上 下
588 / 588
Ⅵ 女王

最終・夜明けの女王、美しい姉妹

しおりを挟む

「何だろうね、フルエレちゃんが何か言うみたいだよ。うっ猫弐矢何してるの?」

 猫弐矢は両手に葉っぱの付いた小枝を持ち身を屈めていて、フゥーと加耶クリソベリルが呆れて見ていた。

「カモフラージュです。此処は敵地ですので」
「敵地じゃ無いでしょ! 君達が余計な事したからだろ? 大丈夫だよ僕が守るからさ」

「そろそろ始まるみたいだよっ! ちょっと静かにして……」
夜宵やよいお姉さま?)

 ようやく姉と距離を取れると安心していた美柑も、再び多少ドキドキしつつ待機していた。

 コツコツコツ……
 急遽、みかんの木箱で作った壇上に雪乃フルエレ女王が静かに登って行く。かなり高度が上がって来た朝日が、背中から照らしていて眩しい。

「あードキドキするフルエレさん余計な事言うなー」
「静かに」

 セレネが砂緒にたしなめられ面白く無い。


「皆さん今朝は、いえ此処数日無理に集まってもらってごめんなさい。皆さんもとても大きなヌッ様や千岐大蛇ちまたのかがちの姿を見たと思いますが、私達は東の地で禍々しい魔物を退治して来てその帰りなのです。私自身多少混乱してる部分があって……皆さまには後日必ず詳細をお伝えしますね、本当にごめんなさい」

 フルエレは深々と頭を下げた。

「めっちゃただの業務連絡じゃない」
「ホッとしたわ」

 メランと同様、セレネも胸を撫で下ろし掛けた……

「それとは別に前から話したいと思っていた事があります……聞いて下さい」

 急にフルエレがさらに神妙な顔になった。セレネが激しく落ち込む。

「やっぱり来たーーっアレ言う気だろ」
「まあまあ」
 
 砂緒がなだめ、客席からも声が上がる

「何なのーっ?」
「うるさい横の奴、黙れオラー」
「なんだよお前こそ黙れ」

 気が立っている者も多くいた。

「少しだから聞いて。前から……私なんて女王に向いていない、女王を辞めたいって。前の女王投票でも相応しい人がいたら、いつでも辞めたいと言っていました……」

 またか……とセレネ以外にも多くの人が思った。

「けど、今日千岐大蛇を砂緒セレネと一緒に倒して、詳しくは言えないけどもっと色々な事があって……少し気持ちが変わりました」

(え?)

「私なんかって……私なんて女王に向いていないって思う事は、もしかしたら傲慢だったかもしれないって。今も私に凄い力があるとは思っていないけど、人を助ける力があるのに、それを求める人の声に耳を貸さずに、ただ自分の気持ちだけに従って役目から避ける事は傲慢……じゃないかなって」

(フルエレさん……)

「でもそれだけじゃないの。久しぶりにとても大切な人と再会出来て……その人になんて言われていたか忘れていた。その人からは私が皆のニナルティナと同盟を守るんだよって言われていたの。それなのに私の為に……命を落とした人も居るのに、そんな事も忘れて自分の事ばかり考えていました」

(……)

「カガチを倒して、思いがけず本当に久しぶりに大切な人と再会して……思ったんです。私、まだまだ女王をやってみたいと。こんな私の力でも求めている人がいるなら、少しでも力になってみたい。だからなんだか辞めたく無いって。あれだけ辞めたい辞めたい言っていた癖に、皆さんにお願いします。許されるなら私、これからも同盟の女王を続けても良いでしょうか? もし許されるなら、自分から北部海峡列国及び中部七葉後川流域国家群新同盟の女王になりたい!」

