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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
スナコちゃん再々降臨!! ⑦ ル・ツー覚醒
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『セレネッ! 魔法剣よっ』
外から迫る千岐大蛇の大牙と、操縦席に転がるスナコのうめき声にセレネとしては珍しく一瞬だけパニック状態となったのだが、そこへ下の座席からフルエレの声が響いた。その声にハッとして、荒涼半島の希少金属を此処クラウディア王国で鍛えた魔法剣を、腰に下げている事を思い出しサッと抜いた。
ガシッ!!
かなり巨大なチマタノカガチの牙を剣で受け止めると、氷魔法を展開して魔法剣を巨大化しカガチの口を内部から切り裂いた。
ボトッ
下あごから切り離された上あごと頭部が無造作に地上に落下して行く。
『フルエレさんありがと! それよか通常の戦いならあたしの魔力で充分だからさ、上がって来てくれ! 砂緒の様子が変なんだよ』
カシャッ
セレネが言った直後にもうシャッターが開いて雪乃フルエレ女王がひょいっと頭を出した。
『セレネどうしたの?』
『はやっ砂緒が高熱発してうなされてるみたいな状態なんだ、どうすればいい?』
『セレネ、前前、まだカガチが迫って来てるわよ!』
素早く上の操縦席に入ったフルエレが、砂緒を介抱しながらセレネに戦闘に集中する様促した。セレネが気付くと最初のカガチの首に続いて、ナイアガラの大瀑布の如く次々に高所からチマタノカガチの首が降りては攻撃を繰り出して来た。
『わかってるっ!!』
ガシーーン! カキーーーン!!
セレネは前から降りて来たカガチの牙をいなし、そして最初にやった通り氷の魔法剣を最大化して切り裂いて行く。
「砂緒? どうしたの、しっかりして!!」
(やっぱり蛇輪ちゃん、消えてしまったの!?)
パシパシパシパシパシ……
無言になった蛇輪を心配しながらも、無造作にフルエレはスナコの美しい頬をバンバン叩き始めた。
「うぶぶぶぶぶっ!?」
「ぎゃーーーーっ!? フルエレさんやめやめ。優しく介抱して下さい」
「え、どうするの?」
「え? た、たとえば乳を触らせるとか……」
一瞬の沈黙が。
「やめて、私そういう冗談が大嫌いなの」
セレネは本気であった。
「いーから、なんとかして砂緒を元気付けてあげて下さい! あたしは戦闘に集中しますよっ」
「わ、わかった犬猫みたいに頭を撫で続けるわっ!」
「は、はぁ……」
フルエレは大変気立てが優しい女王であったが、家事や料理や人助けなどは苦手であった……
「危ないっ!」
「でやーーーーーっ!!」
等と言っている間にも怒涛の攻撃が蛇輪に迫り、遂に魔法剣を握る腕をガッチリと噛まれてしまう。噛まれると言っても相手は巨大なので、もはや飲み込むに近い状態であった。そのカガチの大口の中で剣の柄から唾液で指が滑り、手から抜け落ちそうになる。この状態では魔力を完全に伝える事が出来ず、氷の魔法剣を展開する事は不可能であった。
「セレネッ剣を離して!! 腕ごと飲み込まれたら元も子もないわよ!?」
苦しむスナコの頭を抱きながらセレネの戦いを応援していたフルエレは、彼女に剣を諦める様に叫んだ。
「嫌だっ! これは砂緒と一緒に作った剣なんだっ絶対に離さない!!」
等とセレネが叫んでいる間にも、他の首が大口を開けてぐわっと迫って来た。
「離しなさい!!」
「嫌だっ!」
何時になく冷静さを失ったセレネが逡巡する間にも、本当に抜き差しならないくらいにカガチの大口が接近して来た。
「きゃーーっもう駄目だよっああっ」
魔法モニター画面を見つめるフルエレが、恐怖の余り顔を背けた直後であった。
『てやあーーーーーっ!!』
バシィイイイイイイイーーーン!!
