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III プレ女王国連合の成立

たどり着いた七華

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 ドォーーーン、ドンドンドーーーン!!
 まだ遠くで散発的な新ニナルティナ軍による抵抗の戦闘音が聞こえる中、七華リュフミュラン王女と、彼女に無理やり腕を引かれた奴隷のフゥーが遂に女王仮宮殿の前に着いた。

「ああ良かったですわ、いつものゲートのおじさんが律儀に立っていますわ!」

 少数の新ニナルティナ軍兵士が不安げな顔で陣取っている女王仮宮殿は、旧ニナルティナ王の池遊びの為の離宮公園だったので簡単な城壁しかなく、魔ローダーが破壊しなくとも通常の戦力だけで突破されてしまいそうな情勢だった。その中に雪乃フルエレが通っていた時からの警備員のおじさんが居た。七華は猫呼に連れられて数回来ただけだが、目立つ美貌の為に警備のおじさんとも顔なじみになっていた。

「ああ、猫呼ちゃんのお連れの七華さん、ささっ早く入って!!」

 警備のおじさんは兵士に合図して素早く門を開けてくれた。

「何をやっているのです? おじさんも中に入るのよ!!」
「い、いえ私はまだまだ逃げて来る人がいるかもしれないので……」
「何でわざわざ狙われてる城に逃げて来る人がいるんですの? もう誰も来ないですわ! ささっ早く中に入るのです」

 七華は早く城の中に入り、不案内な城内をこの男に案内させる為に、口から出まかせの適当な事を口走る。

「そ、そうですな……では私ももはや中に避難しましょう」

 という事で七華とフゥーは城内に入った。


「何ですの、中は大混乱ですわね。さっさと逃げれば良いですのに……」

 七華が来た時も書類を燃やしたり慌ただしく走り回る者が居たり泣き叫ぶ侍女が居たりと、非常に混乱した状況が続いていた。

「どうやら外は危険だとか逃げる場所は無いだとか色々な情報が錯綜しているそうです」

 フゥーがやっと会話してくれた。それを聞いて七華は突然台の上に昇ると大声を出した。

「お聞きなさい! 敵は恐らく南の山中から現れて多少東に迷いながらも真っすぐこの城に向かっていますわっ! でもまだ味方が抵抗しててギリ到達してません、女性職員や非戦闘員は北西の方角に、海岸に向かって今すぐ急いで脱出なさい!!」

 七華が大声で一般職員の脱出を促して、フゥーはびっくりした。七華の警告を聞いて慌ただしく多くの職員が北から逃げ出す為に広間から離れ始めた。

「七華さんがそんな風に人の事を心配するとは思いませんでした」
「当たり前でしょう、バカな悪女みたいに言わないで頂戴な。それはそうと早く猫の子ちゃんが逃げたっていうシェルタールームに案内して下さらない?」

 七華は警備員のおじさんにお願いした。

「猫呼さんは今は有未レナード公と一緒だ。悪いが君を公と同じ様に扱う訳にはいかないんだよ」

 警備員は猫の子さんで話が通じていて、とてもバツが悪そうに七華には入れないと伝えた。今はVIPでも何でも無い七華としては当然の扱いだった。だから七華は我がまま放題の自国の王女時代の様に、もはや腹を立てて強引に案内なさい等と叫ぶ事はしなかった。

「まー仕方無いですわねえ、ただの女性職員の一人が公と同じに扱えたって無理ですわねえ、こんな事なら愛人にでもなっておくのでしたわ」
「面白いですね、七華さん」

 等とフゥーが言った直後だった。
 ドォーーーンン!!
突然至近に雷が落ちた時の何倍もの大きな音と共に、遠くのエントランスの一部が吹き飛んだ。辺りには先程まで不安げに魔銃を握っていた兵士達の死体が転がる。
 パンパンパンパン!!

「もうこんな所まで敵が!? 七華さん貴方が職員の避難を促してくれて良かった。私達も避難しましょう!!」

 突然近場でゲートを守る兵士と敵兵の戦闘が始まり、戦闘員でも何でも無い警備員のおじさんが二人を連れて外に避難しようとした。

「おじさん、やっぱりわたくしを猫の子さんの元に連れてって頂けませんこと? 私どうしてもあの子を守りたいのよ」

 一瞬警備員のおじさんは黙って考えたがすぐに決意をした。

「良いでしょう。貴方もレナード公のチームの一員、ただの職員ではありませんしね」
「ええ、では早速行きましょう」

 おじさんと七華とフゥーは城の中枢に向かって走り出した。

「七華さん、私貴方を見くびっていました。普通の女性なら震えて泣き出す様な場面ばかりなのに、貴方は顔色一つ変えませんね」

 走りながらフゥーは七華に話し掛けて来る。

「……不審者に何回か襲われたり敵国が攻めて来たり、頭上に魔ローダーの手刀を突き入れられたりしてる内に肝が据わってしまいましたのよ」
「頭上に魔ローダーが突きを?? 意味が良く分からないですが凄い経験してるのですね」
「まあね」

 ドーーーーン!! ドゴーーーーーーン!!
 会話している最中にも敵の大型攻城魔法が至近に命中して轟音が鳴り響く。

「急ぎましょう!!」


 警備員のおじさんに率いられ、何か所ものゲートを潜り抜けてやっと城の最深部に辿り着いた。

「このもう少し先が女王と公用のシェルタールームです、私はここまでですので」

 等とおじさんが言っている最中に振動が起こり始め、遂には立っていられない程の揺れに皆がしゃがみ込んだ。

「きゃーーーーっ!?」
「何だ!?」

 ガラガラガラガラガラ……
 その直後にそれまで壁だった部分がガラガラと崩れ始め、外が丸見えになるとそこから遂に城に到達していた敵の二十五Nメートルの巨大な魔ローダーが数機見えた。もはや地上兵による城内占拠が手こずる事にしびれを切らし、人間が蟻の巣の標本を観察する様に、直接魔ローダーで城のあちこちを破壊して内部を探っているのだった。七華達は腰を抜かして不気味な巨大な手が去るのをただ見つめるしか無かった。


『スピネルさま、なかなか女王の部屋らしき物が見つけられません!』
『殺害するにしても死体は必要だ。埋めない様に慎重に探せ!!』
『ハッ』

 なおもスピネルとシャクシュカ隊Ⅱの三人の美女達は城のあちこちを破壊して回った。七華は冷や汗を流しながら、とりあえず目の前から離れて行く魔呂達を無言で見送った。


 ズズーーーン!! ミシミシ……
 その同盟の影武者女王の猫呼と新ニナの国主有未レナード公達が避難しているシェルタールームでは、断続的に爆発音と衝撃と地響きが続き、天井からはパラパラと埃や何かの破片が落ち続ける。

「誰よ、シェルタールームに逃げ込むなんて言ったのは!? こんなの城外に逃げた方が良かったに決まってるじゃない!!」

 私は逃げない等と強気で言い切った猫呼がレナードに当たり散らす。

「猫呼ちゃんが言ったんだろ……」
「猫呼、落ち着けよ俺が付いてるからさ」

 猫呼の横でしっかり手を握るシャルが優しく言った。

「キーーーあんた一回手を握っただけで、いきなり男出さないでよっ! この戦闘が終わったらまた元の上下関係に戻るんだからねっ分かってるの!?」
「はいはい、猫呼さま分かりました。でもめっちゃ強く手を握ってますけど」
「うるっさいわね」

 猫呼はなおも手をしっかり握りながら激しく赤面した。しかしその時既にスピネルのデスペラード改Ⅲはそのシュエルタールームを探り当てる寸前まで来ていた……
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