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Ⅵ 女王

神スキル 国引き ⑦ 王の責務

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「ワシから言おう、千岐大蛇ちまたのかがちという怪物がクラウディアを荒らしたのは知っておるな?」
「はい」

 エキセントリックに叫んで立ち上がった猫呼ねここは、少し落ち着いて再び父王の話に耳を傾けた。

「その怪物が今は西に向かって海上を漂い、予測ではセブンリーフに行くのではないかと思われておる」
「大変! でも何で……?」

 猫呼は雪乃フルエレ女王の顔を見たが、彼女はビクッとして何も言えなかった。

「それは誰にも分からぬ。しかし対策が無いでもない。何故かル・ツーと蛇輪へびりんの二機の魔ローダーがチマタノカガチを惹き付ける事が判っており、ワシがル・ツーでカガチを水中に誘引しておる間にヌッ様の神マローダースキル国引きでカガチ諸共陸地で固定化し、蛇輪が天空から攻撃を仕掛ける……という事になったのだよ」

 壮大過ぎて猫呼には一瞬理解し難い作戦であったが、直ぐにそれが父が操縦するル・ツー漆黒ノ天が犠牲になる事だと理解した。

「酷い!! どういう事なの、皆してお父様を生贄にする様な物じゃない!? 砂緒もセレネもフルエレも見て見ぬフリしてるの?? アンタ達なんて友達じゃないわっ!」
「黙りなさい!!」

 大猫乃主おおねこのぬしは力をセーブしているが、かなりのスピードでピシャリと猫呼の頬を叩いた。猫呼は普段かなり甘やかされて育ったので、信じられないという顔で頬を押さえながら父王を見た。

(ちょ、ちょっとやめて上げて)

 フルエレはその言葉が出る寸前で言えなかった。自分達の犠牲になるという猫呼の言葉は事実だったからだ。フルエレは気付いていないが、猫呼の兄猫名ねこなによって愛するアルベルトが殺害されたと同様に、奇しくも今度はフルエレのセブンリーフを守る為に、猫呼の父猫乃が犠牲になろうとしていた。

「当然フルエレ女王は強く反対されたぞ、しかしワシがさらに強くやると言ったのじゃ」
「……何故?」
「何故とは何故? フルエレ女王と砂緒殿が貴城乃たかぎのシューネと猫弐矢ねこにゃの要請に応じクラウディアを命懸けで守って戦ってくれた様に、今度はワシがセブンリーフを守る、当然の事ではないか、分かってくれるね。もちろんムザムザ死にに行くつもりは無いのだよ……」

 さっき頬を叩いた事を後悔しているのか、必死に笑顔で優しく諭した。

「い、いや! 嫌よ、絶対嫌っ! いつかまた家族が揃うと思っていたのに、お父様がパパがそんな事になるなんて絶対嫌! もっともっと泣き叫んで絶対に止める! いやいや絶対いやーーわーーーーーっ」

 同盟の闇ギルドのマスターを務める大人びた普段の猫呼が信じられないくらいに駄々っ子の様に泣き叫び始めた。余りの迫力に普段直ぐに文句を言うセレネ砂緒以下、誰も口出し出来ない。

「黙りなさい見苦しい! それ以上泣く事はこの父が許さぬっっ!! そちとてクラウディアの女子おなごじゃぞしっかとせい!!」
「え、えぐっうぐっ」

 すると突然烈火のごとく猫乃は怒りだし、今度は父王の迫力に猫呼はピシッと背筋が伸びて黙った。

「一体我らクラウディアの王族たる者の責務は何だ?? いざという時に民の為に命を投げ出す為ではないのか? そちとて兄を探す為とは言え、家出をするに当たって宝物庫の金塊を流用しておったのではないか? お前に与えた魔法の財布は本当に魔法の財布ではないぞ。原資は全て過去からのクラウディアや荒涼回廊の飛び地の民から集めた物だと忘るるな」
「………………」

 父王へのヒロイックな心配から突然金銭という現実問題に引き戻された。猫呼はリッチな一人旅をする時も、砂緒やフルエレと知り合った後の喫茶店の運営資金も、多くの路頭に迷う元闇の者を抱える闇ギルドを経営する為にも、湯水の如く魔法の財布から金を使い続けていた。今になってそれが元で父が命を投げ出す事になるのかと身震いがし始めた。

