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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑤ 大型船特攻……
しおりを挟む『この全長248Nメートル、基準排水量1万9550Nトンの大型船を千岐大蛇にぶつける。よって艦長以下全乗り組み員、総員退艦を命じる』
貴城乃シューネは驚く艦長達を無視して一方的に全艦内に放送して宣言した。
ジリジリジリジリジリ……
けたたましく警報が鳴り続けている。
「ちょ、ちょっと待って頂きたいシューネ殿、一体何のおつもりですか!? 御一人でこの巨艦を操艦されるおつもりか?」
「そ、そうです少し落ち着いて下さい」
艦長と有能メイドさんが再びシューネを押し留めた。
「いや二人も見たであろう、ヌッ様の調子がおかしい。というか腕が飛んで行った、もはやヌッ様だけをアテにはしていられない。厳しい様だがル・ツーもいつまで持つか分からない。幸いセレネ砂緒の蛇輪は無事宇宙に到達した。この巨大な船をぶつけ船体自体を撒き餌とし時間を稼ぎ、さらにその爆発と爆炎を蛇輪の目印として衛星爆撃を強行する。それしかカガチのセブンリーフ上陸を防ぐ手立てはもう無い。生憎この艦は魔法オートメーション化が進み、一人でも操艦は可能だ。乗員も少ないから総員退艦も確実に実行出来る。だから艦長と有能メイドくんも速やかに退艦してもらいたい」
ヒュンカカッ!!
バシーーーンッ!
シューネが話した直後、赤い光線がカガチから照射され、ほぼ同時に兎幸の魔ローンの盾が跳ね返す。大型船のブリッジからは、そのおびただしい量の光の粒子が飛び散る様子が眼前で展開され、艦内にいる人々まで真っ赤に染める。
「キャアッ!?」
シューネが、無言で叫び声を上げた有能メイドさんの肩を一瞬守った。
『ブリッジさん大丈夫!? まだまだ撃ちまくるわよ! おりゃあーーー』
巨大な背中を見せるGSX-R25のメランが、振り返る事無く射撃を続けた。
ドンドン、ドンドンドン!!
「それに、この艦もいつ標的にされ沈むかすら分からない。だとしたらもうぶつける方が有益だっ!」
「そんな……これ程の立派な艦をですか?」
少し焦燥した顔の艦長が強硬なシューネに問い掛けた。
「そうだ! もはや総員退艦の命令は下した、後戻りは出来ないぞ、さあ降りたまえ! だが艦長殿安心しろ、全ては貴城乃シューネの独断だ、聖帝陛下からお預かりしたこの艦をこの様な末路とする以上は、私が責任を取って最後まで艦と運命を共にする。艦長は全てシューネの責任だと報告すれば良い!」
艦長はシューネの顔を見たが、もはや逆らえば剣さえ抜きかねない剣幕だった。
「……分かりました。シューネ殿の御武運を祈ります! では私は部下達の退艦を指揮しなければいけませんので」
艦長は甚だ不満である、という顔付だが正面を向きピッと敬礼すると、残りの士官達を軒並み連れてすぐさまブリッジを後にした。
「有能メイドくん、早くしたまえ」
「わ、私は……此処にいます」
シューネに見いだされ此処まで来た有能メイドは、彼を一人残し退艦する事に躊躇していた。
「何を言っている早くしないか」
「でも……」
有能メイドさんは広大な魔ローダー甲板を見た。
その魔ローダー甲板上、片膝で魔砲ライフルを好きに撃ちまくるメランのGSXのさらにその先で、猫呼が兵士二人に守られながら、遠くに小さく見えるカガチとその周辺に上がる水柱の動きを見つめていた。
「パパ……」
「猫呼さま、退艦命令が出ました! お早く退去をっ!」
兵士の一人が華奢な肩を持つが、猫呼は無視してぼうっと前方を見つめている。
