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第1挑☆バズキングに俺はなる!?後
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深夜2時。倉庫の仕事を終えて、俺とカイソンは近所のアパートに帰ろうと、海沿いの道をプラプラ歩いた。
高校を卒業して1年。俺は小さいころに両親を事故で亡くして、親戚の家にやっかいになっていたんだが、居心地が悪くてな。中学を出たときに、親戚からも離れて一人暮らしをしていた。
一方のカイソンは実家暮らしだった。カイソンの父親は医者だ。エリート街道まっしぐらと思われたこいつは、中学のときに俺と出会ってから道を外れた。
俺のせい? まあ、そうかもな。俺がこいつを巻き込んじまってるのかもしれねえが、俺と一緒にいたら面白いんだと。そんなこんなで、カイソンは高校卒業と同時に家を勘当されて、俺の住んでいるアパートに転がり込んできた。今じゃ男二人暮らしだ。
「カイソン、今日の晩飯は?」
「焼きそば作ろうかと思ってますけど」
「いいね~、焼きそば」
「具はキャベツだけっすけどね」
「なんで! 肉は!?」
「お金ないんでナシで」
「俺の肉ぅぅうううう!」
ひもじい。俺の財布の中身は見なくてもわかる。456円だ。ペイペイとか電子マネー? あるわけねえじゃん、んなもん。
日払いのアルバイトで食いつなぐ日々……これをどうにかするには、たくさんの人を感動させる動画を撮るしかねえってわかってるんだけど、イマイチバズらねえ。
「チョーさん、俺、考えたんっすけど」
「何を?」
「動画っすよ。やっぱりダンスしません? チョーさん、運動神経良いんだから。今バズってるダンス踊ってみた! ってヤツからやりましょうよ」
「やだ」
「なんで」
「流行りに乗っかってる俺! みたいなの、なんかかっこ悪ぃじゃん」
「はいはい始まりましたよ」
「やっぱ、時代に流されない、オリジナリティ溢れる動画を取りてぇんだよ。そんなダンスとかに乗っかったら負けだ」
「何言ってんすか! 時代はシェア、流行りに乗っかって真似するのが主流なんですよ! みんなで楽しもうね☆っていうのが基本でしょ! だいたい、時代に流されない、オリジナリティ溢れる動画が、公園で落ち葉拾いなんすか!? 枯れた木見て、これは春になったら桜が咲くんだ……て呟くのがオリジナリティなんですか!?」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ!」
「とにかく、その古臭い頑固精神をなんとかしてくださいよ! 令和に生きてるくせに昭和っぽいんだから」
「なんだと!? 俺は2000年代生まれだぞ!」
「同い年なんだから知ってますよ! もう、ちょっと待ってください」
カイソンが何やらスマホで検索し始めた。少しして、俺に突き出してきたスマホの画面に映し出されていたのは。
「チョウ・ダンサー・バタフライマン……?」
銀色の髪に褐色の肌、化粧をしているがもともと目鼻立ちが整っている、いわゆるイケメン。上下紫色のスーツを着て踊っている。素人目に見ても、上手い。
「なんだ、こいつ」
「今めちゃくちゃバズってるダンサーです。チョーさん、こいつの真似してみませんか。チョーさんだって身長高いし、スタイルは良いんだから、銀髪にしてメイクしたら見た目も寄せられそうだし。あとはダンスを覚えれば……」
「やだやだやだやだ。興味ない」
「興味ないとかじゃなくて! とりあえず、なんかバズらせないと、最下層動画クリエイターから脱却できませんよ! もう、これが嫌なら、やっぱり組かマフィアに行きましょう。でないと、永遠に肉食えません」
「いや、組もマフィアもやだよ。誰かの下につくのは無理!」
「じゃー、マフィア作ります? チョーさんと俺ならその気になれば……」
「犯罪はしません」
