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Ⅵ 女王

神話の終わり ④ 総員退艦……

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 ドシュウッ!!
 貴城乃たかぎのシューネの言葉を聞いて、雪乃フルエレに説得され気持ちを切り替えたセレネは、飛行形態の蛇輪へびりんをいち早く天空に昇らせた。

『早よ行かんと間に合わんわ~~~』
『あ、あの私の気持ちの整理は……』
『んなもん知るかよ、今まで通りだろーが』

 などと砂緒のモヤモヤした気持ちは置き去りに、超スピードで一気に駆け上がって行く。


『フゥーちゃん、神スキル国引きよっ!』
『はい…‥』
(勝手に仕切らないで下さい女王陛下)

 表面上は素直に返事をしつつも、実は内心雪乃フルエレ女王を快く思っていないフゥーであった。彼女はヌッ様を動かす様になって、もういきなり少し増長し始めていた。

『フゥーくん、父上の為にも頑張ってくれっ!』
『はいっ! 行きます、神魔ローダースキル、国引きっ!!』

 ビキィイイイイイイッ!!
 国引きだから、ビキィという効果音が鳴り、ヌッ様の巨大な手から太い光の綱が蜘蛛の糸の様に四方八方に伸びた。今回の国引きはセブンリーフ島と東の地(中心の洲)とその西端に位置する三角島を結び、それらを全て引き寄せた上で島とみなした千岐大蛇ちまたのかがちを挟み込み、結び固定化するという壮大かつ膨大な力の必要な作戦であった……

『これらの綱が全部の島々を結んでいるのか!?』
『遠くの方がどうなってるのか全然見えないわね』
『ヌッ様とフゥーちゃんの力を信じましょう』

 猫弐矢ねこにゃ美柑ミカとフルエレは肉眼では到底確認する事が出来ない綱の果てを見つめた。

『凄い……全部が見える訳じゃないけど、遠くの方まで光の綱が伸びているよ……』
『若君本当ですか?』
『ああっ』

 上空から観測する魔ローダー白鳥號はくちょうごうの紅蓮が太鼓判を押した。

『よし、今だっ! フゥーよ綱を引けっ!!』

 シューネが叫んだ。

『はいっ!! 行きますっ国来国来クニコクニコッッオオオオオーーーーーーッッ!!!』

 雪乃フルエレの無限の魔力のサポートもあり、魔力的な負荷を一切感じないフゥーは意気揚々と一気に国引きを開始した……
 ビキィイイイイイイイッッ!!
 ビシイイイイイイイイッッ!!
 が、国引きを開始した途端に、光の綱がびいいいんっとギターの絃の様に震えるばかりで、以前練習で荒涼回廊の一部を引いた様に、するすると簡単にスキルが始まらなかった……

『ぐ、ぐはっ……重い……』
(動かない、全く動かないよ……)

 フゥーが苦悶の表情を浮かべるその時、突然蛇輪から通信が入った。

『よし、セレネ砂緒ウチュウーに着いたぞ!! いつでも攻撃準備OKだからなっ!』
『お前ら早よせえや日ィ暮れんぞ』

 砂緒がセレネの口調を真似して言ったが、今は深夜である。

『早いっ!』

 猫弐矢ねこにゃが叫んでフゥーを見た。

『セレネ砂緒ちょっと待ってね、フゥーちゃんが今頑張っているからね!』
『大丈夫なの本当に出来るの?』

 フルエレが励まし、美柑が方言も忘れて国引きの成功を疑った。

(バカにしないでっ!! 私なら出来るわっ観てて下さいシューネ様、猫弐矢さまっ!!)
『うおおおおおおっクニコックニコッッオオオオオオオオオオオーーーーーーーーッ!!!』

 フゥーは顔を真っ赤にしながら、ぐぎぎぎっと光の綱を引いた……
 ジリッジリッ
 光の綱が少しだけ動いた様な気がした……


 ―セブンリーフ島
 海の見える神殿には、有未うみレナード公や大アリリァ乃シャル王、コーディエや衣図ライグやラフにリズ、イェラやシャル、イライザに兄ニイル等、フルエレ砂緒と親しい人々が集まっていた。

「だから避難したい人は避難して、居たい人は居たら良いらしいですわ。とにかく地元民のみ海岸線から退避させて欲しいですの。もう既にリュフミュラン東側の村々には通知を出しましたわ……」

 仕方なくやって来たリュフミュラン七華王女が眠たい目をこすりながら解説した。

「だから何なんだよソレ、訳が分かんねーな」
「私だって分かりませんわよ。言った事は言いましたので、帰りますわよ」

 七華の後ろでシャルがつまらなそうに腕を組んでいる。その横ではリコシェ五華が立ちながらほぼ寝ていた。

「はぁ、じゃあ寝直すか……」

 ガガガガガガガ。
 レナードがぼやいた直後、地震という程では全く無いが微妙な振動が襲った。

「お、お、これも千岐大蛇のカガチとか言うヤツの影響ですかな!?」

 シャル王が中腰になりつつ皆に聞いた。

「さぁーーあ??」
(カガチのカガチ?? 夜宵姫……今頃何をされておられる)

