ハイ拝廃墟

eden

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温泉④

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「あ……」

 旺介だ。身長も伸び、体格もずいぶん男らしくなった。同じ中学校に進学したが、中学校ではほとんど会話をしなかった。高校は、サッカーの強い高校に行くという噂を耳にしていた。

「なにー、おうちゃん、知り合い?」

 先ほどホットスナックのケースを見て舌打ちをした男子が旺介の隣に立った。

「小学生んときのダチ」

「ふーん?」

 髪の一部を金色に染めた、その男子は、にやにやしながら良に言った。

「おうちゃんのダチなんだよな、お前。ダチなら、タダでからあげくれるよな?」

「え……」

「違うん?」

 その男子がすごむと、旺介は「ぷっ」と噴き出した。

「良、ごめんな~。夢也ゆめや、そんなに怖がらせんなって」

 旺介が庇いに入ってくれたと思い、良がほっとしたのもつかの間だった。

「すぐからあげ作ってくれんだろ? 良」

 旺介は夢也の肩にひじを乗せて、良に言った。昔みたいな、無邪気さなんてかけらもない。人を見下す目。良は愕然とした。

「なあ、早くしろよ。俺腹減ってんだよ」

 夢也に急かされ、良は無言でバックヤードに入り、冷凍庫からからあげの袋を取り出した。急いでフライヤーにかけ、からあげを揚げる。

「おうちゃん、夢也、何話してんの?」

 レジ前に、残りの3人も集まってきた。

「なんか、レジのやつがおうちゃんの知り合いでさ。からあげ作ってもらってんの」

「うっそ、タダなん?」

「おごり?」

「そうそう。ったりめーだろ、ダチだったんだからさ」

「たしかに」

 あとの3人もにやにや笑いながら、赤いカゴを持ち、袋入りのポテトチップスやおつまみ、炭酸ジュースなどのペットボトルを次々に入れ始めた。

 良がからあげをカップに入れて、レジに戻ると、台の上に商品でいっぱいになったカゴが2ケース置いてあった。

「良くん、これも~」

「おうちゃんのダチなんだから、これくらいおごってくれるよね」

 ガタイのいい男子たちに見下ろされ、良は抵抗することができない。小さく頷いて、ひとつひとつ商品のバーコードを読んでいく。

 その間に、夢也はからあげを取って、レジの前で食べ始めた。

「ん~、揚げたてはやっぱうめえな~」

 からあげ代も込みで、3482円。良は、商品を袋に詰めて、無言で男子たちに差し出した。

「サンキュ」

「どうも~」

 男子たちが受け取ろうとしたとき、旺介が止めに入った。

「待って」

 男子たちが旺介を見る。良も、なんだろうと思いながら顔を上げた。

 旺介は顎でレジの後ろの棚を指した。タバコが並んでいる棚である。

「114番」

「え……」

 旺介は未成年である。タバコを吸ってはならないし、良も販売してはならない。だが、旺介は目を細めて良を睨んだ。

「できんだろ」

 今、レジやレジ周りに他の店員はいない。もう一人の先輩は、バックヤードで寝ている。助けを呼ぼうにも呼ぶことができない。だいたい、大事おおごとにして、もし復讐でもされたら。

 良はしぶしぶタバコを1ケース取って、すでに商品を詰め終えた袋の中に追加した。旺介は急に笑顔になって、「サンキュー」と言った。

 そして、帰りざまに言ったのだ。

「また来るわ」

 良の青ざめた顔を見て、男子たちはゲラゲラ笑いながら店から出て行った。

 良はポケットから財布を取り出し、旺介たちの買った商品の代金を支払った。無駄な出費だ。3千円もあれば、ゲームでエピック宝箱を買うことができるのに。

 また来るって、本気で?

 良は嫌な予感がした。

 バイトのない時間帯は、自分の部屋でデザニティキングダムの世界に入り浸った。同盟メンバーとチャットで楽しみ、ぺーぺーとイベントの作戦会議をし、王国と勇者の強化にいそしむ。

 ゲームをしている間は「良勇者」として、みんなの人気者でいられる。幸せだった。

 リアルでは、旺介は夢也や他の友人を引き連れて、良のコンビニにしばしば現れるようになった。集団で来て大量に商品をカゴに入れ、良に買わせる。

 良の嫌な予感は当たった。

 旺介はしつこかった。頻繁に来て、一度に3~4千円分の商品を良に買わせる。旺介のタバコもだ。

 せっかく働いても、旺介とその仲間が来るせいで、金が飛んでいく。今まで何も考えずに課金できていたのが、できなくなっていく。
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