(ヤ、ヤベー結構猫呼先輩の魔法の財布であたしら助かってるよな……砂緒なんか小遣いもらってたし)

 セレネは冷や汗を流しながらフルエレと砂緒の顔を見た。フルエレは下を向き、砂緒は特に関心が無い様だった。

「ご、ごめんよ、今になって言い出す事では無かったね。これ以上猫呼に泣いて欲しくないのだよ」

 やはり末娘の猫呼が可愛いのか、今度は急に笑顔になって彼女の頭を撫でようとした。

「い、いや……でもやっぱり嫌ッ!!」

 頭のネコミミに手が当たろうかという直前、猫呼は突然走りだして貴賓室を出て行ってしまった。

「あっ先輩!! 砂緒行くぞ!!」
「えーー?」
「いいから来いって」

 心配になったセレネは彼女を追い掛けて行った。フルエレは部屋の景色がぐるぐる回る程に落ち込んでしまった。


 ―船倉。

「悩む悩む……このエロ少年どうしてくれよう? シューネやお姉さまに言い付けるにも面白くないよ」

 何故かグルグル巻きにされながらも、色目を使って来る謎の少年を見下げながら言った。

「もし」

 等と考えてる時に、背中にゾクッとする悪寒が走った。

「誰だっ!?」

 慌てて魔法で飛び上がると振り返った。しかしそこには跪いて頭を下げるライラの姿があった。彼女は気配を消して、フルエレに対して不確定要素となる謎の存在である美柑ミカを尾行していたのであった。

「美柑様申し訳ありません。犯罪者の処遇でお困りの様でしたのでお声がけしました」

(うっ今お姉さまとか言ってたの聞かれた??)

 背後の気配に気付かなかった事よりも、独り言が聞かれたかどうかが気になった。

「別にそんな子知らないわよ。好きにすればいいよ! それとこんな紙が貼ってあったから」

 ミニスカートを押さえながら地上に降りると、メモ紙をライラに手渡した。

「ふむ……黒猫仮面、猫名ねこなさまがリュフミュランやセブンリーフで暗躍していた時の名前ですか、これは猫弐矢さまに直ぐにお伝えしなければ」
「そう、じゃ私行ってもいい?」

 美柑は階段に向けて指をさした。

「どうぞ……そう言えばお姉さまとはどなたですか? この船に??」
「プライベートな話よ」

 美柑は足早に階段を上がって行った。サッワは去る美柑の美脚を見ながら、何となくココナツヒメ的なS嬢の風情のするライラを見てゾクゾクしていた。

「まおう軍とは大同盟中なれど、こっそり拷問すればバレないかな?」
「ヒッ」

 ライラはギロッと仁王立ちでサッワを見降ろした。しかしサッワからはさっきからメイド服のスカート内が丸見えであった……

(……イメージ通り黒!)


 ―作戦司令官室。
 ブリッジの艦長と話した貴城乃シューネは、足早にこの自室に帰って一息ついていた。しかし時間は無く、少しすればまたブリッジに戻るつもりであった。

「ふぅ、もうすぐアナを通り過ぎるか……カガチはどちらに向かうのかな」
「動くな」

 突然シューネは首筋に冷たい何かを突きつけられてハッとした。美柑と同様に彼も全く気配に気付いていなかった。

「どなたかな、出来れば顔を見て会話したい物だ」
「妙な真似をするな。油断してなければ私も文官如きに負けはしない」
「もし最初から殺すつもりなら既にそうしているだろう、暴れぬゆえ降ろしてくれないかな?」
「フフよかろう」

 ナイフが降ろされ、男はゆっくりと椅子の前に回って来た。

「うっ猫弐矢?」

 目の前には眼鏡とネコミミを外した猫弐矢そっくりな美形の優男が居た。

「神聖連邦帝国重臣貴城乃シューネ殿お初にお目に掛る、私は初代黒猫仮面今はまおう軍に厄介になっておる者だ。確か女王選定会場に二代目だか三代目だかが現れたとか」
「成る程、お耳が早い」

 黒猫仮面と名乗る男は不敵に笑った。

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