上 下
241 / 588
III プレ女王国連合の成立

ウェカ王子の山越え作戦

しおりを挟む
 後日、遂にユティトレッド魔導王国から量産型魔ローダーSRVが三機届いた。乗って来た操縦者はそそくさと本国に帰って行ったので、早速瑠璃ィキャナリーの部下達が乗り込んだ。

「なかなかええやんか。これ同盟締結式の時に一機だけ動いてたヤツやんなあ?」
「そうなんですか~~? 私には全部おんなじに見えますね~~~」
「いや色の違いくらいは判るだろメア……」
「いえ、色の違いすら分かりません!」
「嘘付けっ! でもこの艶々な緑色、戦闘機械って言うかもう趣味の乗り物だなあ……」
「何でもワックス掛けしやすい様に、魔法溶接跡とかが綺麗に除去されてるらしいんやで。何でも見掛けにはえらい気ー使った機体みたいやなあ」
「性能に気を遣えよ……」

 等と無駄話している内に瑠璃ィの部下が乗り込んだSRVはスムーズに動き出した。

(い、いきなり王子に切り掛かったりしないわよね!?)

 等とメアはまだまだ少し疑って心配して見ていたが、その様な事も無く、一通りデモンストレーションは終わって、部下達が降りて来る。

「お前ら、この魔呂はどんな感じだ?」
「はい……物凄いパワーが隠されているという事は無いですが、決して悪いという事は無いです。なかなか動きも滑らかで凄く良い機体だと思います。これが集団で稼働するならとても強力な戦力になるでしょう」

 瑠璃ィの部下は忌憚の無い意見を言った。ちなみに量産型魔ローダーとココナツヒメのル・ワンに代表される様な特殊な魔ローダーの違いは、魔呂の中枢機関である『魔ァンプリファイヤ』の性能差と言えた。特殊な魔法を使って製造される魔ァンプリファイヤだが、過去の伝説的な魔呂製造者の中には偶然に高性能な魔ァンプリファイヤを製造出来る事があり、それには操縦者の魔力を特殊なスキルに変換する能力が付与出来た。それがル・ワンの瞬間移動やル・ツーの回復スキルである。しかし砂緒と雪乃フルエレの魔ローダー、日蝕白蛇輪の能力吸収スキルの原理はよく分かっていない。

「おうおうそうか、んでこの魔呂はどんな感じだ?」
「え? ……凄く良いです」
「おお! そうかっ!! よし、決めたっボクはパパ上に前に考えた大戦略をおねだりする事にする!!」
(お、覚えてたんか……)

 メアはどうせ却下されるだろうと高を括っていた。


 ―そしてウェカ王子が開催をねだった軍議が開かれた。

「ハハハ、今日は何ですかな? ウェカ王子から依世ちゃん捜索の計画ですかな?」

 重臣の一人が嫌味を言うと、場内に静かな笑いの渦が起こるが、威厳のあるウェカ王子の父、ラ・マッロカンプ王がひと睨みすると収まった。

「何なのだウェカよ、皆を呼び出してまでどの様な話があるのだ? つまらぬ話ならただでは済まんぞ」

 威厳のある父王がウェカ王子にプレッシャーを掛けると、さすがの王子も緊張し始めた。

「ぱ、パパ上」
「父上だ」
「ち、父上、この度ユティトレッド魔導王国の使者から、速やかに兵を揃えイ・オサの新城に集結する様要請されているそうですが、それをそのまま履行して良いのでしょうか? ボクはそう思いません!」
「ほほう? 何故だ」
「はい、それは即ち我が国がユティトレッドの軍門に降るという事になってボクは凄く嫌です。北部海峡列国同盟は女王の元に集う対等な同盟であり、ユティトレッドの私兵になる事では無いと思うのです!」
「その通りだ……」
「依世ちゃん王子がマトモだぞ……」

 王子の主張を聞いて重臣達が目を見張った。

(えへんっ王子様は日々成長してるのよっ!!)
「それで我が国はどうするのだ? 今回のメドース・リガリァ征伐戦には不参加とするのか?」
「いいえ違います! メド国征伐に不参加なのもラ・マッロカンプの評判を落とします。そこでボクの考えた策は、山越え攻めの策です!」

 重臣達がヒソヒソと顔を見合わせる。

「山越え攻め策とは?」
「はい、我が国の中心に流れるラ・マッロカンプウララ川を遡上する様に川沿いを南に進み、ある程度進んだ所で東に移動して山を越え、メド国の裏口にあるバックマウンテンから一気に本国を急襲するのですっ!!」

 会場がザワザワとなった。

「……まだメド国征伐のはっきりとした日取りが伝えられていない。どの様に最適なタイミングを図るのか?」
「はい! それはこの魔法モールス信号でっ!!」
「王子、王子、魔ローダーに乗ってたら魔法秘匿通信でやり取り出来るでっ」

 これまで黙って話を聞いていた瑠璃ィキャナリーが、慌てて王子の耳元で囁く。

「魔呂の秘匿通信でっ!」
「それでも危険を伴う行動を開戦前に行い、長い間息を潜め待機する事になる困難な作戦ではないのか?」
「覚悟の上ですっ!!」
「王様っウチは何度か戦の経験がありますっ! 王子がやるゆうなら、全力でサポートしますさかいにっやらさせてあげて下さい!」
 
 突然瑠璃ィも王子の主張に賛同して王様に直訴した。

「誰だ貴様は」
「ボクの家来一号だっ!! 凄く強いのです」
「我らからもっ」
「誰だ貴様らはっ」
「ボクの家来の瑠璃ィのさらに家来だっ!」
「……なんと知らぬ間にウェカにこの様な家来共が出来ておったとは……」

 王様は目をつぶって考えた。依世ちゃん依世ちゃん言って世間からうつけだ変人だと思われていた王子が、知らぬ間に多くの家来を得て人望を集める存在になっていた事を嬉しく思った。

「……良いだろう、ただし条件がある。直接メド国を急襲するのはリスクが高過ぎる。ウララ川を遡上してそのままSa・ga地域の平野に出て、まずはソーナ・サガを攻める。それならば実行を許そう」

 ラ・マッロカンプの王様は冷静な判断を下した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...