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Ⅵ 女王
神スキル 国引き ① 宣言
しおりを挟む「くおおおーーーおおーーーーんん-ーーーー」
突然やまびこの様に、人々の神経を逆なでする千岐大蛇の鳴き声が響いた。
『カガチ健在!! 南に、ウインドウ川に向かって一直線に移動中!!』
煙が流れた直後に、上空から白鳥號の紅蓮アルフォードが叫んだ。雪乃フルエレ女王と砂緒の渾身の一撃は、蛇輪の動きをいち早く察知したカガチにより回避されていた。カガチは砂緒がかすった体の五分の一程を消失しつつも、平然と動きを止めず一気に南側のウインドウ川に覆い被さる目前であった。
『なぁんてこったっっ!!』
バンッ!!
思わず大猫乃主はル・ツー漆黒ノ天のコンソールを叩いた。
「おじさん……」
「猫乃……」
直後間髪入れず、どたどたどたと片腕のヌッ様が走って来てカガチに襲い掛かる。
『留めを刺す!! たありゃあああああああ!!』
『やめい!! もうすぐウインドウ川に掛かる、さすれば一気に回復して猛反撃を受けるぞ!!』
猫乃の警告でフゥーはヌッ様を止めた。同じ様に攻撃を掛け様としていた上空の白鳥號もぴたっと止まった。
『すなおーーーーーーーー!!!』
その時、急上昇していた鳥形形態の蛇輪が再び急降下を始め、地上に着地する寸前に人型に戻した。
ガシャッ!
コケるくらいの勢いで着地すると、チマタノカガチが去った後に残された地上の大穴に向けて尖った手刀を差し込んだ。
ザシャッザシュ!!
『砂緒どこ!? 生きているのね!? 出て来て!!!』
フルエレは半狂乱で土をえぐり、返事の無い砂緒を探し求めた。
『フルエレさん止めて下さい、尖った爪で傷付けますよ!!』
『開けてっ!!』
「はい!!」
バシャッ
セレネと美柑が同時に叫び、二人は外に飛び出した。美柑は飛行魔法で一直線に急降下し、セレネはヌの各所を飛んで降りた。
『ああっどうしましょう砂緒っ』
フルエレは両手で顔を覆った。
バシャーー
『カガチ、ウインドウ川に着水!!』
『ちいぃ』
シュバッッ!!
チマタノカガチはウインドウ川に覆い被さった途端に一気に破損部分を修復し、さらに体が巨大化したが、紅蓮とフゥー以外は余り見ていなかった。
『はぁああああああ、衝撃土竜!!』
ドリュドリュドリュッ!
地上に着地した美柑が次々に大穴の周囲に掘削魔法を掛けて土壌をモロくして行った。
ガスガスガス!!!
次にセレネが剣の柄で大穴の中心を猛スピードで掘りまくり、遂に逆さまに突き刺さった砂緒を発見した。すぐさま掘り出した砂緒を横に寝かし、セレネが胸に耳を当てた……
「……なんか心臓が、う、動いてないけど、砂緒の場合は大丈夫なんだよな!?」
「一般的に心臓が動いてないと、普通に死んでるよ……」
美柑がぼそっと言った。
「きゃあああああ!? 砂緒ーーーーーっ!!」
『セ、セレネ!?』
セレネが突然頭を抱えて叫び出し、フルエレは倒れそうになる。
ピーーーッ
その瞬間、白鳥號のコンソールに回復(超)スタンバイの文字が浮かんだ……
『どいてーーーーーっ!!』
上空から突然舞い降りた白鳥號は、バッと後ろに飛んだ美柑とそのまま砂緒を抱えて泣き続けるセレネを無視して、魔呂の両手を掲げて砂緒に向けてスキルを掛けた。
『回復(超)!!!』
バシュッッキラキラキラキラキラ……
蛇輪やル・ツーに比べて1.5割増しくらいの派手なキラキラ粒子が、セレネに抱き締められた砂緒に降り注いだ。
『ぎはっっ! げほげほっ』
白鳥號の回復(超)が掛けられた途端に、スナコのカツラが取れた砂緒の真っ白い顔に生気が戻り、心臓が動き出した……直後、何だか良く分からない吐しゃ物をセレネに掛けた。
