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III プレ女王国連合の成立

渡河作戦開始! スピネルのデスペラード改と砂緒セレネの蛇輪の邂逅

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「なぁーちょっとハッチ開けてさー、砂緒さんお得意の遠くが見える能力で西の方を見てみて!」

 セレネには珍しく仲良く横に座る砂緒にしな垂れかかって誘惑する様にお願いする。普段からセレネは男っぽく乱暴か、もじもじしてるかの両極端な態度なので、こうした大人っぽい妖艶な美女みたいな態度をされて砂緒はドキッとした。

「いやぁーーー何も無いと思いますよぉ」

 ハッチをバシャッと開けると、砂緒は首から肩に絡みつくセレネをゆっくりとどかして立ち上がり、額の上に手をかざして有料双眼鏡の能力で西を見た。するともはやスピネルが誘導する、船による兵員の引き上げ渡河地点は間近に迫っていた……

(うお、めっちゃうじゃうじゃ引き上げ作業中じゃないですか……しかしもう少し粘れば全員逃げてくれるかも!?)
「どうしたぁーー砂緒さぁーん、何が見えるん?? 言ってみ~~~」

 セレネも立ち上がって、再び美女風の誘惑を再開する。

「セレネ美人さんなのだからそういう態度は止めて下さい、ドキドキしますよ。で、何が見えるかですが……どんなンかなー、なんとうら若い乙女が真っ裸で行水をしていますね、こりゃヤバい……近付く事はまかりならんでしょう」
「ほほう? そりゃ興味深いな」

 セレネは白く細い指先を砂緒の顎に当ててスリスリした。


 その西、スピネルが導くチャイムリバー橋跡兵員引き上げポイントでは、順次次々にボートや内魔艇に兵員が乗り込んでいた。

『よし、落ち着いて秩序だって行動すれば皆が助かるぞ、私が保障する! 元気が有り余っている者はボート、怪我人や女魔導士や女士官は内魔艇だ。満員になった時点で出発するのだ!』

 スピネルが下を見ると、少数の魔戦車が兵達を守る様に川岸にたむろしている。

『安心しろ、兵員の輸送が終われば魔戦車は一両ずつ掴んで向こうに連れて行く!』

 スピネルの言葉を聞いて、魔戦車の乗員が手を振った。そんな時だった……

 ドシーーン、ドシーーン。
ゆっくりと東の方から魔ローダーが歩いて来る音が響く。引き上げ作業中の兵達の何割かがそれに気付いて顔を見合わせた。

「何だこの音は?」
「魔呂か??」
「ひっ敵か??」
「普通走って来ないか? また味方じゃないか??」

 人々が不安を抱えながら口々に会話している間にも音が大きくなって来る。
 ピーーー。
スピネルの魔ローダーデスペラード改Ⅲの魔法モニターの望遠で遂にその姿が捉えられた。それは此処に辿り着いたセレネと砂緒が乗る蛇輪だった。

(チッやはり蛇輪か……しかしならばやり様はある!)
『皆の者落ち着いて聞け、敵魔ローダーが歩いて接近している。だが! 落ち着いてそのまま引き上げ作業を続けろ。向こう岸に辿り着いた内魔艇は引き続きこちらに戻って来るのだ』
「えええええっ」
「なんだよそれ!?」
「敵の魔呂だって??」
「貴様ッスピネルさまの言葉に従え!」

 スピネルの話を聞いて何割かは驚きの声を上げたが、殆どの者は言われた通り黙々と作業を続けた。

『今から私は完全に絶対に時間を稼ぐ事が出来る! 私を信じて作業を続けろよ』
「絶対に完全に??」
「えらい自信だな」
「スピネルさまを信じろ!」

 そう言うと、スピネルのデスペラード改Ⅲはざばあっと大量の水しぶきを上げながら川から陸に上がると、そのままゆっくりと蛇輪に向かって行った。朴訥で有言実行な真面目な剣士と思われているスピネルの言に従い皆は黙々と帰還作業を続ける。

「セレネさーーん、どうするつもりなんですかあ? まさか葡萄酒を作る素足の乙女が如く、あのうじゃうじゃいる兵員の最中に飛び込んで行って、ぷちぷち踏みまくる気じゃ無いですよねえ?」

