269 / 569
III プレ女王国連合の成立
女王宮殿襲撃作戦開始 魔戦車隊出撃……
しおりを挟む「ええ、だけど……出来れば女王は殺したく無いの。確保に留めてあげて」
平和主義者のアンジェ玻璃音は同盟の女王を殺すというスピネルの言葉に一瞬ドキッとしたが、全ては何もかも自分と貴嶋の為の行動であると思い、止めての代わりになんとか確保という言葉を思い付いた。
「ハッ、出来る範囲で努めます!」
即座にそう答えたがスピネルは内心嫌いな雪乃フルエレを最初から殺害するつもりだった。
『地上特殊部隊と魔ローダー部隊、首都攻撃開始!!』
スピネルのデスペラード改が山肌を滑り降りると、続いて魔ローダーレヴェル三機と二千名の特殊部隊が無言で一斉に女王の宮殿目掛けて走り出した。
『では事前の手はず通り、A班はそれがしとアヤカ、女王宮殿を急襲する。B班はシルビァ、地図で示した魔戦車倉庫を発見次第、倉庫ごと魔戦車数両を全て潰せ。もたもたしているとジャミング外に出られ魔法秘匿通信を使われるぞ。C班はブリットが冒険者ギルドビルを狙え。猛者百人が居るという噂だ。特殊部隊が手に負えなくば、ビルごと破壊せよ。では作戦開始だ行けっ』
『ハッ!』
『はいっ!』
『行きます!』
二千名の特殊部隊とスピネルのデスペラード・サイドワインダーカスタムⅢ、そして三機の魔ローダーレヴェルは指示通りそれぞれのチームに別れて一斉に走り出した。もちろんその直後から大都会の新ニナルティナ港湾都市の住人多数に目撃され、この所大きな戦いに巻き込まれていなかっただけに、突然の魔ローダーの侵攻に目撃した者達はそれが敵か味方か演習か何かすら分からず、あっけに取られたままポカンと見つめるだけだった。
その頃七華リュフミュラン王女と奴隷のフゥーが乗る路面念車は仮宮殿駅に向けてひた走っていた。
「フゥーちゃん先程から何を見ているんですの?」
フゥーは七華と何か話すでもなく無言でずっと窓を見ていた。
「景色……」
「そ、そのままですわね。面白いですの?」
「特に……する事が無いので。何でも雪乃フルエレ様はこういう路面念車とか魔戦車とかの乗り物や機械が大好きらしいです」
突然フゥーが珍しくしゃべり出したので七華は少し嬉しくて話を引き延ばす事にした。
「ヘェーーー、でもわたくしはあんまりこういうの嫌いですわね。何でこんな乗り物なんかにいちいち喜んで飛び付く女が居るのか理解できませんわ。特にフルエレみたいな子って何だかウケ狙いで機械好きって言ってるみたいな感じがいたしますのよ」
別にフルエレは受け狙いで機械好きと言っている訳では全く無かったので、これは七華の偏見に過ぎない。
「あ、私もそんな気がしていました。いちいち強調して好き好き言う必要無いなって。特に魔車とか路面念車とか単なる移動手段に大袈裟な……」
しかしフゥーは七華と似た考えの持ち主であった。
「あら……意見が合っちゃったじゃない。私達やっぱり友達なのねえ! わたくしも同じですわ、こんな機械がはびこるから戦争が起こるのよ! 人類は魔車も魔ローダーも手放して、馬と怪鳥の時代に戻るべきですわっ!」
また七華も極端な事を言い出した時だった。
「あーーーーーーー?」
突然フゥーが奇声を発し出した。
「ど、どうしましたの??」
「七華さん、出てっ!!」
「キャッ!? 痛いっ」
突然フゥーは七華の腕を強引に掴むと、走行中にも関わらず近場のドアを素早く開け、無理やり路面念車から飛び降りた。
「ギャーーーッ!?」
ゴロゴロゴロと抱き合って道路を転がる二人。
ドゴーーーーン!!
