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III プレ女王国連合の成立
海と山とに挟まれた小さき王国の王様とお后様の苦悩と決断
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「こんな言い方したく無いけど、なんだか脅しみたいね……今同盟軍は物凄い勢いで勝ち進んでいるらしいじゃない」
顎をいじりながら悩んでいる夫を見てお后様が言った。
「そうだね、元々セブンリーフ北部の盟主と長年称えられたニナルティナ王国の後裔公国とユティトレッド魔導王国が中心となって牽引しているらしいから、本気を出して連合軍で襲い掛かれば中部小国群の国々なんてひとたまりも無いだろうね。でも同盟女王雪乃フルエレという人はどんな人なんだろうね?」
「セレネさんは同盟軍の総司令官さんまでもしてるだなんて若いのに凄いわぁ。でも雪乃フルエレ女王ってニナルティナの街を破壊して乗っ取ったとか、夜な夜な魔輪で暴走してるだとか、若い男を何人もはべらせてるとかあまり良い噂は聞かないわね」
ありもしない話やギルドマスター猫呼と混同した物などいい加減な噂が立っていた。
「噂なんてどこまで真実か分からないよ……でも困った事だね、セレネさんや砂緒殿には会いたいが、参戦はしたく無い……」
堂々巡りして再び王様は顎に手を当てて悩みだした。
「私……最近時々思うのです」
お后様が遠い目をして言い始めた。
「何を思うのだい?」
「私達が抱悶ちゃんやセレネさん砂緒さんに会えば会う程、夜宵や依世に会える日が遠のいて行くのじゃないかと……」
実はそれは王様も時々考える事だった。同じ事を考えていた事に驚いて王様は一瞬言葉に詰まったがすぐに否定した。
「ははは、それは考えすぎだよ。抱悶ちゃんやセレネさんに会う事と夜宵や依世が戻って来る事には何の関係も無いよ……」
二人は抱悶がまおう軍のエリアから来る事は知っていたが、まおうである事までは知らなかった。
「王様恐れながら……」
常に王様のお側に控える近衛の軍人が恐縮しながら発言の許可を求めて来た。
「どうしたの? コーディエ、貴方が何か発言の許可を求めるなど珍しいわね、言ってごらんなさい」
「はっ有難き幸せ、恐れながら今この七葉後川南側の戦いは同盟軍がタカラ山監視砦を難なく落とした事で趨勢が決しております。そうでありながらセレネ王女から参戦のお誘いが来た事は、彼女が戦争終結後にこの国、海と山と国に有利に働く様にとの王様とお后様へのお気遣いかと思われます。決して悪い話とは思えませぬ!」
普段真面目で黙々と二人に仕えるコーディエがとうとうと語る事で二人は驚いた。
「つまりそなたは早めに参戦する方が良いという事を言いたいのだね?」
王様が一応念を押した。
「はっ恐れながらその様に……存じます」
「そうなのね」
再び王様はお后様を見て言った。
「この国は遥か昔から強固な防御結界に守られ中部小国群の争いにも、まおう軍とも争う事も無く中立を守って来た……しかしその実態は古くから暗殺や毒殺等の闇の力に頼って来た事も事実じゃ。わしらの代で言えば幼い夜宵に莫大な魔力を消費する完璧な国の危険予知を行わせ、その国と民を守る為とは言え幼い頃から高い魔法攻撃力を持った依世に人知れず暗殺や毒殺という恐ろしい事を行わせて来た……その様なやり方が二人に負担を掛けさせ家出する原因になってしまったのだろう……二人が姿を消した今、もうその時代に逆戻りする事は許されないのかもしれんな」
王様の娘二人を想う苦悩と後悔は兎も角、実際には夜宵と依世は予知も暗殺自体も特に苦にはしていなかった。二人が姿を消した原因はもっと個人的な理由による物だったが、二人には全く知る由も無かった。
「そうね……セレネさんや砂緒さんに会う事がどうかというよりも、この国が変わった方が夜宵や依世が戻って来そうな気もするし、それに私達何も出来ない二人に歯向かう事もせずに長年仕えてくれたコーディエみたいな忠実な軍人がどうしてもそうしたいって言うなら叶えてあげたい気もするわね……」
最終的にお后様の言葉が王様を動かした。
「よしそれではコーディエ、重臣達とよく討議してそなた達が良いと思う段階で同盟軍側として参戦する事を許可しよう。ただしくれぐれも無理はせず、民や兵達の苦しむ事が無いようにな……」
「ははっ有難き幸せ、このコーディエこの国の平和を守り名声を高める為に身命を賭して努めとう御座います!!」
「うむ。わしはセレネ殿に返礼の書をしたためようぞ」
王様とお后さまが頷くとコーディエは深々と礼をして喜び勇んで軍府に向かって言った。何時頃から成立したのかは不明だが、古代から続く海と山とに挟まれた小さき王国にとって、初めての本格的な遠征を要する対外戦争参加となった。
(ああ、夜宵さま何処へ……どうかご無事でご健勝で……)
歩きながらコーディエは王様とお后様の会話に登場していた行方不明の夜宵王女の事が頭から離れなかった。コーディエは軍人と言っても髭の大男等では無く、アルベルトやレナードと同世代のフルエレより少し上の年代の好青年であり、幼い頃から類稀な美貌の持ち主だった夜宵王女を遠くから眺めていた者の一人であった。夜宵はこの様に周囲の男性達から高嶺の花の憧れの存在だった事に自身が一切気付く事無く、この地をあっさりと去ってしまっていた……
