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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後⑪ お、お前!?

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『ぐわあ、なんじゃこりゃあ!?』
『うげっなんかキモイわねえ、びっしりと……』
『何が見えるんだ!?』

 千岐大蛇の後ろに回り込み背後を見て、具体性を欠くセレネとメランの実況にもどかしくて紅蓮アルフォードが思わず叫んだ。

『スマンスマン、なんかカガチの後ろからいっぱい尻尾が生えてて、川から水を供給してる感じだわ』

 セレネの言う通り、この川の水がカガチの再生の為の材料となっている様であった。

『セレネじゃあそれを切って回って頂戴!!』
『切断してくれ、頼むセレネくん!』
『あの皆さん、メランちゃんという可愛い魔導士もいますよ』
『よく分からないがその子も頼むよ』

 雪乃フルエレ女王と猫弐矢が立て続けに依頼して、即座に無視されたメランが不満を言うと優しい紅蓮がフォローした……

『よっしゃ!!』
『言われんでも切りまくるわっ!』

 言うや否やセレネはギュイーンと旋回して距離を取り、光の輪から剣を発生させ、同時にメランは魔砲ライフルの巨大な弾倉を捨て付け替えた。
 ドンドンドンドン!!
 シュパパパパパパパ!!
 再び両者の攻撃が雨あられとチマタノカガチの尻尾達を切り刻み始めた。

『よし、セレネくん達が尻尾を切ってくれてる内に、こちらも全力で首を削ろう!!』
『はい! 猫弐矢さま!!』
『皆済まない、何も協力出来なくて』

 ヌッ様に乗る猫弐矢とフゥーが意気込むと、司令部に居残った貴城乃シューネが不甲斐なさに落ち込んだ。

『ううん、全体の指揮者は必要よ! これが終わったらまた猫呼で可愛いエプロンを着て頂戴!』
『エプロンて何なんだシューネ!?』
『そ、それは……』

 シューネは本来敵であり、側女にしたい等と思ってるフルエレに優しい言葉と恥ずかしい情報を同時に言われ、どうすれば良いか困惑して言葉に詰まる。

『はぁはぁ、行きます! どおおおりゃああああああ!!!』

 フゥーは内心、フルエレとシューネの間に何があったのだろうと、仲良さげな雰囲気がして一瞬戸惑ったが、そんな事は忘れて目の前のカガチの巨体に全てをぶつけた。
 ドカーーン! バカーーーン!!
 次々にキックにパンチと爆発力の発生する攻撃を繰り返す。後ろで水の供給源が断たれたカガチは、紅蓮が正確に首の状態を見つめたが、再生して復活している様子は無かった。

『行けるぞ! これなら頑張ればコイツを倒せるぞっ!!』
『ハイッ!! 頑張ります!!』

 フゥーは緊張と皆の役に立っている興奮で、額に汗を滲ませながら戦い続けた。

『よーし、全部の尻尾を切断したんじゃね?』
『じゃあ、私達も後ろから……きゃーーーっ!?』

 突然メランが叫び声を上げて一同びっくりする。

『どうしたメランちゃん!?』
『紅蓮くんって女の子好きなのね?』
『そんな事どうでも良い、セレネくんどうしたの??』

 慌てて猫弐矢が間に割って入る。

『あーっカガチが川に向かって後退を始めた。気付かないのか!?』
『いや、フゥーくんは全身を使って格闘してるから、分かりにくい』

 確かに尻尾を切られたカガチは、じりじりと川に向かって後退を始めた。

『ヤバイね、川に浸かって水を供給され続けたら、もう倒せなくなるよ!』
『ハイ!』
『モズよ、カガチの移動を止めよ! 何をしているかっ』

 現場に居ないシューネが、状況を聞いて即座に夜叛モズに発破を掛けた。

『先程からやっておるわっ!! もはやこの巨体を絶対服従でどうこうする事など無理ッ!! 悔しければ此処に来て下され』
『……』
『シューネさん、今更来ても無意味よ。食われれば逆効果だわ。そこで避難民の事だけを考えて』

 フルエレ女王の言葉は単に優しいだけでは無く、冷静でもあった。

『女王の言葉に従おう』
『あーーーーダメッ!』
『浸かっちゃった……』

 二人の言葉で、遂に後退していたカガチの巨体の一部が川に浸かった事が判った。

『川の方向を変えるか? せき止めるか?』
『余っているGSXを派遣しようか?』

 紅蓮の言葉をシューネが拾った。

『気の長い話だなあ?』
『ねえ、悔しいけど一旦攻撃を止めない? 今の所攻撃すればするほどカガチを強化しちゃうじゃない!』

 メランの言葉に皆が冷静になった。

『実は……理由は分からないが、このカガチはクラウディア王国旗機、ル・ツー漆黒ノ天に誘引されてるみたいなんだ』

 いきなりセレネがハッタリを言った。本当にカガチを誘引してるのは、蛇輪かル・ツーか中に乗ってる誰かかその全てかは不明である。ただ、地元機ル・ツーが一番それっぽくてチョイスしたのだ。

『そうなのかい?』
『うーん、残念ながらそうみたいねえ』

 猫弐矢の問いに、なんとなくセレネの意図を理解したメランが同調した。

『セレネ、だから?』
『フルエレさん、だから鳥仮面犯罪者が絶対ナンタラを解除しても、私がル・ツーを乗せて反対方向に飛んだりして撒いてたら、夜明けまでの時間を稼ぐ事は出来るハズだよ』
『なるほど……』

 その言葉に渡りに船とモズが反応した。

『では早速解除致しますぞ!』
『なんかムカツクがやってみろや』

 セレネの言葉に甘えてモズは即座に魔呂スキルを解除して、息苦しいハッチを開けた。しかし本当にセレネの予測通り、仮宮殿に向かう事無くセレネの飛ぶ方向にじりじり向かった。

『川から出るんじゃね?』

 しかしセレネの淡い期待を裏切り、蛇輪を追い掛ける方向に一旦向かうが、川からははみ出ない様に止まった。

『ちょうど力の均衡で止まったみたいだな、悪いが夜明けまで蛇輪はその位置をキープしてくれないか?』
『めちゃくちゃ言うな』
『その間に川の方向変えるなり、せき止めるなりするしかないな』
『域外の帝国古典に見える水攻めみたいですなあ』
『お前らあたしらに丸投げで帰る用意してるだろ!?』
『違います! 私は凄く悔しいです……今日も勝つ事が出来なくて……』
『キミは悪く無いよフゥーちゃん』
『紅蓮さん?』
『紅蓮くんって女の子見境無しなのね、可愛いわ』

 フゥーの肩に手を置いて慰める紅蓮を見て、フルエレがクスッと笑った。

『もう家帰るか? なんかこんな奴ら知らんわーーっ』
『私も疲れたわ、帰る?』

 二人はヌッ様組と通信を切って話した。

『……それは許されません、帰らないで下さい』
『もしかして砂緒かっ!?』
『ち、違うわよ、砂緒さんじゃない、声が違うでしょ』
『砂緒じゃ無いよー』

 兎幸もメランも何故か慌てて否定した。

『じゃ、お、お前誰なんだよ? キモイな幽霊かよ』

 セレネは怖がって左右を見た。

『あははっ分かりませんか? 私ですよ私、いつも一緒に居るじゃないですか~水くさいですよ!』
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