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III プレ女王国連合の成立

影武者女王、猫呼クラウディアの決意

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 他の敵に目もくれず、真っ先に東に走り出したC班のブリットが乗る魔ローダーレヴェルは、最も少ない数百人の戦闘員を引き連れて喫茶猫呼が入るビルディングに到達した。

 ドーーーン! ドドーーーン!!
 魔導士の魔法が入り口を乱暴に爆破して、次々に戦闘員が冒険者ビルに突入して行く。しかしビルの中はガランとしてもぬけの殻に近かった。時々目が合った運の悪い少数の冒険者達が次々に殺害されて行く。

「ぎゃっ」
「何だ!?」
「ヒッ助け……」

 断末魔の叫びを上げながら次々殺されて行く人々。だが明らかに想定されていた約百人の闇の冒険者ギルドの猛者なる者達が見当たらない。

「隊長、ビルの中は殆ど人が居ません!」
「最上階に行け!!」

 敵を探し求めて階段を駆け上がる戦闘員、さらには雪乃フルエレ達が使うVIP専用魔法エレベーターも使用されて、遂に最上階にまで到達する。

 ドバーーーーン!!
 最後の部屋のドアが魔法瓶と魔導士の魔法で吹き飛ばされる。

「な、何なのよアンタ達! こんな事してタダで済むと、ぎゃあっ!!」

 バシュウッ!! ドタッ
 立てたテーブルの影に隠れ怒鳴り散らすピルラがいきなり魔導士の魔法の猛攻撃を受け、一瞬で絶命する。

「隊長、ビル内全か所クリアー!!」
「もはや見落としは無いか?」
「ハッ恐らく……」
「よし、では此処はもう良い。スピネル様の女王宮殿占拠に加勢する!」
「ハッ!!」

 絶命して高級マットに血を大量に流し続けるピルラの遺体を放置して、戦闘員たちはあっさりと冒険者ギルドビルを放棄した。


 ドドーーーン ドンドンドン!! ドーーーン!!
 ババババババッ パパンパン!! キューーーン
 少数の新ニナルティナ兵が建物の陰などからゲリラ的に現れては、女王仮宮殿に迫る千人以上の戦闘員と激しい戦闘を繰り広げていた。

「む、数は少ないが必死の抵抗を試みているな……踏むか?」
「お待ちなさい、なるべく街の破壊は避けるのです」

 スピネルの後ろからアンジェ玻璃音女王が身を乗り出して彼を止めようとする。

「ハッ仰せの通り今はそうしております。しかしこれ以上手間取る場合は、恐れながら進路全ての建物を破壊してでも宮殿に直行致します。ご覚悟を」
「うっ……」

 女王もあまり綺麗ごとばかり言って作戦を失敗させてはいけないという心情もあり、スピネルをこれ以上強く制止する事は出来ないと思った。

 ドーーーン!! ドンドン!!
 と、その時スピネルとアンジェ女王が乗るデスペラード改Ⅲに軽い衝撃があった。

「きゃあっ」
「何だ!? 魔戦車か!!」

 ニナルティナ兵とは別に、建物の陰から魔戦車が現れては魔砲を撃ち、後ろに引くという戦法を繰り返し始めた。アルベルト率いるたった五両の魔戦車隊だった。

『ここで少しでも敵を食い止め、他国からの援軍を待つ! 全員死ぬな!!』
『ハッ』
『はい!!』

 魔戦車の搭乗者達は冷や汗を掻きながら魔ローダーに砲撃しては逃げ回った。

『チッ、やはり居たか、アヤカとシルビァ、少々建物を壊して良い、とにかく早く魔戦車を潰せ!!』
『ハイッ』
『はっ』

 レヴェルに乗るアヤカとシルビァがそれぞれ魔戦車が消えた方に向かって走って行く。
 ドーーーーン!!
と、その直後にアルベルトの魔戦車がメドース・リガリァの戦闘員を直接攻撃した。一回の砲撃で数十人の戦闘員たちが吹き飛び死んで行く。

