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Ⅵ 女王
リュフミュラン沖ノ神殿乃小島 Ⅱ
しおりを挟む『おおフルエレ、不祥砂緒生きておりましたっ!』
砂緒はセレネを押しのけて魔法モニター上に顔を大映しにして敬礼した。
『うん、良かったわ! じゃあ雷を最大威力で撃って頂戴』
『感動薄いですね。しかしそれじゃあヌーとか言う奴が巻き込まれませんか?』
す、砂緒ぉ……生きていてくれたのね!? 的に身を震わせ泣きながら感動してくれると思っていたが、フルエレの薄い対応に少しガックリした砂緒であった。
『うん、だからポーンと魔法バレーボールの様に上に放り投げるから、タイミング良くバリバリッて撃ってくれたらいいわっ! 早くしてね』
『ヌーじゃ無いヌッ様な』
美柑がぼそっと呟いた。だが砂緒がもたもたしているうちに中心核から生えたばかりの巨大な翼がバサバサと微妙に羽ばたき出した。ただ八本程の首達はまだどうしていいのか目覚めたばかりで少し混乱気味の様にも見えた。
『早くして下さい!!』
『砂緒くん頼むよっ!』
目前で新たな化け物の胎動を見て、フゥーと猫弐矢が慌てて立て続けに叫んだ。
『……はいはい、分かりましたよ。では巨大化っっ!!』
セレネの横に座り直した砂緒は操縦桿を握って念じ、蛇輪の巨大化を始めた。以前よりは少し慣れてスムーズにするすると巨大化して行く。もちろん巨大化と言っても全高300Nメートルのヌッ様に比べると、100Nメートルちょっとの巨大化蛇輪は、さほど巨大とは言えなくなって来て微妙ではあるが。
(重要な話って完全にプロポーズだろ、戦闘中に求婚とか砂緒の奴サプライズ過ぎるだろ……突然だよーもぅむふふ)
「………………さっきの重要な話って何だよ? もういいのかよ」
蛇輪が巨大化しつつある短い時間にも、セレネはやっぱり気になりだして問い質した。
「……はて、私何か言ってましたっけ? 今忙しいので最大威力の雷を撃ってからにしてくれませんか??」
セレネのフィルターから見て砂緒は恥ずかしくてとぼけている様に見えた。
(とぼけちゃってーっ!! コイツでも恥ずかしいとか人間的感情あるんだな……もしかして雷をビカッと撃った瞬間電撃的に求婚かぁ!? 思わず上手い事言ってしまった)
「そ、そうかぁ? さっき何か重要な話があるとかなんとか言ってたかなーって」
セレネは頬を赤らめて横を向いた。その時丁度蛇輪の巨大化が完了した。
『よーし、フルエレ今から黒雲を呼び出して最大限の威力で撃ちますよっ! 待ってて下さいな~~』
巨大化蛇輪は両手を天に向けた。途端に夜の海上に月を隠す黒雲が広がり真横に何本もの雷がバリバリと走り始める。
『遅いわよっ! いい? じゃあ1・2・3でぽーいっと投げるからちゃんと撃ってよ……』
『はい準備おーけーですよ』
フルエレがフゥーに目で合図し、ヌッ様は巨大な千岐大蛇の中心核を投げる為に天に掲げた。その中心核上ではまだ生まれたばかりの八本程の首達が、うねうねとあらぬ方向にうごめいている。
「砂緒、やっぱり今言って!! 恥ずかしがらずにハッキリ言えよっ」
魔法通信に拾われ無い様に、セレネが伏目がちに恥ずかしそうに言った。
「は~~? 何でしたっけ??」
「もーーーぅ恥ずかしがるなよっ」
ドバシバシッ
砂緒の肩を叩きまくる笑顔のセレネ……
『いっくわよ~~~1・2・』
「ハッあーーそう言えば、千岐大蛇に激突した時に、体内で加耶殿の精神体に再会しましてな。今チマタノカガチの体内で暮らしてるそうですぞハハハハハハ」
「へ?」
にわかには信じられない話だが、操縦桿を握る砂緒の手がパリパリと帯電し始めて、セレネの顔から血の気が引いた。
『さ~~~んっ今よっっ!!』
フルエレが叫び、ヌッ様が中心核に生まれたばかりのミニ千岐大蛇をぽーーんと投げた。
『よーーーし、最大限かみ……』
『やめりゃああああああああああ!!!』
バキィッッ! ドギャッッ!!
