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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑫ 真・国引きⅡ 兄妹再会Ⅲ
しおりを挟む―再び東の地(中心の洲)に戻る。
『凄いよ! 目測で観測してるだけだけど、中心の洲あ、東の地とセブンリーフ島が微妙にぐんぐんと近付いているよ!』
最大限上昇した白鳥號から紅蓮アルフォードが見る限りにおいて、本当に両側の陸地は近付きつつあった。そしてその中心では千岐大蛇が大型船の残骸に頭を突っ込み続けている。
『ありがとう紅蓮くん! このまま力の限り国引きを頑張りましょう!!』
(微妙になのね……急がなくっちゃっ)
『ハイ!』
『……』
とフゥーに向かって力強く言った雪乃フルエレ女王だが、実は全ての住民が住む島々を全て一か所に引き寄せるという、とてつもなく巨大な神魔ローダースキルの強烈な魔力負担に体が悲鳴を上げていた。
(うっ……キツイ……初めてだわ、こんな魔力の放出に負担が掛かるって……月に行った時もセレネを生き返らせた時も、ただ疲れて眠ってしまっただけで特にしんどくは無かったけど、今回は凄くきつい。皆が魔呂とか動かしてしんどいしんどい言ってたのってこれの事だったのね……)
フルエレは初めて感じる魔力負担に戸惑いつつも、はたっと思い出す事があった。かつて兎幸と一緒に崩壊する旧ニナルティナ王国領土引き渡しに向かい、突如出現した黒猫仮面が操るル・ツーとの初対戦の時に、家出中とは言え元はお姫様育ちのフルエレは手に入れたばかりの魔ローダー蛇輪の尖った爪で突きを繰り返すだけで、反作用で起こった激しい手の痛みに泣き言を言い続けたという、凄く恥ずかしいと自分でも反省する消したい過去があった。その事を想い出した彼女は今回はその轍は踏むまいと固く誓った。
『フルエレ様、お辛いですか? 私はヌッ様を操作するだけで、魔力負担はほぼ全てフルエレ様頼りになってしまって……女王に先程から冷や汗が、申し訳ありません』
フゥーがそんな彼女の表情の変化に気付いて申し訳無さそうに聞いて来た。フルエレは少し対立したりした事もあるそんな彼女の気遣いが嬉しかった。
『大丈夫よっ! こんな程度お茶の子ナントカだわ! ほら猫弐矢さん、ぼーっとして無いで貴方も手伝って頂戴!!』
前半優しかったフルエレの口調が、後半急にきつくなって突如頼りない猫弐矢を呼んだ。それを見たフゥーはフルエレですら猫の手も借りたい程に、この神スキル国引きがしんどいのだなと理解した。
「わ、分かったよ、ちゃんと僕も操縦桿を握るよ!」
等と言いつつ、フゥーの座席後ろから若い娘達にセクハラにならない様に慎重に手を伸ばした。フゥー一人だと割と気を遣わないのだが、女王フルエレと謎のパピヨン仮面少女美柑が居るために少し外面になっていた。
(あの……お姉さま、私の事忘れてるでしょ……?)
美柑は一人パピヨンマスクの下で目を細めた。
その三人娘と猫弐矢が乗る全高300Nメートルの実体のヌッ様の脚元の、踏まれない様に少し離れた砂浜にライラに守られた猫呼が立ち尽くしていた。
「パパ……」
猫呼から見ても、父大猫乃主が操るル・ツー漆黒ノ天が消えた辺りの、夜の海にそそり立ち激突して黒い煙を上げる大型船に喰いつく千岐大蛇の姿が近付いて来ている様に見えた。
「不思議ですね、陸地が動いて西に遠ざかっていたあの憎き千岐大蛇を呼び戻して来るなんて」
「……そうね」
ライラが発した全く気の利いていない会話に、彼女は心無く返事した。
『お、猫呼発見したよ! この男の子投下、えいっ!!』
大昔かつて一緒に冒険をしたクラウディア王大猫乃主と別れ、他人には計り知れない悲しみを感じていながらも、いつも通りのポーカーフェイスで当ても無く空中を漂っていた個人用未確認飛行物体に乗る兎幸は、マジックハンドで掴んだまま持て余していた気絶している猫名をぽいっと猫呼の近くに投下した。
ドシャッ!!
