上 下
549 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

父と子と弟とサッワ…… ②

しおりを挟む
『皆警戒せよ、あの純白の蛇輪に似た機体はル・ツー漆黒ノ天やル・ワン玻璃ノ宮はりのみやと同じ、ル・シリーズ最後の一機、ル・スリー白鳥號はくちょうごうじゃな。遥か昔にあれも此処クラウディア王国で建造され、セブンリーフのまおう軍の手に渡ったハズじゃが』

『何だって……アレが蛇輪へびりんのオリジナル機体??』

 セレネはル・ツーに蹴りを入れた後に、上空に戻って漂うル・スリー白鳥號を見上げた。砂緒すなおの前世の前世の話を半分ホラ話だと思っていたが、その蛇輪を等ウェキ玻璃音大王が制作する時に参考にした当のオリジナル機体が、女王選定会議の時まおう抱悶ちゃんを連れて来て、一瞬で消えた機体だとは気付いていなかった。

『何なんですか!? まおう軍が何の用なんですか? 攻撃しても良いのですかっ??』

 フゥーが叫んだ。

『そんな事をしておる暇はあるまい、こちらは千岐大蛇チマタノカガチで手一杯なのですぞ』

 桃伝説ももでんせつに乗って絶対服従を掛け続ける夜叛やはんモズが振り返って叫んだ。一瞬忘れていたが今まさに砂緒の突入を要請しようとしていた所であった。
 
 そのル・スリー白鳥號内。

「何だ、何なんだこれは!? この巨大な蛇みたいなヤツは?? どうしてそれが仮宮殿に乗り上げているんだっ」
「スピネルさん!?」

 いつも冷静なスピネルが、城らしき物に超巨大生物が乗り上げている場面を見て途端に冷静さを失っている様に思えた。

「……それにこの巨大な魔ローダーはもしかして、猫弐矢ねこにゃが自慢げにいつも言っていた"ヌ"か?? もしや中に乗っているのは猫弐矢なのか!?」
「ぬ?? ねこにゃ?? スピネルさんしっかりして下さい!!」

 横で見ていて、サッワは完全にスピネルが錯乱したと思った。と思うのも束の間、スピネルはすぐに共通チャンネルで一団に呼び掛けた。

『これは一体なんだーーーっ!! 説明しろーーっ』
「いつものスピネルさんじゃない?」

 突然共通チャンネルで怒鳴り出すスピネルを見て、サッワはビクッとした。

『一体何故攻撃して来たんだ!』

 猫弐矢が問い返した。しかしこの一言の声で両者は相手が兄弟だとはっきりと認識した。

『もしかして猫弐矢ねこにゃか?』
『もしかして猫名ねこな兄さんなのか!?』

 同時に問い返した。かつて昔に此処クラウディア元王国が神聖連邦帝国に服従して以降、初めての再会であった。

『何をやっている! これは一体何だ!?』
『兄さんこそ何をしている? 猫呼ねここはずっと兄さんを探して、ずっと家を出たままなんだぞーーーっ!』
『何なんだ、猫弐矢キミの兄弟なのか!?』
『ホホホ、この忙しい時に涙の再会ですか?? 少しはこっちの身にもなって欲しい物ですなあ』

 兄弟が叫びあっている最中も巨大なチマタノカガチは城の残骸をついばみ続けている。それをかろうじて制止している桃伝説のモズは迷惑千万という表情であった。

『……猫呼には陰ながら会った事はある。美しい娘になっていた……』
『名乗ったのかい?』
『いや、身分を隠していた』

 残念ながら途中から出て来たセレネは黒猫仮面一世を知らず、チンプンカンプンであった。

『うっとおし~~~連中だなあ!? フゥーあれ叩き落とせよニセ蛇輪があああああ』

 今まさに砂緒が天空から帰って来ると思っていた直後、妙な展開になってセレネのイライラは爆発しそうであった。しかし自分自身の手足とも言える蛇輪は手元には無く、もどかしさに悶えた。

