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III プレ女王国連合の成立

サッワの旅立ち Y子黒い稲妻Ⅱの出発

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「サッワよこっちに来なさい」

 地下牢から出て城に入った途端にメドース・リガリァ軍の高官に呼び止められる。

「は、はい」
「貴嶋様からの伝令だ心して聞け」
「ハッ」

 自分の軽挙の為に六機もの魔ローダー部隊を失ったばかりである、どの様な事を言われるかサッワの顔に緊張が走った。

「サッワよ、貴様をオゴ砦奪還部隊の隊長とする!」
「へっ? い、いえ有難う御座います!!」

 もしかして死刑にでもされるのかと緊張していた顔がぱあっと明るくなる。

「もしかしてココナツヒメ様が新しい魔ローダーを!?」
「いや、その様な物は無い」

 サッワの顔が怪訝な表情になる。

「では……配下の部隊が?」
「いや、隊長はサッワだが隊員もサッワ一人だ。それでオゴ砦奪還に徒手空拳で向かってもらいたい!」

 一瞬意味が理解出来なかったが、死刑に近い何かだなとすぐに理解した。しかしいますぐ捕まって刑を執行されるよりもまだ生き残る確率は高いなと思い、文句も無く承服した。

「は、このサッワ謹んでご命令お受けします!」

 サッワは仰々しく敬礼すると、久しぶりに団長の元に帰った。

「おお、サッワ様どこにおいででしたか? お待ちしておりました」

 楽団の団長が情報を知らされておらず、まだサッワが魔ローダーに乗るエースだと思い込んで下手に出ている。その団長を無視してサッワは貴重品が入っている豪華な箪笥の鍵を開けて中を探り出した。

「サッワさま?」

 サッワは金貨が大量に入ったズシリと重い麻袋をドサッと団長に投げ与えた。

「手切れ金だ!」
「ええ!?」
「俺は特殊任務を受けてすぐに出発する事となった。いつ帰れるか分からんから手切れ金だ」
「ええ!? そ、そんな俺とサッワ様の仲じゃないですか??」
「さっさと去れ、でないと斬るぞ」

 サッワは軍の制式剣を抜く仕草をした。

「チッ大方何かヘマでもして悪い事でもあったんだなガキが!」

 団長は金づるが消えたと思い悪態をつくが、しっかり手切れ金は握り締めると振り返りもせずに去って行った。それを無言で見送るとサッワは差し当たっての旅の準備をすると、あてもなく東に歩き出した。

「……スピネルさんに挨拶したかったな、ふふ」

 サッワはみなし子だが幼い頃から育った懐かしい街並みを名残惜しそうにしきりに見ながらメドース・リガリァの東門からフラフラと出て行った。


 ―ナメ王国、早朝五時。

「ほら早く起きて! 早く起きるのよ!!」

 横に並ぶメランとミミイの部屋を交互に行ったり来たりしながらY子こと雪乃フルエレ女王がドアを殴る様な調子でどんどんとノックしまくる。

「うえーーーなんですかもう?」
「はい、Y子さま何でしょう?」

 うるささに耐えきれず、メランとミミイ王女が寝ぼけ眼をこすりながら出て来る。

「何をやっているのだ? 魔戦車の彼はもう準備出来ているぞ??」
「あ、ども……へへ」

 ミミイとメランと同乗する魔戦車の青年がはにかみながら顔を出した。

「キャッ何ですかもう」
「あらあら、魔戦車の?」

 寝巻姿のメランが慌てて上半身をドアに隠し、ミミイ王女が男を前に姿勢を正す。

「もう我は出発するぞ。あと十五分で準備しろ」
「むっかあ、ちょっと自分が偶然たまたま奇跡的に早く起きれたからって意趣返しですか??」
「えーーーそんな予定だったっけえ?」

 メランがドアから顔だけを出して怒り出し、ミミイは突然の出発宣言にあからさまに鬱陶しい表情をした。

「早く行かねばセレネ殿が敵兵にどんな残虐行為を働くか分からぬ。行くぞ!」
「はぁ~~~その情熱をもっと他の事に向けて欲しいですね。何故そこまで敵兵の心配しなくちゃならないんだか」

 メランは前回と真逆の立場でまだ目が開かない様子だった。

「我々は女王様の軍だ! これから連合に加わる国々も見ている。なるべく平和裏に事が動いた方が良いだろうが」
「………………」
「やれやれ、メランちゃんこれは聞きそうに無いわ。ちゃっちゃっと準備しちゃお」
「はいはいお待ちを」

 メランとミミイは一礼するとドアをパタンと閉めた。

「やれやれ」
「あの……メランさんって寝起きもすっごく可愛いですね!」
「へ?」
「あ、いえ……」

 魔戦車の青年は思わず言った事にしまったと思い、少し赤面すると一礼してその場から離れ、一足先に魔戦車の準備に取り掛かった。軍の司令官達には事前にY子が通達しており、今はY子の魔ローダーとなっている黒い稲妻Ⅱとミミイとメランの魔戦車だけが北に向かいセレネに合流する事になっている。

兎幸うさこ~~~起きてる??」

 コンコンとY子が兎幸の部屋のドアをノックするが返事が無かった。

「どしたの~~? フルエレ早く行こっ!」
「きゃっ」

 突然思いがけず後ろから兎幸に声を掛けられ驚くY子だった。

「びっくりしたぁ~~て、私はY子だと言っている」
「はー? はいはいY子ちゃん行こっか!」

 魔法自動人形の兎幸は特に故障していたりスリープ状態でも無い限り、朝だろうが夜だろうが起きる事には何の苦も無いという感じだった。


『遅い!!』

 騎士が着るプレートアーマーをそのまま二十五Nメートル大に拡大した様な魔法ロボット、魔ローダー黒い稲妻Ⅱからナメ王国全土に響き渡る勢いで魔法外部スピーカーから大音響が流れる。その大音声を聞いてようやく出て来たミミイとメランがびくっと肩が跳ね上がる。

「もーーー本当にムカ付くわ」
「絶対に前の事を根に持ってるわねえ」

 等と言いながら魔戦車のハッチを開けて、ごそごそと中に入り込む二人。

「あ、おはようございます! メランさん」
「はい、おはよーよろしくね」
「あれ……ユッマランド王女である私は?」
「あ、こ、これは失礼致しました!」

 青年は敬礼した。

『本当は私一人先行して走って行きたいんだ。でも魔戦車一両では敵の伏兵に襲われてはいけない……だからなるべく早くしてくれ!』

 今度は魔法通信機の音声に切り替わり、まだ文句を言うY子。

「ここまであからさまに足手まといと言う人も知らないわよ」
「本当に女王の器なの?」
「えっ」
「いえいえ何でもないのよオホホホホホホ」

 ミミイ王女は笑いで誤魔化した。変装したY子が雪乃フルエレ同盟女王だと気付いているのは、砂緒やセレネなど喫茶猫呼ねここメンバーと、ごく一部の幹部のみだけである。

『よし、出陣!!』
「おおー勇ましいね!」
「じゃあわたしらも出発!!」

 ザシュザシュザシュザシュッ
大きな鎧の音を響かせて陸上選手みたいな綺麗なフォームでいきなり黒い稲妻Ⅱは全力で走り出した。魔戦車の面々はあっけに取られる。

「話違うでしょ!?」
「早く追いかけて!!」
「はい!!」

 魔戦車も慌てて全速力で出発した。
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