 フルエレの表情も迷い無く姿勢も声もきっぱりとさっぱりとした物だった。

「喫茶猫呼にお迎えに行った時から……そのお言葉を……ずっとお待ちしておりました……ぐおおーーーーーー」

 フルエレの傍らで立っていたセレネが腕で顔を隠し突然号泣してしまった。

「やだっもう友達じゃない! 何でセレネが泣いてるのよ、まだ皆からの許しが……」
「ぐおおおおーーーーおおーーー」

 フルエレがセレネの肩を抱くが、彼女は一向に泣き止まない。それどころか大号泣になる。

「皆からの許しなど要りません。フルエレの願いなら私が強制的に聞かせます」
「ダメよ砂緒」

 等と言いつつ、壇上で泣きじゃくるセレネを中心に三人は抱き合った。それを見かねた大声が海の見える神殿に響く。

「誰か文句のある奴いるかーーっ? 居たら俺がぶちのめす!」
「俺も賛成だーーーーーははは」

 衣図ライグとレナード公がいち早く賛成した。しかしそれは二人に促されるまでも無く、セレネの大泣きにあっけに取られただけで、会場に集まる者達の意思は同じであった。

「私もっ!」
「ワシもだっ!!」
「誰も反対などしないぞっ」

 大アリリァ乃シャル王始め、列席した王族達が次々に賛成した。その周囲でシャルや近習の者達や護衛の兵士達も拍手をして賛成した。残念ながら東の地に置いてけぼりのライラは此処に居ないが同じ気持ちであろう。

「ありがとう皆……私、頑張るよ」
「ぐおーーーー」
「セレネさん泣き過ぎです」
「うるさいわっ」

 人々がフルエレの壇上を中心に集まり、次々に笑顔で話し掛けている。フルエレが突如リュフミュランに現れた昔話などに、次々にどっと笑いが起きて集まった人々は新しい女王の誕生を祝い続けた。

「ふんっ面白くありませんわ。私だけは安易にフルエレに騙されない! いつか見返してやりますから覚えてらっしゃい!」

 七華は腕を組んで遠巻きにフルエレを見つめて言い放った。

「もうお姉さまも砂緒さんみたいに素直になって下さい!」
「な?」

 妹のリコシェ五華いつかに言われて、余計に腹の立つ七華であった。



 紅蓮達は、わいわい言う歓声をさらに遠巻きで見ている

「ほら、今日のお姉さんめちゃめちゃ凄く機嫌がいいよ」
「もう……帰ろう」

 紅蓮が呼び掛けるが、美柑が背を向けようとする。
 パシッ
 だが紅蓮が美柑の細い手首を掴んだ。

「今日、お姉さんに会ってみようよ。夜宵やよい依世いよ姉妹としてさ。素直な気持ちで話し合うんだ」
「嫌ッ」

 しかし紅蓮は笑顔だが意思の固い顔で手首を離さない。加耶とフゥーと猫弐矢は訳も分からずだが、何か重要な事なんだと二人を見守った。

「ちょっと会うだけっ!」

 紅蓮がにこっと笑う。

(お姉さま……千岐大蛇を倒す為に危険も顧みず魔ローダーに乗り、悲しい別れをしたフィアンセの魂と再会して涙を流す、強く優しい女性……私が恐れていた氷の心の雪乃フルエレ女王はもう居ない。だけど……足がすくむよ。きっと私の事を夜宵お姉さまは恨んでいて嫌っているのに違いない……でも、この機会が最後のチャンスかも知れない。はぁ紅蓮……の奴に言われるまま……行くか)

「もう……何よう! わかったわよ。 おねーさまーー」

 美柑はそっとパピヨンマスクを外し小声で言った。

「それじゃ聞こえないよ?」
「もうっ!」

 フェレットが興奮して肩で走り回る。

「もっと大きな声で」
「おねーーーさまーーーーーーー」
「さぁ」
「夜宵、おねーーーーさまぁーーーーーーー!!」

 ヤケになって大声で叫んだ。だがわいわい言う群衆には当然聞こえない。


「ん、どうした砂緒?」
「どうしたの砂緒??」

 何故か人々越しに一点を見つめる砂緒を、フルエレとセレネが訝しくおもった。

「んーーどうも向こうで、フルエレを97%くらいに縮小した美少女が叫んでましてな。おねーさまーーとか」
「えっ!?」
(やっぱりあの子、依世だったんだわ……)