「じゃあどうするんっすか! どうしたらいいんだ。今のチョーさん、俺が憧れているチョーさんじゃないんすよ! ムカつくやつ蹴散らして、自由気ままに生きているチョーさんが好きで……たしかに、今も自由気ままだけど、何か違う。こんな、貧乏生活やってほしいわけじゃないんすよ」
「カイソン……」
こいつ、目に涙溜めてやがる。
カイソンは本気で俺のことを心配している。……自分だって、肉食えてないくせによ。俺の心配ばっかりしやがって。
「……仕方ねえな」
俺がぽつりとつぶやくと、カイソンは顔を上げた。
「バタフライマン、やってやるよ」
「え……!?」
とたんに、カイソンの目がキラキラ輝いた。
「いいんすか!? バタフライマン、やってくれるんっすか!?」
「いいよ。その代わり、お前もやれよ。二人でバタフライマンズだ」
カイソンは何回も首を縦に振った。
「もちろんっす!」
やったー! と万歳しているカイソンに、俺は続けて言った。
「ただし、やるからには究極を目指す」
「え? 究極?」
「この、チョウ・ダンサー・バタフライマンに弟子入りする」
「は?」
カイソンの目が点になった。
「本気でやるんだったら、本家に直接教えてもらうのが一番いいだろう」
「え、さっき、人の下につくのはいやみたいなこと言っていたような……」
「いいから! さっさとこのバタフライ野郎にDM送れよ。弟子にしろってな」
「弟子入り希望者が超上から……。てか、この人フォロワー1000万人いるんすけど。DM見てくれますかね……?」
「んなもん、やってみねえとわかんねえだろ! さっさと送れよ」
カイソンはまだ何か言いたげだったが、そこはカイソン。黙ってDMを作成してくれた。
「とりあえず送信……っと。送りましたよ」
「よし」
「こんな名もなき配信者のDMなんか、見ないと思いますけど……」
「まーだそんなこと言ってんのか。縁があれば、いやでも見るさ」
「そんなもんっすかねぇ」
「とりあえず帰って飯だ、飯。カイソン、俺の腹は焼きそばを待っているぞ」
「はいはい」
春の夜はまだ肌寒いってのに、思わず話し込んじまったな。鼻水出てきた。帰って飯食って風呂入って寝よ。
高校を卒業して1年。俺は小さいころに両親を事故で亡くして、親戚の家にやっかいになっていたんだが、居心地が悪くてな。中学を出たときに、親戚からも離れて一人暮らしをしていた。
一方のカイソンは実家暮らしだった。カイソンの父親は医者だ。エリート街道まっしぐらと思われたこいつは、中学のときに俺と出会ってから道を外れた。
俺のせい? まあ、そうかもな。俺がこいつを巻き込んじまってるのかもしれねえが、俺と一緒にいたら面白いんだと。そんなこんなで、カイソンは高校卒業と同時に家を勘当されて、俺の住んでいるアパートに転がり込んできた。今じゃ男二人暮らしだ。
「カイソン、今日の晩飯は?」
「焼きそば作ろうかと思ってますけど」
「いいね~、焼きそば」
「具はキャベツだけっすけどね」
「なんで! 肉は!?」
「お金ないんでナシで」
「俺の肉ぅぅうううう!」
ひもじい。俺の財布の中身は見なくてもわかる。456円だ。ペイペイとか電子マネー? あるわけねえじゃん、んなもん。
日払いのアルバイトで食いつなぐ日々……これをどうにかするには、たくさんの人を感動させる動画を撮るしかねえってわかってるんだけど、イマイチバズらねえ。
「チョーさん、俺、考えたんっすけど」
「何を?」
「動画っすよ。やっぱりダンスしません? チョーさん、運動神経良いんだから。今バズってるダンス踊ってみた! ってヤツからやりましょうよ」
「やだ」
「なんで」
「流行りに乗っかってる俺! みたいなの、なんかかっこ悪ぃじゃん」
「はいはい始まりましたよ」
「やっぱ、時代に流されない、オリジナリティ溢れる動画を取りてぇんだよ。そんなダンスとかに乗っかったら負けだ」