突然出て来た何者かが、蛇輪の真横から迫る巨大な頭を吹き飛ばして飛んで行った。
『えっえっ何??』
『ええい、何をしておるかっ! 操縦者よその剣を諦めて腕を抜けい!!』
『ごめんっ!!』
いつの間にかスナコを放置して下の座席に戻っていたフルエレが、謎の救援に驚くセレネの一瞬の隙を突き、カガチの口から剣を離し腕を抜いた。
『ああっあたしの魔法剣が!?』
『とりゃああああっっ!!』
蛇輪の内部でそうした揉み合いを起こす間にも、黒い魔ローダーは切り裂く事は出来ないまでも、蹴りや手刀で巨大なカガチの首を次々に打ち倒して行く。
ベシッガシッッ!!
『えっ!? メランさんが覚醒した??』
『ル・ツーにこんな力が……』
二人が集中力を取り戻してよく見ると、救援に駆け付けたのは地べたを這っているはずの、ル・ツー漆黒ノ天であった。しかもその機体は装甲と各関節が黒くぼうっと光り、おまけに背中からはクロアゲハの羽をイメージさせる黒い魔法粒子の光を吹き出していた。
『私じゃない、私じゃないよーっ!! 真面目に匍匐前進してたら知らないおじいさんが乗って来ちゃって、今めっちゃル・ツー動かしてるっ』
メランは錯乱しているかに思えた……
『同盟の副将機ル・ツーに知らないお爺さん乗せちゃダメ』
『あっダメッ』
『どうしたっメランさん変な事されたりしてないか!?』
『違うのよ、兎幸ちゃんが苦しんでて』
その間にも黒い魔法の粒子を帯びたル・ツーは次々に蛇輪に迫るカガチの首を撃退し続けている。
『何をやっているかっ! 魔法剣は諦めよ、赤い光線が消えた今、蛇輪は今すぐ飛んでカガチの誘引を解けい!!』
『あっそうだ変形忘れてた……でもやっぱりあたしの魔法剣が!?』
(出来るんか?)
『てえいい!!』
『セレネッ今は声の人に従いなさいっ』
空を飛べないル・ツー漆黒ノ天は、敵のカガチの首や頭を飛び跳ねながら次々と撃退し続けているが、やがて徐々に劣勢になって来ていた。セレネはフルエレからも説得されて後ろ髪引かれる思いで魔法剣を諦める事とした。
『分かりました、変形して西の浜まで飛びます! ル・ツーの人も蛇輪の背中に乗って下さい』
『承知ッッ!!』
文章で表現する事が不可能な程の複雑な機構で、蛇輪は一瞬の内に鳥型形態に変形するとザーーッと地面すれすれを飛び、それに走って来たル・ツーがタイミングよく一発でジャンプして飛び乗った。
『なるべく早く飛びます! 声の人落とされないで下さい』
『了解じゃ』
言ったが直後、蛇輪はグンッと速度を一気に上げ、カチンカチンと巨大なアゴで食らい付いてくるカガチの首を振り切って一瞬で高度を上げた。
「お、おいアレって蛇輪じゃないか!?」
「あ奴らでもやはり失敗か……」
「フルエレ様ご無事で良かった……」
仮宮殿の上空をキーーンっと飛び越えて行く蛇輪を見て、フゥーらは複雑な想いを抱いていた。
―クラウディア西の浜。
蛇輪が着地する前に、ひょいっとル・ツーは器用に砂浜に降り立った。そしてしゃがむと兎幸を抱いたメランが先に、そして後から謎の人物が降りてくる。それを見てセレネは剣を構えた。
「貴様、何者だっ!」
「ちょっと止めなさいセレネ、その方は助けてくれた人よ?」
フルエレは操縦席の中でうなされる砂緒の頭を抱きながら言った。
「もう何度か会ったであろう」
「え? あ……アンタは小汚い漁師の爺さん? アンタ魔呂動かせたんか??」
セレネは言いながら一応剣を収めた。
「助けてくれた人を小汚い言っちゃダメ」
フルエレはスナコの汗を拭いながら首を振った……
外から迫る千岐大蛇の大牙と、操縦席に転がるスナコのうめき声にセレネとしては珍しく一瞬だけパニック状態となったのだが、そこへ下の座席からフルエレの声が響いた。その声にハッとして、荒涼半島の希少金属を此処クラウディア王国で鍛えた魔法剣を、腰に下げている事を思い出しサッと抜いた。
ガシッ!!
