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Ⅵ 女王

神スキル 国引き ④ フゥー?

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「フルエレさんダメです」

 貴城乃たかぎのシューネと大猫乃主おおねこのぬしの会話をドア外から盗み聞きした雪乃フルエレ女王は、割って入ろうとドアのノブを掴んだ所でセレネに掌を重ねられて止められた。

「で、でも」
「もはや前王のお考えを尊重しましょう。貴方が入って堂々巡りしても意味がありません」

 セレネは出て来た頃の様な冷たい口調で言った。

「我も我も」
 
 セレネの掌の上に砂緒の手が重ねられた。

「わたしもっ!」 
「きゃーーーっ私もっ!!!」

 重ねられた砂緒の手の上にさらに個人用UFOで飛んで来た兎幸うさこが慌てて手を重ねた。さらに何処からともなく走って来たメランまでもがさらに手を重ねた。今やフルエレの手の上には、雪が積もる様に四人の手が重ねられた。

「お、重いわよ分かったら離して!」
「では静かに去りましょう」
「ねえねえ猫乃どうなるの??」
(私のル・ツー黒い稲妻Ⅱ……)

 兎幸の問いにフルエレの口は重い。メランだけは一人自分専用魔ローダーの運命を心配していた。

「……では私にはしないといけない事があるので甲板に行きましょう」
「よし来たほい!」
「行きましょう、今はそっとしておきましょう」

 フルエレと砂緒とセレネは甲板に急ぎ、それを見てメランは与えられた個室に帰った。兎幸は一人ドア前に残り猫乃を心配し続けた……


 ―その大型船甲板上。
 夜の海を走る大型船上には整備士や兵士が慌ただしく走り回っている。

「抜き足差し足と、早くスピネルさんに奪った賞味期限切れのポーション飲んでもらわねば。でももっと高度な医魔品が欲しいのに兵士が多くて……」

 サッワはスピネルを何とか船底の倉庫に隠し、必死に回復薬を探し歩いていた。

「気密試験は無理だっ! とにかく形だけでもハッチをあてがえ!!」

 再び整備士達から身を隠す。

「こんだけ魔呂があれば一つくらい盗んで帰れるのでは?? こいつらアレを追って西に向かっているのか、なんとかセブンリーフまで行ってくれればいいが。でもその前にスピネルさんの回復だな」

 サッワは船首の先に見える、不気味に光って夜の海上を飛ぶ巨大な千岐大蛇チマタノカガチを見た。と、その船首付近に懐かしい少女の後ろ姿を見つけた。

「……フゥー?」

 サッワは我が目を疑ったが、警戒しながら接近するとやはりフゥーとしか見えなかった。しかし確信が持てず、サッワは手短に落ちていたボルトを拾うと彼女の足元に投げてみた。
 カツーーーン、コロコロコロ……

「誰? 何??」
「フゥー!」

 振り返った少女はやはりフゥーであった。サッワは目を輝かせて小声で呼んだ。

「ぁ……サッワ……様?」

 慌ててフゥーは周囲を見回すとサッワを人目に付かない場所に連れて行った。
 ガチャッ

「フゥー、ずっと……探していたんだ……」

 途端にサッワはフゥーを抱き締めてフゥーは戸惑いまくった。フゥー自身がもはやサッワにどの様な感情を抱いていたかすら忘れていたのだ。

「ちょ、ちょっと、お、落ち着いて下さいサッワさま」
「いや、もう離さないよ。フゥーの事は忘れた事は無かった。ずっと探していたんだ」

 カレンを探したりまおう軍のカヤに心奪われたりしながら都合の良い言葉であった。

「は、はい、有難う……御座います」

 一瞬サッワはフゥーの態度に微妙な距離感を感じたが、すぐさまキスをしようと迫った。

「フゥー……」
「へっ?? ちょ、ちょっと、一旦離れませんか?」

 迫るサッワの顔を防ぎ顔を背け、胸に両手を当ててふんばった。

「フゥーフゥー!!」
「いやっっ!! 離して下さいっ」

 ドバシッ!!
 フゥーは思い切り胸ドンしてサッワは壁まで転び、それを見ながら猫が自分を落ち着かせ様とするかの如くに彼女は髪の毛をさっと直した。

「フゥー?? どうして、いつも君は魅了無しで僕の言う事聞いてくれてたじゃないかっ僕の事好きなんだろうっ!?」
「……一体何時のお話ですか? 私はもうあの頃の私ではありません」

