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III プレ女王国連合の成立
砂緒疾走る。 上 勝利に沸くトリッシュ王国……
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「何て事だY子! どうしてもっと早く散開するなり撤退するなり指示を出さなかった!? 貴方の判断の遅れでもっとどんな悲惨な結果に、全滅の憂き目になるかも分からんのだぞっ!!」
バンッ!!
Y子が前線基地に帰投しよろよろとル・ツーから降りた途端に、あろうことか最も近しい存在のはずのイェラがY子をつるし上げる様に皆の見ている前で机を叩き怒鳴り散らした。しかしこれは他の者に叱られて致命的な心理的ダメージを受けない様にとイェラなりの優しさだったが、当のY子にはそんな事は分らなかった。
「……申し訳無いです。何も言い返す言葉もありません」
「……仕方ないよ……あんな見たことも無い攻撃……でもミミイが……ミミイがやられてしまった」
その横でメランも、いつも元気な彼女としてはあり得ないくらいに焦燥していた。
「……しかし現実的な話ですが地上兵で最大の兵力一万を供出し、我が本隊の主力であるユッマランドミミイ王女が戦死された……その情報が兵達全員に伝われば動揺が起き、また逃亡兵が相次ぐ恐れが……」
士官の一人が冷静な分析をした。
「戦争なんだからさ、死人が出るのは仕方ねえんじゃねえか? 俺なんて最初から褒められた人間じゃねえから、嬢ちゃんを責める気なんてな全く起きねえ。全て嬢ちゃんを指揮官に選んだ奴の責任だな。それよか逃亡兵を防ぐ為にユッマランド本国に代わりの王子か何か送ってもらう様に連絡付けるべきだぜ!!」
「衣図さん……それはいくら何でも……ユッマランド王に激怒されるであろう」
特にミミイ王女と親交がある訳でも無く、さらには最近同じ様にトリッシュ国に大敗した衣図ライグがえらくさばさばした様な冷酷な事を平然と言って、イェラが眉間にしわを寄せた。がしかしこれが彼の常、普通の状態だった。
「……衣図ライグ殿有難う。全ては我を励まそうという意図からであろう。イェラ殿、バックマウンテンの山肌に変化が無いか強く警戒しておいてくれないか? また山から狙われない様に周囲の監視、怠らないで欲しい」
Y子が憔悴しきった消え入りそうな小さな声で、それまでの会話を無視した様にイェラに指示を出した。
「お、おい……お前話を聞いているのか? ユッマランドの件どうするのだ?」
「申し訳無い、今から私がル・ツーでユッマランド王に直接謝罪に行く。それで衣図ライグ殿が言う様に兵達に動揺が起きない様に、ミミイ王女は負傷で後退という事にして代わりの王子か貴族を出して頂く」
Y子は兜を被っていて表情が見えないのだが、さらに俯いて元気無く言い続けた。
「其方……ユッマランド王に謝罪して、そのまま逃げるつもりではあるまいな? 許さんぞ必ず戻ってくるのだぞ」
イェラが力の籠った手でY子の肩を掴むが、Y子は力なく無反応だった。
「………………それでは行ってまいります……」
軽くイェラの手を振り解くと、力なく出発を宣言した。しかし本隊の総指揮官であるにも関わらず積極的に止めようとする士官は一人もいなかった。
「……一人で行かせないよ、座席の後ろに乗るから」
「Y子、私も行くよっ!」
少し怖い顔になっているメランといつも通りの、のほほんとした場違いに元気な兎幸が彼女に同行した。魔ローンが破壊された怪我は、ル・ツーの回復(強)を掛けていた。
今現在サッワからの攻撃が止まっているのは、サッワはあくまで敵を自陣に誘い入れて狙い撃ちする作戦が効果的だと考えている事と、肝心の巨大な魔砲弾があと数発で無くなり、補充をする為に戻ったのであった。またもう一つの理由は、西側の七葉後川を越えた先に居るミャマ地域軍の動きにも警戒し、すぐさま西の戦線に移動出来る様にする為に、あまりY子の本隊を深追いしないという事もあった。
ル・ツーに三人が乗り込むと、Y子はすぐさま黒い兜を脱ぎ去った。
「私なの……」
「知ってたわよ、今更……」
「うんうんうん」
「そうなのね……」
「…………………………」
しばらく沈黙が続いた。走って行けば野営地からユッマランドまではすぐに到着する距離だ。
「…………どうしよう、どうしよう……ミミイが死んじゃった!! 私どうしたら良いの?? 私もう帰りたい、喫茶猫呼に帰るっ!! ううっうっっ」
突然雪乃フルエレが泣き叫び出した。それに合わせてル・ツーの動きはぴたっと止まっていた。
パシッ!!
