483 / 588
Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)
猫弐矢、聖都へ行く 下 美柑の気持ち 猫弐矢、根猫(ねねっこ)三世に再会する
しおりを挟む
「もったいない! どうしたのっ」
美柑が落ちたおにぎりを惜しそうに眼で追って見つめて言った。
「どうしたのじゃないよ、微妙に振動が伝わって来るから動いてるんだろうなとは思ってたけど、まさか聖都に向かってるなんて……君は何でそこまで落ち着いてるんだい?」
紅蓮アルフォードが落ちたおにぎりの接地面の米粒を剥がしてふーふーと吹いた。
「ちょっと行ってもいいかなって、紅蓮の故郷なんでしょ?」
「えっ?」
紅蓮は少しドキッとした。
「夜宵お姉さまが雪乃フルエレ女王になっちゃってたって分かって、お姉さまを探して連れ帰るっていう、旅の目標が正しかったのかなって思い始めてるの。それで少し自分を見つめ直したいなと思って」
偶然姉妹で同じ事を言っていた!! それは兎も角、紅蓮は自分の故郷見たさに美柑が言っている訳では無いと分かって少しがっかりした……
「そ、そういう事なんだね。でも帰りはどうするんだい? 聖都からセブンリーフ島は遠いよ」
「あら、それは紅蓮がまだまおう討伐の途中なんでしょ? 貴方が何が何でもどうせセブンリーフに向かうでしょうからそれに便乗するよっ!」
美柑は指を立てて得意げに言った。
「それはそうなんだけど……そんなに頼りにされても困るなあ」
「うふふ、だって出来る限り旅を長引かせたいのでしょ? 丁度良いじゃないのっ!」
美柑が紅蓮の気持ちを見透かした様な事を言って、紅蓮は少し赤面したのだった。
「う、ううまあね。なんとかしてみるよ。あっそうだ、どうせしばらく姉上に匿ってもらわないといけないから、美柑も姉上に会ってみようよ!!」
「……え?」
(紅蓮のお姉さま?? どんな人なんだろう……)
紅蓮は神聖連邦帝国の中でもかなり高位の者しか会えない姉、姫乃ソラーレに親戚感覚で気軽に会うと言ったが、当の美柑は紅蓮の姉と聞いてかなり怖い人なのだろうと物怖じした。
―次の日の早朝。
セブンリーフ新ニナルティナ、喫茶猫呼。
「あー困ったわ、フゥーちゃんが居なくなったから私の自室のお掃除や家事をする人を新たに猫呼に派遣してもらわないと……」
雪乃フルエレには珍しく早朝に喫茶店に出て来たかと思えば、フゥーが去った後に彼女に押し付けていた家事が溜って来て困り果てているだけであった。
「……フルエレ、フゥーが去ったのは貴方の所為ではないですか? 少しは自分でやってみてはどうですか」
一応開店の準備をしていた砂緒が目を細めて言った。
「いいわ、今度イライザかイェラにお願いしてみる」
「イェラに言ったら確実に殴られると思いますよ」
「私、女王陛下なのよ? そんな事許されないわ」
「あっフルエレさま、私が家政婦を派遣致します! お早うございます女王陛下」
「あらライラお早う。お願いするわ!」
「皆してフルエレを甘やかす……いけません」
砂緒は肩をすぼめて両手を広げ首を振った。しかし以前は彼が猫呼に同じ事を言われていた。
―同じく次の日、神聖連邦帝国内海ナノニルヴァの津。
多くの交易船が行き来する巨大な港に、ぼろぼろの金輪を甲板に乗せた貴城乃シューネの大型船が入港した。停泊後直ぐに警備兵と共に乗船して来た技術者が、無残な姿を晒す帝国最強の魔ローダーの一機である金輪を見て唾を飲み込んだ。正装に着替えたシューネと猫弐矢とフゥーはそんな様子を見ながら下船して上陸した。フゥーは新ニナルティナ港湾都市に引けを取らない、巨大なナノニルヴァの津の様子を物珍しそうに眺めた。
「ふぅ気が重いよ。本当に無事に乗り切れるんだろうね」
「はい?」
フゥーが振り向いた。
「フゥーくんの事じゃないよ」
「はあ?」
「ははは、いきなりボケをかまさないでくれよ。ちゃんと猫弐矢くんが頑張ってくれれば大した事はないよ」
シューネは気軽に言い放った。金輪をボロボロにしたとは言え、さすがに若くして最高の重臣の一人であるシューネは、いきなり警備兵に囲まれて捕縛される等という事は無かった。
「これからどうするんだい?」
「さてどうした物か。私が任務途中で金輪を破壊して逃げ帰って来た等と、私を良く思わない連中が聖帝陛下に告げ口して、呼び出しを食らうまでに姫殿下に接見して申し開きをしないとな」
「いい加減だな」
等と猫弐矢が言った直後だった。
「もしやクラウディア国主、猫弐矢様では御座いませんか?」
突然、初めてでは無いが慣れぬ土地で不意に声を掛けられて猫弐矢は驚いた。しかし振り返って彼はさらに驚いた。なんと声の主も同じ様にネコミミを付けているのだ。
「はっ? えっと……君は確か根猫殿か?」
「そうです! 数代前の聖帝の御代に旧聖都で謎の疫病が流行り、それを祈祷で鎮めた根猫の子孫で根猫三世で御座います!! クラウディアから大型船が戻ると聞き及び、もしや誰ぞ一族の方にお会い出来るかと楽しみにしておりました」
付けネコミミの男は深々と頭を下げた。
「ああ僕も大変不安だった所なんだ。こんな遠方地で遠い昔に分派したとは言え一族の者に再会出来て凄く心強いよ!! 頭を上げておくれ」
