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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑬ 真・国引きⅢ 結合
しおりを挟む「……凄い、いつのまにかもう千岐大蛇が目前にまで迫っている……」
夜空にぽうっと青白く浮かぶ異様な姿を見上げながらライラが呟いた。千岐大蛇は伝説料理どじょう鍋の様に多数の頭を突っ込み大型船をほぼ喰いつくし、今やト〇とジェ〇ーのチーズの如き穴ぼこだらけの残りかすにしてしまっていた。この大型船が消滅した時、再び千岐大蛇は攻撃相手を求め西に向かう為に夜空に飛び立つかも知れない……ぼうっとライラはそんな事を考えて見ていた。
「パパ……お願い……」
フーテンの兄猫名を見送った猫呼も、先程まで千岐大蛇と戦ってくれていた父の面影を想って逃げる気も無く茫然と見ていた。
ステッ
と、そこにタイミングを見計らったかの様に、両手を広げふわりとスカートを広げ兎幸が砂浜に降り立った。
「鎌の人、ちょっと猫呼お借りしますよー?」
「は?」
「あら兎幸ちゃん……」
と、猫呼が小声で言った直後に兎幸はいきなり個人用未確認飛行物体のマジックハンドで猫呼の腰をむんずと掴むと、いきなり自らも一緒にぶっ飛んで行った。
「きゃあああーーーーーーーー!?」
「わーーーーー猫呼さま何処へ!?」
本官さんの乱射の如く、鎌を振り回しながらわめくライラが一気に小さくなって見えなくった。
兎幸UFOは急上昇すると瞬間移動レベルの速さで千岐大蛇を飛び越えて接岸間近のセブンリーフ島、最東の砂浜にまでやって来た。そこには雪乃フルエレ女王の即位式リハーサルに集まり、そこから避難せずに騒動を見に来たフルエレファンの王族達がお気楽にたむろしていた……
「死ぬわーーーっ! 兎幸ちゃん降ろしてっっ!!」
「ういーー」
兎幸は一言返事をすると、猫名の時に比べてだいぶ優し目に猫呼をぼとっと投下した。
「いってーー! いてててて……滅茶苦茶じゃない何よ」
猫呼は猫の様に目を細くして可愛いスカートのお尻を撫でた。
「あら店長、貴方猫の子さんじゃなくって、フルエレに連れてかれて何処に行ってらしたのよ」
「あっ七華」
手を引っ張り彼女を起こし両手を合わせると、二人は身長差がありながらも喜んで飛び跳ねながら一回転した。しかし、直後に猫呼は七華の大き目の胸に顔を埋めて少し泣いた。
「あらあらあら、どうしちゃったんですのよ……可愛いわねえ」
しばらく胸に猫ミミの頭をぐりぐりなすり付けて泣いていたが、すぐに復活してガバッと顔を上げた。
「……パパが……でもこうしちゃ居られないわっ七華、みんなの所に連れて行って!」
「ええ、まあ行ってみましょうかしら? さっリコシェ一緒に」
「はい!」
走って行く猫呼と七華五華を遠巻きに瑠璃ィキャナリーも見ていた。
「王子今なんか猫耳っ子が走って行ったで……」
(猫呼クラウディアや……)
「ウエ? マジか~? なんか恥ずかしいなあ」
「王子にもそんな気恥しいとか人間的な感情があるんですねえ……」
瑠璃ィは心の中で征服相手であったクラウディア王国の騒動に思いを馳せながら王子を見た。
「足元に気を付けてっ!」
猫呼は有未レナードや衣図ライグ、大アリリァ乃シャル王や同盟軍達が集まる最東の砂浜に到着した。
「あー猫呼じゃねーか、ようやく帰って来たんかよ」
いつも通りシャルが両腕を頭の後ろ手に組んで出迎えた。
「様を付けなさい。それよか皆さんに伝えなきゃならない事があるのよ、こっからも見えてるあの巨大なうにょうにゅにょしてる奴は、千岐大蛇というもう船を食べて全高700Nメートルくらいある化け物で、ケチな攻撃をしても復活しちゃう厄介な奴なのよ」
猫呼は何度も振り返りつつ、本当に急ぎながら早口で言った。しかし父大猫乃主の事は伏せて今はセブンリーフの女王影武者の役に徹した。
「ヤベー奴だな」
「そんな物がどんどん近付いて来てるって怖過ぎでしょう」
シャルと大アリリァ乃シャル王が続けて言ってややこしい。
「でね、仕組みは上手く言えないけど、クラウディア王国の伝説の超巨大魔ローダー・ヌの神スキル国引きという魔法で、陸地で挟んで最終的にあの千岐大蛇自体も陸地と見なして一緒に縫う様に結び付けて固定するのよ」
「? ほほう、それがあの脚だけ見えてるドデカい奴ですか??」
コーディエが半信半疑で上を見上げる。
「一気に訳が分からなくなったじゃねーか」
「いいからもう離してくれよ……」