すぐさまメランが横から鬼の形相でフルエレの頬をはたいた。
「何を言っているの!? ミミイが死んでしまって、今更逃げ帰るなんて私が許さないわよ、さあ早くユッマランド王の元に行くのよ、私も一緒に謝ってあげるから」
「い、いやああ、行きたくない、王様にどんな顔で会えばいいのよ!?」
「私も一緒よ、さあ行くのよっ!!」
雪乃フルエレも泣いていたが、メランも泣いていた。特に仲が良かった訳では無い、むしろ仲が悪い方だったがあんな死に方をされて、どう説明したら良いかわからない苦しみを感じていた。
「Y子……じゃなかった、フルエレ……私はいつでもフルエレの味方だよー、元気だして……」
二人の激しいやり取りを見て、兎幸はどう言って励まして良いかわからず、おろおろしながら見守った。
「……兎幸ありがとう……メランごめん、ユッマランド王に謝罪はするわ、けどその後は分からない、自信が無いよ……」
「まあいいわよ、とにかく急ぎましょう」
歩みが止まっていたル・ツーは再び東に歩き出した。
―トリッシュ王国。トリッシュでは城壁にずらっと義勇兵達が張り付き、いつ来るか分からない同盟軍の大軍を迎え撃とうと悲壮な決意で待機していた。
「物見から報告!! 同盟軍は一斉に退却した模様!!」
「報告2!! 同盟軍の魔ローダーは次々爆発して走って逃げ帰った!!」
「イエエエーーーーーーッッ!!」
「いやったああああああああ!!!」
「勝った!!! 神懸かってんぜ俺達のトリッシュ王国はよ!!!」
「ヒィヒヒャッハーーーーー!!!」
同盟軍退却、またしても大勝利の報告を聞いて、歓声を上げ一斉に魔銃を空に向けて撃ち放つ義勇兵達。
「何、何があったの、何の騒ぎ!? ラン隊長何がっ??」
そこに魔銃の魔銃弾を抱えたカレンが走って来て、突然の周囲の大歓声に驚いた。
「おおカレン、そんな物置け。またまた大勝利だ。何でも敵の魔呂が次々爆発して同盟軍の奴ら全軍走って逃げ帰ったらしいぜっ!! お前も喜べっ!!」
「魔ローダーが爆発!? どうやって??」
「知らん」
「知らんて………………そうだわっサッワくんよ、サッワくんが戦っているのよっ!! 凄いわ……会いたい……サッワくんにまた会いたいよ……」
カレンは両手を組んで遠い目をした。
「はいはい……何でもサッワくんだなお前は……」
しかしカレンの言った通り、この勝利もサッワの仕業だった。
―タカラ山新城、総司令部。セレネと砂緒は多くの士官が書類を持ち走り回る司令部室で、何もする事無く、二人でぼーっと並んで暇そうに座っている。
「あのーーいいですか、セレネ」
座っていた豪華な椅子から突然砂緒が立ち上がり、上半身を乗り出しさらに豪華な彫刻の入った自分達の木製の机の前を覗き込む。
「突然なんだ?」
「私達の座る長い机の前なんですが、半紙みたいなピラピラした紙がテープで貼ってあって、セレネの所は『総司令官』て書いてあるのは分かるのですが……」
「半紙て何だよ」
「私の所の半紙は『愛人』て書いてあるんですよねえ、何ですか愛人て嫌がらせですかねえ?」
「お前が自分自身でそう言ったんだろーが」
「実際に文字にしちゃうとインパクトありますよ。でも我々縁側でお茶をすする老夫婦みたいにしてて良いのでしょうか……」
「ふ、夫婦みたいか」
セレネは少し赤面して笑顔になった……
「急報ですっ!!」
そこに突然情報士官が血相を変えて慌てて走って来た。
「何だ慌てるな。言え」
セレネがうっとうしそうに言った。
「ハッ、Y子殿の中央軍本隊、トリッシュ国攻略するも魔呂を多数失う大敗の上、退却!! し、しかもミミイ王女が王女が……お、御討死!! ううっ」
情報士官は会った事も無いミミイ王女討ち死にの報に涙を流していた。その報告を聞いて、セレネは無言で立ち上がっていた。一瞬で騒がしかった司令部室はシーンと静まりかえっていた。
バンッ!!