突然猫呼の近く砂浜に落ちてくる若い男。
「キャッ!? 何、誰なの!?」
「何事だっ!?」
ヌッ様の光や魔戦車の魔法ライトの灯りやらの中でよく見ると、それは彼女の消えた兄猫名であった……
「……え、お兄様? どうして此処に……」
ライラはささっと猫呼を腕で庇った。
「猫呼さま、お下がりを」
「いいのよ」
そこそこの高さから落とされていながら、猫名はうめきながら起き上がろうとする。
「う、ぐうう……うう、猫呼? ……猫呼かっ??」
死線を掻い潜った元メドース・リガリァのれっきとした剣士の猫名は、気絶から復活してバッと即座に立ち上がり周囲の状況に警戒しつつ言った。
「お兄様……折角またこうして再会出来たのに、もう全然嬉しくない。パパが父王が行ってしまった」
妹猫呼の言葉にも猫名は一切動揺せずに砂をぱんぱんと払った。
「もうヤツの事は諦めろ。奴は神聖連邦帝国に敗北した挙句に、海の底に消えてしまった」
「どうしてそんな事知ってるの? 今まで何をしていたの?」
一瞬猫名は振り返って千岐大蛇を見返したが、すぐに前を向いて言った。
「それは言えん。しかしもう過去にばかり振り返るな。お前はもう立派な娘だ、自分の幸せを掴め!」
兄猫名の的外れな言葉に猫呼はついカッとなった。
「過去にばかり振り返っているのは兄さんじゃない! 兄さんが心を入れ替えて直ぐに戻って来てくれていたら……アルベルトさんも死ななかったかも知れないし、パパも此処にいたかも知れない。そうよ、全てはもう元には戻らないわ」
しかし猫呼の言葉に今度はライラが反応した。カシャッと背中の仕込み鎌を展開させる。
「……もしや猫呼さま、この男は為嘉アルベルト様を魔ローダーで惨殺した下手人で御座いましょうか?」
言いながら主人猫呼を押しのけて走りながら鎌を振り上げた。
カキーーーーーンッ!!
振り上げられた鎌は猫名の剣で受け止められる。
「その通りだっ! 今私はまおう軍三魔将スピネルだっ! 覚えておいてもらおう!!」
カキィン!!
受け止めた剣で鎌を薙ぎ払うと、今度は猫名がライラに切り掛かろうとして、逆にライラの鎌に受け止められる。
ギリギリギリ……
睨み合う二人の剣と鎌は火花を散らしてせめぎ合った。
「まおう軍だと!? 貴様は滅亡したメドース・リガリァ軍ではないかっ!」
「フフいつの話だ」
実力者二人の一瞬の戦いに、ようやく猫呼は我に返った。
「やめなさいライラッ! お兄様も止めて頂戴、お父様が行方不明になった時になんて事してるの??」
「そんな事関係あるものかっ!」
「そうです! フルエレ女王の仇を……お許し下さい」
猫呼の叫びにも二人は戦いを止めようとはしない。
キィーーン、カキィイーーンッ
ライラがブンブンと鎌を振り回し、スピネルと名乗った猫名がひょいひょいと避けて行く。
「面白い、黒猫仮面時代を思い出しそうだっ!」
パァーーーーーーンッ!!!
突然猫名の掌が光った。威力は低い目くらましの攻撃魔法だった。だがただの剣士だと思い込んでいた相手が突然魔法を使ってライラは意表を突かれ一瞬目を閉じた。
「チッ、眩しい!?」
カキィイイーーーン
直後に猫名の剣がライラの鎌を絡めて弾き飛ばし、さらに素早くライラの喉元に切っ先を突き立てた。血が出ないギリギリでライラの柔肌に触れる刃物の剣先。
「どうするかね?」
「くっ」
ライラは刀身を凝視しながら冷や汗を流し、敗北と実力差を感じていた。
「そこまでよ、ライラ引き下がりなさい。お兄様は若い女性の命まで奪うお方じゃないわ」
「いや、このままあっさり刺し殺すかもしれんぞ」
「嘘よ、なら言うより先にやってるハズよ」
猫呼の言葉通り、最初から可愛い妹の従者を殺害する気など毛頭無かった。しばし猫名は考える素振りをすると剣を収めて踵を返した。直後に猫呼はライラを片手で制止する。
「ハハハハハ、また会おう、お互い生きていればな。強く生きろ猫呼!」
兄は笑いながら夜の砂浜の向こうに消えて行った。この周囲には大型船を降りた神聖連邦帝国軍兵士がひしめき合っているハズだが、兄なら大丈夫だろうと思った。
「……フルエレの大切なアルベルトさんを殺したお兄様、私とフルエレがこれからも親友でいる為に、お兄様を紹介する事は出来ないの……でも生きていて」
跪くライラに口封じの為に言っているのか、独り言なのか、猫呼はポツリと呟いた。
そしてもう丁度その頃、その雪乃フルエレ女王の奮闘により、遂にセブンリーフ島と東の地と三角島は千岐大蛇を挟み込む寸前まで来ていた……
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