上 下
523 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後⑤ アウトレンジへ

しおりを挟む
『へェー、兎幸うさこ先輩がそう言うなら誰も居ないんだろ、なあメランさん?』
『……そうよっ! 誰もいないわよ、変な事言うわねえ、さすが同盟一の変な子ちゃんね!』
『変な子ちゃん言うな』

 等と言っている間にも、千岐大蛇チマタノカガチはもはや川を無視してメキメキと木々をなぎ倒しながら東に移動を開始した。

『あのさぁ、あのカガチとか言う化け物、私らを追い掛け……』
『わーわーわー』

 メランが横を向きながら何気に言うと、突然セレネは大声を出し始めた。

『どしたぁ?』
『今いい事を思い付きました。メランさんは黒い稲妻Ⅱが振り落とされない様に、しっかり翼を掴んでて下さい』
『ナヌッ? あっ』

 とにかくメランに思考させない様に、今度は急上昇で誤魔化す策を思いついたセレネであった。

『うおりゃーーーーー!!!』

 突然機首というか鳥形の頭を上空に向け、蛇輪へびりんはぐんぐんと急上昇した。途端に機体が斜めになった為に、メランと兎幸うさこが乗るル・ツー漆黒ノ天は片手でしっかりと翼の上部を掴むしかなかった。その様子を見てチマタノカガチの無数の首達は、真っ赤な瞳を点滅させて物欲しそうにさらに高く延ばして機体の影を追った。

『上昇してどうするのよ?』
『一旦西の浜に戻る!!』
『何故!? 敵前逃亡よーっプンスカ!』

 血気盛んなメランは自慢の魔砲ライフルを二発しか撃てなくて、あっさりと撤退するセレネに不満たらたらだった。

『考えがあるんです。それにヌッ様とやらが揃っていない今、あたし達単体で頑張る事も無いでしょう』
(魔ローダーが出揃えば、あたし達か蛇輪にチマタノカガチが執着してる事を誤魔化せるだろクフフ)

 セレネの動機は一部不純であったが、考えがある事は事実であった。

『お、おいコラ、私だけ置いて帰るなっ! 臆病者がっ』

 引き返して来た蛇輪の機影を見て、傍観していた桃伝説ももでんせつ夜叛やはんモズが上を向いて叫んだ。同乗している四人の操縦者達は辟易していた……

『臆病者じゃない、鳥男も何もせずに刺激しないで後ろに下がれ!』
『何を言うのですか、カガチが目覚めた以上……あれ? ムムッ』

 まだ日没までに一時間以上あり、本来なら眠っているハズのカガチであったが、それが突然動き出した……という事であったのだが、蛇輪が空高く急上昇した辺りからその動きは明らかに鈍化して来ていて、さらに蛇輪がぐんぐん遠ざかるにつれて、また赤い瞳達を閉じて眠り始める様に見えた。

『とにかく言う事を聞け! 犯罪者予備軍!!』
『誰が犯罪者予備軍かっ!』
(むぅ、あの銀色がこのクラウディアに来た途端にカガチの行動が不規則になり、あ奴らが遠ざかればカガチは元に戻り眠り始めた? あの銀色とカガチに何等かの相関関係があり、あの長い髪の暴力女はそれを隠そうとしておるのか?)

 妖しい鳥の仮面を付けているお笑い要員とは言え神聖連邦帝国の重臣である夜叛モズは、直ぐにセレネの考えを正確に推測した。しかし今は出来る事が無い為に言われるまま、眠り始めたカガチを刺激しない様にゆっくりと後ずさりして一旦仮宮殿に戻る事とした。しかし時間的にはもはや一時間程度しか無い急ぐ状況には違い無かった。


「おいコラ! 貴様ら逃げる気かっ!?」

 魔車に乗った貴城乃たかぎのシューネが仮宮殿に急ぐ途中で、上空を鳥型蛇輪が逆走して西の浜に向かってしまっているのを発見して、驚いて両手を上げて大声で叫んだ。もちろん当然聞こえていないが……


『よし、一旦浜辺に降りよう!!』

 シューーッと白い航跡を引きながら鳥形蛇輪は砂浜ぎりぎりの海に着水して、直後にピョンとタイミング良くメランのル・ツーが飛び降りた。そこは丁度フゥーと美柑ミカ猫弐矢ねこにゃがヌッ様の球体で待機している場所であった。その球体の横には魔法通信で連絡を伝える為の魔戦車が待機していた。
 パシャッ!
 蛇輪から物珍しそうにセレネが飛び降りると、フゥーと目が合って彼女は申し訳なさそうに視線を逸らした。

「よっ裏切り娘っ! 猫弐矢さんは何してるの?」
「キミッその言い方はもはやイジメみたいだよ? フゥーは反省してるじゃないかっ!」

 セレネの早速の嫌味に正義漢の強い美柑が反応して指を立ててたしなめた。

「はぁ? やんのかコラ」
「何この子?」
「セレネおねがい、カッコ悪いからヤメテッ」

 メランは頭を抱えた。

「セレネ様申し訳ありません、私はどの様な非難を受けても良いです。どうか皆の為に今はお許し下さい」

 フゥーは頭を下げたが、この様な良い子的な言い方にもセレネはカチンと来て、それを見て慌てて猫弐矢が間に入った。

「セレネくん、僕達は友達じゃないか、どうか実のある話をしようよ」
「ほーでご自慢のヌッ様とやらは?」
「うん、無意味に起動させても魔力をすり減らす一方だからね、君達の戦闘の推移を見て参戦するつもりだった」
「つまりあたしらを囮に使ったと」
(お互い様子見かよ)
「まあ、確かにそう言われれば」

 二人の会話を聞いていて、美柑は何この性格悪い子は? とセレネを睨み続けた。二人は以前にププッピ温泉近くで見かけた時以来の対面であった。しかし大切な新女王選定会議を滅茶苦茶にされたセレネにも恨みがあって当然であった。

「お静まりをっ! 今モズ様から突然目覚めたカガチはその後何故か東に向かい、さらに銀色の帰投後に再び眠りに就いたと。今は仮宮殿にご帰還との事です!」

 魔戦車の隊長がキューポラから大声で猫弐矢に伝えた。シューネも丁度仮宮殿に付いた頃である。

「なんと、カガチは東に向かって再び眠りに就いただって? 変だな。しかしあと一時間の余裕は出来た訳だ……所で砂緒くんは?」

 本来クラウディア王国旗機のル・ツーを見ながら猫弐矢が突然変化球的に話題を換えて、普段強気な振りで誤魔化しているが元来会話が苦手なセレネはとっさに言葉が詰まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...