 コーディエが中間の海を眺めつつ答えた。

「お、こんな所に有未レナード殿がいるぜっ!」
「げっ」

 人混みの中を掻き分け、大男の衣図ライグが遂に有未レナードを見つけた。


 ―中心の洲(東の地)アナの西端の砂浜に戻る。

『行けるわっ! フゥーちゃんその調子よっっ!!』

 陸地が何となく動いてる様に見える気がして、フルエレは興奮気味にフゥーを応援した。

(ぐぐっ痛い、腕が千切れる程痛い……もう駄目……)
『は、はい頑張ります……オオオオオオオーーーーーッッ!!』

 しかし言葉とは裏腹にフゥーの身体は既に限界を迎えていた。
 
 メリメリメリ……

『何の音だ!?』

 直後、不気味な音が鳴り始め猫弐矢が不安気になって振り返った。
 ブチイイイイイッダーーーーンッ!!

『ぎゃああああああああ』

 断末魔というべき音が鳴って、ヌッ様の両腕が根本から光の綱ごと持って行かれ、どこかに飛んで行った。飛び去った途端に光の綱はフッと消え、腕は無機的に夜の海にボチャンボチャンと水柱を立てて落ちて消えた。

『フゥーちゃん!?』
『キミ大丈夫!?』
『フゥーーーッ』

 三人が叫ぶ前で、フゥーは両肩を押さえながら座席に沈み込み、顔をうな垂れた。今、彼女には筆舌に尽くしがたい強烈な痛みが全身を襲っていた。
 パシュウッキラキラキラ……
 即座に冒険者の反射神経で、美柑が無言で再上級な回復魔法を掛けた。

「くはっっはぁはぁはぁはぁはぁ……」
「………………」

 ずっと肩を揺らし荒い息を続けるフゥーを見て、三人は最初の勢いが消え去りしばし無言になって見守った。

『今、ヌッ様の両腕が飛んだ様に見えたが……』

 シューネが何とか言葉を絞り出した直後。

『いけない! ル・ツーとカガチが西に流れ始めた!!』
『若君?』

 上空の紅蓮から新たな観測が入った。

『やはり桃伝説ももでんせつの絶対服従と組み合わせてこそ固定化出来ていたが、ル・ツーの誘引だけじゃまともに固定化出来ないんだ! 僕も攻撃に参加するよ!!』

 言いながら紅蓮アルフォードは奪ったばかりの白鳥號をもう使いこなし、柄だけの剣から魔法の刃をシュイッと放出した。

『若君お止め下さい! 白鳥號は攻撃力が大き過ぎます。それに今ル・ツーが必死に水中で戦闘してカガチを海上に釘付けにしてるのです、それが再び浮上してしまえばもう国引きは関係無くなりますぞ! 聞いているかGSX-R25三号機、今から好きに射撃せよ』

 シューネが言った様に、水中で今も必死に戦う大猫乃主のル・ツー漆黒ノ天だが、徐々に徐々にカガチの勢いに押され西に西に流されていた……

「くっまだまだ負けんぞっはあああああっ!!」

 ビシュビシュッ!!
 老骨に鞭を打ちながら、ル・ツーは次々に水中に潜って来る巨大な首を叩き落とす。しかし叩き落とされた首はすぐさま無尽蔵な海水により再生されて行く……もしそこに白鳥號の空からの魔法の剣の攻撃が加わればさらに再生が上回り、その上飛び立てば手に負えなくなる危険性があった。

『了解了解! だってさ、なんだか舐められてる気もするけどしゃーないわねっ! 行くわよっ』

 メランはバサッと黒い魔導士服とトンガリ帽子を脱ぎ捨てると、普段はだぼっとした服に隠されて目立たない豊かな胸の膨らみのタンクトップ姿になり、さらにハチマキをキュッと巻いた。
 ガシャッ!!
 メランのGSXが魔砲ライフルを構えると、兎幸うさこも魔ローンの盾を展開した。

『メランいいよ!』
『よっしゃーーーおりゃおりゃおりゃおりゃ!!』

 ドンドンドンドン!!!
 大型船の魔ローダー甲板上で立て膝に構えたGSXの長大な魔砲ライフルの砲口から、巨大な火の球がびゅんびゅんと弧を描いて飛んで行き、カガチの首元に吸い込まれて命中して行く。遠くの父王を見守っていた猫呼ねここは、突然後ろから爆風が起こり大音響が鳴り響きぐらついた所を両脇の兵士に支えられた。

「何なの!?」

 ビチャビチャッバシャッ!
 当たった首から次々にホラー映画のゾンビの様に飛び散って行く。

「くおおおおおおおーーーーーーん」
『見たかおりゃーーーーーっ!』

 ビキッと怒りの赤い瞳になったカガチはル・ツーとは逆方向に戻り大型船に向かい始めた。

『シューネ、カガチは少し東に戻ったよ!』
『シューネ様、成功です!! カガチが中間位置に戻りつつあります!』

 紅蓮の報告に有能メイドさんが喜んで振り返った。

『よし、総員退艦の準備だ』
「シューネ殿!?」
「え?」

 戸惑う艦長と有能メイドさんを無視し、シューネは独断で警報機を押した。
 ジリジリジリジリジリ……


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