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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
まおう軍の地に生きる Ⅳ 下 望まぬ出発……
しおりを挟む―まおう軍魔ローダー駐機場。クレウはココナの車椅子を引いて何処かに消え、二人で一機に乗り込む事となった。目の前にはまおう抱悶所有の伝説の最強魔ローダー、ル・スリー白鳥號の真っ白い鎧の姿がそびえ立っている。
「やー、スピネルさんと魔ローダーに向かうと、何だかメドース・リガリァで戦ってた時を思い出しますねえ?」
「そうか?」
「何だか遠い昔の事の様にも思いますよ……」
言いながらサッワは知り合った女性達の中でも、フゥーとカレンの事を思い出して遠い目をした。
「ふむそうか。では操縦は全て君に任せよう。疲れたなら魔力を融通するから言えば良い」
スピネルはほぼ興味が無い。
「はい!」
サッワは喜んで白鳥號に乗り込んだ。これがあればココナ様を完全に元に戻せるのに……等と思いながら操縦桿を握りシステムを起動させる。
フィーンフィーンフィーン
「その前に少し寄って欲しい場所がある。私のケーキ屋の前の広場に停まって欲しい」
「えっ? いきなり寄り道ですか? ケーキ屋じゃなくて総菜屋ですよね!?」
意気揚々と最強の伝説魔ローダーを発進させようとして、サッワはいきなり腰を折られた。しかし尊敬するスピネルの言う通り彼の家に向かったのだった……
フィーーン!!
白い鳥形のル・スリー白鳥號が人型に戻って突然まおう軍の街の広場に駐機して、人々は騒然としたがスピネルは一切気にしていない。
「いいのかな~~」
「おい居るか?」
「きゃ~~っ貴方っどうしたの魔ローダーに乗っているの?? でも……配送に勤しむ貴方も素敵だけど、やっぱり騎士様の貴方も素敵だわっ」
弁当屋の娘は目を輝かせて手を組んだ。この二人はいつまでも仲が良く特に喧嘩なども一切していない。
「配送がまだ残っていただろう。この魔呂で一気に済ます」
「ええっそうなの? じゃあ五丁目の五軒隈さんが立派な心柱の家を建てた新築祝いで、発注されたオードブル大が五セット出来てるからお願いねっ」
「おお、オードブル大が五もか? 豪勢だな」
「でも魔呂の大きな指で運べるかしら?」
「いや、配送魔車ごと掴んで持って行くから安心しろエカチェリーナッ」
「嫌っこんな人前で名前を呼ばないで、おべんと屋のお姉さんでいいわ……」
エカチェリーナは弁当屋に似つかわしく無いと豪奢な名前をまだ気にしていた。二人はチュッとキスをして別れを告げると再び出発した。
「ちゃんと出張だと言いました?」
「いや、配送魔車を戻す時にまた戻って来るぞ」
「は? また戻る気ですか??」
そして五軒隈さんの新築祝いのオードブル大を配送したのであった。
「オードブル大って凄いですね! 鴨のテリーヌとか肉のパイとか入ってるんですか??」
「バカを言え、オードブルと言えばエビフライにフライドポテトにチキンナゲットと決まっているだろうが」
「はぁ……揚げ物ばっかスね」
そしてスピネルは配送魔車を家に戻し、軽くエカチェリーナにまおう軍としての出張を告げた。しばし抱き合うと心配顔で彼女は手を振った。サッワは無言でその様子を見守っていた。
『貴方ーっお気をつけてーーーっ!』
魔法モニター越しにいつまでも手を振り続ける彼女の姿が見えた。
「ふぅとうとう東の地、クラウディアですか……どんな所でしょうねっ?」
「その前に街はずれの公園に行って鳩に餌でもやろう……」
「え?」
サッワはスピネルの言葉が理解出来なかった。かつて美形の彼はメドース・リガリァの若い女性達の憧れの的であった。それが日々弁当の配送に勤しみ、今度は時間を潰す為に公園で鳩に餌をやる? 遂にこの人も若くして枯れ切ったのかと思った。
(本当に公園に来てしまった……)
しかしスピネルを尊敬するサッワは言われるまま公園のベンチに来た。スピネルは一心不乱に鳩に弁当の残りをやり続けている。公園の隅っこには鳩に餌を上げないで下さいの看板が立っていたが、まおう軍三魔将にはその様な事は関係無い。
「サッワよ物は相談なのだが、何かのプレイに使う様な妖しげなパピヨンマスクは持ってないか?」
「は?」
サッワは気付いていない、というか知らない。スピネルこと本名猫名が、自分の気持ちを裏切り神聖連邦帝国に恭順を示した故郷クラウディア王国に戻り、現国主の弟猫弐矢に近づく事をとことん嫌悪している事に。もちろん会うかどうかは別問題としてもだ……
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