、あの……」
女は、くんっ、と鼻を動かした。
「臭う。男が二人……こっちの世界に馴染んでいない、新しい匂い。裏銀、あんたまさか、初心者にやられたのか?」
この女の嗅覚は半端じゃねえ。匂いの感じから推理する力まで優れている。嘘をついたら、嘘をついたときの匂いがするらしく、ごまかしは効かねえ。
俺が黙っていると、女は大きくため息をついた。
「しんっっっっじらんない! いくら最低限の装備しかしていなかったからって負ける!? アースはいっしょにいたんだろ!? なっさけな! ダサ! 使えな!」
小屋の屋根の上に留まっているアースもしゅんとしている。
女は足元に置いていたリュックから回復薬を一本取り出し、中の液体を俺にぶっかけた。次の瞬間、俺は痛みを感じなくなった。みるみるうちに傷は消え、右腕も元通りになった。
「まったく、相手が何もわかっていない初心者だったから命拾いしたんだよ。ふつうのプレイヤーだったら、あんたぶっ殺されてるよ」
「まあ、運も実力のうちって言うしさ……」
「何言ってんの。あんた、あたしの中でもう人間から格下げ。あんたは人間じゃない」
「ええ? 人間じゃなかったら何なの?」
「呼吸している生き物。その辺のハト。でも、次負けたら、ハトからも格下げするから」
「そんなあ」
女はふんっと鼻を鳴らした。
あー、きっつ。怪我するより負けるより、この女――エルに幻滅されるのが、一番メンタルにくるわ。
エルは、俺がこの世界に来てから初めて会った、アゲハ陣営のプレイヤーだ。わけのわからないゲーム世界で、ひときわ目立つ美人が歩いていたからさ。つい、声をかけてしまったんだ。
そしたら、
「弱い奴は嫌いだよ!」
と、言いながらグーパンしてきた。俺はそれを、顔面でもろに受け止めてしまった。でも、かろうじて倒れないで、俺は、言ったんだ。
「お姉さん、一人?」
……てな。
そうしたら、エルは、
「まあまあ根性あるじゃん」
と言って笑ったんだ。
眉間にしわ寄せて怒ってる顔も美人だが、笑顔の破壊力はもっとヤバい。単純な話、俺はエルに一目ぼれしてしまった。俺がアゲハ陣営の初心者だってわかったら、エルは、
「じゃあ、お前が一人前の男になるまで面倒みてやるよ」
って言った。
エルの口癖は、
「あたしより弱い男は男じゃない」
だ。
だから、俺はエルに男として認めてもらうためにレベルアップを重ねているんだが、今日、人間じゃなくなっちゃったよ。どうしよう。ハトって。
俺がめそめそしているのにもかまわず、エルは訊いてきた。
「で、肝心のものは?」
「あー……それが……」
「まさかと思うけど、最上級レジェンドバタフライの地図まで奪られたとか言うんじゃないよな?」
「いや、初心者に奪られたんじゃないよ。宿で、待ち合わせの男が睡眠薬盛られて寝ていてさ。どうも、シロと稲妻のコンビに盗られたみたいなんだ」
「シロと稲妻だって……?」
エルの形相が般若に変わる。無理もない。稲妻は、エルが前に行動を共にしていたプレイヤーを殺した奴だから。
エルは唇だけを動かして笑った。
「ちょうどいいじゃん。地図を取り返すついでに、稲妻のクソをぶっ殺してやるよ」
怖ぇ。美人が怒ると本当に怖ぇ。でも美人なんだよな……。
エルはオレンジ色の長い髪をかきあげて、俺に言った。
「シロと稲妻は、森のほうに行ったのか?」
「ああ」
「今なら匂いで追跡できるな。行くぞ、裏銀」
エルに言われたら逆らえない。バトルで疲れていようと、眠たかろうと、エルの言うことは絶対だ。
俺はリュックを背負い、エルに続いてクマノ村から出て行った。
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