 もはや蛇輪の魔法モニターにもデスペラードの姿も船に乗り渡河作戦を続ける兵員の姿も完全に捉えられていた。

「ぷちぷち踏みまくるってイクラの卵じゃないんだからな、微妙な表現をするなよ。まさかそんな事はしないよ。だって女王陛下様も逃げる兵士は討つなと言ったらしいからな!」
「ああ良かったです。やはり私の大好きなセレネさんは敵兵にも優しくて綺麗です……」

 砂緒はフルエレの要求もセレネの顔も両方立てられると思いホッと胸を撫で下ろした。

「ただ……兵士の大半が船に乗った時点で、あの魔ローダーを倒して船も沈める!!」
「へっ、話が違うのじゃ無いでしょうかっ??」

 砂緒はあっさり前言を翻すセレネの発言にびっくりした。

「あのう先程兵士には手を出さないと言ったばかりでは?」
「はあ? あたしは女王の言葉通り生身の兵士には手を出さない、けれど敵兵の乗った軍艦は全て沈める!! それが何か?」
「え、いやーそれは〇休さん的なとんち屁理屈と言いますか……」
「砂緒も魔法剣で敵兵が乗った魔呂を五機も破壊して殺したではないか。それに話だと昔の砂緒さんは敵兵の命など蚊程にも感じない化け物呼ばわりだったそうじゃないか、全てフルエレさんの影響か?」

 敵の魔呂と言われ、中の人間がどんな人物達か忘れようとしてた事を思い出す。
 ピーーー。
そんな会話の最中に、敵のスピネルのデスペラード改接近のアラートが鳴った。

「お、敵の黒いのが接近して来たな。やるか?」
「でも様子が変ですよお」

 バシャッ!!
二人が会話をする最中に突然デスペラード改の操縦席ハッチが開いた。

「むっ?」
「何だ??」

『私はメドース・リガリァ軍の魔ローダー操縦者、スピネルだ。貴君と話がしたい』

 ハッチが突然開いた次は、魔法外部スピーカーで対話を呼びかけて来る。

「あっ……貴様っ! スピナッ!!」
「スピナ??」

 砂緒の目に映るスピネルと名乗る者の顔はスピナその物だった。

『貴様何処に行っていた??』
『ふむ……何の話だ?』
『とぼけるな! 貴様リュフミュランの七華の護衛騎士のスピナであろう!』

 お互い魔法外部スピーカーで会話する。

『はて、何の話だろうか?』
「おいおい、何の話だ?」
「いや、ほら、リュフミュランの喫茶スペースやってた時に、意地悪して来た王女の七華の周りに居たスピナですよ!」
「……なんでそんな言い方するの? それってあたしがフルエレさんに会う前の話じゃん! それに七華って同盟締結式の時にお前と野外でエロい事してた女じゃないかっ!」
「あうっ」

 藪蛇だった。

「セレネさんがリュフミュラン冒険者ギルドに来る前の話を見知っている様に勘違いしたのはすいません。でも……七華とのあれは本当に大反省してるんです。セレネがあの時のイヤリングまだしつこく着けてくれてるのは嬉しいですよ」
「まだしつこく着けてって嫌そうだな」
「いえいえいえ、着けて下さい一生」
「えっ?」

(ふふふふふふ)

 言い合う二人を見て、スピネルは思惑通り時間が稼げると手応えを感じた。

『申し訳無いがこちらにも言い分がある。わがメドース・リガリァ女王アンジェ玻璃音はりね陛下は平和を尊び同盟と和平を結んだ。しかしながら突然ユッマランド軍の魔ローダーが戦端を開き今に至る。今我々は無抵抗にも引き上げの最中だ。貴軍にはこれを人道上の観点から見過ごしてもらいたい!!』

 スピネルの言う通り、いくらココナツヒメが挑発したとは言え、具体的に現実に和平を破り戦端を開いたのはユッマランドのミミイ王女だった。

(さて、どう出るかな?)

 スピネルは腕を組んで蛇輪に乗り込む砂緒とセレネをじっと見つめた。
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