上 下
292 / 588
III プレ女王国連合の成立

妹と兄の対決……

しおりを挟む

「今スピネルさまのデスペラード改がこの先のシェルタールームに向かって行きました。あの方は確実に目的を実行されると思います」

 壊れた壁から顔を出していたフゥーが無表情で七華に言った。

「目的を実行って何よ? 言ってごらんなさい」

 厳しい顔で七華はフゥーに聞いた。

「……猫呼さまを影武者と知らず女王として殺害されると思います」
「それで良いの?」
「……分かりません」

 間髪入れずに答えたフゥーだが、明らかに迷いの色があった。

「駄目よ! わたくしが助けに行くわ! 一緒に行くのよ」

 再び七華はフゥーの腕を引くと、所々壊れた石の廊下を進んだ。


「あーーーこんな事ならニィルかライラを手元に置いておくのだったわっ。これじゃあ避難場所を変えるにしても何処に行けば良いかわからないじゃないっ! レナードさん何とかならないの??」
「いやスマン、俺なんて遊ぶことしか考えて無かったから緊急時の事とか一Nミリも考えてなかったぜ。そういうのはアルベルトが詳しいんだが……ま、アイツは仲間が全員死んでもアイツだけは生き残るだろうがな。こんな事言ってたとかアイツに言うなよ、気にするからな」

 猫呼は激しく呆れて再びイライラした。すると横のシャルが突然猫呼の付け猫耳の頭をナデナデし始めた。

「ちょっと何のつもり!?」
「落ち着けよ猫呼。女はこうすると感激するんだろ?」
「呼び捨てやめい、あと相手によるわっ! あ~~これだけは言いたく無かったけど、こんな時に砂緒臨時代用お兄様がいれば、敵なんか雷で全員倒してくれるのに……」

 結局再び暗い不安げな顔に戻る猫呼。シャルはいつも偉そうにしているがやはり普通の少女なのだなと少し安心した。

「ま、安心しなよ、俺が付いて……る? え?」

 ガガガガガガ……
 これまでの揺れよりさらに激しい揺れが起こる。中に居る猫呼やシャル、レナードとメガネと侍女達十数人の者達は無言になって天井を見た。

『スピネル様、石を剥がすと鉄で覆われた部屋らしき物がありました!』
『でかしたぞシルビァ!! それが女王の避難場所に違いない。中を潰さない様に天井をスライスするぞっ』

 スピネルのデスペラードは剣を包丁の様に横に構え、魚を三枚おろしにする様に鉄の天井を削いで行った。
 ザギュッ!!
 器用にビール瓶の王冠の様に天井がすっ飛んで行き、猫呼達の避難場所が白日の元に晒された。

「きゃーーーーー!? ちょっと何よっ!!」
「何だ天井が飛んだ??」

 猫呼はじめ、中の人々が上を見上げると、捨て猫が入ったダンボール箱を覗き込む様に四機の巨大な魔ローダーが立っていた。シェルタールームの上にあるべき石造りの建物類は全て取り払われて、一番下の鉄の箱が露出されたのだった。

「…………何……」
(女王が雪乃フルエレでは無いだと? 何故猫呼が??)

 魔法モニターで自分達を見上げる人々を確認したスピネルが、ぽつりと一言だけを発して絶句した。人々の中心で守られる様に立っているのは、白いヴェール帽子の上にちょこんと可愛い猫耳がある小柄な少女だった。シルエットからリュフミュランやニナルティナで目撃した成長した妹の猫呼としか思えなかった。

『どうしたのですか、スピネル隊長? 随伴する戦闘員に殺らせますか?』
『あれが同盟の女王でしょうか?』
『……』
『隊長??」

 シャクシュカ隊Ⅱの美女達がスピネルに問うが、いつも淀みなく即断即決のスピネルの様子がおかしかった。

「スピネル、どうしたのですか?? もし逡巡しているのなら……」

 アンジェ玻璃音女王が、本心では女王を殺害などしたく無かったので、スピネルの様子がおかしい事に乗じて殺害を止めようと仕掛けた。

「いえ、何でもありません。速やかに同盟の女王を殺害し、作戦を成功させましょう」

 しかしすぐにスピネルはいつもの様子に戻ってはっきりと言った。

『……ひと思いに魔呂の剣で一瞬で息の根を止める事とする。戦闘員は突入しなくて良い』
『はい?』

 死体を残せと言っていたスピネルの急な方針転換だった。スピネルとしては魔ローダーのスピードと破壊力で一瞬で消してやるのがせめてもの情けだと思ったのだったが、そんな物情けでも何でも無かった。自分が決心を付ける為に魔呂の攻撃力に頼ろうという事だった。

『情け……む、無用』

 デスペラード改はシェルタールームの壁に片手を置くと、巨大な剣を振り上げた。

「な、なんて連中だ、あの巨大な剣で俺達を滅多切りにするつもりかよ!? 猫呼ちゃんすまねえ、俺が此処に逃げようなんて言うから……全部公である俺の責任だ」
「べ、別にレナード公の責任じゃないわよ……ハァまさか私がこんな終わりなんてね」
「猫呼は俺が守るからなっ!」

 シャルは魔呂から庇う様に猫呼をぎゅっと抱き締めた。

「シャル……」

「ううっお母さん……」
「うわーーー」

 偶然その場に居合わせ、猫呼の世話の為に一緒に避難した侍女の少女達やメガネも抱き合ってしくしく泣き始めた。すると猫呼がシャルを押しのけ、すくっと立ち上がる。

「北部海峡列国同盟の女王、雪乃フルエレだ! 首都を急襲する作戦お見事、天晴である! 褒めて遣わす故、褒美として見事討ち取られてやろう。その代わり少女の侍女達は逃がしてやって欲しい!!」

 猫呼は大声で身動ぎもせずに背筋を伸ばして言った。

「猫呼さま……」

 シャルはあっけに取られた。

(猫呼……見ない内に……強い女に……)
「ごくり……」

 スピネル、猫呼の兄である猫名は敵対していながらも妹の態度に感心した。しかし今仕える女王の為には例え偽物の影武者でも作戦成功を印象付ける為に、その妹を討たなくてはならないのだ。緊張で唾を飲み込んだ。

「スピネルどうしたのですか?」

 しかしアンジェ玻璃音は、目が見えなくともいつも冷静過ぎるくらいのスピネルの心音や呼吸が尋常では無い状態、激しい緊張状態である事に気付いていた。何かあると思い始めた。

「情け無用……今から撫で斬りに致す!」
「お待ちなさい!! 今の雪乃フルエレの言葉に感心しました。最後にあの女王と直に別れの挨拶がしたいのです。ハッチをお開けなさい!」
「ハッ?」

 スピネルが女王の強い言葉に振り返ると、女王はいつになく強い力で彼の腕をガシッと掴んでいた。

「い、いえ……それは無理で御座います。非常に危険です!」
「何が危険なのですか? 魔ローダー四機で囲み、足元には随伴する戦闘員までいるのですよ? 私は腕輪のシールドもありますが」
「い、いえ……無理なのです」

 もしハッチを開ければ妹と対面してしまう事になる、そうなると斬る事が出来るだろうか? スピネルの心は乱れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis
ファンタジー
【注意!!】 途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。 内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。 ※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。 ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。 生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。 色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。 そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。 騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。 魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。 ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。 小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...