「貴方達だけで行って頂戴、私はここでずっと父を見守っているから」
「そういう訳には参りません!」
「俺たちが罰せられます」
多少困った顔をして猫呼の肩を揺らすが、彼女の決意は固かった。
「海に落ちたとでも言えば良いじゃない……」
「猫呼さま御免っ!」
そこへいきなり風の速さで駆けて来たライラが、がばっと猫呼の小柄な身体を持ち上げると小脇に抱えて走り去った。
「いやーーっやめて離してっ! 酷い、元に戻してっ!! 命令よっ」
猫呼は泣きわめきながら手足を本気でばたつかせたが、ライラは一切無視して彼女を運んだ。
「貴方は闇ギルドのマスターであり雪乃フルエレ女王の影武者、それに私の大切な主人なのです! どんなに憎まれようともお連れします!!」
ライラは紅蓮アルフォード程では無いが、凄まじい俊足で士官用内魔艇に猫呼を連れ込んだ。
「お願い船に戻して!!」
「いいえ、離す事は出来ません。艇長、猫弐矢様に猫呼様を無事確保したとご連絡を!」
「分かりました!」
艇長はすぐさまヌッ様の猫弐矢に連絡を入れた。猫呼はライラの力でガッチリと抑え込まれながら、大粒の涙を流し続け、窓から荒れる海の様子を見続けた。
「パパ……」
―再びブリッジ。
「そうだっ、ヌッ様に連絡します!」
「お、おい」
まだ居座る有能メイドさんは、シューネの言葉を遮りヌッ様の雪乃フルエレに連絡した。
『女王陛下、シューネ様が大型船をカガチにぶつけると仰っているのです! ヌッ様のご様子は如何ですか!?』
越権気味だが、メイドさんは必死であった。
『……ご、ごめんなさい、今少し取り込み中で、後で必ず返答するわね』
プツッ
あてにしていたいつも優しそうな雪乃フルエレ女王の雑な返答に、ヌッ様組の抜き差しならぬ状態が予想された……
「ありがとう、もうそれで充分だ。さ、速やかに退艦してくれ。私を困らせるな!」
事ここに至って、有能メイドさんはシューネの命令に従う事とした。
「……最後に肩を抱いて下さい」
「いいだろう、さあ」
シューネはセクハラにならない範囲で、有能メイドさんを一瞬抱き締めた。
「わぁーーーーー」
そのまま彼女は振り返らずに走って行った。
「シューネ絶対私の事忘れてるでしょ!?」
ブリッジの様子を兎幸の個人用未確認飛行物体で盗み聞きしていたメランは首を振った。
「安心して、メランは私のUFOで救うからさ」
兎幸は海の向こうのル・ツー漆黒ノ天の大猫乃主をひたすら心配しながら言った。
各脱出艇やカッターの周囲ではシューネの突然の退艦命令で、ちょっとしたパニックまで起きていた。その様子を遠巻きに見て、有能メイドさんは脱出するのに二の足を踏んでしまった。
「これじゃ退艦すら出来ないよ……シューネ様の元に戻ろう」
ズシーーーン!!
その直後、甲板に巨大な白鳥號が舞い降りた。
『酷い話だなシューネ! しかしもう後戻りは出来ないよ。よって、あぶれた人は甲板上の魔戦車や作業魔車に乗り込め! 僕が手当たり次第に海上に運ぶから!!』
突然の飛来に一瞬甲板作業員達はあっけに取られたが、直ぐに大慌てで近場の作業魔車に群がった。
「メイドさん、早く!」
一人の作業員が手を伸ばし、有能メイドさんは魔戦車の上に飛び乗った。
「はい!」
『いくよ!! 落ちないでね』
「きゃあっ」
偶然紅蓮の白鳥號は、有能メイドさんが上に乗ったばかりの魔戦車をひょいっと持ち上げ、海岸線に運んだ……
―ヌッ様の操縦席。
両腕を失い自信喪失したフゥーは震えて泣いていた。
「う、ううっ……ううっ」
「ちょっと、見なさい! 大型船が大変な事になったわよ!!」
雪乃フルエレはフゥーの肩を揺らした。
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