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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後⑧ 三人で出撃!!

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 ―視点を、東の地クラウディア王国の西の浜に戻す。
 フゥーを先頭に、猫弐矢ねこにゃと紅蓮アルフォードと彼に手を引かれた雪乃フルエレ女王が、砂浜に置かれた透明の巨大な球体の前に立ち、次々としゅるっと吸い込まれていく。

「ちょっと美柑ミカ、何をしている早く入るんだっ!」

 球体の前で立ち尽くす美柑に紅蓮が大声で叫んだ。通常の魔ローダーの操縦席の様に決して狭いとかそういう訳では無い。それよりも紅蓮に手を引かれて姉の夜宵やよい姫こと雪乃フルエレ女王が入って行った事が引っ掛かるのだった。幸い彼女はパピヨンマスクの美柑が、実は妹の依世イヨとは露とも感じていない様ではあるが、美柑は同じ空間に入り込む事に躊躇していた。

「ええいっ早く来て! 美柑がいないとダメなんだっ!!」

 フルエレの手を引いていたかと思えば、今度は紅蓮はそんな恥ずかしい台詞を言った。

「もぅ……わかったわよぉ……」

 ちょっとだけ微妙な笑顔が戻り、少し赤面した美柑がおずおずと球体に吸い込まれた。

「いらっしゃい美柑ちゃん!」

 入った途端にフルエレ女王は、美柑に向けて天使の様な笑顔で言った。

「は、はぁ」
(お姉さまなんて優しい笑顔……ジャナイジャナイ、何でいきなり上から目線なの? 私の方がヌッ様の先輩なのよっ)

 姉夜宵は自分の事を嫌いに違いないという想いが、いつしか依世自身にも姉への不信感を醸成させる結果となっていた。

「よし、フゥーちゃん役者は揃ったよ。早速ヌッ様を生成してくれないかっ!」

 ヒーロー顔イケメンの少年、紅蓮のお陰で急に影が薄くなった眼鏡優男の猫弐矢ねこにゃが意気揚々と言った。彼はとことんヌッ様に乗れる事が嬉しかったのだった。

「はい!!」

 言われてフゥーは目の前の操縦桿を握った。

「そうだフルエレくん、フゥーくんの操縦桿に手を添えてみてくれないか? そうすればフルエレくんの巨大な魔力で最初から超々サイズのヌッ様が生成出来るかもしれない」
「あ、それは是非お願いします!」

 フゥーからもフルエレの顔を見てお願いした。

「うん、やってみるよ!」

 フルエレは最近の女王としての顔よりも、元の魔法機械好きの砂緒と出会った頃の純真な少女の雰囲気に戻っていた。

(お姉さま……そんな表情を)

 無言のまま美柑は二人の様子を見つめた。

「行くわよっヌッ様お願い、もう一度起動して下さい!!」

 フゥーが目を閉じて祈ると、外部から魔戦車隊の隊員達が人力で球体を押して海面に浮かべた……

『人力かよ』

 既に蛇輪の操縦席から様子を眺めていたセレネが呟いた。
 ごぼごぼご……
 フゥーがひたすら祈り続けると、周囲の海面が波打って球体を沖に流し始めた。

『うお始まるのか?』
『怖いわぁ』

 ある程度沖に流された球体に対し、最初と同じ様に海水が渦になって集まり、やがて各骨格や機関が形成されて行く。

(す、凄いわぁ、海水が魔法機械に変わって行く!)

 フルエレが間近で見る形成された各部品は半透明という程では無いが、うっすらと中身が透過して見える様な不思議な素材に感じた。


 十数分後……

『け、結構時間かかんな』
『早めに起動して良かったわね』

 遂に巨大な魔ローダーヌッ様が再び生成され海面に立ち尽くした。しかし……伝説の十Nキロという大きさには程遠い。

「うーむ、なんだか前回の三百Nメートルの時と大差無いというか同じと言うか。もしかして魔力量は関係無く、呼び出す巫女の力に依拠してるのかな?」
「申し訳ありません……」

 残念がる猫弐矢にフゥーが頭を下げた。

「フゥーちゃんは悪くないわよ。こんな凄い物を呼び出せるだけで偉大な才能だわっ」
「フルエレさま……ごめんなさい、私、貴方と貴方の仲間に酷い事して去ったばかりなのに」

 フゥーはフルエレの屈託の無い優しい言葉に思わず涙ぐんだ。

「フゥーちゃんは悪く無いわよ。私だって家を出てみたいと……あっこれは内緒よ」

 今度はフルエレは指を立ててウインクした。それをじとっとした目で見ていた美柑は何故か面白くない気持ちだった。

(私が貴方の手足となって各地で暗殺してた時、そんな風に優しく話し掛けてくれたかしら)

 もはやなんだか遠い昔の様な気がして来て、どういう姉妹であったかすら分からなくなって来た。

『よーしじゃああたしらも行くよっ!』
『うおりゃあああああああ!!』

「私も行きます! 凄い、フルエレ様がいらっしゃると機体が凄く軽い!!」

 鳥形で滑空する蛇輪の背中に魔砲ライフルを抱えたル・ツー漆黒ノ天が飛び乗った。飛ぶ燕を追い掛ける人間の様に巨大なヌッ様もバシャバシャ走り出す。

「フルエレちゃんは、魔法機械が好きなんだ?」
(凄い、本当に姉上にそっくりだ……いやいや違う違う、こんな綺麗な金髪で歳も全然違う。むしろ断然フルエレちゃんの方が可愛い。ちらつく姉上の顔は消そう)

 話し掛けながら紅蓮はフルエレそっくりな自分に厳しい姉の幻影を振り払った。

「あははっ私魔力はあるけど魔法が使えないから……魔法機械が好きになっちゃって……」
(あれっこの台詞、砂緒に言ったのと同じ内容だ)

 フルエレも紅蓮の顔を少し赤面しながら見つめて言った。

(なんですかーーコレーーーーー!!! はいはい、その魔法が使えない原因を作ったのは私ですよ)

 その後ろで美柑が恐ろしくじとっとした目で二人を睨みつけた。

「フルエレちゃん、何だか僕はキミと初めて会った気がしないよ……」
「えっ?」

 二人は再び見つめ合った。

(それは、そっくりな貴方のお姉さまと、夜宵お姉さまの妹の私の顔を見続けたからです!)

「私……とても大切な人を最近亡くしたんです」
「そ、そうなんだ? それは心が辛いでしょうね……」

 紅蓮はそれ以上何も言う事が出来なかった。

「おいどんば、外に出て戦いもんそ」

 もう堪らないという顔をして、美柑がすくっと立ち上がった。
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