レナードの首根っこを押さえたままの衣図ライグが首を傾げた。周囲の同盟軍も女王と砂緒以外に言う事を聞かない衣図ライグに恐れをなして手を出せなかった。
「我慢しろ、お前のせいで多くのリュフミュラン人が死んだ」
「今さら?? いや俺じゃ無くて旧ニナルティナ王の責任だろ!?」
イェラが冷たい目をした。
「とにかく! 要はここの砂浜にぴたっと東の地がくっついてしまって、あのバケモノを挟み込むの。つまり目の前にあの巨大なドラゴンが来ちゃうから危ないのよっっ」
猫呼はいまいち危機感の薄い連中を前に地団駄踏んで叫んだ。
「いやいや東の地がくっついちゃったら駄目じゃねーか、そんなの神聖連邦帝国の陰謀だろーがよ」
衣図ライグに掴まれたままのレナードが冷や汗を掻いた。
「緊急時だから仕方ないのよ……千岐大蛇がセブンリーフに来たらえらい事だわ」
「つまり、我々もSRV部隊で攻撃に参加せよという事ですね! 猫呼さま……」
イライザの兄ニィルが笑顔で言った。
「アンタ話し聞いてた?? 攻撃しても無駄なのよっバカッ! だから固定した直後に天空からセレネと砂緒が蛇輪で爆撃してトドメを刺すのよ、だから皆は此処から避難するのよ~~」
「エ~~」
猫呼に怒鳴り付けられて半泣きになるニィルだった。
「そ、そんな砂緒さま大丈夫ですの!?」
七華五華は途端に心配顔になった。
「……そんなただ避難するだけなんて嫌だぜ」
「んだんだ」
「そうだそうだ!!」
衣図ライグ以下、人々は熱い眼差しで訴えた。
「皆……」
猫呼は最後まで皆の為に戦った、父大猫乃主の姿と重なり一瞬うるっと来た。
「避難するにしても、ギリギリ終局が見える場所じゃないと嫌だっ!」
「そーだそーだ!」
「最後まで成り行きを観たいよ~~~」
皆の真意を聞いて、猫呼はコケた。
「まあ、そんなトコですわねえ」
「お姉さま」
「はぁ~~~でもなんか私、七華の顔見た途端にホッとしたわ。なんか癒される、砂緒がアンタの事好きなのも頷けるわよ……」
「あ、あら、そうですの?」
猫呼のぼそっと言った一言に七華は軽く赤面して顔を背けた。リコシェ五華は笑顔でそんな姉の顔を見た。
『後もう少し!!!』
『やり切ります!!』
『でやあああああああ!!!』
ヌッ様の魔法モニターからも、もはや両陸地は千岐大蛇を挟んで接岸間近であった。しかしその当の千岐大蛇はほぼ大型船を食べ切り、両陸地の接近という異常事態を察知して再び巨大な翼を展開して、夜空に逃げ出そうとしていた……
バシャッガリガリガリ……バキバキメキメキ……
「くぉおおおおおおーーーーーーんんん!!」
が、その時海の底に沈み込んでいたル・ツー漆黒ノ天の消えていた瞳がビカッと光った。
「逃さんぞ!! 我が本当の最後の力を受け止めよっ!!」
それまで気を失っていた大猫乃主が本当に最後の力を振り絞って再び立ち上がった。もはや百歳を越える猫乃に取っては行動の一つ一つが命の火の最後の灯であった。
バシュウウッ!!
そして消えていた黒い光がル・ツー漆黒ノ天の装甲の隙間、全身から吹き出す。
「くおおおーーーん??」
「はぁああああああああああっっ!!」
ドシュウッベキッドカッ!!
一気に浮上して千岐大蛇の腹の底に蹴りを食らわせて注目を惹き付けると、再び誘引状態にして驚いて水中に突っ込まれた複数の頭と最後の格闘を始めた。
「見ろっ! なんだか化け物がまた急にあらぬ方向の海面に首を突っ込みだしたぞっ」
「何事なんだ!?」
「王族方はお早く非難を」
兵士達は海上で展開される異様な出来事を凝視しながら片手間に避難誘導している。
ズズーーン!! ドドーーン!!
再び上がる激しい水柱。
「パパッ! お父様がっ!!」
「え、猫の子さんのお父上……?」
しかし七華はそれ以上は深入りせずに猫呼の肩を抱いて見守った。
『これで最後よぉおおおおおおおおお!! たああああああああああああああああ!!!』
(大猫乃主さま……ごめんなさい)
『でりゃあああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
『でやああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
ズシャーーーーーーーンッッッ!!! ドドドドドーーーーーーーーーンッッ!!
雪乃フルエレ女王とフゥーと美柑が叫んだ。その時ヌッ様の真・神魔ローダースキル国引きが、大音響を上げ軽い波しぶきを上げ、遂にセブンリーフと東の地の両陸地によって千岐大蛇を挟み込んだ……さらに三角島は最東の砂浜に合体してしまっていた……
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