 サッワからすると儚げで従順な美少女だと思い込んでいたフゥーは、その後色々な経験を重ねてかなり変貌していた。

「………………そうだね」

 サッワ自身もまおう軍に亡命して静かに暮らす中でやはり変わっていたのか、フゥーに突き飛ばされて一瞬で目が覚めてしまった。


「やはり……猫弐矢ねこにゃ様の兄上の猫名ねこな様とはスピネル様の事だったのですね……スピネ、猫名様は今船倉で?」
「ネコニャーだとか猫猫ウンザリだよ。でもその通りスピネルさんは今休んでいるよ、通報するのかい?」

 少し落ち着いたサッワは小声で聞き返した。

「いいえかつての上官です。その様な真似は致しません。薬品を分けて貰いますので、それで静かにしておいて欲しいのです」
「厄介者は大人しくしておけって事だね」

 サッワは皮肉っぽく言った。

「……ココナツヒメ様はどの様なご様子なのですか?」
「ココナツヒメ様はカレンに撃たれた傷を白鳥號はくちょうごうで治したハズなのに完全回復していなくて……常に車椅子生活で呼び掛けても反応がある時と無い時がある。今は同盟を裏切ったクレウさんが付きっ切りで看病してるよ、とても戦える様なかつてのココナ様じゃない」

 機密を含めペラペラ喋るサッワの言葉に衝撃を受けたフゥーはしばらく言葉が出なかった。

「あの豪奢で大胆で不敵なココナツヒメ様がその様な事に……」
「あんなココナ様もう見たくない……」

 涙ぐんで言ったサッワの言葉は正直な気持ちであった。

「もういいよ、とにかくスピネルさんの薬品をくれ! それとも君も一緒に船倉に来るかい?」
「い、いいえ私は今はシューネ様と猫弐矢様と姫乃殿下にお仕えする身です。ポーションや薬品は渡しますが、妙な真似だけは絶対しないで下さいね」
「ああ、大人しくしておくよ」

 サッワはあからさまに嘘を付いた。スピネルが元気になり次第直ぐにでも脱出してやると思った。


 ―再び甲板上。

「何い!? まだ蛇輪の修理が終わって無いだとお、この役立たず共がっ!」
「セレネさんセレネさん、止めて下さいシートに画びょう仕込まれますよ」

 ハッチの修理が終わっていない事にイラついたセレネが整備士に食って掛かりそれを砂緒が必死に止めた。

「お前時々そうやっていい人ぶるのが腹立つんだよ」
「いえ私基本味方には優しい男ですが……」
「いいから、他の手段を考えましょう」
「では空の紅蓮様にお願いされては?」

 ル・ツーの中から聞いていた整備士の一人が言い、その通り魔法通信をお願いした。すぐさま休息無しに上空でカガチを警戒していた白鳥號が甲板上に着艦した。もはや艦上は魔呂で満杯であった。

『何ですか!?』

 最大限下向きに跪きハッチを開けた紅蓮アルフォードが上から大声を出した。

「お願い、私達をリュフミュランに送り迎えして欲しいの!!」
『えっ?』

 強い風の中、フルエレが叫んだ事に紅蓮が聞き返した。

「今の所カガチが大人しいから、リュフミュランに先回りして七華しちかに住民避難をお願いしに行くの!」
『え?』
「えじゃないだろがっ大規模に国引きするからどんな影響があるか分からんだろ! 念のためだよ」
『大丈夫かな? 時間あるかな』

 紅蓮は操縦席から戸惑いまくった。

「つべこめ言うなエセ爽やかイケメンが! とっととフルエレの命に従えば良いのです」
『むっ君に言われたくないな』
「いーからお願い急いでっ!」

 そのやり取りを夜食のスルメを噛みながら影から美柑ミカが見ていた。

「そうだね、何かあれば直ぐに連絡するから紅蓮くん行って欲しい!」

 貴賓室から出て来たばかりの猫弐矢も叫んだ。これで決まった。

『分かった、じゃあフルエレちゃんとセレネちゃん急いでっ!』
「貴様コラ、私の事を意図的に無視したな!? 前に私を吹き飛ばした事一生忘れんからな!」
「いーからはよ乗れや」

 セレネはなかなか掌に乗らない砂緒の尻を蹴った。


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