『みんな、余裕があれば魔ローダーでは無く、戦闘員を攻撃して地上兵の援護をしろ!!』

 逃げ回りながら地上兵の援護までするのは非常に無茶な命令だった。だがそうするしか無かった。

『チッ、魔戦車めっ直接地上兵を……早く見つけ次第潰せ!!』


 ……という戦闘が眼前で繰り広げられている。

「凄いわ、少数の魔戦車が魔ローダーを翻弄していますわね。今の内に仮宮殿に行くのよ!」
「………………」

 七華リュフミュランに促されても奴隷のフゥーはぴくりともその場からそれ以上動こうとしない。

「何をしているの? まさかあの最中に突っ込んで行って戦うおつもり? もうあそこにフゥーちゃんの居場所は無いのよ。あの連中は無機質に街を襲っているだけですわ、さっ早く行くのよ! 今の内よ……」
「あっ……」

 七華が強引にフゥーの腕を引っ張ると、まるで玩具をねだる子供が魂をそこに置いて行く様に、抜け殻の様な状態になって引きずられて行った。


 ―その新ニナルティナ同盟女王仮宮殿内。
 この広大な公園内にある巨大な宮殿の建物内でも街中の戦闘音が響き始めた。宮殿内は逃げ惑う人々と覚悟を決めた人々とで妙なラッシュ状態になっていた。

「あっニィルどうなっているの!?」

 付け猫耳ヴェール帽子状態のままの猫呼クラウディアが王宮の留守軍隊の一応トップとなっているイライザの兄ニィルを呼び止めた。

「あっ猫呼さ……いえ、女王陛下、ただ今敵の襲撃を受けております!」
「敵!? 敵って!?」
「おお、猫呼ちゃ、いや女王陛下、めんどくせえな! どうする? トンズラするか? 宮殿に籠るか??」

 そこに国主の有未レナード公も走って来た。

「……いいえ、今はまだ逃げる事は出来ないわ。私の為にみんな戦ってくれているのだもの」

 猫呼はキュッと唇を噛み締めて覚悟を決めた。

「そうか……魔戦車に乗りに行ったアルベルトが無茶しないでくれれば良いが」
「アルベルトさんが心配ね……ライラ! ライラ居る??」

 猫呼が周囲を振り返り叫ぶと、シュッとメイド服姿のまま大鎌を展開させたライラが現れ跪いた。

「ハッ此処に」
「貴方に命令よ、闇の冒険者ギルド員達に全員招集よ。フルエレの仮宮殿を守るのよ」
「ハッすぐに魔法狼煙を上げます!!」

 ビュンッ
 ライラはセレネ程では無いが、姿が見えなくなる程の猛スピードで野外に出ると、花火の様な魔法狼煙を上げた。
 パーーーン!!

「うっあれは……」
「招集だ……」
「久々の人殺しだぜ」

 魔法狼煙を見て、工事現場でビル修復作業場で、靴磨き中や介護現場、レストランのウエイトレスまであらゆる他業種に派遣されていた闇の冒険者ギルドのメンバー達が、一斉に隠し持っていた武器を手に取り走り出した。

「あっおいコラ、何処へ行く!!」
「お客さん、早く逃げて下さい、こんな時にチンタラごはんなんて食べて無いで!!」

 ウエイトレス姿の闇の冒険者ギルドの女が指を立ててお客さんに警告すると、そのまま走って行ってしまった。


「猫呼さま、俺はどうしたらいいんだよ?」

 シャルがいつも通り、目付きの悪い顔で猫呼に聞いた。

「貴方は……そうね、側で手を握ってて」
「へ?」

 シャルが戦闘では無くてつまらないと思い、怪訝な顔で猫呼の手を見ると小刻みに震えていた。それを見られたと猫呼が隠そうとするが、シャルがそのままぎゅっと握った。

「な、何よぅ」
「猫呼様が手を握れと仰ったのですが」
「そうね」

 猫呼はいつもの達観し過ぎた様子と違い、年齢に似つかわしい少し赤面した、はにかんだ顔になった。

「お、おい二人共何してる! 早く最奥のシェルタールームに避難するぞ!!」
「ささっこちらです!」

 ニィルが手を差し、有美レナードと自称美人秘書のメガネに率いられ、手を握り合った猫呼とシャルがシェルタールームに向かった。もちろん彼女は秘書のピルラがいきなり殺害されてしまった事などまだ知らない……
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