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Ⅵ 女王
神話の終わり ③ 砂緒は二人の……
しおりを挟むガシュンッッ
蛇輪は文字で表現する事が不可能なくらいの複雑な機構により、瞬時に飛行形態から人型形態に変形し、さらにまた鳥形の飛行形態に戻ったりを繰り返しながら、曲芸飛行の様にくるくる回転したりした。
『どうなんですかセレネさん』
『いや、なんか調子良いみたいだよ?』
『そうですねえ、変な音とかもしませんし……』
『は~~~飛んでて気持ちいいわ』
性格に欠陥がある二人は一切下を気にしていない。
『……しかし気密試験がまだなんで……ちょっと潜ってみます?』
『いや、潜水服があるからいいんじゃないの?』
『宇宙舐めないで下さい。潜水服でなんとかなる訳ないでしょ』
『そーゆーもんなん? ウチュウーってどんなんだろ』
人格に問題のある二人は、下で繰り広げられるドラマに一切関心を払う事無く、特にセレネは久しぶりの砂緒との二人きりにノリノリだった。
『蛇輪見ているか? ル・ツーが今海に飛び込んだ。もう少しで接敵し千岐大蛇と水中戦闘に入る』
夜空の中、割と二人で優雅に試験飛行を楽しんでいたセレネと砂緒は突然我に返った。
『ナヌッ!?』
『ああ、ずっと見ていた。今すぐフルエレさんと代わります!』
セレネはあからさまに嘘を付いた。
『セレネ、今私もうヌッ様の中にいるの、今回は貴方が宇宙に飛んで頂戴な』
と、そこへ当の雪乃フルエレから通信が入った。
『ちょ、ちょっと待って下さい、あたしは宇宙とやらに行った事ないし、なんて言うかこの作業はフルエレさんと砂緒の二人の専権事項みたいって言うか、やっぱり交代します!』
セレネは必死に手を振りながら言った。
『もはやそんな時間は無い。地理的にもうすぐル・ツーが戦闘に入る。今からヌッ様の体制を変えるのは良く無い。それにだ……女王にはご無礼を承知で言うが、一回投擲に失敗したフルエレ女王よりは戦闘に特化したセレネ王女の方が適合していると思うが』
そこに二人のやり取りに貴城乃シューネが割り込んで途端にセレネはカッとなった。
『黙れ! これは三人の個人的な問題なんだよ、お前にごちゃごちゃ言われる筋合いじゃない!』
『そうだそうだーボケー』
「何が個人の問題よ、今皆が心を一つにしないといけない時に……」
『今聞こえたぞ! フゥーだろ?? やんのかコラー』
フゥーがぼそっと言った事を魔法マイクが拾い、セレネが激しくキレて腕をブンブンと振った。
『セレネさんセレネさん落ち着いて下さい、そんなに怒る事ですか』
『テメーッお前がいきなりあたしの梯子外すなよっ! お前はあたしの味方だろ』
『そうじゃ無いのよ! 個人的な話なら、なおさらセレネに行って欲しいのよ』
再びフルエレの声が響いた。
『フルエレさん……』
『もう砂緒に言ったのよ、私は砂緒に頼らないって、だから好きに生きたらいいのよって……砂緒はいつも本心ではセレネの事を考えているのよ、だから砂緒はもうセレネに預けるから!』
(夜宵お姉さま……)
唯一フルエレの不幸な運命との闘いを知る、妹の美柑こと依世は姉はどうしたのだろうと思った。
『……』
しかしセレネはフルエレの言葉にもすぐには返答出来ない様子だった。
『人の事を忘れものみたいに預けるだの何だのと、ねえ?』
一呼吸置いた。
『今回宇宙に行って、砂緒を落とす事になった時……もしかしたら砂緒は死んじゃうかもって心のどこかで思っていたのよ……でも自分の幸せの為だわ仕方ないのよ、えいやって落としちゃったの。そして本当に砂緒が地面に激突して死に掛けた時に、セレネが泣きながら抱き締めてる姿を見て思ったのよ、あっこりゃ砂緒に対するテンションが全然違うわ~って……』
フルエレは割と怖い事をさらりと言った。
『え、今の話割と酷くないですか? フルエレ思い切り私の事利用してますよね!? まぁいいですけどね……』
砂緒は肩をすぼめ両手を広げるアメリカ人のアレをした。
『いや……フルエレさんはやっぱりこれからも砂緒と一緒に居て欲しいです。譲られるいわれはありません』