シューネとフゥーがポカーンとする中、二人は手を取り合って感動し合った。
美柑が落ちたおにぎりを惜しそうに眼で追って見つめて言った。
「どうしたのじゃないよ、微妙に振動が伝わって来るから動いてるんだろうなとは思ってたけど、まさか聖都に向かってるなんて……君は何でそこまで落ち着いてるんだい?」
紅蓮アルフォードが落ちたおにぎりの接地面の米粒を剥がしてふーふーと吹いた。
「ちょっと行ってもいいかなって、紅蓮の故郷なんでしょ?」
「えっ?」
紅蓮は少しドキッとした。
「夜宵お姉さまが雪乃フルエレ女王になっちゃってたって分かって、お姉さまを探して連れ帰るっていう、旅の目標が正しかったのかなって思い始めてるの。それで少し自分を見つめ直したいなと思って」
偶然姉妹で同じ事を言っていた!! それは兎も角、紅蓮は自分の故郷見たさに美柑が言っている訳では無いと分かって少しがっかりした……
「そ、そういう事なんだね。でも帰りはどうするんだい? 聖都からセブンリーフ島は遠いよ」
「あら、それは紅蓮がまだまおう討伐の途中なんでしょ? 貴方が何が何でもどうせセブンリーフに向かうでしょうからそれに便乗するよっ!」
美柑は指を立てて得意げに言った。
「それはそうなんだけど……そんなに頼りにされても困るなあ」
「うふふ、だって出来る限り旅を長引かせたいのでしょ? 丁度良いじゃないのっ!」
美柑が紅蓮の気持ちを見透かした様な事を言って、紅蓮は少し赤面したのだった。
「う、ううまあね。なんとかしてみるよ。あっそうだ、どうせしばらく姉上に匿ってもらわないといけないから、美柑も姉上に会ってみようよ!!」
「……え?」
(紅蓮のお姉さま?? どんな人なんだろう……)
紅蓮は神聖連邦帝国の中でもかなり高位の者しか会えない姉、姫乃ソラーレに親戚感覚で気軽に会うと言ったが、当の美柑は紅蓮の姉と聞いてかなり怖い人なのだろうと物怖じした。
―次の日の早朝。
セブンリーフ新ニナルティナ、喫茶猫呼。
「あー困ったわ、フゥーちゃんが居なくなったから私の自室のお掃除や家事をする人を新たに猫呼に派遣してもらわないと……」
雪乃フルエレには珍しく早朝に喫茶店に出て来たかと思えば、フゥーが去った後に彼女に押し付けていた家事が溜って来て困り果てているだけであった。
「……フルエレ、フゥーが去ったのは貴方の所為ではないですか? 少しは自分でやってみてはどうですか」
一応開店の準備をしていた砂緒が目を細めて言った。
「いいわ、今度イライザかイェラにお願いしてみる」
「イェラに言ったら確実に殴られると思いますよ」
「私、女王陛下なのよ? そんな事許されないわ」
「あっフルエレさま、私が家政婦を派遣致します! お早うございます女王陛下」
「あらライラお早う。お願いするわ!」
「皆してフルエレを甘やかす……いけません」
砂緒は肩をすぼめて両手を広げ首を振った。しかし以前は彼が猫呼に同じ事を言われていた。
―同じく次の日、神聖連邦帝国内海ナノニルヴァの津。
多くの交易船が行き来する巨大な港に、ぼろぼろの金輪を甲板に乗せた貴城乃シューネの大型船が入港した。停泊後直ぐに警備兵と共に乗船して来た技術者が、無残な姿を晒す帝国最強の魔ローダーの一機である金輪を見て唾を飲み込んだ。正装に着替えたシューネと猫弐矢とフゥーはそんな様子を見ながら下船して上陸した。フゥーは新ニナルティナ港湾都市に引けを取らない、巨大なナノニルヴァの津の様子を物珍しそうに眺めた。
「ふぅ気が重いよ。本当に無事に乗り切れるんだろうね」
「はい?」
フゥーが振り向いた。
「フゥーくんの事じゃないよ」
「はあ?」
「ははは、いきなりボケをかまさないでくれよ。ちゃんと猫弐矢くんが頑張ってくれれば大した事はないよ」
シューネは気軽に言い放った。金輪をボロボロにしたとは言え、さすがに若くして最高の重臣の一人であるシューネは、いきなり警備兵に囲まれて捕縛される等という事は無かった。
「これからどうするんだい?」
「さてどうした物か。私が任務途中で金輪を破壊して逃げ帰って来た等と、私を良く思わない連中が聖帝陛下に告げ口して、呼び出しを食らうまでに姫殿下に接見して申し開きをしないとな」
「いい加減だな」
等と猫弐矢が言った直後だった。
「もしやクラウディア国主、猫弐矢様では御座いませんか?」
突然、初めてでは無いが慣れぬ土地で不意に声を掛けられて猫弐矢は驚いた。しかし振り返って彼はさらに驚いた。なんと声の主も同じ様にネコミミを付けているのだ。
「はっ? えっと……君は確か根猫殿か?」
「そうです! 数代前の聖帝の御代に旧聖都で謎の疫病が流行り、それを祈祷で鎮めた根猫の子孫で根猫三世で御座います!! クラウディアから大型船が戻ると聞き及び、もしや誰ぞ一族の方にお会い出来るかと楽しみにしておりました」
付けネコミミの男は深々と頭を下げた。
「ああ僕も大変不安だった所なんだ。こんな遠方地で遠い昔に分派したとは言え一族の者に再会出来て凄く心強いよ!! 頭を上げておくれ」
シューネとフゥーがポカーンとする中、二人は手を取り合って感動し合った。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる