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勇英士試験
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「遂に・・・遂に始まったよ!試験!」
「ああ!でも最初の試験がこれじゃあなぁ・・・」
三人は視線を部屋の奥に向ける。ほとんどの参加者達は今四つの扉の前で群れをなしていた。どの扉に入るのか考えながらも、覚悟を決めて扉を次々とくぐっていく。
「とりあえず私たちもどの扉に入るか決めなくちゃね」
「しかしひどい試験じゃないかこれ?四つの内の一つしか正解がないなんてよ。しかも手がかりになるようなものもない、完全な博打だ。実力も何もあったもんじゃない」
なんかがっかりだぜと言ってジークはため息をつく。そんなジークを余所にサイガはずっと何かを考えていた。試験官の言った言葉に何かしらの引っかかりを感じていたのである。
「一つ、俺の考えを言っていいか?」
「考え?何、どの扉が正解のルートかわかる方法とか?」
「いや、そういうのじゃなくてこの試験に対する考えだ」
試験に対する考えって何?とアリシアは疑問の顔を浮かべている。ジークも相変わらずがっかりしているようで、杖代わりに木刀に寄りかかっている。
「俺はあの四つの扉の中には正解なんてない、と言うよりもあの扉に意味はないと俺は思っている」
「え!?それどういうこと?」
「試験官が言っていた合格条件はなんだった?」
「確かこの建物からの脱出だろ?」
「そう、だから皆上に行ける扉を選ぼうとしているんでしょ?」
「何で?」
サイガはそう言ってアリシアに尋ねた。アリシアはサイガを見て不可解な表情を浮かべる。
「何でって、ここは地下フロアで脱出するためには上に行く必要があるからでしょ?」
「それなんだよ、俺が考えていたことは。試験官は確かにあの扉の中の一つに上のフロアに行ける扉があるとは言っていた。だけど上のフロアに進むと脱出できるなんて一言も言ってないんだよ」
「確かにそうだな・・・」
「仮に脱出するのに上のフロアへ進むことが必要なら、その扉を特にヒントもなしに選ばせて、しかも間違えても選び直せないなんていくら何でも理不尽過ぎる。試験として破綻している。これじゃあただの運ゲーだ」
「それじゃあ他にどうやって脱出するって言うの?」
それはわからんと言ってサイガは再び考え始める。アリシアはやれやれと首を振っている。その間に参加者達は続々と一人また一人とナンバープレートをかざし扉の奥に消えていった。ジークはそんな参加者達を見て何やらそわそわしていた。
サイガは確認のため入ってきた扉を開けようとするが鍵がかかっているため部屋の外には出ることはできない。鍵穴などもないため扉を開けることは難しく、蹴破ろうにも破壊行為が禁止のためそれもできない。何かないかと部屋の床や壁を注意深く調べていると壁に小さく『58』と刻まれているのを発見したが、特に何か目立った仕掛けは見つからなかった。
「やっぱり扉を選んで進まなくちゃいけないのかな」
「くそ、理不尽すぎるぜこんなの・・・」
アリシアとジークの言葉を余所にサイガは本当に他の脱出方法がないのかずっと考えていた。そしてふと部屋の片隅で壁により掛かっていた男に目を向ける。他の参加者とは違い、その男は壁により掛かりながらずっと俯いていた。サイガが何気なくその男を見ていたが他の参加者が横切り一瞬視界が遮られる。そして再びその男に目を向けるとその場にいた男の姿が消えていた。一瞬目を離した隙に男がいなくなっていたのである。サイガは慌てて周りを確認するが消えた男の姿はどこにも見当たらなかった。
「今人が消えたぞ!」
サイガの突然の言葉にアリシアとジークは何事かとサイガを見る。サイガはそのまま消えた男がいた場所へと歩いて行く。アリシアとジークはわけがわからないままとりあえずサイガの後について行く。サイガは男がいた場所を念入りに調べる。特に目立った場所はなく壁に小さな文字で『72』と刻まれているだけである。
「何かわかった?」
「人が消えるってそんなことあるのか?」
「確かにさっきここに男がいたんだ。この壁に寄りかかって・・・」
そこまで言ってサイガは壁の数字に目を向け、再び辺りを調べ始める。他の二人はサイガの行動を疑問に思いながらずっと見ていた。サイガは壁沿いに調べていくと『100』と刻まれた壁を見つける。
「アリシア、確かナンバープレート1000だったよな?ちょっと貸してくれないか?」
