上 下
238 / 588
III プレ女王国連合の成立

漁村の瑠璃ィ

しおりを挟む
「な、何だ?」
「いえ、王子がまともな事を話し始めたので熱があるのじゃないかと……」
「失礼な奴だな……」
「おんなじやでっ、ウチもあのセレネとか言う女がちょっと嫌いやわあ。いきなり死にかけて皆に世話掛けた癖に偉そうにしくさって」
「いや瑠璃ィさんそれは皆さんを守ろうとして……」
「ちょっと待て……ボクはなんかその辺りの記憶が……」
「あ、ああっ何でもないですわっ、ねえ瑠璃ィさん!」
「そ、そうやなっ! ほほほほほほほ」

 瑠璃ィとメアは危うくまた王子のブラックボックスを開きかねないと思い必死で話題を逸らした。

「何にしても、このままあの国の命令通りに動いて埋没してちゃ駄目なんだ……そんなんじゃあ依世ちゃんに僕の存在をアピール出来ない……何か、何か凄い作戦をして皆をぎょっと言わせないと駄目なんだ」
「王子……」

 メアは珍しく真面目に頭を悩ませている王子を見て、少しドキッとすると共に、王子の成長を感じていた。

「あーーそうやーーウチちょっと一人で散歩行ってくるわ~~~メアちゃんも王子も絶対付いて来たらあかんねんで~~~」

 唐突に瑠璃ィはウインクして人差し指を立てると、そそくさとその場を後にしようとする。

「おおーー瑠璃ィ、飢えて行き倒れになるなよ~~~」
「心配せんといて~~~お腹空いたら帰ってくるさかいに~~~ごめんやっしゃあ」

 片手をぴっと掲げると瑠璃ィはふわふわとした足取りで部屋から出て行った。

(あ、あやしいい! あーーやーーしーーいーー怪し過ぎる!! 一体彼女は何なの?? そうだわっ一度しっかり尾行して何をしているか確かめましょう。妙な事をしていたら王子に通報して……うふふ)

「ど、どうした? 何を一人で笑っている??」
「お、王子、突然ですが私も一人で漁村にお買い物に行ってきますわっ!」
「は、はあ? 気を付けろよっ」

 そう王子に告げると、メアは目立つセクシーなメイド服の上にトレンチコートを羽織り、サングラスを掛け、つばの広い女優さん帽子を深々と被ると、瑠璃ィキャナリーの追跡を開始した。


「るんるんる~~~ん」

 城から出た瑠璃ィキャナリーは上機嫌なのかスキップをしながら市場に向かった。瑠璃ィは年齢不詳だが確実にスキップが似合う年齢では無かった。

「何なの……やけに上機嫌ね? まさか……男に会うとか!? 絶対に尻尾を掴んでウェカ王子にタレ込んでやるわぁふふふ」

 トレンチコートを羽織り、タブロイド紙で顔を隠すメアは上手く尾行出来ていた。

「おばちゃん! 携行食を五十食分ちょうだいなっ!」

 市場に着くと瑠璃ィは冒険者の雑貨露天で携行食を五十食分買った。

「まっオ〇サ〇がおばちゃんって言ってる、厚かましいですわねえ~~、でも問題はそんな所じゃ無いわね、五十食分の携行食を買うってどういう事? なんだか物凄い冒険者と付きあってる??」

 すると瑠璃ィは市場を抜け、北に進みだした。ラ・マッロカンプ王国は北部海峡列国同盟に参加し域外の帝国への玄関口ともなる国際国だが、悪く言えば同盟の中では田舎国でもあり、王都のカラス城周辺を一歩離れれば、すぐに寂れた漁村ばかりとなる。この国の主要産業は漁業であった……

「また漁村に行くのね……逞しい漁業関係者とお付き合いが? まあ蛸の入った丸い食べ物が好物らしいし、あり得るわねえ」

 メアは明らかに目立ち過ぎる格好で、ズンズン進む瑠璃ィを順調に尾行し続けた。しかし瑠璃ィはさらにどんどん北に進み、さすがにメアも少々不安になって来たのだった。

「ちょっと……けっこう建物もまばらになって来たんですけど……」

 すると、とうとう瑠璃ィは寂れた漁村の朽ち果て掛けた小屋の前に立つと左右を軽く見て入って行った。

「怪しい! 怪しさポイントマックス!! 遂にとうとう瑠璃ィさんの裏の顔を掴んだわよっ!! くふふふふふ」

 メアも慎重に左右を見ると、小屋の窓から中を覗いた。

「げっ……」

 一目覗いてメアはぎょっとした。瑠璃ィの前には約二十名程のフードを被った怪しい屈強な男達が跪いていた。

(あや、怪しいなんて物じゃないわっ怪し過ぎる……)

 一瞬たじろいだメアだが、気を取り直して再び小屋内を覗いた。

『おおっ瑠璃ィさま、食料調達有難う御座います』
『これは大事に少しづつ食べます!』
『我らもご近所さまの漁師から漁を習い自前で食料調達を行うつもりですぞ!』

(な、何なの、瑠璃ィさんってこの屈強な人達のリーダー的存在なの!?)

『ごめんやでーウチが宙ぶらりんな状態で、あんたらに迷惑かけてもてー。でも再会出来て良かったわ~~~』

 その言葉で屈強な男達は何か苦労があったのかおいおい泣き出した。

『我らもまさか大切なご主人を見失い、この様なご迷惑をおかけする事になろうとは、どの様な罰でもお受けします……』
『ええんやで、再会出来たのが何よりや、地図くれた道路工事の人達に心の中であんじょう感謝しときやー』
『ははっ』
『………………』

 男達は雪乃フルエレと砂緒とセレネに出会った事をまだ言っていなかった……。なるべくまおう軍以外のセブンリーフの住人とは争うなという神聖連邦帝国本国のお達しを破った事を言うのが怖かったのだ。しかし瑠璃ィ自体は砂緒達を多少見知った間柄だったから、本当は打ち明けてもたいした問題では無かったのだが。

『しかし……此処でこのままのんびりしていても良いのでしょうか? いつ城に攻め込む気なのですか?』
『ああ、それは若君次第やなあ……若君をどうにかせんと……ウチの一存では……』

 これはもちろん、若君とは紅蓮アルフォードの事であり、城とはまおう城の事である。瑠璃ィキャナリーもフードの男達も東の地、神聖連邦帝国からセブンリーフのまおうを討伐する為に派遣された紅蓮のサポート役として追加派遣されたのだった。ただ問題は、彼女も部下のフードの男達もとんでも無い方向音痴という事だった……。また紅蓮自体も偶然パートナーとなった美柑と偽名を名乗る依世となるべく長く旅をしたい、一緒に居たいという下心からワザとあちこちを巡りに巡り、まおう討伐を伸ばしに伸ばしていた。そういう訳で両グループはなかなか出会えないのであった。
 偶然にこの国のウェカ王子が妄想の様に連呼して探し求める超絶美少女依世ちゃんは、この様に瑠璃ィと遠く関係していた。だが、メアにはそんな事は一切知るハズも無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...