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III プレ女王国連合の成立
全滅とカレン ココナツヒメの透明斬り込み
しおりを挟む―トリッシュ王国外側城壁、少し時間を戻す。
「うわあああ、敵の魔ローダーが一直線に進んで来るぞ!?」
「何であの砲撃は止まったままなんだ??」
「全部弾かれて諦めたんじゃないか!?」
「味方の魔呂はなんで横で見てるだけなんだ!?」
トリッシュ王国は中心に王城があり、それをぐるっと囲んで市街地があり、さらにその外側にある城壁にY子達の一団が真っすぐに向かって来ていた。その城壁の上にはラン隊長やカレン達の所属する義勇兵の部隊も居た。
「……カレン、そうだな、魔銃の弾丸がお前の街のあの建物にある、取って来てくれ!」
以前衣図ライグが攻めて来た時に、最後まで立て籠もって抵抗した建物の事だ。
「何を言っているの!? もう物資は全部城壁に持って来てて、あそこには何も残って無いよ!!」
「とにかく何でも良い、カレンはここから離れるんだ」
いつも明るいラン隊長と違い、明らかに様子がおかしい。
「嫌よ……きっときっとまたサッワが来て、皆を救ってくれるわっ!!」
カレンは疑う事の無い真剣な目で訴えた。
「……いや、あの砲撃も止んだし、城壁の外側に居る魔呂だって戦う気配が無い。連中もここを見捨てて行くはずさ」
「そんな訳無い!!」
「いや、カレンだって薄々気付いてるハズだ。メド国は此処を見捨てたんだ。敵をせいぜい漸減出来ればいいなって感じさ」
ラン隊長の言葉にトリッシュ王国は降伏しろと言っていたサッワの言葉を思い出した。それはやはりメド国は本気で此処を救う気は無いという事だろうか。
「そんな事無い……私も最後までずっとここで戦う!!」
「駄目だっ!!」
「敵魔呂がもうすぐ迫って来るぞ!!」
「……いや」
カレンはなおも首を振った。
「出て行けっ!! 女のお前は邪魔なんだよっ!!」
「酷い……」
「いいから行けっっ!」
「ううっうっっ……」
カレンは仲間だと思っていたラン隊長の言葉に思わず涙を浮かべながら、とぼとぼと城壁の階段を降り始めた。
「ラン隊長、カッコ付け過ぎですぜ……女のお前は邪魔なんだよって、たはは」
「可哀そうな事言うなあ」
「カレンは俺達のアイドルだぜ、こんな場所に居させて堪るか」
しばらく後。
「ぶつかるぞーーーーーー!!!」
ドガーーーーーーン!!
ミミイ王女を殺された恨みの籠ったY子の操縦するル・ツーの片手が城壁に突き刺さる。遂にY子達の魔ローダーの列が城壁に殺到した。次々に城壁を潰しにかかるSRV達。
「くっそーーー最後まで諦めるかっ撃て撃て!!」
ドッガーーーガラガラガラ……
ドンドンドンドンドン!! バンバンバン!!
SRV達の蹴りやタックルで城壁が崩れ始め、さらにはそこに魔戦車の魔砲や同盟軍魔導士の攻城用大型魔法が雨あられと猛烈に降り注ぐ。
「く、くっそーーーぐはっっ」
「うわーーーーー」
ラン隊長の部隊員達も次々に命を落として行く。
「最後まで……」
ダーーーーーン!!