Y子が前線基地に帰投しよろよろとル・ツーから降りた途端に、あろうことか最も近しい存在のはずのイェラがY子をつるし上げる様に皆の見ている前で机を叩き怒鳴り散らした。しかしこれは他の者に叱られて致命的な心理的ダメージを受けない様にとイェラなりの優しさだったが、当のY子にはそんな事は分らなかった。
「……申し訳無いです。何も言い返す言葉もありません」
「……仕方ないよ……あんな見たことも無い攻撃……でもミミイが……ミミイがやられてしまった」
その横でメランも、いつも元気な彼女としてはあり得ないくらいに焦燥していた。
「……しかし現実的な話ですが地上兵で最大の兵力一万を供出し、我が本隊の主力であるユッマランドミミイ王女が戦死された……その情報が兵達全員に伝われば動揺が起き、また逃亡兵が相次ぐ恐れが……」
士官の一人が冷静な分析をした。
「戦争なんだからさ、死人が出るのは仕方ねえんじゃねえか? 俺なんて最初から褒められた人間じゃねえから、嬢ちゃんを責める気なんてな全く起きねえ。全て嬢ちゃんを指揮官に選んだ奴の責任だな。それよか逃亡兵を防ぐ為にユッマランド本国に代わりの王子か何か送ってもらう様に連絡付けるべきだぜ!!」
「衣図さん……それはいくら何でも……ユッマランド王に激怒されるであろう」
特にミミイ王女と親交がある訳でも無く、さらには最近同じ様にトリッシュ国に大敗した衣図ライグがえらくさばさばした様な冷酷な事を平然と言って、イェラが眉間にしわを寄せた。がしかしこれが彼の常、普通の状態だった。
「……衣図ライグ殿有難う。全ては我を励まそうという意図からであろう。イェラ殿、バックマウンテンの山肌に変化が無いか強く警戒しておいてくれないか? また山から狙われない様に周囲の監視、怠らないで欲しい」
Y子が憔悴しきった消え入りそうな小さな声で、それまでの会話を無視した様にイェラに指示を出した。
「お、おい……お前話を聞いているのか? ユッマランドの件どうするのだ?」
「申し訳無い、今から私がル・ツーでユッマランド王に直接謝罪に行く。それで衣図ライグ殿が言う様に兵達に動揺が起きない様に、ミミイ王女は負傷で後退という事にして代わりの王子か貴族を出して頂く」
Y子は兜を被っていて表情が見えないのだが、さらに俯いて元気無く言い続けた。
「其方……ユッマランド王に謝罪して、そのまま逃げるつもりではあるまいな? 許さんぞ必ず戻ってくるのだぞ」
イェラが力の籠った手でY子の肩を掴むが、Y子は力なく無反応だった。
「………………それでは行ってまいります……」
軽くイェラの手を振り解くと、力なく出発を宣言した。しかし本隊の総指揮官であるにも関わらず積極的に止めようとする士官は一人もいなかった。
「……一人で行かせないよ、座席の後ろに乗るから」
「Y子、私も行くよっ!」
少し怖い顔になっているメランといつも通りの、のほほんとした場違いに元気な兎幸が彼女に同行した。魔ローンが破壊された怪我は、ル・ツーの回復(強)を掛けていた。
今現在サッワからの攻撃が止まっているのは、サッワはあくまで敵を自陣に誘い入れて狙い撃ちする作戦が効果的だと考えている事と、肝心の巨大な魔砲弾があと数発で無くなり、補充をする為に戻ったのであった。またもう一つの理由は、西側の七葉後川を越えた先に居るミャマ地域軍の動きにも警戒し、すぐさま西の戦線に移動出来る様にする為に、あまりY子の本隊を深追いしないという事もあった。
ル・ツーに三人が乗り込むと、Y子はすぐさま黒い兜を脱ぎ去った。
「私なの……」
「知ってたわよ、今更……」
「うんうんうん」
「そうなのね……」
「…………………………」
しばらく沈黙が続いた。走って行けば野営地からユッマランドまではすぐに到着する距離だ。
「…………どうしよう、どうしよう……ミミイが死んじゃった!! 私どうしたら良いの?? 私もう帰りたい、喫茶猫呼に帰るっ!! ううっうっっ」
突然雪乃フルエレが泣き叫び出した。それに合わせてル・ツーの動きはぴたっと止まっていた。
パシッ!!