「何言ってんすか! 時代はシェア、流行りに乗っかって真似するのが主流なんですよ! みんなで楽しもうね☆っていうのが基本でしょ! だいたい、時代に流されない、オリジナリティ溢れる動画が、公園で落ち葉拾いなんすか!? 枯れた木見て、これは春になったら桜が咲くんだ……て呟くのがオリジナリティなんですか!?」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ!」
「とにかく、その古臭い頑固精神をなんとかしてくださいよ! 令和に生きてるくせに昭和っぽいんだから」
「なんだと!? 俺は2000年代生まれだぞ!」
「同い年なんだから知ってますよ! もう、ちょっと待ってください」
カイソンが何やらスマホで検索し始めた。少しして、俺に突き出してきたスマホの画面に映し出されていたのは。
「チョウ・ダンサー・バタフライマン……?」
銀色の髪に褐色の肌、化粧をしているがもともと目鼻立ちが整っている、いわゆるイケメン。上下紫色のスーツを着て踊っている。素人目に見ても、上手い。
「なんだ、こいつ」
「今めちゃくちゃバズってるダンサーです。チョーさん、こいつの真似してみませんか。チョーさんだって身長高いし、スタイルは良いんだから、銀髪にしてメイクしたら見た目も寄せられそうだし。あとはダンスを覚えれば……」
「やだやだやだやだ。興味ない」
「興味ないとかじゃなくて! とりあえず、なんかバズらせないと、最下層動画クリエイターから脱却できませんよ! もう、これが嫌なら、やっぱり組かマフィアに行きましょう。でないと、永遠に肉食えません」
「いや、組もマフィアもやだよ。誰かの下につくのは無理!」
「じゃー、マフィア作ります? チョーさんと俺ならその気になれば……」
「犯罪はしません」
「じゃあどうするんっすか! どうしたらいいんだ。今のチョーさん、俺が憧れているチョーさんじゃないんすよ! ムカつくやつ蹴散らして、自由気ままに生きているチョーさんが好きで……たしかに、今も自由気ままだけど、何か違う。こんな、貧乏生活やってほしいわけじゃないんすよ」
「カイソン……」
こいつ、目に涙溜めてやがる。
カイソンは本気で俺のことを心配している。……自分だって、肉食えてないくせによ。俺の心配ばっかりしやがって。
「……仕方ねえな」
俺がぽつりとつぶやくと、カイソンは顔を上げた。
「バタフライマン、やってやるよ」
「え……!?」
とたんに、カイソンの目がキラキラ輝いた。
「いいんすか!? バタフライマン、やってくれるんっすか!?」
「いいよ。その代わり、お前もやれよ。二人でバタフライマンズだ」
カイソンは何回も首を縦に振った。
「もちろんっす!」
やったー! と万歳しているカイソンに、俺は続けて言った。
「ただし、やるからには究極を目指す」
「え? 究極?」
「この、チョウ・ダンサー・バタフライマンに弟子入りする」
「は?」
カイソンの目が点になった。
「本気でやるんだったら、本家に直接教えてもらうのが一番いいだろう」
「え、さっき、人の下につくのはいやみたいなこと言っていたような……」
「いいから! さっさとこのバタフライ野郎にDM送れよ。弟子にしろってな」
「弟子入り希望者が超上から……。てか、この人フォロワー1000万人いるんすけど。DM見てくれますかね……?」
「んなもん、やってみねえとわかんねえだろ! さっさと送れよ」
カイソンはまだ何か言いたげだったが、そこはカイソン。黙ってDMを作成してくれた。
「とりあえず送信……っと。送りましたよ」
「よし」
「こんな名もなき配信者のDMなんか、見ないと思いますけど……」
「まーだそんなこと言ってんのか。縁があれば、いやでも見るさ」
「そんなもんっすかねぇ」
「とりあえず帰って飯だ、飯。カイソン、俺の腹は焼きそばを待っているぞ」
「はいはい」
春の夜はまだ肌寒いってのに、思わず話し込んじまったな。鼻水出てきた。帰って飯食って風呂入って寝よ。
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