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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑦ 真の主様……Ⅰ
しおりを挟むビシッドシュウッ!!
いろいろな事が大型船と宇宙の蛇輪の中で起こっている間も、黙々とル・ツー漆黒ノ天を操る大猫乃主は千岐大蛇の首達と水中で戦っていた。
「ごほっごほっぐっ……さすがに疲れが……」
しかしこれまで表舞台から姿を消し引退していた、百歳を越える高齢の猫乃が無理をして戦い続けて来た為に、もはや疲れを隠しきれなくなって来ていた。
「くおおおおーーーーーんん!!」
そんなル・ツーの動きの鈍りを感じ取ったのか、カガチがひと鳴きするとバーンと首の腹でル・ツーに殴りにかかった。それまで単純に噛んで来るという攻撃であった物が突然の変化に対応し切れず、避け切れなかったル・ツーの背中に長い首が強打して、水中にぶくぶくと沈んで行った。
「ぐはーーーっ」
しかしすぐさま正気を取り戻しファイティングポーズを取ったが、背中のクロアゲハの羽も装甲の隙間から漏れる黒い魔法の光も途切れゞになって来た。
「くおーーーーん!!」
チャンスとばかりに次々に攻撃を繰り出すカガチ。水中に多数の首が突っ込まれ、光の届かない夜の海が赤い瞳の頭達で逃げ場の無い程の過密状態となった。
「ふぅふぅ……くそ、歳には勝てぬか……情けない」
ル・ツーの猫乃は意識していなくとも、徐々に反撃のペースが緩み沈みがちになって来ていた。それがさらに敵の同時攻撃で深く海に沈み込んで逃げていく。しかし大猫乃主は最初から命を捨てる覚悟であったから、ヌッ様のフゥーにも雪乃フルエレ女王にも誰にも文句一つ言わず、不服も何も全く微塵も感じていなかった。
「はぁあああただ目の前の敵を倒すのみっ! はぁはぁ」
『やばっカガチの前に立ってた水柱が少なくなって来た……黒い稲妻Ⅱはもう……』
トリガーハッピーになって好きに撃ちまくっていたメランもル・ツーの異常に気付き始めた。
「ネコノ……大丈夫なのかな!?」
ひたすら心配する兎幸を見て、メランはブリッジに振り返った。
ズシャ!
紅蓮アルフォードの白鳥號が着地し、間髪入れず目の前の人が沢山乗った最後の一両の魔戦車を持ち上げた。
「ラストです!」
砲塔上に乗った兵士が大きく手を振った。
『シューネ、恐らくこれで乗員は最後だ! じゃあ行くよ』
そう手短に言うと、再び魔法の羽を展開して東の地(中心の洲)西端の都市アナの砂浜に飛んで行った。
「よし、本艦はこれよりチマタノカガチに特攻を行う。全蓄念池解放、全速航行!」
メランと兎幸以外、誰も居なくなった全長248Nメートルの巨艦のブリッジで、貴城乃シューネは律儀にいちいち指差し点検しながら魔法パネルを操作した。これ程の巨大な艦ともなると魔導士が直接的に魔力で動かすのは非現実的で、膨大な数の蓄念池が搭載され、それを複数搭載された魔ローダー用の魔ァンプリファイヤが増幅しスクリューを回転させていた。巨大な蓄念池と複数の魔ァンプリファイヤはそれ自体がカガチに対するエサともなり、爆薬ともなった。
『ちょ、ちょっとこの船本当に突っ込むつもりなのね!? いいわよ、ギリギリのギリまで撃ち続けてやるわよ』
ドンドンドン!!!
