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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

出会い、姫乃ソラーレと依世 中 仮初め姉妹②依世と與止

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 ―ナノニルヴァの宮。
 統帥本部から広い城郭の敷地の中、姫乃ソラーレの寝所や自室やいつも景色を眺めている緑の屋根の多層塔のあるナノニルヴァの宮の正門に差し掛かった所で、貴城乃たかぎのシューネは複数の警備兵とその上級の士官に囲まれた。

「私だ、急いでいる通してもらおう」

 シューネは警備兵達を掻き分け先を急ごうとしたが、すぐにまた囲まれて通せんぼされた。

「なりません。何処にお行きになるおつもりですか?」
「私は神聖連邦重臣であるぞ。警備兵如きが何のつもりか?」

 シューネは語気を強めた。いつもなら自らの顔を見る事すら恐れる連中である、途端に少したじろぐ者も居たが動かない。彼自身も普段蚊程にも気に掛けていない兵たちに足止めされイラッとした。

「今の御立場をご理解してらっしゃるのでしょうか? 遂先程まで反逆を疑われていたのですぞ、聖帝陛下や姫殿下がいらっしゃる聖域に陛下の許可なく足を踏み入れさせるなと、他の重臣様達からのお達しで御座います」

 今まで口出し出来なかったシューネが弱みを作った途端に、ひたすら意地悪を仕掛けてくる連中であった。しかし今のシューネにとっては幼馴染の姫乃に申し開きする以外に手は無く、進退窮まり途方に暮れる事となった。

「うっわでっかっ!」

 びゅーーーーーーん。
 と、正門の前で突っ立つ貴城乃シューネの遥か上空を、一人の女の子が元気よく飛んでいた。美柑ミカノーレンジであった。彼女は海鳥の様に途中ゞ休憩しつつ、遂には聖都ナノニルヴァまで到達して来たのであった。

「フェレット見てる? 聖都ナノナントカもお城もマジでっかいよっ! 新ニナルティナよりでかいかも知れない……本当に紅蓮こんなお城の王子様なのかな~~~?」

 等と言いつつも美柑こと依世いよは姉夜宵やよいからの、最強の貴公子と出会って愛し合うという自分の将来の占い結果をボンヤリと思い出していた。しかし……もし本当にその占い通り紅蓮がここの貴公子ならば、姉夜宵自身の不幸に一人で死んでいくという占い結果まで正しいという事になってしまう……複雑な想いを抱きつつ巨大なナノニルヴァの都市と宮殿を眺め続けた。もちろん小さなシューネの存在など見えるハズも無かった。

「う~~ん、でもまたちょっと疲れて来たなっ休憩タイム入ろうか?」

 美柑は大事に抱えたフェレットのくりくりの目を見ながら独り言の様に言った。そんな彼女の目にも緑の屋根の華麗な多層塔はひと際目立つ存在で、すぐに気になってしまった。

「よし、あそこに決めたっ! 私は渡り鳥なのよウフフ」

 等と言いながら最上階の大きなバルコニーの手すりに腰かけた。眼前には煌めくナノニルヴァの夜景が広がっている最高のロケーションであった。気持ちの良い夜風が吹いて美柑の複雑な髪型の髪を優しく撫ぜた。

「やっぱり負けてんのかなあニナルティナ……」

 等と言っていた時だった。

「……貴方は誰なのですか? もしかして天使??」
「……え?」

 聞き覚えのある声がして、美柑が振り返ってさらにぎょっとした。髪型や髪の色さえ違うが、声の主の姿形は探し求める彼女の姉、夜宵姫その物であった。
 
「そんな所に腰掛けていると危ないですわよ」
「お姉さま……?」
「え?」

 お互いにえっと言い合った。

「あの……私天使じゃ無いですが、決して怪しい者ではありません。申し訳無いですが、貴方に近付いてお顔を良く拝見しても良いでしょうか?」
「……いいですわ。武器も何も持っていない様ですね、では明るい部屋の中にいらっしゃい」

 実は小さく畳んだ魔法のステッキを持っていたが、その事は隠して言われる通り部屋の中に入った。豪華な装飾の明るい部屋の中に入ってさらに驚いた。高貴な女性は本当に姉夜宵に生き写しの様にそっくりだったのだ。ただし年齢は少し上の様ではあった。

「本当にお姉さまに似ている……」
「お姉さまと……何という事でしょう、やはり貴方は天使なのかもしれません。わたくしは無骨な弟では無く、ずっと可愛く美しい妹が欲しかったのです。空想の妹の名前まで考えていたのですよフフ」

 高貴そうな長い髪の女性は口に手を当ててくすくす笑った。姉に似て恐ろしいまでの美女だが決して悪い人間には見えなかった。

「えっ空想の妹さんですかっ!? けっこうヤバイですね」

 率直な感想を言ってしまう物怖じしない彼女だった。

「……そうでしょうか、與止ヨトという名前可愛いと思うのですけど」
「ヨトちゃん!? 独特なネーミングですねえ」
「第二候補はトヨとも言います」
「第二候補!? とよって何だか魔車作ってる企業みたいで無骨過ぎるよ~~」

 どこまでも率直な美柑だった。

「あらあら素直な可愛い子、では貴方のお名前は何と言うのかしら?」

 高貴な女性は両手を合わせて小首を傾げて聞いた。美柑は彼女は年齢よりも少女らしい女性だと感じた。そして少しアンジェ玻璃音はりねに似た雰囲気があるなと感じた……

「美柑ノーレンジ……けどそれは芸名なの!」
「芸名?」
「はい、本名は依世いよと言うの……」
「依世ちゃん可愛いお名前……ではわたくしの名前もお教えしましょう、わたくしは神聖連邦帝国聖帝の娘、姫乃ソラーレと言います。よろしくね」

 一瞬だけ美柑の顔が固まった。

(え……この人が紅蓮のお姉さん?)

 これが後に敵として相対する事になりながらも、奇妙なえにしを持つ二人の最初の出会いであった。
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