 フルエレは突然顔色を失った。

「フルエレさん?? 97%に縮小? 何だよそれ」
「私、もう言い終わったから帰る!」

 フルエレはくるりと背を向けようとする。
 パシッ
 しかし砂緒が逃さず手首を掴んだ。

「いえ、今日は居て下さい」

 砂緒は笑顔だった。

「なんでっ!?」
「一回くらい私の言う事も聞いて下さい。なんだか面白そうだ」
「もうっ!」

 姉妹で全く同じ反応であった。


「ほらっ飛んで行って!!」
「わかったわよ、おねーーさまーーーーー!」

 美柑は飛行魔法でふわりと飛んで行く。


「おーーーミニフルエレが飛んで来ました」
「えーーーー!?」

「おねーーーさまーーーーーやよいおねーーーさまーーーーーー!!」

 突然叫びながら、ひらひらした可愛い衣装で飛んで来た、天使の様な美少女の登場に皆が驚いて見上げた。

「アッアッアッいいい依世ちゃん実在したーーーーーッッ!!!」

 シャキーーーーンッ
 ウェカ王子が自分の真上を再会を願い続けた依世姫が通り過ぎた直後に叫んで凍り付いた。

「あちゃーーー王子凍っちゃいましたねえ。今の内婚姻の捺印させちゃいますか」
「自分で実在したーっ言うて、実は自分で信じてなかったんや? 可愛いやんかー」

 その間もふわふわと依世は人々の上を飛び続けた。

「おねえーーーさまぁーーーーーーーー!!!」

「依世っっ!!」
「夜宵お姉さまっ!!!」

 飛んで来た依世を夜宵は受け止めて、何回もクルクル回って抱き締め合った。その傍らには物凄い速さで連続ジャンプして来た紅蓮も突然居た。

「何で貴様が!?」

 穏やかな表情であった砂緒が一転して睨み付ける。

「ほっといてもらおう」
「それよかフルエレさんだ! あの二人を見ろっ」

 セレネが二人の天使の様な美少女二人の抱擁を号泣して指差した。居並ぶ王族達もなんとなく状況を把握して笑顔で囲んだ。

「依世! ごめんなさい、私貴方に辛い思いを。凄く自分勝手だった……」
「いいんです、私こそ夜宵お姉さまに……」
「ううんいいのいいのよ、今砂緒やセレネや猫呼やシャル、一言で言えないくらいの人達に囲まれているの。だから占いは外れたわ! それで良いの」
(アルベルトさん……)

 一瞬フルエレは上を見てから依世を見直した。彼女は泣いていたがフルエレも泣いていた。

「有難うお姉さま……」
「ええ」

 そんな二人の横で砂緒は紅蓮と火花を散らし睨み合いながらも、せわしなくまた首の向きと表情を変え、にこにこしながら美しい姉妹の再会をいつまでも見守り続けた。





 最後までお読み頂き、ありがとうございました。
 是非お気に入り登録して頂けるととても励みになります。
 よろしくお願い致します。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

インク猫
2023.07.16 インク猫

う~ん、主人公…人ですらなかったのか
どっちかと云うと、百年経ってますから「付喪神」が近いんですかね?

佐藤うわ。
2024.01.22 佐藤うわ。

ありがとうございます。
長期間放置してしまっていて気付くのが遅くなりましたすいません。
なろうで書いてた版が第一部完してしまったので、こちらも更新再開致しますのでよろしければ読んで頂けると幸いです!!

どっちかと云うと、百年経ってますから「付喪神」が近いんですかね?

はい、実はなろうで一時期「九十九神」という文字を含むタイトルで書いていました;
(今は変更しています)

解除

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。