セレネは砂緒が操縦桿から雷を放つギリギリ寸前で思い切り蹴り飛ばした。
「ふぶをっ!? 何するですか??」
ぶっとんだ砂緒は操縦席の壁にぶち当たって口から血をだらだら流した。
『フルエレさん中止だっ! その中に加耶さんが居るっ海に落とさず受け止めて』
セレネは慌てて叫んだ。まだ動きが覚束ないカガチは飛び立てずに落ちて来た。
『へっ? 加耶さん??』
『あ、あのフルエレさま??』
『加耶ちゃんがどうしたっ!?』
言う間に投げ上げた中心核がストンと落ちてくる。仕方なくフゥーは両手を広げたヌッ様でそれを受け止めた。しかしその衝撃で完全に目覚めた中心核は、バサバサッと羽ばたきを強め掴んだヌッ様ごと空に飛びあがり始めた。
『おおーー風〇おじさんみたいですな』
『笑ってる場合かよ!?』
さらに羽ばたくだけでは済まず、飛び上がりながら遂に八本の首達がヌッ様の頭に襲い掛かった。
『ぎゃーーーーっ砂緒助けて!!』
魔法モニターに大写しになる迫る大口を開けたカガチの首に恐怖し、フルエレは思わず叫んだ。
『危ないっフルエレちゃん!!』
ザシュッ!! ズバズバズバッ!!!
しかし噛まれる寸前で飛んで駆け付けた白鳥號の紅蓮が、魔法の刃で気持ちいいくらいに次々と首を落として行く。ドボドボと長い首が海中に落ちて行くが、これまで通り首だけでは再生する事は無く無情に夜の海に沈んで消えて行った……後に残されたのは翼と長い尻尾だけの塊となった。
『はぁはぁ助かったわ紅蓮くん!』
『いやフルエレちゃんが無事で良かった、次いでに翼も切ろうか??』
今全ての首を落とされ、巨大な翼だけの存在となった中心核にヌッ様がぶら下がって飛ぶというカオス状態になっていた。
『いや、止めよう若君。翼を切ると海中に中心核まで落ちる可能性がある。それよか砂緒くん加耶ちゃんがどうしたって?』
猫弐矢が矢も楯もたまらずという感じで早口で砂緒に聞いた。
『ああ、猫弐矢ですか? 何って千岐大蛇にぶつかった時に精神体になって、中に潜む加耶殿と会話しただけですが』
しれっと話す砂緒に猫弐矢は一瞬顔面蒼白になった。
『何だって!? 何でそんな重要な事を真っ先に言ってくれないんだっ! いくら砂緒くんだからってそんな事でふざけたら僕は許さないぞ!!!』
いつも穏やかな猫弐矢が牙を出して激怒して大声で怒鳴った。
「うわーーセレネのお陰で猫弐矢にガチギレされましたぞ」
砂緒の言葉に偽りは無かった。砂緒は真っ先に事実をセレネに伝えようとしたが、セレネもフルエレも耳を傾けず、結果的に砂緒が悪ふざけしたみたいな状況になっていた。
「スマン」
(ヤベップロポーズとかとぼけた事考えてたよ……ハズカシ)
セレネは赤面して下を向いた。
『猫弐矢さん落ち着いて、砂緒はバカだけどそこまで性悪じゃないわ、私が急かしたから』
『猫弐矢落ち着いてフルエレちゃんの言う通りだよ』
即座に砂緒が身震いする。
「うわーー紅蓮にまで擁護されましたぺっぺっ」
「て、お前平気で雷撃とうとしてたのは事実だろーが」
しかして一旦全員落ち着いた。と言ってもヌッ様は中心核にぶら下がって当てもなく飛んだままである。
『とにかくこれを人里からも海水からも遠ざけないとダメだっ!』
『そうね紅蓮くん、そうだわっ! 地元のリュフミュラン軍に聞いてみましょう。こんな時間ですが魔戦車でもSRVでも何方か起きてるリュフミュ兵士はいませんか!?』
フルエレはいきなりダメ元で聞いた。
『うんさっきから聞いてるわよっ! フルエレ、お兄様……』
『砂緒さまご無事ですか!?』
『はやっ!!』
いきなり猫呼と七華王女が出て来てセレネはコケた。彼女らは移動中の魔戦車に首を突っ込んで通信兵から魔法通信機を借りて話した。
『猫呼か……』
命を懸けた父大猫乃主の事や目の前の加耶の事それに消えた長兄猫名など色々な事が沢山あり過ぎて、兄猫弐矢は複雑な想いで妹の声を聞いたが、それ以上は何も言えなかった。
『おお猫呼に七華ではないですかっ』
『砂緒っ』
『砂緒さま、御事情をお話し下さいな』
問い掛ける七華に全員で口々に事情を話した。
『それならうってつけの場所がありますわっ! リュフミュランのフルエレが北部海峡列国同盟女王の式典を開いた島のさらに北の沖合に、沖ノ神殿乃小島がありますの。あそこは普段から禁足地で誰もおりませんし、怪物を隔離するにはうって付けですわっ!』
(怪物って……加耶ちゃんが居るのに)
猫弐矢は渋い顔で口をつぐんだ。
『有難う七華っまたきっと会いましょう!!』
『ええ、砂緒様お待ちしておりますわ……』
『七華……』
何故か最近の砂緒は七華と話す時は真顔モードになって、セレネはじとっとした目で睨んだ。
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