『そうなんだ、今砂緒くんがこの怪物を倒そうとしてた所なんだ、だから黙って見ててくれ!』

 一瞬ル・スリーからの返答が無かった。

『……砂緒だと? あの硬くなる目付きの悪いガキか? 貴様、アイツとつるんでいるのか!?』

 その会話を聞いて、貴城乃たかぎのシューネは砂緒が嫌いなヤツが此処にも居たと、一瞬頬がぴくっとした。

『良く知っているね。そうだよ僕と砂緒くんは義兄弟くらいに仲が良いよ……』

 実は今会場破壊の件で砂緒からは嫌われていたが、多少盛って伝えた。

『ならば良い、猫弐矢貴様も此処にいる連中も全員敵だっ!!!』
「スピネルさん、そんな事まおう様に許可無く言っていいんですか!?」

 サッワは彼の腰にすがり付いて小声で言った。

『そんな事はどうでも良いわっ!!』
『!?』
『?』
『え、何?』

『とえりゃああああああああっ!!』
「きゃーーーーっ!?」

 誰もが彼は錯乱していると思った直後、突然カガチとヌッ様をピョンピョンと伝いながら飛び、最後に大ジャンプをした彼の父、大猫乃主おおねこのぬしが乗るル・ツーがクロアゲハの羽を全開にしながら飛び蹴りを仕掛けた。突然の事で操縦席の中でメランと兎幸うさこは転げまわった。
 ブーーーンッ
 しかし背中に羽の生えたル・スリーはあっさりと攻撃を避け、くるりと反転するとそのままル・ツーの背中に飛び蹴りを食らわせた。
 ドギャッ!!
 蹴られたル・ツーは飛翔能力が無い為に、そのままビューーーンと真っ逆さまに墜落してしまった。
 ドーーーーーーンッ!!
 地面にめり込むル・ツーの頭と肩。

『父さーーーーーーん!?』
『メランさん! 兎幸先輩!?』
『父さんだと??』
「スピネルさん、父さん? 僕にも……解説して……」

 猫弐矢の絶叫にスピネルこと猫名は愕然とした。サッワの疑問は完全に置いてけぼりだが、父大猫乃主こそ彼が猫弐矢以上に憎悪する相手であった……
 バシュウッ!!
 スピネルの怒りに反応する様に、背中の純白の金属の羽を覆う様に、無数の魔法陣や魔法文字で彩られたさらに長大な魔法の羽が発生した。

『いかにも、猫名よワシは此処におるぞ』

 地面からめり込んだ頭を抜いたル・ツーが起き上がった。

『貴様がぁああああああ、神聖連邦に降ったあああああああ!!』
「スピネルさん!?」

 猫名はサッワの言葉にも一切耳を貸さず、そのままクルクル回転しながらル・ツーに突進して来た。

「おじさん、わ、わ何か派手なのが来たよ!?」
『任せい』

 ギューーーン!! ガコッ!
 猫乃は一言言うと、するりと身を屈ませて攻撃を避け後ろに回り込んでル・スリーに掴み掛かった。

『ええい、離せっ!』
『もう離さんぞ!』

 ル・スリー白鳥號はル・ツーに掴まれたまま飛び上がった。巨大な魔法の翼の推力でどんどんと上昇して行く。

『猫弐矢さま、ほっといて良いのでしょうか!? 加勢しましょうか??』

 先程からあっけに取られていたフゥーが猫弐矢に聞いた。

『何なんだよ、カガチで大変な時に何人間同士で戦ってんだよ!?』
『あの皆の衆よ、私の絶対服従にも限界がありますぞ!? 城を食べ尽くせば恐らくカガチは移動を再開しますぞ』

 モズも焦りまくった。

『父と兄の事で申し訳無い……あの二機は放置して、砂緒くんに突入要請しようか……』
『ふざけんな! 砂緒が命懸けて落ちてくるのに、下でゴチャゴチャ喧嘩してていいのかよ!?』

 セレネが猫弐矢に食って掛かった。

『済まない、今はそうするしか。時間も無いんだ』

 猫弐矢は焦って両手で頭を掻き、フゥーは心配してその姿を見つめた。

『ぎゃーーーーーー』
『わーーーーーっ』
『ちいいいいいい!!』

 と、そんな会話をしている内にル・ツーが振り解かれて地面に向けて落下して行く。

『あっ危ない!!』

 ヌのフゥーが手を差し伸べたが手遅れであった。
 ドシャーーーーン!!
 背中から地面に叩き付けられたル・ツーの操縦席内では、大猫乃主がメランと兎幸を同時に庇って頭をしこたま打っていた。

「猫乃大丈夫!? しっかりして……」
「ぐうう、う」

 兎幸が大猫乃主を揺り動かすが、険しい顔をして起き上がらない。

『ふざけんな……止まれえええ、カガチも偽蛇輪リングもっ!!』

 いち早く起き上がったメランは、近くに落ちていた魔砲ライフルを構えると、ル・スリー白鳥號とチマタノカガチに向けて乱射し始めた。
 ドンドン、ドーーン! ドドーーーン!!


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...