かなり巨大なチマタノカガチの牙を剣で受け止めると、氷魔法を展開して魔法剣を巨大化しカガチの口を内部から切り裂いた。
ボトッ
下あごから切り離された上あごと頭部が無造作に地上に落下して行く。
『フルエレさんありがと! それよか通常の戦いならあたしの魔力で充分だからさ、上がって来てくれ! 砂緒の様子が変なんだよ』
カシャッ
セレネが言った直後にもうシャッターが開いて雪乃フルエレ女王がひょいっと頭を出した。
『セレネどうしたの?』
『はやっ砂緒が高熱発してうなされてるみたいな状態なんだ、どうすればいい?』
『セレネ、前前、まだカガチが迫って来てるわよ!』
素早く上の操縦席に入ったフルエレが、砂緒を介抱しながらセレネに戦闘に集中する様促した。セレネが気付くと最初のカガチの首に続いて、ナイアガラの大瀑布の如く次々に高所からチマタノカガチの首が降りては攻撃を繰り出して来た。
『わかってるっ!!』
ガシーーン! カキーーーン!!
セレネは前から降りて来たカガチの牙をいなし、そして最初にやった通り氷の魔法剣を最大化して切り裂いて行く。
「砂緒? どうしたの、しっかりして!!」
(やっぱり蛇輪ちゃん、消えてしまったの!?)
パシパシパシパシパシ……
無言になった蛇輪を心配しながらも、無造作にフルエレはスナコの美しい頬をバンバン叩き始めた。
「うぶぶぶぶぶっ!?」
「ぎゃーーーーっ!? フルエレさんやめやめ。優しく介抱して下さい」
「え、どうするの?」
「え? た、たとえば乳を触らせるとか……」
一瞬の沈黙が。
「やめて、私そういう冗談が大嫌いなの」
セレネは本気であった。
「いーから、なんとかして砂緒を元気付けてあげて下さい! あたしは戦闘に集中しますよっ」
「わ、わかった犬猫みたいに頭を撫で続けるわっ!」
「は、はぁ……」
フルエレは大変気立てが優しい女王であったが、家事や料理や人助けなどは苦手であった……
「危ないっ!」
「でやーーーーーっ!!」
等と言っている間にも怒涛の攻撃が蛇輪に迫り、遂に魔法剣を握る腕をガッチリと噛まれてしまう。噛まれると言っても相手は巨大なので、もはや飲み込むに近い状態であった。そのカガチの大口の中で剣の柄から唾液で指が滑り、手から抜け落ちそうになる。この状態では魔力を完全に伝える事が出来ず、氷の魔法剣を展開する事は不可能であった。
「セレネッ剣を離して!! 腕ごと飲み込まれたら元も子もないわよ!?」
苦しむスナコの頭を抱きながらセレネの戦いを応援していたフルエレは、彼女に剣を諦める様に叫んだ。
「嫌だっ! これは砂緒と一緒に作った剣なんだっ絶対に離さない!!」
等とセレネが叫んでいる間にも、他の首が大口を開けてぐわっと迫って来た。
「離しなさい!!」
「嫌だっ!」
何時になく冷静さを失ったセレネが逡巡する間にも、本当に抜き差しならないくらいにカガチの大口が接近して来た。
「きゃーーっもう駄目だよっああっ」
魔法モニター画面を見つめるフルエレが、恐怖の余り顔を背けた直後であった。
『てやあーーーーーっ!!』
バシィイイイイイイイーーーン!!