ラン隊長も魔戦車の魔砲に巻き込まれて姿を消した。やがてカレンの所属していた義勇軍は彼女を残して全滅した……
「Y子殿、私を城壁の中に投げて下さい!! 衣図ライグをサポートします!!」
『ええ!?』
眼前で繰り広げられる壮絶な戦闘風景を、他人事の様に眺めていた砂緒が突然叫んだ。
『ちょっと待ってくれ、こちらも忙しいのだ!!』
『城壁上の敵掃討完了!! 城壁もある程度破壊しました!!』
『よし、地上兵は魔ローダーが掛けた縄梯子を伝って城壁を登れっ!!』
『城壁の潰れた箇所からも入れ! 潰した正門からは魔戦車が突入しろ!!』
Y子とメランの号令により、次々と兵士達が城壁をよじ登り、また潰れた箇所からも侵入し、正門からは魔戦車が突入して行く。
「よーーーし、一番乗りはこのイェラ様だっ!!」
バーーーーーン!! ドタッッ
イェラがよじ登った城壁の上で得意気に剣を振り上げた直後、隣に居た同じ様によじ登って来た同盟軍兵士が撃たれて絶命した。
「怯むなーーーーっ行っけぇ―――――っっ!!」
イェラは一瞥もせず、一切怯む事も無く突撃を再開する。ちなみにイェラは魔法が使えない……
「うおおおーーーーー!!」
「二番乗りだ―――!?」
「行けーー負けるなーーーー!!」
イェラに続き、おびただしい数の同盟軍兵士達が次々よじ登ったが今度、階段を駆け下りて城壁内に攻め込んで行く。義勇兵や正規軍が市街地の建物から抵抗するが、隠れた建物ごと魔戦車の砲撃を受けて吹き飛ばされる。もはや市街地の陥落は時間の問題という感じだったが、既に市街地の住民は前回の戦いの苦い経験から、最初から中心の王城に避難していた。
『……えっと何だっけ砂緒殿??』
「いやだから投げて下さいって!! たかが一投でどんだけ待たせるのですか!?」
『あースマスマン。では行くぞ、歯ァー食いしばれーうりゃーーーーーーーー!!』
Y子のル・ツーは大きく砂緒を握った拳を振り上げると、取り敢えず適当に思い切り投げ付けた。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ」
投げられた砂緒は小さな点になって消えた。
「ううっぐすっ……ううっあうっ……えっえっ」
カレンは目をこすり号泣しながら、とぼとぼと皆が避難している中心の王城に向かっていた。
(カレンは王城の正規軍に降伏を勧めて……)
「そんな事言われたって……私なんてどうすればいいのよ……」
以前サッワに言われたメド国はここを放棄するから降伏を勧めろという話、ただの義勇軍のいち兵士であるカレンにはどうすれば良いか全く分からなくて、途方に暮れていた。
「……--------------------アアアーーーーッッ!!」
「きゃっ何!?」
ドーーーーーーーーン!!
「きゃあああああああああ」
カレンの眼前に何か硬い物が落下して破片が飛び散った。
「ふしゅーーー~~~、だだ、だんだだん、だだ、だんだだん、だだ、だんだだん」
「な、何!?」
カレンの目の前で地面に両手を着いて着地していた砂緒が、自分で何らかのBGMを口ずさみながら、むくっと起き上がった。
「ヒッッ」
「おっ何とも可憐な美少女では無いですか、どうですか、私の現地妻になりませんか??」
砂緒はにこっと笑って、彼の事を良く知る人間なら本気では無いと分かるが、そうで無い者にはシャレにならない冗談を言った。しかも相手はよりにもよって、ラン隊長達の自己犠牲で助かったばかりのカレンである。瞬間的にブチ切れた彼女は背中に抱えていた魔銃を連射した。
「死ねええええええ!! こんな所に敵がっ敵がっ!!!」
バンバンバンバンバンバンバンバン!!! カチカチ……
弾倉内にあった、八発の魔銃カートリッジを全て撃ち尽くし、後にはトリガーの乾いた音だけが鳴った。
「何をするのですか……これは……例え可憐な美少女とは言え、軽いお仕置きが必要ですねえ、くくくくく」
「ヒッッ」
砂緒はもはや完全に変質者の目で両手をわきわきしながらカレンに迫った……
―城壁外側。またもや少し時間は遡る。
『SRV部隊は五機のレヴェルを駆逐せよ!!』
『おおおーーーー!!!』
『三機一組を遵守せよっ!!』
城壁破壊班とは別に、メランの後ろに続いていたニ十機のSRV達が、それぞれ三機づつのチームに別れ、城壁に張り付く様にしながらも傍観していたレヴェルに殺到を始めた。
『サッワちゃん時間切れよ! わたしはもう行くわよっ!!』
ココナツヒメの魔ローダール・ワンは、無口なクレウの透明化魔法状態のまま、三機一組でレヴェルに最初に襲い掛かったSRVチームの後ろに到達すると、すぐさま正確に一機のSRVの主機械、魔ァンプリファイアに背中から剣を突き刺し、それを引き抜くと返す剣で、もう一機のSRVの両手を切り落とした。
ドカーーーーーン!!
「!!??」
残った一機のSRVの操縦者が突然の僚機の爆発と損傷に意表を突かれた直後、当の標的にしていたレヴェルから首を落とされて、さらに腹部に剣を突き刺された。
ドボーーーーン!!
煙を出して破損するSRV。
『チョロいわぁ、一瞬で三機のザコ魔呂をやれたわっ!! 最初からこうすれば良かったのよアハハ』
ココナツヒメは透明化のまま勝ち誇った。
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