そうだけどと言いながらアリシアはバッグからNO.1000と書かれたネームプレートを取り出すとサイガに差し出した。サイガは受け取ったネームプレートと『100』と刻まれた壁をじっくり見比べると、そのネームプレートを『100』と刻まれている場所にあてがった。するとロックが解除されたような小さな音が鳴る。すると『100』と刻まれた壁が扉のように横に開いた。人一人が通れるほどの道があり、その先は暗くてよく見ることはできない。
「隠し扉・・・?」
「こんな仕掛けがあったのか・・・!」
サイガはアリシアにNO.1000と書かれたネームプレートを返す。
「この部屋に刻まれている数字とナンバープレートの数字が反応して仕掛けが動くようになっているんだ」
「数字?でも私の番号は1000だよ?壁に刻まれてた数字は100だったよね」
「下二桁の数字に対応しているんだ」
「なぜ下二桁なんだ?普通に1000なら1000で良いだろう」
「単純に目立つからだろう。壁に自分の持つナンバープレートと同じ数字が刻まれていたら嫌でも何かあると考えるだろ?できるだけこの仕組みに気づかれないようにするため刻まれている数字は1から100までになっているはずだ。参加者全員が同じ部屋に集められずに分けられたのもこのためだと思うぞ」
なるほどなと言ってジークは頷いた。とは言うもののこの仕組みが脱出に繋がるとは限らない。三人は開いた壁を見つめて佇む。
「これで本当に脱出できるのかどうかだな。もしかしたらこれはフェイクなのかもしれない」
「確かにそうだ。ただ俺だったらあっちの理不尽な選択肢を選ぶよりも新たに拓けたこっちの道を行くけどな」
そう言ってサイガは四つの扉に群がる参加者達を一瞥してアリシアに視線を向ける。
「どっちみち選ぶのはアリシア次第だ、これはアリシアのナンバープレートで開いたんだから。この先は対応するナンバープレートを持っていた奴しか進めないはずだから俺たちは進めないしな」
アリシアは額に手を当てて俯いていた。どうやらこの先に進むかどうか考えているらしい。そして決意したように顔を上げると、
「私、この先に進むよ。せっかく拓いた道だもん、行ってみなきゃね!」
サイガはとジークはアリシアの言葉に頷く。二次試験で会おうねと言ってアリシアは開いた壁の先に進んでいった。アリシアが壁の中に入った直後、壁は再び元の状態に戻っていった。
「アリシアはこの道を行ったし俺も数字を探すつもりだけどジーク、あんたはどうする?俺たちにわざわざ合わせなくても良いんだぜ?」
「いや数字を探すよ。あっちの扉を選んで失格になるよりこっちの道を選んで失格になった方が納得がいく」
「そうかい。それじゃあ探しに行きますか」
「ああ!でも最初の試験がこれじゃあなぁ・・・」
三人は視線を部屋の奥に向ける。ほとんどの参加者達は今四つの扉の前で群れをなしていた。どの扉に入るのか考えながらも、覚悟を決めて扉を次々とくぐっていく。
「とりあえず私たちもどの扉に入るか決めなくちゃね」
「しかしひどい試験じゃないかこれ?四つの内の一つしか正解がないなんてよ。しかも手がかりになるようなものもない、完全な博打だ。実力も何もあったもんじゃない」
なんかがっかりだぜと言ってジークはため息をつく。そんなジークを余所にサイガはずっと何かを考えていた。試験官の言った言葉に何かしらの引っかかりを感じていたのである。
「一つ、俺の考えを言っていいか?」
「考え?何、どの扉が正解のルートかわかる方法とか?」
「いや、そういうのじゃなくてこの試験に対する考えだ」
試験に対する考えって何?とアリシアは疑問の顔を浮かべている。ジークも相変わらずがっかりしているようで、杖代わりに木刀に寄りかかっている。
「俺はあの四つの扉の中には正解なんてない、と言うよりもあの扉に意味はないと俺は思っている」
「え!?それどういうこと?」
「試験官が言っていた合格条件はなんだった?」
「確かこの建物からの脱出だろ?」
「そう、だから皆上に行ける扉を選ぼうとしているんでしょ?」
「何で?」
サイガはそう言ってアリシアに尋ねた。アリシアはサイガを見て不可解な表情を浮かべる。
「何でって、ここは地下フロアで脱出するためには上に行く必要があるからでしょ?」
「それなんだよ、俺が考えていたことは。試験官は確かにあの扉の中の一つに上のフロアに行ける扉があるとは言っていた。だけど上のフロアに進むと脱出できるなんて一言も言ってないんだよ」
「確かにそうだな・・・」
「仮に脱出するのに上のフロアへ進むことが必要なら、その扉を特にヒントもなしに選ばせて、しかも間違えても選び直せないなんていくら何でも理不尽過ぎる。試験として破綻している。これじゃあただの運ゲーだ」
「それじゃあ他にどうやって脱出するって言うの?」
それはわからんと言ってサイガは再び考え始める。アリシアはやれやれと首を振っている。その間に参加者達は続々と一人また一人とナンバープレートをかざし扉の奥に消えていった。ジークはそんな参加者達を見て何やらそわそわしていた。
