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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

女王雪乃フルエレの判断 Ⅲ 追放……

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「よし帰ろう」

 貴城乃たかぎのシューネは調子に乗りまくった砂緒とセレネになじられ倒されても特にポーカーフェイスを崩す事は無く、すくっと立ち上がった。

「ダメだっ帰る事は許さないよ、仲間の為に屈辱に耐えるんだ」
「…………」

 紅蓮が美柑ミカにそうした様に、今度は猫弐矢ねこにゃがシューネの手首を即座に強く掴んだ。もはやどっちが主人公でどっちが悪役なのか分からない状況だった。

「うひゃひゃひゃ、そうだそうだっけえれけえれっ!!」
「砂緒の言う通り、猫弐矢さんも諦めて大人しく帰った方がいいよ! あははははは」

 双子の兄弟の様に二人はラインダンスみたいに綺麗に肩を組んでひたすらなじり倒す。

「……もうやめて」

 ぽつりとそれまで黙っていた雪乃フルエレ女王が口を開いた。

「ヒャッハーそうだぜ、フルエレの言う通りもう止めて帰った方がいいんだぜーーー!!」

 再び砂緒が調子に乗って言った。
 バンッッ!!
直後にいきなりフルエレがテーブルを両手で叩いた。

「へっ?」
「やめなさいっもう見苦しいわっ砂緒止めて頂戴。相手は困り果てて這う這うの体で此処まで辿り着いたのよ? どうしてそんななじり倒す事が出来るの??」

 てっきり自分と同じくシューネの事が嫌いに違いないと思い込んでいた砂緒の表情が曇った。

「で、でもフルエレ、こやつらは大切な新女王選定会議をぐちゃぐちゃにした張本人ですぞ!!」
「私は元々新女王になんて興味は無かった……それに死者も出ていない以上、本心で言えばアルベルトさんの命を奪ったメドース・リガリァの方がまだ憎いわ。神聖連邦帝国とは上手くやって行きたいと思っているの……だから止めて」

 砂緒は絶句した。

「でもフルエレさん、こいつらは信用ならない敵です! 今の内に戦力を削いだ方が」
「そうだそうだっ!!」

 セレネに乗っかる事で砂緒が再び息を吹き返した。

「もう止めなさい!! 砂緒それ以上言えば貴方を追放しますっ!!」
「えっ?? 冗談ですよね? ずっとフルエレと最初から旅をしてきたこの大切な砂緒さんを追放って本気ですか??」
「そうよ、それ以上言うならね」

 砂緒は信じられないという顔になって首を振った。

「何でじゃーーー何でなんじゃーーーーっこんだけフルエレに尽くし倒して今度は追放かよーーーっ!! フルエレあんたは江青やっ! いつから江青になったんやーーーウワーーーーー!!」

 叫びながら砂緒は走り出すと、ドアの前でぴたっと止まった。
 チラリ
そして振り返ってフルエレの目をじとっと見た。

「追放よ?」
「うわーーーーーーグレてやるーーーーーーーっ!!」

 そのままドアを開け、聞き耳を立てていた七華を突き飛ばして走って行った……

「砂緒さまっ!?」
「お、おいフルエレさん本当に良いのかよ? このままアイツがどっか行って消えてしまったら」

 砂緒の事が好きなセレネは慌てふためいた。

「ユティトレッド魔道王国王女の貴方は此処に居て。それに砂緒は三十分もすれば戻って来るわよ」
「本当かよ」

 心配になったセレネは半開きになったドアを眺めながら座った。

「さあうるさいのが消えた所で冷静にお話をしましょ」

 フルエレ女王はシューネ達に座る様に促した。

「お心遣い痛み入るフルエレ女王陛下」

 シューネは再び深く頭を下げた。

「フルエレくん、いや女王陛下とにかくもう時間が無いんだ。今日の夕方までに君達の蛇輪で飛んで帰らなければ間に合わなくなる……」

 猫弐矢も再び冷静に頼み込んだ。

「そうね、よござんしょ……その千岐大蛇チマタノカガチとやら、見事砂緒に退治させましょう、私も行くけどねテヘヘッ」
「フルエレさんっ! ダメです」

 ガタッ
 安請け合いしたフルエレにセレネは驚いて立ち上がった。

「ううん、単なる人助けだけじゃないのよ……その三百Nメートルのヌッ様という物を見てみたい、あわよくば操縦したいの」

 最近忘れがちだがフルエレは魔法メカが好きであった。

「そんな理由で!? でも会場を破壊された、設営準備していた我らの面目は??」
「そうね、じゃ猫弐矢さんから会場破壊の賠償金として金塊は頂くわ。セレネは現地で計算してもらって頂戴」
「ええっもちろんいくらでも言い値でお支払いします」
「フルエレさん……」

 セレネはまだまだ不満顔だった。

「そうね、急いでる所悪いけど走って行った砂緒の代わりに、シェーッさん一時間程少しウェイトレスと皿洗いをして頂戴な。その間に身支度と準備をするから」

 しばしシューネは黙り込んで、猫弐矢は彼を見守った。

「良いでしょう、それで皆さんの気が済むなら」
「あっそうだもう一つお願いがあるの! 最近有未うみレナードさんとライス氏が、旧ニナルティナ王や等ウェキ玻璃音はりね大王に倣って域外の帝国の一つ、ハイア王国の草悲帝そうひていに遣いを送るべきと言っているの、どう思うか姫乃女王に相談して欲しいのよっ」
「フルエレさんそんな重要な事を!?」

 再びセレネが大声を出した。

「ほう……その様な話が。しかし今ハイアの王は草悲では無く次の代に移っているとか」
「え、そうなの!?」
「しかしその様な事であればこのシェーッ、必ずや姫乃にお伝え致しましょう」

 シューネは胸に手を当てて頭を下げた。シューネもフルエレを側女にしたいという野望を胸に秘めつつも、何故かこの姫乃殿下と同じ顔をした少女に不遜な態度を取る事が出来なかった。

「有難うフルエレ女王陛下」

 猫弐矢も頭を下げた。

「じゃ、話が決まった所で早速一時間ただ働きよっうふふ。イライザー、エプロン一つ持ってきてーー」

 フルエレは立ち上がってイライザの元に行ってしまった。

「おい貴様、まだ許した訳じゃないよ下手な事したらあたしが許さんからなっ!」 

 ライラとシャルに続いてセレネにも脅されるシューネは、袖をまくって仕方なく針のムシロの中店の手伝いを始めた。イェラも砂緒と同じ顔の彼の所作をじっと睨んでいる。


 しかし三十分経っても一時間が過ぎても砂緒は戻って来なかった……
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