「わっきたね。でも戻った!! わーーーーっ」
「な、なんですか?」
突然目が覚めた砂緒は泣き叫ぶセレネに驚く。
『念の為に私もっ! 回復(強)回復(弱)』
『私もっ回復回復回復』
生き返った砂緒と最初から怪我の無いセレネの頭に、次々吹雪の様にキラキラ粒子が舞い降りた。
「いや、もういいから……」
バシュバシュと頭上で派手に煌めく粒子にセレネは多少げんなりしつつも、砂緒をぎゅっと抱き締めて離さなかった。
『ふーーっ良かった、元気になって』
その様子を見て、フルエレは座席からずり下がった。
―約十五分後くらい。
魔法医務官が大急ぎで砂緒の診察を行い、異常無しとの事で二人はひょっこりと普通に蛇輪のフルエレの元に戻って来た。
『なんかえらい騒ぎでしたねえ』
『他人事か? お前本当軽いなフワフワだよエアーだよ』
『ま、まあね。でも本当に戻ってこれて良かった……でもカガチが』
その時再び上空で観察していた紅蓮が叫んだ。
『カガチがウインドウ湖湾に入った!! このままだと大海に出そうだ!!』
『早い!!』
その言葉通り、砂緒の蘇生騒ぎの中でスピードを上げていたカガチの巨体は海に出そうになっていた。
『どうなるんだ!? 僕達はこのまま見ていれば良いのか??』
『さぁ、私などには分かりかねます』
戸惑う猫弐矢にフゥーは何とも言えなかった。しかし紅蓮の言葉は貴城乃シューネや各魔戦車から避難する住民を指揮する両軍軍人、さらにはそこから一般の人々にも流れていた。
『チマタノカガチが海に出そうだ』
「チマタノカガチが去ったらしいぞ!」
「どういう事、カガチは海に去ってしまったの??」
「嵐が過ぎ去ったぞ!!」
「我々は勝ったんだっ!!」
「バンザーーイ!! クラウディア王国バンザーーーイ!!」
「ヌッ様、ル・ツー漆黒ノ天様バンザーーーイ!!」
北西に逃れた人々から一斉に万歳の声が上がった……
「ほほほほほ、このままあの憎き怪物、どこかに流れてくれれば良いのです」
「そ、そうですね」
かく座した下半身だけの桃伝説を見上げながら、夜叛モズと生き残った部下達がホッとしていた。
ズシャッ
大急ぎで白鳥號をヌッ様の肩に着地させた紅蓮が聞いた。
『このままどうなるの? これで終わり??』
『いや、もしかしたら沿岸を荒らしまわって、ぐるっと南の大内海に戻って来るかもしれない』
紅蓮の問いに猫弐矢はまだまだ警戒を解いていなかった。
『ううん、あのカガチはもう沿岸も荒らさないし上陸もせずに内海に入る事もないわ』
その時フルエレが何故か確信的に言った。
『フルエレさん!』
『ではどこへ行くと言うのかな?』
貴城乃シューネは地上の魔戦車からかぶり付いて聞いた。
『あのチマタノカガチは多分、私の故郷、セブンリーフの私の故郷へ行くと思う』
『フルエレッッ!!』
『フルエレさんっ!』
フルエレが言い掛けた事に、砂緒とセレネが同時に叫んで止めた。
『では、もう本当にクラウディア王国から、神聖連邦帝国から危機は去ったのですね!』
思わずフゥーは笑顔で言ってしまった。
『フゥーッ! 何て言い方するんだ?? フルエレくんも砂緒くんも命を懸けて此処を守ってくれたんだぞ!?』
『申し訳ありません……』
フゥーは猫弐矢に叱られてビクッと身を縮めた。
『では猫弐矢、君はどうすると言うのかね?』
内心フゥーと同じ心境だったシューネが聞き直した。
『僕は……まだ加耶ちゃんを取り返していない!! それに命を懸けてくれたフルエレくん、砂緒くん二人の為にカガチを止める!!! 絶対にカガチをセブンリーフに上陸させない!!』
猫弐矢ははっきりと宣言した。
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