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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ⑪ フゥーとヌッ様の戦い

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 迫りくる巨大な魔ローダー・ヌの迫力に押され、貴城乃たかぎのシューネと夜叛やはんモズと他二名の操縦者でぎゅうぎゅうになっている魔呂桃伝説ももでんせつは、両手を前にかざし絶対服従を全力で掛けたまま後ずさりした。

「変なのきたーーーっ」
美柑ミカ、僕達も一旦下がろう!」

 紅蓮アルフォードはピョンピョンと、美柑ノーレンジはそのまま飛んで一旦離脱した。

「フゥーくん気を付けて!」
『はい! 行きます、はああああああああっヌっ様メガトンパーーーーーンチッ!!!』

 フゥーは全高約三百Nメートルのヌの右腕を振りかぶり、そのまま同じく巨大なチマタノカガチのうねうねうごめく無数の首に向かって殴り掛かった。
 ギュウウムイイイイイインン
 駆動音とも鳴き声ともなんとも判別出来ない不気味な音と共に巨大な拳がカガチの首達にヒットする。
 ドカーーーーーン!!
 単なる巨大なパンチが何故か爆発力を生み、あたかも粘土で出来た散髪玩具の様に複数の首がびちゃっと千切れて飛び散った。
 ドドーーーン
 巨大な肉片となった複数の首が地面に激突してはシューッと煙の様に消えて行く……

「くおおおおおおおおおんん!?」

 初めてチマタノカガチが苦しそうなうめき声を上げた。

『凄い!! なんという威力』
『むう猫弐矢ねこにゃでかしたぞ』

 桃伝説の操縦席内で二人は安堵して魔法モニターを見た。

『違う、全部フゥー君のやっている事だ、彼女を褒めてくれっ!』
「間髪入れずに行きます!! はぁああああああああもっかいヌッ様メガトンパーーンチッッ!!」

 一瞬ひるんだ巨大なカガチに向けて、再び巨大な腕を振りかぶりパンチを食らわす。
 ドカーーーーーーン!!
 再び拳から爆発力を発して複数の首が飛び散った。

「くおおおおーーーん」

 カガチは苦しそうに少し後ずさった。

『凄いな、このまま勝てるんじゃないか!?』

 シューネは驚嘆の声を上げたが、しかし無数にあるチマタノカガチの首はまだまだ無くなりそうにない。

「フゥーくんこのまま畳み掛けるんだっ!」

 猫弐矢は眼前のカガチに夢中でフゥーを見ていない……

『はぁはぁ、まだまだっ!! ヌッ様……メガトンパーーーンチ!!』

 ドカーーーン!!
 びちゃっと飛び散った首は二本程であった。

「はぁはぁ……」
「フゥーくん?」

 次の攻撃をなかなか繰り出さず、肩で息をするフゥーを猫弐矢は心配して見つめた。

「大丈夫です! もう一度……ヌッ様……メガトンパ、がはっ!!」

 もう一度攻撃を繰り出そうとしたフゥーが突然吐血して魔法コンソールに突っ伏して倒れた。

「フゥー!?」

 慌てて猫弐矢はフゥーの華奢で小さな体を抱き起こした。

「ハァハァ大丈夫です……猫弐矢さま最近触り過ぎです……何かと言うと抱き寄せて」

 フゥーは血を手で拭いながら、彼を心配させない様に必死で笑った。

「確かに君が可愛いから……いやこんな時に何言ってるんだ! 大丈夫なのかい??」
「大丈夫です、でも猫弐矢さま恥ずかしいのですが、魔力を御貸し下さい……」

 猫弐矢はハッとした。

「そうか済まない、てっきりヌ様はフゥーしか触れてはいけないと勘違いしていた。普通の魔呂みたいに魔力を供給は出来るんだね? なら僕も一緒に戦おう!」

 と言いつつ、猫弐矢は操縦桿を一緒に握り、もう片手でしっかりとフゥーの肩を抱いた。

「あっ」
(また触って来た、このセクハラ王子ふふ……でも加耶さまという方に悪いわ)

 一瞬だけフゥーは気が緩んだが、直ぐに魔法モニターに向き直して、ヌの巨大な腕を振りかぶった。

「はあああああヌッ様メガトンパーンチッ!!」

 ドカーーン!!
 ベキィッッ
 気を取り直して叩きつけた巨大な拳だが、明らかに爆発の威力は弱かった。首の一本がへし折れてぶら下がっているだけだ。

『どうしましたデカいの、勢いが弱くなりましたよ!!』
『フゥー』

 シューネとモズは手に汗握り見守った。

「はあああああヌッ様メガトンキィーーーーック!!」

 明らかにパンチの威力が下がり、苦し紛れに本当に巨大なキックを繰り出したが爆発力は得られず、むしろ絶対服従に抵抗する様にぐぎぎとカガチはひるんだ勢いを取り戻そうとしていた。

「……ふ、フゥーくん面目ない……肝心な時に力が出ず情けない……」
「いえ! そんな事ありませんわっこんな日も御座いますっ気を落とさないで下さいな」

 フゥーは気を落とす彼をチラッと見た。

(猫弐矢さまはクラウディアの王子でとても気の優しい方だけど、戦闘はポンコツなのです……こんな時に強引だけどお強いサッワ様がいらっしゃれば)

 フゥーは強い男が好きだった。

『どうした猫弐矢フゥー何後ずさりしておる? もう少しではないかっ! ええい、それでもこの世で最も巨大な魔ローダー一族の生き残りかっ!?』
『シューネ様、もしやこの機体……』

 地上から遥か上を見上げていた紅蓮が美柑に言った。

「あの味方の巨大魔ローダー、魔力不足なんじゃないかな? ちょっと乗りたいから頭の上まで飛んでくれないかな?」
「はぁ? 貴方重いのよ、ある程度行くから途中からはジャンプしてよ、私も乗って上げるから!」

 と言うや否や紅蓮の脇の下に回りこみ、ぐっと力を込めて飛翔した。


(どうしよう……このままじゃ遅かれ早かれさっきと同じになる)

 フゥーは一人思いあぐねていた。
 ガンガンッ!!
 と、その時突然ヌの巨大な顔の前に、つまり魔法モニター前面に二人の人影が立った。
 ガンガン!!
 その内の可愛い女の子がガンガンと顔を蹴り続けている。 

「ぎゃーーーっ! 変なのが湧いた!?」
「ここ三百Nメートル近くあるんですよ!?」
「あけろ~~!!」
「中の人開けてくれないかっ」

 二人は必死に訴えているが、猫弐矢とフゥーは抱き合って怖がった。
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