突然出て来た何者かが、蛇輪の真横から迫る巨大な頭を吹き飛ばして飛んで行った。
『えっえっ何??』
『ええい、何をしておるかっ! 操縦者よその剣を諦めて腕を抜けい!!』
『ごめんっ!!』
いつの間にかスナコを放置して下の座席に戻っていたフルエレが、謎の救援に驚くセレネの一瞬の隙を突き、カガチの口から剣を離し腕を抜いた。
『ああっあたしの魔法剣が!?』
『とりゃああああっっ!!』
蛇輪の内部でそうした揉み合いを起こす間にも、黒い魔ローダーは切り裂く事は出来ないまでも、蹴りや手刀で巨大なカガチの首を次々に打ち倒して行く。
ベシッガシッッ!!
『えっ!? メランさんが覚醒した??』
『ル・ツーにこんな力が……』
二人が集中力を取り戻してよく見ると、救援に駆け付けたのは地べたを這っているはずの、ル・ツー漆黒ノ天であった。しかもその機体は装甲と各関節が黒くぼうっと光り、おまけに背中からはクロアゲハの羽をイメージさせる黒い魔法粒子の光を吹き出していた。
『私じゃない、私じゃないよーっ!! 真面目に匍匐前進してたら知らないおじいさんが乗って来ちゃって、今めっちゃル・ツー動かしてるっ』
メランは錯乱しているかに思えた……
『同盟の副将機ル・ツーに知らないお爺さん乗せちゃダメ』
『あっダメッ』
『どうしたっメランさん変な事されたりしてないか!?』
『違うのよ、兎幸ちゃんが苦しんでて』
その間にも黒い魔法の粒子を帯びたル・ツーは次々に蛇輪に迫るカガチの首を撃退し続けている。
『何をやっているかっ! 魔法剣は諦めよ、赤い光線が消えた今、蛇輪は今すぐ飛んでカガチの誘引を解けい!!』
『あっそうだ変形忘れてた……でもやっぱりあたしの魔法剣が!?』
(出来るんか?)
『てえいい!!』
『セレネッ今は声の人に従いなさいっ』
空を飛べないル・ツー漆黒ノ天は、敵のカガチの首や頭を飛び跳ねながら次々と撃退し続けているが、やがて徐々に劣勢になって来ていた。セレネはフルエレからも説得されて後ろ髪引かれる思いで魔法剣を諦める事とした。
『分かりました、変形して西の浜まで飛びます! ル・ツーの人も蛇輪の背中に乗って下さい』
『承知ッッ!!』
文章で表現する事が不可能な程の複雑な機構で、蛇輪は一瞬の内に鳥型形態に変形するとザーーッと地面すれすれを飛び、それに走って来たル・ツーがタイミングよく一発でジャンプして飛び乗った。
『なるべく早く飛びます! 声の人落とされないで下さい』
『了解じゃ』
言ったが直後、蛇輪はグンッと速度を一気に上げ、カチンカチンと巨大なアゴで食らい付いてくるカガチの首を振り切って一瞬で高度を上げた。
「お、おいアレって蛇輪じゃないか!?」
「あ奴らでもやはり失敗か……」
「フルエレ様ご無事で良かった……」
仮宮殿の上空をキーーンっと飛び越えて行く蛇輪を見て、フゥーらは複雑な想いを抱いていた。
―クラウディア西の浜。
蛇輪が着地する前に、ひょいっとル・ツーは器用に砂浜に降り立った。そしてしゃがむと兎幸を抱いたメランが先に、そして後から謎の人物が降りてくる。それを見てセレネは剣を構えた。
「貴様、何者だっ!」
「ちょっと止めなさいセレネ、その方は助けてくれた人よ?」
フルエレは操縦席の中でうなされる砂緒の頭を抱きながら言った。
「もう何度か会ったであろう」
「え? あ……アンタは小汚い漁師の爺さん? アンタ魔呂動かせたんか??」
セレネは言いながら一応剣を収めた。
「助けてくれた人を小汚い言っちゃダメ」
フルエレはスナコの汗を拭いながら首を振った……
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