が、その直後、巨大な音と共に先程まで二人が乗っていた路面念車が爆発炎上した。その原因は七華の目には入って居なかったが、スピネルのデスペラード改Ⅲが思い切り巨大な脚で路面念車を蹴とばしたからだった。当然寸でで脱出した二人以外の乗客の命は消えてしまった事だろう……
「何てこと……何て酷い事をするの!? これだから魔ローダーはっ!!」
七華はよろよろと立ち上がりながら、何事も無く通り過ぎ様とするデスペラード改と随伴のレヴェルを見上げた。
「デスペラード……やっぱりそうだっ! スピネル様のデスペラード改だっ!! 私は此処ですっ! 此処に居ますっ!! アハハハハハ」
突然フゥーが狂った様に笑いながら両手を広げ駆け出そうとして、今度は慌てて七華がフゥーの手首を掴んだ。
「何をしてるのフゥーちゃん危ないでしょっ!!」
「離してっ、私はあそこに行くのっ!!」
なおもフゥーは七華の手を振り解いて飛び出そうとする。しかし七華の視線の先には魔ローダーの後ろに随伴して戦闘行動をしている沢山の特殊部隊員の姿が目に入った。
バシッ!!
七華は思わずフゥーの頬をはたいた。
「止めなさい! あの軍人達が目に入らないの?? 貴方の事なんてあの連中の目には入ってないですわよ、貴方が飛び出た瞬間に撃ち殺されるのが関の山ですわっ!!」
パンパンッ!!
「きゃあっ!!」
「人殺しだぞっ!!」
七華が叱った直後だった、魔呂に随伴している特殊部隊員が無造作に進軍の邪魔をした通行人を魔銃で撃った。何人かの人間が血まみれで倒れる……それを見てフゥーが絶句した。
「………………」
「ほら見なさい……目立たない様に仮宮殿に行きますわよ!」
「え? どうして??」
「どうしてって猫の子さんが危ないでしょう!!」
突然無抵抗の市民を殺害した同胞の軍隊を見て言葉が出なくなったフゥーの腕を、今度は七華が無理やり引いて歩き出した。
「でも、もう間に合わない……」
「間に合わせるのよ!! 近道でも何でもして行きますわよ!!」
突然行動力が出て来た七華が侵攻する特殊部隊に警戒しながら仮女王宮殿に徒歩で向かった。
―魔戦車倉庫。
「今なんか大きな音がしなかったか?」
魔戦車倉庫は仮宮殿と喫茶猫呼が入る冒険者ギルドビルの丁度中間あたりにあった。
ドーーーン!! ドーーーン!!
言っている直後から大きな爆発音が立て続けに鳴った。
「やっぱり変だ見て来る!!」
何人かの整備員が外に飛び出して行く。
「あっ君達! 大変だ所属不明の魔呂と戦闘員が侵攻して来た!!」
「アルベルトさん!? 所属不明の敵ですか??」
すれ違いになり掛けてアルベルトと早朝に会話していた整備員が鉢合わせる。
「とにかく魔戦車を出撃させる! 当直の隊員は??」
「すぐに呼んで来ます!!」
と整備員が言った直後に何人もの、そのほかの魔戦車乗組員魔導士が走って来た。
「隊長!! 大変です!!」
「敵ですか!?」
「一体どこから??」
そのほかの魔導士隊員達が早口で口々に話し始めるが、アルベルトは努めて冷静に話し始めた。
「一旦落ち着こう。まずは魔戦車を起動して魔法秘匿通信で隣国の魔戦車か魔ローダーに緊急通信をして救援を呼ぼう」
「ハッ!!」
ピーーーザーーー
アルベルトに促され魔戦車に次々乗り込むが、魔法秘匿通信はジャミングされた様に雑音が入り使えなかった……
「何か……結界的な物が使用されているのでしょうか??」
「仕方が無い、すぐに此処を出て、女王宮殿の守備に向かおう!!」
「ハッ」
「了解!!」
こうしてアルベルト率いる魔戦車隊五両は、B班のシルビァが駆るレヴェルに倉庫が発見される寸前に魔戦車を発進させたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
35
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる