上 下
485 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

出会い、姫乃ソラーレと依世 中 尋問と連絡途絶 仮初め姉妹①

しおりを挟む
 ―神聖連邦帝国、聖都ナノニルヴァ統帥本部。
 猫弐矢ねこにゃとフゥーと根猫ねねっこ三世と別れた貴城乃たかぎのシューネは、真面目にも魔車で山を越え早速当庁して帰投を報告した。しかしその後軍部の高官達に密室に押し込まれ、ぐるりと囲まれて半ば尋問を受ける様な状態になっていた。

「一体あの金輪こんりんの姿は何なのかな? 偉大な四旗機の金輪があの様な状態になるなど異常」
「そうだ、少し七葉島を視察に回るだけが何故あの様な状態になるのですか?」
「七葉島の女王国連合とやら、そこまでに力を付けているのか?」
「武者修行の旅に出られた若君は御無事なのですかな」
「聖帝陛下のご親征は本当に可能なのか?」

 本当は大声で怒鳴り散らしてなじりたい場面だが、姫乃殿下の御学友であり重臣の一人でもある貴城乃シューネをどの様に攻略すれば良いか、まだまだ距離感を図りながらの尋問であった。

「それらの事全て機密に関する事です。聖帝陛下に直々に申し開きするまでは詳細に語る事は出来かねます。どうかご容赦を」

 シューネは慇懃に頭を下げたが、その答えは木を鼻でくくった様な物言いだった。

「ふん、姫乃殿下の御学友である事を鼻にかけ、最大限利用してのし上がった者がっ!」
「今度こそそのお高くとまった態度がいつまで続く物やら」
「これ、シューネ殿も元を辿れば聖帝一族に連なる高貴なお家柄、失礼な物言いは許されませんぞ」
「これは謝ろう」
「ふんっ」

 軍部の高官達の中でもまだまだ足並みは揃っていない部分があった。

「全て私の不徳の致すところです。重ねて謝罪致します」

 シューネはひょうひょうと心の籠っていない態度で頭を下げた。

「……しかしよもや夜叛やはんモズと示し合わせているのではあるまいな?」
「そうだ、そうとしか思えぬ」

 突然訳の分からない話が出て来て、シューネはふっと周囲を見回した。その自然な態度を見て高官達は顔を見合わせた。

「もしかして知らぬのですかな?」
「いえ、一体何の話でしょうか?」

 高官達は再び顔を見合わせた。まるで浦島太郎でも見る様な態度でシューネを見直した。

「シューネ殿が帰投しない間クラウディア王国からの連絡が途絶え、あまつさえ三方の関所まで封鎖されて情報が入って来ない状態にて、すわもしや夜叛モズと貴城乃殿二人による反逆ではないかと騒ぎになった直後に其方が帰投したのですぞ。このままクラウディアに軍を派遣する手筈の所でしたぞ」
「何っ!?」

 シューネは思わず席を立った。

「そのご様子では本当に知らなかった様ですな」
「しかし我々の間ではもっぱらシューネ殿は七葉島の女王国連合とやらと手を組み、さらには同じく行方不明の瑠璃ィるりぃキャナリー殿のスィートスとも連携して、神聖連邦帝国の西半分を支配する王国を作ろうと画策していると噂しておりましたぞ」

 ドンッ!!
 突然シューネは机を叩いた。冷静な彼にしてはありえない態度だった。

「断じてその様な事は無い!!」

 若いシューネの大声で何名かの高官は思わずビクッとしてしまう。

「まあ落ち着きなされ。あの金輪の無残な姿を引っ提げて帰投した以上、貴殿が反逆とやらに加担している事は無いであろうが、モズの今後の動き如何では貴殿にも責任の類が及ぶであろうな」

 シューネは激しく冷や汗を掻いた。自分が知らない間に、セブンリーフで割と楽しく過ごしている内に、何か得体の知れないトンデモ無い事態が進行している事を知った。

(モズよ、何をやっておるのだ~~!?)

 一体これからどうすれば良いのかシューネですら少し頭が混乱した。

「まあまあ座って、少し落ち着きなされ」

 先程までと完全に立場が逆転して高官達が笑いながら彼をなだめた。

「そうですぞ、丁度良い時に帰投されたのです」
「貴殿はクラウディアに派遣する追加部隊の長として事態を収拾してもらう事となる」
「聖帝陛下の前で懸命に釈明する事ですな」
「おっとその前に姫殿下に助け船のご依頼ですかなククク」

 状況が状況だけにもはや言い返す言葉も無かった。

「ははっ謹んで拝命します……」
「良い心がけですぞふふふ」

 散々なじられた挙句、ようやくシューネは解放されたのだった。

「……やはり姫乃に会わねばならぬ、急がねば」

 シューネはナノニルヴァの宮に急いだ。


 ―夕方、ナノニルヴァの津。
 日が傾くにつれて作業員達の姿も減り、人々はまばらになって来ていた。
 パカッ
 大型船の物陰に置かれていた大きな樽の一つに、丸い穴が突然開いた。
 キョロキョロ
 その器用に開けられた穴から外界を観察する二つの瞳が見えた。

「紅蓮、殆ど人影は無いよ! もう樽から出てもいいんじゃないかな~~」

 多少イラついた声の主は美柑ミカだった。

「シッダメだよ。樽移動は潜入調査の醍醐味さっ! こうして樽からニョキッと手足を出して移動するんだっ!」

 パカッ
 本当に樽から紅蓮の手足が生えて来た。彼らはこの姿で船底から此処まで移動して来たのだった。

「何で樽移動なの? もしかして神聖ナントカの王子で城持ちとか許嫁が十人とか全部ウソなの? もう嘘でもいいわっ樽から出たいよ」
「ウソじゃ無いって、本当に僕は神聖連邦帝国の聖帝の息子なんだってば」
「説得力無いわーっ!!」

 バキッ!!
 遂にキレた美柑は魔法で内側から樽を破壊した。

「あっ美柑!? せっかく加工した潜入用樽スーツが!!」
「もういいっ! 私聖都のお城まで飛んで行く! 落ちないでねフェレット」

 怒りながら叫ぶと美柑はフェレットを強く抱いたまま、ビューーーンと飛行魔法で東に飛んで行った。

「あーーー美柑待ってーーー!!」

 それを見た紅蓮もバキッと樽スーツを破壊して飛び出し、そのままセレネに劣らない脚力で聖都に向けて走り出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...