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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

スナコちゃん再々降臨!! ③ フゥーの苛立ち

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『何なんだよ、こっちはわざわざセブンリーフからクラウディアくんだりまで来てやってんだ、サクッと砂緒とフルエレさんの言う事聞いてダムを壊せや』

 セレネは自ら付かず離れず千岐大蛇チマタノカガチを誘引して川上に誘い込むという困難な作業をしている最中であり、意思の不一致が見られるヌッ様組に苛立った。しかしその乱暴な言い方が、余計にフゥーを苛立たせた。

『やりたくありません』
『はぁ? フゥーお前、自分だけがヌッ様を動かせると思って調子に乗ってないか?』

 カチンと来たセレネが即座に反応した。

『確かにセレネさんが百パーセント正しい。奴隷風情のフゥーはさっさと命令に従いなさい』

 仲間以外にはデリカシー0の砂緒の霊魂が火に油を注いだ。

『元々チマタノカガチはマタマタの巣付近に居たのですから、セレネ様がこのダム湖まで誘引して下されば済む事です。ダムを破壊するには及びません……』

 元々気が強く、大嫌いな砂緒への加勢が許せないフゥーは一歩も引き下がらなかった。

『誘引せぇだ? こっちは命懸けで引っ張ってんだ、いつカガチが水の誘惑に引っ張られて内海湖に行くか分からんだろーがっ? もしそうなったらどんな被害が出るか分からんぞ。つべこべ言わずに命令に従え裏切娘がっ!』

 確かにセレネの言う通りだった。カガチはふらふらと飛びながら、時折北に向かいそうになるのを、危うくセレネがなんとか引っ張っている状況であった。しかし二人のやり取りは周囲に居る男には引くくらいの言い合いと思われ、常識的な猫弐矢ねこにゃと紅蓮が焦った。

『セレネちゃん言い過ぎじゃないかな? 君の操縦の苦労は充分分かっているよ』
『フゥーくん、いつもの君らしくないぞ、そのくらいで引き下がってダムを決壊させるんだ』

 しかし二人の説得にも関わらずフゥーは動こうとしない。

『おーーもーーえーわい。じゃあカガチを誘引するの止めるわ! お前らだけで何とかせーや』
『セレネッ何言ってるの? そんな訳に行かないって砂緒さんに聞いたでしょ?? 貴方が悪者になるのよ』

 売り言葉に買い言葉でキレたセレネを慌ててメランが制止する。

『フゥーもう良いでしょ? お願いだから砂緒の言葉に従って上げて。貴方が砂緒が嫌いなのは充分理解出来るわ。だって貴方の大切なメドース・リガリァの仲間たちを倒した男ですものね、でも今は従って欲しいの』

 それまで黙っていた雪乃フルエレが言った言葉にフゥーはハッとした。フルエレ女王の大切なフィアンセ同様であった為嘉なかアルベルトを殺したメドース・リガリァ軍所属だった自分を、わだかまり無く仲間同様に大切に扱ってくれていた気持ちを、自分こそが理解していなかった。それに気付かず自分が甘えていた事に気付いた。

(フルエレ様だって、メドース・リガリァ軍だった私の事が憎いハズ、それなのにそんな事一言も言わないし、態度にも出された事は無い。それなのに、砂緒やセレネが嫌いだなんて小さな事で……恥ずかしい)
「……フルエレ様申し訳ありません……私の事を憎んでも憎み切れないはずなのに。なるべく被害が大きくならない様に、迅速にダムを破壊します!!」

 もう先程までのフゥーとは全く違う、凛とした態度でフルエレの目を見て言った。

『ううん、私本当にフゥーちゃんの事憎いとか一度も思った事ないもの! メドース・リガリァ軍全員が悪い訳じゃない……アルベルトさんが新ニナルティナを守った時、貴方はもう捕虜だったじゃない。でもお願いを聞いてくれて嬉しいわ』

 フゥーが敢えて砂緒達に聞こえない様に、魔法通信に入らない様に話した事を、フルエレは魔法通信でセレネ達に聞こえる様に言った。

『茶番は良いです、さっさとやりなさい』
『コラーーーーッ!! 雰囲気をぶち壊すなーーーっ!』

 空気を一ミリも読まない砂緒の発言にメランは焦ったが、フゥーはもはや砂緒の言葉など気にせず、フルエレの為に命令に従う事とした。

(フルエレちゃん……姉上に似て美人というだけじゃなく、女王としての資質もある様だ……)

 紅蓮は頑ななフゥーの心を一瞬で変えたフルエレに驚いた。

『では四の五の言わずに早速やります。はぁあああああああ、正拳突き!!』

 フルエレの言葉で迷いが消えたフゥーはヌッ様の身を最大限屈め、拳で作ったばかりのダムを破壊した。途端に急場の脆いダムは、ゴバアッと大きな音を立てて崩れて大量の水が溢れ出した。

『GSX-R25隊の皆さん、新しい川の方を埋めて下さい! 私も手伝います!!』

 フゥーは間髪入れずに、方向を変えた川の埋め立てを急いだ。

『有難うフゥーちゃん』
『いえ、フルエレ様と皆さんの為です。洪水の被害が小さければ良いのですが』

 フゥーは心配顔でフルエレを見た。

『シェーッさん、魔戦車部隊に避難洩れが無いか再度点検させて! あっ魔戦車の皆さんも増水した川の水に流されない様に!』
『お任せ下さいフルエレ女王陛下』

 話を黙って聞いていた貴城乃たかぎのシューネは、仮宮殿で魔法通信機に向かって頭を下げた。

美柑ミカさま、する事が無いのであれば空を飛んで避難洩れが無いか見て回って頂きたい」

 シューネは他人事の様に紅茶を飲み、お菓子を食べている美柑に向かって言った。

「……私も聞いててそうしなきゃって思ってたよっ! けど意外、私のご機嫌を取る為に、そんな事言わないと思ってたよ」

 美柑は多少お行儀が悪いが、紅茶とお菓子の速度をスピードアップしながら言った。

「若君が選んだパートナーです、民の被害を無視する様ないい加減な少女な訳が無い」
「……」

 シューネの余りに真っ直ぐな物言いに、美柑はしばし言葉を失った。有難うという場面なのか、それともおほほと青臭いと笑うべきなのか、良く分からなかった。

「有難うと言うべきかしら、でも買い被り過ぎかもよエヘヘ!?」

 等と言いつつも、紅蓮が選んだパートナーという部分で少し赤面しながら美柑は飛んで行き、有能メイドさんが手を振った。


 ザザザーーーーーッ!!
 水が引いていた川に、再び茶色い水が怒涛の勢いで戻って来た。もともと急場で作ったダムであり、しかも違う方向に水の流れを逃がしていた物だから、懸念されていた程の激流とはならずに、洪水の被害は極小で済んでいた。しかし水の匂いは確実にチマタノカガチの感じる所となり、セレネの誘引とは無関係に川の水に引かれる様に南に向かい始めた。

『むむっ誘引が上手く行った様だ』
『みて、復活した川の水の上で停止したわ』

 セレネとメランが言っている間に川の水の上で浮かぶカガチは、再び浮遊したまま根を張り水の供給を確保し始めた。

『むっ、目をつぶり始めた?? 浮いたまま寝てるぞ……器用なやっちゃなー』

 セレネが言った様に、いつの間にか日の出の時間になっており、それに呼応するかの様に、チマタノカガチはようやく再びの眠りに就き始めた。

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