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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
スナコちゃん再々降臨!! ⑫ スナコさん葛藤の出撃
しおりを挟む―仮宮殿、仮魔ローダー駐機場。
「本当に目隠して乗ってたのかよ」
セレネが蛇輪のハッチを開けると貴城乃シューネがゾンビみたいに両手を前に突き出してフラフラと出て来た。
「もう目隠しを外して良いかね? 気密エラーは無かった様だが」
「そのまま外に出ると下に落ちんぞ。外しゃー良いだろうが」
セレネに言われてシューネはしゅるっと目隠しを外した。目の前に居たセレネと目が合ってお互いドキッとして直ぐに視線を外す。普段乱暴でシューネ自身も暴力女として嫌悪していたセレネだが、実際には黙っていればシューネもドキッとする程の髪の長い色白美少女であった……
「貴様ッ! セレネと何をやっている!!」
「あらま珍しい組み合わせね」
駐機場の下からやって来た、スナコが地声で怒鳴って走って来る。
「ハハハ、ようやくお目覚めかね? 君にぞんざいな扱いを受けている姫に紳士的に接していただけだが?」
「お前、砂緒が来たら急に態度が変わった!?」
言いながらセレネはシューネからもっと離れた。
「セレネさんもセレネさんです、何をやってたんですか?」
「殴るぞ! お前が寝てる間に蛇輪の修理とテストしてたんだろーがっ」
「夫婦喧嘩は犬も食わないな。では私は此処で退散しよう」
言いながらシューネはタラップを降りて、スナコを避けて駐機場から速足で逃げて行った。
「何だアイツは……セレネさん低い胸は大丈夫だと思いますが、触られたり変な事されてませんか!?」
「低い胸が好きな変態も多いわ」
セレネは腕を組んで砂緒を見た。
「……セレネさん話を聞いて下さい。皆して落下する私に重い鎧を着させて……酷いと思いませんか? 人の事を爆弾かあ〇ま山荘事件のハンマーか何かみたいに」
「ん? よーわからんがまーその通りだから仕方ないんじゃねー?」
砂緒の話は止まった。
「私にも心があるって分かっていますか?」
「ど、どーした? いつものお前らしくないな……」
「何となく最終決戦が近付いて来ると、人はおセンチになったりそこいらを飛び跳ねる蛙ですら愛おしく感じる物です……」
砂緒は三白眼の小さな瞳をキラキラさせて遠くを眺めて言った。
「ヘェーそういうモンかねえ」
「ええ、今でも蛙やカブトムシやセレネさんなど、生きている全てが愛おしいのです」
「蛙と一緒にすんなや、チョイスが変だろーが」
「ふぅ、兎に角澄み切った瞳が遠くの景色を綺麗に見せるのです」
「それ死刑囚の心境のヤツやろ?」
また会話が止まった。しかし直ぐに砂緒はセレネの両肩をガバッと掴んだ。
「セレネさんっ!」
「な、何だよ?」
「私は今むしょーに誰かと愛し合いたいのです……」
「恥ずかし過ぎるだろが」
二人を目を細めて渋い顔で見ていたメランが気を利かせた。
「じゃ、私達はこれで、行こ兎幸ちゃん」
「え、なんでー?」
「いいからっ」
兎幸の腕を強引に引っ張って、二人はそそくさと去って行った。
「二人が去った今端的に言います。出撃までの短時間でささっと子作りしませんか?」
セレネはコケた。
(スナコのままでか!? 倒錯してんな……)
「短時間でささっと子作りなどしとーないわっ本能だけで生きてるのかよ?? ……い、今までそんな機会いっぱいあったのに、全部お前がフイにして来たんだろーが。この腰抜けめが」
セレネは多少恨みが籠った目で見た。
「面目ない……今何故か全ての物事がキラキラして見えるのです、何故でしょう?」
「だからその死刑囚の心境やめい!」
しかし砂緒は何時になく思いつめた表情になった。
「……突然雪乃フルエレ女王の義弟にされてしまって、チマタノカガチなどとも戦わねばならなくなってしまった……このモヤモヤな気持ち、セレネさんに分かりますかっ!?」
「分からんわ……」
だがそのままセレネは恥ずかしそうな顔をしてモジモジしながら少し沈黙した後、ようやく口を開いた。
「じゃあキスならいいよ……」
「お、よ、良いのでしょうか?」
「恥ずかしいからそれ以上言うな」
と、言いつつセレネは目を閉じた。何だかんだ言いながら凄く久しぶりな二人のキスであった……
バーーーンッ!!
だが砂緒がおずおずとセレネに顔を近付けた直後、一階の鉄扉が勢い良く開き反射的に砂緒とセレネはピョーンと飛んで、離れてお互いあらぬ方向を見つめた。
「スナコちゃん! 此処にいたのね? もう発射準備よ!! ……あらセレネも居たのね」
突然やって来たのは雪乃フルエレ女王であった。
「フルエレ……」
(フルエレさん絶対にワザとやってるでしょう?)
コツコツコツッ
フルエレは躊躇なく物凄い勢いで階段を上がって来た。
「あら、何かしてたの? ごめんなさい……でも時間が無いわ、もう行かなきゃ」
「え、ええまあ……行きますよ」
砂緒は不満を押し込んでフルエレの為に行く事にした。セレネもそんな彼を見て同意したのだった。
「そうだな」
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