火の玉が一直線に飛んで行く。メランは猫乃とル・ツーを心配しつつも自棄になって魔砲ライフルを撃ち続けた。
『フゥーよ、聞いているか?』
その時、揉めている最中のヌッ様操縦席内にシューネの声が届いた。
『だから早くしなさい!』
『シューネさま!? は、は、はい!』
フルエレは黙りフゥーは慌てて返事した。
『よく聞いてくれ、厳しい様だがル・ツーはこれ以上はもう持たないだろう。よってこのまま艦をカガチにぶつける事とした。ヌッ様と若君には状況を逐一観測し、宇宙の蛇輪に攻撃の要請を行って欲しい』
『シューネ、君は本気なのか??』
猫弐矢は友人となり掛けていたシューネの言葉が信じられなかった。
『安心しろ、若君の手助けで全乗員は退艦完了した』
『そんな!? シューネ様は、シューネ様はどうなるのですか!?』
フゥーは愕然としながら聞いたが、内に隠された怒りを示す様にシューネの返事はそっけない物だった。
『さらばだフゥー。それでは雪乃フルエレ女王に替わって頂きたい』
『え』
その一言だけ? と、フゥーは我が耳を疑った。たがそれ以上聞き返す勇気も出ない。
『何かしら?』
『セブンリーフの女王陛下よ、先日は選定会議の会場を破壊し選挙を妨害した事を詫びよう。賠償金として支払うつもりであったクラウディア王国の金塊は、恐らく全てカガチに吸われてしまったのだろう。もはや賠償金を支払う事も出来まい。よって、我が命で換えさせてもらおう、それに此処まで来てカガチと戦って下さった事にも礼を言おう。ではさらばだ』
プチッ
言いたい事だけ言ってシューネは一方的に魔法通信を切った。
『何なのよソレ!!』
『シューネッ!』
『シューネさま……』
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『そうよ、メランよ! メラン聞いてるでしょ!?』
『うんさっきから全部聞きまくってるよ。船は確実にぐんぐんカガチに向かってるわ』
シューネにも神聖連邦帝国にもドライなメランがそっけ無く答えた。
『ちょっと! 貴方はどうする気なのよっ兎幸は??』
『安心して、兎幸ちゃんにギリギリで救ってもらう約束だからさ』
『うん、メランは確実にUFOで連れ去るから安心してフルエレ』
兎幸自身も横から割って入った。
『もういいから今脱出しなさいよ!』
『うん無理、私の黒い稲妻Ⅱの最後の瞬間ギリギリまで見守りたいのよ』
『そんな……』
それがメランの本心であった。
「アンタがグズグズしてるせいで皆大変な事になったじゃない……」
美柑がまたボソッと言った。
「申し訳ありません……」
そんな美柑の突っ込みにも力なく謝るだけのフゥーだったが、突然そのフゥーの胸ぐらをフルエレが掴んだ。
「ちょっと、何やってるの貴方!! 貴方が好きなシューネさんが大変な事になるのよ!? 早くもう一度、海水に浸かって両腕を復活させて国引きを実行しなさい!!」
フルエレの言葉にもフゥーはダランと、うな垂れるだけで返事が無い。
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この異世界にも語源は不明だが、偶然スパルタ教育のスパルタという言葉があった様だ。
「無理です……」
「いいわよ、嫌でも無理やりやらせるわっ!! セブンリーフの人々の命も懸かっているのよ」
言いながらフルエレはフゥーの手を取り、無理やり操縦桿を握らせた。
(そうだわ、お姉さまの言う通り、このまま本当に海と山と国の宝物殿まで来ちゃうの!?)
美柑も他人事では無い事をようやく思い出した。
「何で貴方はそこまでやらせるんですか? やっぱり女王で聖女様だからですか?」
フゥーは無気力に握らされたまま、ぼそっと聞いた。彼女はフルエレが海と山とに挟まれた小さき王国の夜宵姫だとは知らない……
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「でも、みんなが貴方を女王と言っていますし、それっぽい行動もしていますし」
何故かこんな時でもフルエレに反発心を抱くフゥーだった。
「……見た目だけよ。自分で言うのも変だけど、聖女っぽい見た目だから……」
(お姉さま自分で言うんだ……)
無言のフゥーに、フルエレはそのまま続けた。
「女王とか聖女とかって、こんな時にこんな事を言うのかなあとか、こんな行動するのかなあ? とか想定しながら言ってるだけよ! 本心の場合もあるし違う事もあるのよ。だけど皆そんな物なのよきっと。だから今は私の本心を言うわ、今貴方に物凄く腹が立って殴り掛かりたい気持ちなの、早く貴方の好きなシューネさんを救う為に力を出しなさい!」
フルエレは本当に殴り掛かる勢いでもう一度胸ぐらを掴んだ。
(怖……)
美柑は眉間にシワを寄せた。
「……確かに同じです。私もシャクシュカ隊の新入りならこんな感じかなとか、奴隷ならこんな感じかなとか考えていました……でも貴方の様に今本心を言えばシューネ様を救いたい……殺したくない」
フゥーの目からぽたぽた涙が落ちていた。
「フゥーくん」
「はぁ~~じゃあ私も力を貸すわよっ!」
と言ってフルエレの反対側から美柑もフゥーに寄り添って三人で再び操縦桿を握った。
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