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III プレ女王国連合の成立

砂緒疾走る。 下 ユッマランド王出陣と砂緒の作戦

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「重ね重ねも申し訳ありません」

「ミミイ王女は私を庇う様に立ちはだかって敵弾に……ううっ」


 メランは今まで黙っていた事をとうとう話して涙した。


「うむ、あ奴らしい……我が王家の誇りとして語り継ごう。だがその為にはこの戦い自体勝利で終わらねばならんな」


 しばらくメランの涙が止まるのを待って今度はY子が遺品として機体の一部を持参した事を伝えた。


「ミミイ王女が最後に搭乗していた機体の一部をお持ちしました」

「うむ……宝物庫の前に展示しよう。ありがとう、礼を言おう」


 雪乃フルエレもメランも激怒されたり殺され掛けたりすると想像していたのに、余りにも静かな理知的な対応に、ひたすらこれ以上どう謝って良いか分からないくらいに申し訳ない気持ちで一杯になっていた。Y子の逡巡と、メランを庇って敵弾に死んだミミイ王女は、最終的に一体誰の責任で死んだのか? それは誰にも分からない事だった。


「さて……我らが出す一万もの兵、退く訳には行かんのだな?」


 さらに王様は二人が切り出しにくい事を先回りして言ってくれさえした。


「……まさに、その通りなのです」

「はい……王様申し訳ありません。ユッマランド兵が本隊の主力なのです」


 二人は身を屈めて応えた。


「そこに控える王子達よ、誰か妹のミミイの仇を討ちに行く者は居るか??」


 王様が後ろを振り返って王子達に尋ねるが、数多くいる王子達はびくっとして冷や汗を掻くばかりで誰も何も言わない。


「ふふっ、どいつもこいつも妹の代わりに戦う勇気すらないか、はは」

「王様、無理にとは申しません。今回お優しい王様にお会いして必ずやユッマランド兵達を奮い立たせ、戦い続ける様説得する自信が湧きました」


 メランが雪乃フルエレの代わりにはっきりと言った。


「いや、それではユッマランド王族の名折れだ。よし決めたぞ、ワシが直々に出陣しようぞ」


 そう言ってユッマランド王が立ち上がると重臣達や王子達が一斉に止めにかかった。ミミイ王女がいきなり戦死した危険な場所に王様が行こうとするのだから当然だった。


「うるさいわっ。ならば何故率先して自らお前達王子は行こうとしなかった? 今決めたぞワシが必ず出向く!!」


 強い決意の王様をもはや誰も止める事は出来なかった。Y子こと雪乃フルエレとメランも無言で跪き、王様の決意に従った。心の中で雪乃フルエレは王様が前線に出る事は無いだろうが、これで総大将を譲る事が出来、自分は一般兵に降格出来ると安堵した。