サイガは確認のため入ってきた扉を開けようとするが鍵がかかっているため部屋の外には出ることはできない。鍵穴などもないため扉を開けることは難しく、蹴破ろうにも破壊行為が禁止のためそれもできない。何かないかと部屋の床や壁を注意深く調べていると壁に小さく『58』と刻まれているのを発見したが、特に何か目立った仕掛けは見つからなかった。
「やっぱり扉を選んで進まなくちゃいけないのかな」
「くそ、理不尽すぎるぜこんなの・・・」
アリシアとジークの言葉を余所にサイガは本当に他の脱出方法がないのかずっと考えていた。そしてふと部屋の片隅で壁により掛かっていた男に目を向ける。他の参加者とは違い、その男は壁により掛かりながらずっと俯いていた。サイガが何気なくその男を見ていたが他の参加者が横切り一瞬視界が遮られる。そして再びその男に目を向けるとその場にいた男の姿が消えていた。一瞬目を離した隙に男がいなくなっていたのである。サイガは慌てて周りを確認するが消えた男の姿はどこにも見当たらなかった。
「今人が消えたぞ!」
サイガの突然の言葉にアリシアとジークは何事かとサイガを見る。サイガはそのまま消えた男がいた場所へと歩いて行く。アリシアとジークはわけがわからないままとりあえずサイガの後について行く。サイガは男がいた場所を念入りに調べる。特に目立った場所はなく壁に小さな文字で『72』と刻まれているだけである。
「何かわかった?」
「人が消えるってそんなことあるのか?」
「確かにさっきここに男がいたんだ。この壁に寄りかかって・・・」
そこまで言ってサイガは壁の数字に目を向け、再び辺りを調べ始める。他の二人はサイガの行動を疑問に思いながらずっと見ていた。サイガは壁沿いに調べていくと『100』と刻まれた壁を見つける。
「アリシア、確かナンバープレート1000だったよな?ちょっと貸してくれないか?」
そうだけどと言いながらアリシアはバッグからNO.1000と書かれたネームプレートを取り出すとサイガに差し出した。サイガは受け取ったネームプレートと『100』と刻まれた壁をじっくり見比べると、そのネームプレートを『100』と刻まれている場所にあてがった。するとロックが解除されたような小さな音が鳴る。すると『100』と刻まれた壁が扉のように横に開いた。人一人が通れるほどの道があり、その先は暗くてよく見ることはできない。
「隠し扉・・・?」
「こんな仕掛けがあったのか・・・!」
サイガはアリシアにNO.1000と書かれたネームプレートを返す。
「この部屋に刻まれている数字とナンバープレートの数字が反応して仕掛けが動くようになっているんだ」
「数字?でも私の番号は1000だよ?壁に刻まれてた数字は100だったよね」
「下二桁の数字に対応しているんだ」
「なぜ下二桁なんだ?普通に1000なら1000で良いだろう」
「単純に目立つからだろう。壁に自分の持つナンバープレートと同じ数字が刻まれていたら嫌でも何かあると考えるだろ?できるだけこの仕組みに気づかれないようにするため刻まれている数字は1から100までになっているはずだ。参加者全員が同じ部屋に集められずに分けられたのもこのためだと思うぞ」
なるほどなと言ってジークは頷いた。とは言うもののこの仕組みが脱出に繋がるとは限らない。三人は開いた壁を見つめて佇む。
「これで本当に脱出できるのかどうかだな。もしかしたらこれはフェイクなのかもしれない」
「確かにそうだ。ただ俺だったらあっちの理不尽な選択肢を選ぶよりも新たに拓けたこっちの道を行くけどな」
そう言ってサイガは四つの扉に群がる参加者達を一瞥してアリシアに視線を向ける。
「どっちみち選ぶのはアリシア次第だ、これはアリシアのナンバープレートで開いたんだから。この先は対応するナンバープレートを持っていた奴しか進めないはずだから俺たちは進めないしな」
アリシアは額に手を当てて俯いていた。どうやらこの先に進むかどうか考えているらしい。そして決意したように顔を上げると、
「私、この先に進むよ。せっかく拓いた道だもん、行ってみなきゃね!」
サイガはとジークはアリシアの言葉に頷く。二次試験で会おうねと言ってアリシアは開いた壁の先に進んでいった。アリシアが壁の中に入った直後、壁は再び元の状態に戻っていった。
「アリシアはこの道を行ったし俺も数字を探すつもりだけどジーク、あんたはどうする?俺たちにわざわざ合わせなくても良いんだぜ?」
「いや数字を探すよ。あっちの扉を選んで失格になるよりこっちの道を選んで失格になった方が納得がいく」
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