上 下
526 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後⑧ 三人で出撃!!

しおりを挟む

 ―視点を、東の地クラウディア王国の西の浜に戻す。
 フゥーを先頭に、猫弐矢ねこにゃと紅蓮アルフォードと彼に手を引かれた雪乃フルエレ女王が、砂浜に置かれた透明の巨大な球体の前に立ち、次々としゅるっと吸い込まれていく。

「ちょっと美柑ミカ、何をしている早く入るんだっ!」

 球体の前で立ち尽くす美柑に紅蓮が大声で叫んだ。通常の魔ローダーの操縦席の様に決して狭いとかそういう訳では無い。それよりも紅蓮に手を引かれて姉の夜宵やよい姫こと雪乃フルエレ女王が入って行った事が引っ掛かるのだった。幸い彼女はパピヨンマスクの美柑が、実は妹の依世イヨとは露とも感じていない様ではあるが、美柑は同じ空間に入り込む事に躊躇していた。

「ええいっ早く来て! 美柑がいないとダメなんだっ!!」

 フルエレの手を引いていたかと思えば、今度は紅蓮はそんな恥ずかしい台詞を言った。

「もぅ……わかったわよぉ……」

 ちょっとだけ微妙な笑顔が戻り、少し赤面した美柑がおずおずと球体に吸い込まれた。

「いらっしゃい美柑ちゃん!」

 入った途端にフルエレ女王は、美柑に向けて天使の様な笑顔で言った。

「は、はぁ」
(お姉さまなんて優しい笑顔……ジャナイジャナイ、何でいきなり上から目線なの? 私の方がヌッ様の先輩なのよっ)

 姉夜宵は自分の事を嫌いに違いないという想いが、いつしか依世自身にも姉への不信感を醸成させる結果となっていた。

「よし、フゥーちゃん役者は揃ったよ。早速ヌッ様を生成してくれないかっ!」

 ヒーロー顔イケメンの少年、紅蓮のお陰で急に影が薄くなった眼鏡優男の猫弐矢ねこにゃが意気揚々と言った。彼はとことんヌッ様に乗れる事が嬉しかったのだった。

「はい!!」

 言われてフゥーは目の前の操縦桿を握った。

「そうだフルエレくん、フゥーくんの操縦桿に手を添えてみてくれないか? そうすればフルエレくんの巨大な魔力で最初から超々サイズのヌッ様が生成出来るかもしれない」
「あ、それは是非お願いします!」

 フゥーからもフルエレの顔を見てお願いした。

「うん、やってみるよ!」

 フルエレは最近の女王としての顔よりも、元の魔法機械好きの砂緒と出会った頃の純真な少女の雰囲気に戻っていた。

(お姉さま……そんな表情を)

 無言のまま美柑は二人の様子を見つめた。

「行くわよっヌッ様お願い、もう一度起動して下さい!!」

 フゥーが目を閉じて祈ると、外部から魔戦車隊の隊員達が人力で球体を押して海面に浮かべた……

『人力かよ』

 既に蛇輪の操縦席から様子を眺めていたセレネが呟いた。
 ごぼごぼご……
 フゥーがひたすら祈り続けると、周囲の海面が波打って球体を沖に流し始めた。

『うお始まるのか?』
『怖いわぁ』

 ある程度沖に流された球体に対し、最初と同じ様に海水が渦になって集まり、やがて各骨格や機関が形成されて行く。

(す、凄いわぁ、海水が魔法機械に変わって行く!)

 フルエレが間近で見る形成された各部品は半透明という程では無いが、うっすらと中身が透過して見える様な不思議な素材に感じた。


 十数分後……

『け、結構時間かかんな』
『早めに起動して良かったわね』

 遂に巨大な魔ローダーヌッ様が再び生成され海面に立ち尽くした。しかし……伝説の十Nキロという大きさには程遠い。

「うーむ、なんだか前回の三百Nメートルの時と大差無いというか同じと言うか。もしかして魔力量は関係無く、呼び出す巫女の力に依拠してるのかな?」
「申し訳ありません……」

 残念がる猫弐矢にフゥーが頭を下げた。

「フゥーちゃんは悪くないわよ。こんな凄い物を呼び出せるだけで偉大な才能だわっ」
「フルエレさま……ごめんなさい、私、貴方と貴方の仲間に酷い事して去ったばかりなのに」

 フゥーはフルエレの屈託の無い優しい言葉に思わず涙ぐんだ。

「フゥーちゃんは悪く無いわよ。私だって家を出てみたいと……あっこれは内緒よ」

 今度はフルエレは指を立ててウインクした。それをじとっとした目で見ていた美柑は何故か面白くない気持ちだった。

(私が貴方の手足となって各地で暗殺してた時、そんな風に優しく話し掛けてくれたかしら)

 もはやなんだか遠い昔の様な気がして来て、どういう姉妹であったかすら分からなくなって来た。

『よーしじゃああたしらも行くよっ!』
『うおりゃあああああああ!!』

「私も行きます! 凄い、フルエレ様がいらっしゃると機体が凄く軽い!!」

 鳥形で滑空する蛇輪の背中に魔砲ライフルを抱えたル・ツー漆黒ノ天が飛び乗った。飛ぶ燕を追い掛ける人間の様に巨大なヌッ様もバシャバシャ走り出す。

「フルエレちゃんは、魔法機械が好きなんだ?」
(凄い、本当に姉上にそっくりだ……いやいや違う違う、こんな綺麗な金髪で歳も全然違う。むしろ断然フルエレちゃんの方が可愛い。ちらつく姉上の顔は消そう)

 話し掛けながら紅蓮はフルエレそっくりな自分に厳しい姉の幻影を振り払った。

「あははっ私魔力はあるけど魔法が使えないから……魔法機械が好きになっちゃって……」
(あれっこの台詞、砂緒に言ったのと同じ内容だ)

 フルエレも紅蓮の顔を少し赤面しながら見つめて言った。

(なんですかーーコレーーーーー!!! はいはい、その魔法が使えない原因を作ったのは私ですよ)

 その後ろで美柑が恐ろしくじとっとした目で二人を睨みつけた。

「フルエレちゃん、何だか僕はキミと初めて会った気がしないよ……」
「えっ?」

 二人は再び見つめ合った。

(それは、そっくりな貴方のお姉さまと、夜宵お姉さまの妹の私の顔を見続けたからです!)

「私……とても大切な人を最近亡くしたんです」
「そ、そうなんだ? それは心が辛いでしょうね……」

 紅蓮はそれ以上何も言う事が出来なかった。

「おいどんば、外に出て戦いもんそ」

 もう堪らないという顔をして、美柑がすくっと立ち上がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...