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Ⅵ 女王

コンタクト

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『セレネさん頭部通過っ!!』

 マイペース過ぎる砂緒が早口で叫ぶ程の本当にほんの一瞬の出来事である。
 シュバアアアアアアアアアアアッッ
 さらに鳥型の蛇輪へびりんが真っ逆さまの状態で超超巨大ヌッ様の首を一気に通り過ぎる。

『高度略、覚悟しろ!! 3・2・1ホイッ!!』
『え?』

 バシュウッッ!!
 バシッ!
 セレネが叫んだ直後にハッチが開き、セレネの細く美しい脚で蹴られた砂緒が一瞬で放り出される。
 バリバリシャキーーーン!!
 直後、というかほぼ同時にオートマチックくらいに正確な動きで、ノールック片手でセレネがハッチ代わりの氷魔法を操縦席の入り口に掛け見事に成功した。しかしセレネの視線は砂緒を掴む為に魔法モニターを凝視したままである。
 バキッッガンゴンバーーン!
 やはりすさまじい空気抵抗で下の操縦席のハッチも飛んで行き騒音を立てながら消えて行く。
 シュバッッ!!
 しかし雑音に集中力が邪魔される事無く、ほぼそれと同時に空中に放り出されていた砂緒を鳥形の脚で器用にキャッチした。もちろんこれらの一連の動きは全てプロ野球選手がホームランを打つ瞬間とかボクシング選手がパンチを避ける瞬間とか、そんなレベルの速さでは無くもっともっと一瞬の出来事である。そして高度8000Nを過ぎた……

「ふぶぶぶぶざざずずああああざふぶぶぶどどぬ」
(ふふふふふ、さすが私のセレネさんですね)

 蛇輪の大きな鳥の脚に掴まれながら、砂緒は全身を硬化させ徐々に重量を増加させて行く。

『全速力!! はぁああああああああああああああああああああ!!!』

 砂緒のキャッチに成功したセレネはフルエレに決して負けじと力の限り魔力を放出しスピードを全開にした。
 シャアアアアアアアア……キラキラキラ……
 ゴォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーー
 その瞬間、蛇輪の翼から黄金の粒子が放出され、眼下に見える千岐大蛇ちまたのかがち目掛けて一直線に降下して行く。その間近では幻想の超超巨大ヌッ様の身体が新幹線のホームなんて比べ物にならない速さで通り過ぎていく。 

「くおおおおおおおーーーーーんん!?」

 遂に千岐大蛇が落ち行く蛇輪の動きを察知し、多くの頭を上空に向けた。
 ヒュンッッカッッ!!
 不可思議な表現し辛い音を発し、複数の真っ赤な瞳が蛇輪に向けて怪光線を照射する。
 キュウイイイイイイインンン!!!
 しかしほぼ同時レベルの速さで兎幸うさこの魔ローンの盾が怪光線と蛇輪の直線上に立ちはだかり、蛇輪と同じ速さで降下しながら赤い光線を跳ね返していく。
 シュバアアアアッッッ!! ドドドーーーーーーーン!!!
 仕方なくランダムに跳ね返される赤い光線が、地上のあちこちに命中して大爆発を起こす……

(おやおや……)

 砂緒は鳥形の脚の間から地上の大爆発を他人事の様に眺めた。

『セレネッ、魔ローンで見えないけどごめんねっ兎幸ちゃんを信じて落ちて!!』
『信じて~~~』

 メランの言葉通り、魔法モニター上進行方向には兎幸の魔ローンで一杯になって視界が隠されてしまった。

『メランさんと兎幸先輩を信じる!!』
『うい』
『うそ、涙出そう!』
『みんなありがとうがんばって!!』

 もはや実体のヌッ様から祈るだけの状態になったフルエレが、走り出したい気持ちを抑え両手を合わせた。
  シュバアアアアアアアアアアアアアッッ!!!
  魔法デジタルな高度計がピピピと、高度千メートルつまり全高約700メートル程の千岐大蛇直上に迫った……
 パリパリパリ……
 砂緒は最大限の重量増加を果たし、おまけに帯電を始めた。ヒットの瞬間に内部から雷をお見舞いしてやるつもりである。