すぐさまメランが横から鬼の形相でフルエレの頬をはたいた。
「何を言っているの!? ミミイが死んでしまって、今更逃げ帰るなんて私が許さないわよ、さあ早くユッマランド王の元に行くのよ、私も一緒に謝ってあげるから」
「い、いやああ、行きたくない、王様にどんな顔で会えばいいのよ!?」
「私も一緒よ、さあ行くのよっ!!」
雪乃フルエレも泣いていたが、メランも泣いていた。特に仲が良かった訳では無い、むしろ仲が悪い方だったがあんな死に方をされて、どう説明したら良いかわからない苦しみを感じていた。
「Y子……じゃなかった、フルエレ……私はいつでもフルエレの味方だよー、元気だして……」
二人の激しいやり取りを見て、兎幸はどう言って励まして良いかわからず、おろおろしながら見守った。
「……兎幸ありがとう……メランごめん、ユッマランド王に謝罪はするわ、けどその後は分からない、自信が無いよ……」
「まあいいわよ、とにかく急ぎましょう」
歩みが止まっていたル・ツーは再び東に歩き出した。
―トリッシュ王国。トリッシュでは城壁にずらっと義勇兵達が張り付き、いつ来るか分からない同盟軍の大軍を迎え撃とうと悲壮な決意で待機していた。
「物見から報告!! 同盟軍は一斉に退却した模様!!」
「報告2!! 同盟軍の魔ローダーは次々爆発して走って逃げ帰った!!」
「イエエエーーーーーーッッ!!」
「いやったああああああああ!!!」
「勝った!!! 神懸かってんぜ俺達のトリッシュ王国はよ!!!」
「ヒィヒヒャッハーーーーー!!!」
同盟軍退却、またしても大勝利の報告を聞いて、歓声を上げ一斉に魔銃を空に向けて撃ち放つ義勇兵達。
「何、何があったの、何の騒ぎ!? ラン隊長何がっ??」
そこに魔銃の魔銃弾を抱えたカレンが走って来て、突然の周囲の大歓声に驚いた。
「おおカレン、そんな物置け。またまた大勝利だ。何でも敵の魔呂が次々爆発して同盟軍の奴ら全軍走って逃げ帰ったらしいぜっ!! お前も喜べっ!!」
「魔ローダーが爆発!? どうやって??」
「知らん」
「知らんて………………そうだわっサッワくんよ、サッワくんが戦っているのよっ!! 凄いわ……会いたい……サッワくんにまた会いたいよ……」
カレンは両手を組んで遠い目をした。
「はいはい……何でもサッワくんだなお前は……」
しかしカレンの言った通り、この勝利もサッワの仕業だった。
―タカラ山新城、総司令部。セレネと砂緒は多くの士官が書類を持ち走り回る司令部室で、何もする事無く、二人でぼーっと並んで暇そうに座っている。
「あのーーいいですか、セレネ」
座っていた豪華な椅子から突然砂緒が立ち上がり、上半身を乗り出しさらに豪華な彫刻の入った自分達の木製の机の前を覗き込む。
「突然なんだ?」
「私達の座る長い机の前なんですが、半紙みたいなピラピラした紙がテープで貼ってあって、セレネの所は『総司令官』て書いてあるのは分かるのですが……」
「半紙て何だよ」
「私の所の半紙は『愛人』て書いてあるんですよねえ、何ですか愛人て嫌がらせですかねえ?」
「お前が自分自身でそう言ったんだろーが」
「実際に文字にしちゃうとインパクトありますよ。でも我々縁側でお茶をすする老夫婦みたいにしてて良いのでしょうか……」
「ふ、夫婦みたいか」
セレネは少し赤面して笑顔になった……
「急報ですっ!!」
そこに突然情報士官が血相を変えて慌てて走って来た。
「何だ慌てるな。言え」
セレネがうっとうしそうに言った。
「ハッ、Y子殿の中央軍本隊、トリッシュ国攻略するも魔呂を多数失う大敗の上、退却!! し、しかもミミイ王女が王女が……お、御討死!! ううっ」
情報士官は会った事も無いミミイ王女討ち死にの報に涙を流していた。その報告を聞いて、セレネは無言で立ち上がっていた。一瞬で騒がしかった司令部室はシーンと静まりかえっていた。
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