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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

猫弐矢、聖都へ行く 上 セレネからライラへの指令……

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 美柑みかの目から見ても身長が高く肩幅の広い立派な体躯の紅蓮が、たとえメイドさんの格好をしても目立ち過ぎるだろうと思い、紅蓮を傷付け無い様に配慮しつつもヤンワリ強く反対した。こうして彼のまおう城潜入はまたまた遠のいたのだった……

(そんな事より、夜宵やよいお姉さまがまた女王に選ばれてしまったとか……私は一体どうすれば良いのだろう?)

 ザ・イ・オサ新城から逃げかえって以降、美柑こと依世いよの頭の中は常にその事で一杯であった。


 ―新ニナルティナ港湾都市、波止場には貴城乃たかぎのシューネの大型船から極秘会談を終え帰還していた有未うみレナード公と秘書眼鏡たちが居た。

「この後はイェラ様が準備中の麺料理の屋台に偶然を装って現れ、試食をするというサプライズイベントの予定がありますが……」

 自称美人秘書の眼鏡は無表情で歩きながら予定が書かれた帳面を見て言った。周囲にはごく少数の警備兵が目を光らせている。

「今日はやめとくわ……」

 いつも能天気に明るいレナード公にしては沈んだ声で言ったが、秘書眼鏡は笑顔になった。

「はい、ではこの後のご予定は?」
「特にねえ。そうだないっぺんお前さんの新居にでも泊まるか」

 セクハラしまくりの様なこの男だが、こうした事を口走るのは彼がリュフミュランより命からがら脱出した時以来であった。ちなみに居候していた眼鏡も新居を得ていた。

「は、はい……実は私、こうした日がいつかくるかもと思い、心の準備をしておりました」

 名前が眼鏡の眼鏡がキラッと光った。

「……なんか怖いなお前」

 レナードは今夜は仮宮殿に戻る事も無く、渋い顔をして夜の街に消えて行った。


 ―新ニナルティナ西側、ユティトレッド魔道王国との国境の喫茶店。

「あ、あのセレネ様何でしょうか、私は常にフルエレ様と猫呼ねここさまのお側近くに居てお守りしたいのですが……」

 此処にセレネは猫呼の闇ギルドのリーダーに昇格したライラを呼び出していた。

「安心しろ。先のメドース・リガリァ軍首都侵入事件であたしも懲りた。フルエレさんには分からない様に二重三重に警備兵を配置してある。それにシャルも砂緒も常にいるだろう」

 非常に親しい人間以外との会話が苦手なセレネは、その心の内を悟られない様に必要以上に魔法剣士の達人として殺気を放ちまくった。そんなセレネの気持ちを知らないライラは突然呼び出されて殺されるのではないかと恐怖におののいていた。お互いがお互いの本心を知らないで緊張し合っていた……

「あの……一体どの様なご用件なのでしょうか?」
「うむそう緊張するな、君の事では無い。実は先の北部中部新女王選定会議の場にも図々しく出ていた、ラ・マッロカンプの食客瑠璃ィるりぃキャナリーの事だ」

 自分が緊張している癖に緊張するなと言うセレネ。

「は、はい。存じております。かなり目立っていましたね」

 自分の事が槍玉に上がる訳では無いと分かり、少しホッとしたライラであった。

「猫呼先輩の闇ギルドの中から潜入調査が得意な者を選抜して、あの瑠璃ィキャナリーとか言う年増女を監視して欲しい。貴城乃たかぎのシューネと何等かの関係がある以上、もう今までの様に信用は出来ない」
「あのそれでしたら、お隣の国のセレネ様の兵の方が……」

 ライラは恐る恐る言った。彼女はメランと違い上下関係には厳しいタイプだった。

「隣の国だからこそ、何かの縁で知り合いがいるかも知れん。そこで君のつてを頼りたいのだ」
「は、はい! それでしたらそういう事が得意な者を直ぐに派遣致します!」

 これでこの緊張する場から解放されると思ったライラは思わず笑顔になった。

「……もう一つ出来れば頼みたい事がある、同じく闇ギルドの中からそれとなく猫呼先輩の事も監視出来ないだろうか? 身の回りの世話をしているなら案外簡単に……」
「そのお話は聞かなかった事に致します!」

 セレネの最後の言葉を聞いて、ライラは突然キッと険しい顔になり、文末に被り気味に断りを入れた。

「そ、そうか失言であったな、あたしも今の発言は無かった事にしよう」
(し、しまったーー! 今のはめっちゃ怒ってる雰囲気がしたぞ、ああ凄い嫌われたんだろーなー)

 氷の無表情のまま、セレネは内心焦りに焦りまくった。非常に小さい事を気にするタイプであった。

「申し訳ありません。同盟軍総司令官のセレネ王女に向かって無礼な発言をお許し下さい。猫呼さまは我らの主、その主を裏切る訳には行かないのです」

 しかし直ぐにライラも素直に頭を下げたのだった。

(ホッ、怒って無い?)
「うむ、あたしも不用意であったな、彼女はフルエレ女王と最初の親友。少しでも疑ったあたしが恥ずかしい」

 セレネも軽く頭を下げた……


 ―船上のシューネと猫弐矢ねこにゃに戻る。
 彼らは並んで遠ざかるセブンリーフ島をぼうっと眺めていた。その後ろにはフゥーが片手で髪を押さえ控えている。

「なんか様子が変だ。明らかに北の海に向かっていない、少し南下してる何処に向かってるんだ??」

 猫弐矢が慌てて左右を見始めた。

「どこって、内海に向けて東に東に進んでいるよ」
「何!?」

 猫弐矢の魔法付け猫耳がぴくっと動いた。
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