「報告ご苦労下がって良いぞ。わしは後から部隊に追い付こう。先に帰るが良い」

「ハハッ」

「はい」


 Y子こと雪乃フルエレとメランは深く一礼をすると玉座の間を後にした。


「………………これで良かったのかしら?」


 歩きながらY子が聞いた。


「良いも悪いも何も選択肢が無いでしょう。正直に伝えるしか無かっただけ。でも王様が自らご出陣される以上、今度こそ絶対に勝てる何か策を使わないと」

「そうね……」


 こんな時に身近に砂緒が居てくれたら何かと色々なアイディアを出してくれるのに……とフルエレは思った。



「おお、慣れて来ましたよー慣れればどうという事も無い、むしろ気持ちいいっ」


 当の砂緒も大型蓄念池式の魔輪で集結ポイントの野営地に向けて疾走していた。


「フルエレが熱中するのも分かりますねえ……って、あーーーーーーーっっ」


 ガッッビューーーーン

 調子に乗って全速力で走っていた砂緒だが、地面の岩に乗り上げて三Nメートル程ジャンプした。



「ひとまず先に帰って、王様の到着を待ちましょう。しかし王様の到着までになんとか必勝の策を用意しておかないと……ミミイ王女を死なせたせめてもの罪滅ぼしよ」

「それに早くしないと野営地にあの謎の攻撃で爆撃を開始されたら目も当てられないわ。何にしても急いで反撃しないと……」


 二人はミミイ王女が乗っていた白いレヴェル=ザンザスⅡの足首を宝物庫の前にそっと置くと、急いでル・ツーで集結地への帰路についた。



「うーむ、確かロミーヌとオゴ砦の西の中間地点の辺りに集結ポイントがあるはずなのですが……撤退しちゃったんでしょうかねえ」


「やっぱり気が重いわ……私帰る……皆に顔を合わせたくない……」

「まだそんな事言っているのですか!? 堂々巡りですよ……皆に会うのも貴方のお仕事で義務です」


 そう言われても魔ローダール・ツーの足取りは重かった。しかしその時ちょうど北に向かっていたはずの砂緒は不慣れな魔輪の運転で、少し方向が東に反れていたのだった。


「おんやーーー、あんな所に黒い稲妻Ⅱが!? メランですかね??」


 等と言いながら砂緒は黒く大きな角が一本ある特徴的な外観の魔ローダール・ツーに向けて走り出した。ちなみにこの世界の乗り物は内燃機関では無いのでブオーーンという排気音は一切しない。


「はぁ~~~~~帰りたくない」

「も~~まだ言ってるんですか? もう到着寸前ですよ、覚悟を決めなさいって……ん??」


 メランが魔法モニターを観て何かに気付く。


「何!? 敵襲??」

「いや……誰かがめっちゃ手を振ってる……」

「え??」


 Y子が魔法モニターを拡大化した。


「げっ砂緒さんじゃん」

「砂緒だっ!! 砂緒が来てくれた!! いけない、早く兜被らないと」

「何で?」

「……こんな姿砂緒に見せられないよ……」

「服? 状況?? どっちなのよ」


 等と言っている間に砂緒の魔輪はル・ツーの足元に来た。


「はいY子さん、もう捕まえちゃって!!」

「うん」

「わーーーーーー何で持ち上げる!?」


 空転する魔輪の車輪。ル・ツーは子猫でも捕まえる様に魔輪ごと砂緒を捕まえると、そのまま集結地に戻って行った。



「おお砂緒じゃねえかっよく来てくれたぜっ」

「ハハハ衣図ライグもよく生きていました!! ラフも生きてますか?」


 砂緒と衣図ライグが笑顔で腕を合わせる。


「生きてますぜ~~~」

「私もいるぞ砂緒」


 イェラが静かに片腕を上げた。


「おお、イェラも相変わらずセクシーですね」

「こら」


 砂緒の到着とユッマランド王自らの出陣の知らせで、相対的にY子への注目度は信じられないくらいに下がった。


「おお、そんな事をしている場合ではありません。Y子殿、早速状況を知らせて下さい」

「え、ええ。そうね……」


 冷たいかもしれないが、いつ敵の爆撃が再開されるかも不明な中、もはやミミイ王女の事を振り返る者は居なかった。平和になればいくらでも彼女を思い返す事もあるだろう。



「なる程……トリッシュ国には五機程の敵マローダーが配置されていて、そこに接近するとトリッシュ国の真っすぐ向こうの山から超長距離の一撃必殺の爆撃がある訳ですね……」

「そうよ……どうして良い物か……」


 砂緒はしばし目を閉じて熟考していた。こうして黙っているとなかなかに理知的に見えなくも無い。


「いくら砂緒さんでも直ぐには解決策は見えないでしょう……」


 メランが口を挟んだ。


「所で衣図ライグ、超長距離爆撃や魔呂同士の戦いは兎も角、純粋に地上兵だけの戦いとしては、トリッシュ国を簡単に落とす策や自信はありますか?」

「……あるよっ!! それが……あるんだな~~~~~」

「そんな物があるのか!?」


 イェラが驚いて聞き返す。


「ああ、大軍過ぎて余裕があってそんな物忘れてたが、俺達が大負けした時のトンネルが幾つもある。恐らく出口は塞がれてるだろうが、掘り返せば使えるぜ。それを大軍で使えば恐らく難なくトリッシュは落とせる」

「そんな便利な物が……」


 それを聞いて砂緒はさらに熟考する。


「は~~い、全て完全に解決しました!!」

「で、超長距離攻撃の解決法があるのか?」


 突然砂緒が自信ありげに掌を打ったが、イェラが疑りながら聞いた。


「よござんしょ、その超長距離攻撃とやら、全てアタシが弾き返しやしょう……では兎幸を呼びなさいッ」

「ハッ!?」


 その場にいる全員が何を言っているのか理解出来なくて凍り付いた様に固まった。
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