『いいのよ、砂緒は貴方に上げるわっ!』
フルエレも少し意地になって来た。
『いえ、やはり女王の物を奪う訳には参りません!』
『いいえっセレネに上げるって言ってるのよ、素直に砂緒を貰って頂戴!!』
『要りません!!』
『要りませんって事無いでしょ、仲良いじゃない』
『仲良くありません! 嫌いです!!』
『え、嫌いなんですか!?』
二人の言い合いは砂緒を無視してどんどんエスカレートした。
『あ、あの二人とも落ち着いて下さい……』
猫弐矢がなんとか収めようとするが一向に耳を貸さない。
『嫌です……砂緒の事はそこそこ好きだけど、フルエレさんとの関係が終わる様な物言いは止めて下さい。砂緒の存在はあたしとフルエレさんの繋がりでもあるんです!』
『何ですかその子はカスガイみたいなヤツは』
セレネは突然泣きそうな声になった。よくよく思い出せば、セレネにとって砂緒との出会いはフルエレを女王にする為の付属物の様な物で、セレネ自身もフルエレの事が好きなのであった。
『分かってるわよ! 砂緒にも言ったけど、これからも三人一緒よ!!』
そう言われてセレネは少し考えた。
『では……こうしませんか? 砂緒はあたしとフルエレさんの共有物という事にしませんか? だからこれからもフルエレさんも砂緒の世話をして下さい』
『あ、あのセレネさん? 共有物って』
『共有物……そうね、それが良いわね。砂緒は私が拾った物だし、私も世話をする義務があるわよね……分かった!』
フルエレも笑顔で手を合わせて言った。
『良かった!!』
セレネも笑顔になった。
『人を要らなくなった競走馬か何かみたいに……』
二人の間で砂緒は首を振った。
『じゃあ半分こね、セレネは上半身と下半身どっちを取るの?』
真面目な雪乃フルエレ女王が一世一代の攻めに攻め込んだ冗談を言った……
『え、えーとじゃ、じゃあ上半身で……』
これまた生真面目なセレネも緊張の中で意味が良く分からなくて素直に答えた。
『ブーーッ』
『ブフーーーッ』
何故か美柑と紅蓮が同時に吹いた。
『ご、ごめんね、今の部分は忘れて。とにかく二人で宇宙に飛ぶのよ分かった??』
『はいっ!! 不祥セレネ、砂緒を連れて飛びます!』
『一件落着だな』
シューネがヤレヤレと通信機を置いた。
「恥ずかしい、恥ずかし過ぎるよフルエレさんもセレネも、聞いてて赤面しました! ねえ兎幸ちゃん」
GSX-Rの中で聞いていたメランは実際に赤面していた。
「う、うん、そう?」
(猫乃……)
しかし兎幸は通信など聞いておらず、ずっとただただル・ツーの大猫乃主の事を心配していた。それは猫弐矢も同じであった。
「くくっ砂緒殿は二人の共有物か、これは良い」
しかし当の猫乃はその様な会話を楽し気に聞いていた。むしろそんな会話が聞けて良かったと思っている。
『大猫乃主殿聞いてるかい? 丁度作戦の中心地点にカガチが到達したよ』
『参る!!』
プチッ
その言葉を最後に猫乃は魔法通信を閉じた。
『父上っ!!』
しかし猫弐矢の声が届かない海の底で遂にル・ツー漆黒ノ天はカガチに肉薄した。
「くおおおおおおおおおーーーーーんん!!」
そして突然チマタノカガチが肉薄するル・ツーに気付き、甲高い鳴き声を上げた。
「はぁああああああああ!!!」
直後に猫乃が気合を入れると、ル・ツーの背中からクロアゲハの羽が飛び出し、装甲の各所からも黒い光が噴き出した。
ズバアッ!!
それを見た途端に、海上に浮かぶカガチが餌をついばむ様に、海中のル・ツーに向けて何本も巨大な首を潜らせ始めた。
「どりゃああああああ!!!」
ビシュウッッ!!!
水中に潜って来たカガチの巨大な首を一本いきなり手刀で断ち切った。
「さああどんどん来いっ!!」
それから水中で激しい戦闘が始まったのだった……
『ル・ツー水中で戦闘を開始しました!』
有能メイドさんがシューネに叫んだ。
『よしヌッ様、遂に国引きの発動だ』
シューネは魔法通信機を取って、落ち着いた声で言った。
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