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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後⑦ 行き違い

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 ―夕刻、新ニナルティナ港湾都市。

「へぇ~~此処が花の都新ニナルティナなんや~~~あっ路面念車が来たで~~~」
(聖都ナノニルヴァと比べてもそこそこの大きさがあるなあ)

 瑠璃ィるりぃキャナリーは背中に担いだ剣の先に荷物をくくり付け、左右をキョロキョロしながら歩いた。

「そうだなァ、ラ・マッロカンプの市場よりは多少繁栄してる感じだナ~~」

 ウェカ王子も完全におのぼりさん丸出しで上下左右街ゆく人々を物珍しそうにを眺めながら歩いた。

「さっきから止めて下さいよっ私なんて周囲から痛い田舎者と思われないかドキドキしながら歩いてるんですよ!」

 セクシーなメイドさんのメアが顔を真っ赤にしつつ俯きながら後ろに続いた。

「メアーお前そんな小さな事気にしてたのか?」
「そやで、確かにラ・マッロカンプはド田舎漁村やけど、たまに域外の帝国や荒涼回廊から人が来るんやろ? それだけを唯一の自慢に生きたらいいんやで」
「瑠璃ィさんもしかしてバカにしてます?」

 一応大好きな故郷がバカにされた気がして、メアは色めき立って言い返した。ちなみに今瑠璃ィの部下達はラ・マッロカンプで掃除や洗濯、大工仕事など下働きをしている。

「おっ皆の者、此処が聞いていた猫呼ねここちゃんのビルディングじゃないかナ~?」

 遂に三人は喫茶猫呼が入る、冒険者ギルドビルディングに到達した。

「確か地下に実は女王陛下が勤める喫茶店があるんやろ? 知らんけど」
「知らないならそんな極秘情報大声で言っちゃダメ」
「よーし、レッツゴ~~!」

 三人は喜び勇んで地下を降りて行った。
『臨時休業、期間不明』
 味気ない張り紙がしてあった。この店は超売り手市場なので、この様な態度は普通であったから、常連達は落ち着いて再開を心待ちにしていた。

「………………なんやこれ?」
「困ったな、直接ビルの最上階まで駆け上がって猫呼ちゃんに会いに行って見るか?」
「でもなんや勝手にビルの最上階近付いたら闇のギルド員に殺されるらしいで?」
「無計画過ぎますよ~~もう美味しいもの食べて、買い物だけして帰りましょうよ!」

 武者修行と言いつつ、実は単なる物見遊山だった三人の計画はいきなり頓挫した。

「おや、貴方達? もしかして……」

 と、そこに偶然イライザとイェラが店の保守点検の為に戻って来た。

「あっ関係者っぽいのが戻って来たゾッ!」
「もしかしてアルバイト募集にやって来た方ですか!?」

 イライザの発言に三人ともコケた。

「もうアルバイトとして潜り込むのも手じゃないですか~?」
「ボクは皿洗いとか労働は死んでもやらんぞ、王子だからナ」
「怒られるで」

 等と三人でごちゃごちゃ言っているとイェラがずずいと近寄って来た。てっきり不審者として斬られると思った瑠璃ィとウェカ王子は一瞬身構えた。

「貴様、もしかして貴城乃たかぎのシューネと知り合いの神聖連邦帝国から来た元女王候補で、大騒ぎした挙句結局ボロ負けした瑠璃ィとか言う者ではないか? まだ居たのか今度はアルバイトか? 職場は厳しいぞ」

 二人は拍子抜けした。

「よく覚えてるナ~~」
「瑠璃ィさん痛い所を突かれましたね~~」
「ラ・マッロカンプ王子って事ガン無視されたんはいいんかいな」

 やけに朗らかな三人の調子を見て、イェラとイライザはフルエレ一味と同じ波長を感じ、神聖連邦帝国の回し者という先入観は捨てて、気さくに接しようと決めた。

「実は今フルエレ達は東の地に観光に行っている。もし行く当てが無いのならば、連中が帰るまで店に泊めてやっても良いぞ」
「えっフルエレ女王達いないんカ!」
(フルエレ女王が東の地に観光やて? 一体何しに行ったんや~~凄い気になるわ……)
「て事は猫呼様もいなんですね、残念ですね王子!」

 メアは指を立てて笑った。

「いえ、猫呼様は普通にいらっしゃいますけど」
「よかったやんか王子~~」

 イライザの言葉に瑠璃ィが王子の肩を叩いたが、メアの笑顔は消えた。

「それはそうと、店に泊まるってどういう事だ?」
「店の床に新聞紙でもひいて寝ればよいぞ」

 イェラはきっぱりと言った。

「いくら何でもそれは失礼ですよ、個室がありますので、ソファーで寝て下さい」
「ソファーあるだけマシですねえ」

 三人は扉を開けてくれた二人に従って喫茶猫呼に入って行った。


 ―その喫茶猫呼が入る、ギルドビルの最上階七階。
 猫呼はフルエレ達の東の地行きを知りながらも、魔法力が無いイェラ達と共に居残っていた。

(最後に猫名ねこなお兄様と会って以来、お兄様が今何処にいるか分からない……私は必ず猫名お兄様を故郷クラウディアに連れて帰ると決めた。連れ帰ってお父様お母さま、そして猫弐矢ねこにゃお兄様と皆で昔の仲の良かった家族に戻したい……それが実現するまでは絶対に帰れない)

 ペントハウスになっている見晴らしの良い最上階オフィスの窓から、夕焼けの空を眺め猫呼クラウディア王女は一人決意していた。


 しかし今、セブンリーフまおう軍の地からあちこち寄り道しながらも、そのクラウディア王国に渋々向かっている、当の兄スピネルこと猫名とは完全に入れ違う事となった。

「スピネルさんそろそろ本気で東の地に向かった方が……」
「いや、道草している間に夕方になってしまった。今夜はリュフミュランはずれ東南のププッピ温泉の宿で泊まろう」
「ええ~~いいんですかあ? でもちょっと嬉しいなぁ」

 スピネルにとってはスピナとしてリュフミュラン王女、七華しちかに仕えた地である。もちろんもはや彼女と会うつもりは毛頭ないが、やはりクラウディアにはなかなか足が向かなかった。もう今夜は温泉で時間を潰す事に決めた。

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