(セレネさん……)
『うおおおおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 シュリンッッ!!
 千岐大蛇の無数の頭の直上で魔ローンの盾は散会した。セレネの視界に突然異様な無数の頭がうじゃうじゃとうねる姿が目に入る。しかしそれは彼女のイメージトレーニング通りであった。
 ヒュンッッッ!!!
 激突寸前、セレネの操縦する蛇輪は冷静に正確に、千岐大蛇の巨大な身体の中心部目掛けて寸分狂う事無く砂緒を投げ付けた。砂緒は姿が消える程の速さで飛び出して行く。

(急上昇っっ!!)
 
 グオンッ!!
 蛇輪の鳥形の機首が上を向いた瞬間と同時に最大限硬化した砂緒が千岐大蛇に激突した……

 カッッッ!!!
 ドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンン!!!!!!
 急上昇する蛇輪を持ち上げる程の閃光と大爆発が一気に辺りを包み込んだ……

『きゃああああああああああああ!?』
『命中したの!?』
『閃光と爆発で見えません!!』
『砂緒くん!!』

 一番間近に立つ実体のヌッ様内も真っ白い閃光に包まれて爆発に巻き込まれた。


 ドォーーーーーーーーーーーーーーーン
 一方セブンリーフ組の海の見える神殿に向けて移動中の人々は、背中から突然腹に響く地鳴りの様な音が鳴り響き振り向くと、巨大な爆発の光が見えて夜空全体を赤く染めていて腰を抜かす兵士も多数いた。

「きっと砂緒とセレネがやったんだわ……」
「あああ、砂緒さまご無事なのかしら……」
「お前は最近心配ばかりだな、砂緒なら大丈夫だろうさ」

 馬に乗りながらイェラが抱き合う七華しちか猫呼ねここを見ながら呟いた。

「何にしてもあんな化け物がセブンリーフに上陸して欲しくないぜ」

 シャルも砂緒の事は一切心配していないが、雪乃フルエレ女王に思いを馳せた。



 ―不思議な空間。

「おや~~~~~確か私千岐大蛇にぶち当たったハズですが? 此処は何処いずこ??」

 セレネに投げ付けられて、確かに化け物の身体にぶち当たったばかりの砂緒は、何故か次の瞬間には謎のふわふわしたピンク色に包まれた空間に居た。

「………………」
「う、う~~~~む?? ヤレヤレまた死んだのでしょうかねえ、しかしいつものアレとは雰囲気が違う気が」

 確かに砂緒は数度死んでしまった直後に、謎の宇宙空間的な場所を漂い女神に会ったりして生還するという事を繰り返しているが、これはちょっと何かが違っていた。

「…………来ないで」

 最初爆発の衝撃による耳鳴りか何かと思い気にしていなかったが、ハッキリと何かが聞こえだして砂緒は耳を澄ませた。

「確実に若い女性の声……女神ですかね? 等と解説的な独り言を言いながら行ってみましょうヒヒ」

 他にする事も無いので、砂緒は若い女性の声のする方を野生の勘を頼りに進む事とした。


「来ないで!!」

 どれ程の距離を歩いただろうか? 謎のピンク空間を進むごとに若い女性の声は大きくなって来る。砂緒は自身の若い女性を目指す鋭い野生の勘を誇りに思った。

「むふふふ、若い女性若い女性……」
「来ないでと言っているのにっ! しくしく……」

 砂緒は拒絶する言葉を全く無視してズンズン進み続けると、突然雲が晴れた様に空間が広がり、目指す中心に全裸の若い女性が立っているのが見えた。ぎょっとして自分自身を見ると自らも全裸だった。

「ヤベッ……何でしょうかコレ」
「……砂緒さん?」
「およ、貴方加耶殿ですかな??」

 さらに接近すると、若い女性は行方不明の加耶クリソベリルであった……

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