「Y子さま調理場でお菓子を発掘したの、一緒に食べましょう!」
中部小国群のロミーヌ王国の同盟軍が仮住まいしている宮殿では、大量のお菓子を持ったユッマランドのミミイ王女が、セレネと砂緒の共同控室で無言で佇む黒兜の騎士Y子こと雪乃フルエレとメランのもとに戻って来た。飲みかけた紅茶は手が付けられる事も無く冷めきっていた。
「……Y子さま、Y子さま!」
メランがY子の背中をつんつん突く。ミミイ王女が二人と関係を修復する為に笑顔を作って大量のお菓子を持って戻って来たのは明白だった。メランは出会って短時間でミミイ王女が戦闘も普段の行動も全て直線的であり心に表裏無く誰かを騙そうとか嘘を付こうという気が全く無い人物だと分かっていたので、彼女なりに必死に取り繕うとしている事が痛い程に判った。だからY子にも応じて欲しかったのだ。
「あ、あ、ああ、うん、丁度お菓子が欲しいな~~なんて、思っていたんだ」
フルエレもこうした事は相当に苦手だが、二人の気持ちを察して先程の会話は一旦忘れて明るく笑顔で対応した。最も黒い兜で表情は見えないのだが。
「ミミイ、発掘って何を見つけて来たのよ?」
「んっとねワッフルとマカロンとカヌレとフィナンシェとあんバターサンドとパンナコッタがあったわっ」
グルメタウンに近い土地柄なのか、確かに色とりどりの大量のお菓子がミミイが両手で支える銀の細長いトレーの上に乗っていた。
「乾きものなら兎も角、あんバタとかパンナコッタなんて普通放ってある?? 腐って無いの??」
「失礼ねーーー要らないなら食べないで頂戴」
「凄い……食べたい、凄く食べたい……」
Y子ことフルエレは大量のお菓子を目の前にして、もはや兜の奥で目がギラギラ輝いていた。
「食べましょ食べましょー!!」
ミミイが元気よく言った。二人はミミイのこうした明るい面に救われた。
「コレおいしい美味しいわっ」
「太ってしまう……確実に太ってしまう!」
「今日一日だけで確実に太るわね」
等と言いながらも三人は紅茶が冷たい事も気にせずもしゃもしゃと物凄い勢いでお菓子を食べだした。
「おおーーい皆の衆! セレネ総司令とついでに砂緒殿の御帰還だぞ! 手の空いている者は外に出て出迎えろ!!」
キィイイイイイイイイイイイイン
夢中で食べ続ける三人の頭上に航空機の様な甲高い音が響き渡る。蛇輪が翼から金色の粒子を発してホバリング状態で中庭にゆっくり着地しようとしているのだろう。
「行くのですか?」
メランがY子に訊いた。
「何であんな頭のおかしい二人の為にわざわざ出迎えなくちゃなんないのよ! ムシよムシ!!」
ブフーーーーー!!
黒い無骨な兜を被り、ボンデージ風の衣装で両手にお菓子を握り頬をリスの様に膨らませ必死に食べ続けながらブツブツ言うY子の姿を見て、ミミイが思わず紅茶を噴き出した。
「きったな~~い、もう何なのよ!」
「だってY子さまが面白くてわははははははは」
何かのツボに激しくハマったのかミミイが腹を抱えて手を叩き笑い出した。
「そ、そうね確かにうふふふふふふふ」
「あはははははは」
それに釣られてY子もメランも大笑いを始めた。
顎をいじりながら悩んでいる夫を見てお后様が言った。
「そうだね、元々セブンリーフ北部の盟主と長年称えられたニナルティナ王国の後裔公国とユティトレッド魔導王国が中心となって牽引しているらしいから、本気を出して連合軍で襲い掛かれば中部小国群の国々なんてひとたまりも無いだろうね。でも同盟女王雪乃フルエレという人はどんな人なんだろうね?」
「セレネさんは同盟軍の総司令官さんまでもしてるだなんて若いのに凄いわぁ。でも雪乃フルエレ女王ってニナルティナの街を破壊して乗っ取ったとか、夜な夜な魔輪で暴走してるだとか、若い男を何人もはべらせてるとかあまり良い噂は聞かないわね」
ありもしない話やギルドマスター猫呼と混同した物などいい加減な噂が立っていた。
「噂なんてどこまで真実か分からないよ……でも困った事だね、セレネさんや砂緒殿には会いたいが、参戦はしたく無い……」
堂々巡りして再び王様は顎に手を当てて悩みだした。
「私……最近時々思うのです」
お后様が遠い目をして言い始めた。
「何を思うのだい?」
「私達が抱悶ちゃんやセレネさん砂緒さんに会えば会う程、夜宵や依世に会える日が遠のいて行くのじゃないかと……」
実はそれは王様も時々考える事だった。同じ事を考えていた事に驚いて王様は一瞬言葉に詰まったがすぐに否定した。
「ははは、それは考えすぎだよ。抱悶ちゃんやセレネさんに会う事と夜宵や依世が戻って来る事には何の関係も無いよ……」
二人は抱悶がまおう軍のエリアから来る事は知っていたが、まおうである事までは知らなかった。
「王様恐れながら……」
常に王様のお側に控える近衛の軍人が恐縮しながら発言の許可を求めて来た。
「どうしたの? コーディエ、貴方が何か発言の許可を求めるなど珍しいわね、言ってごらんなさい」
「はっ有難き幸せ、恐れながら今この七葉後川南側の戦いは同盟軍がタカラ山監視砦を難なく落とした事で趨勢が決しております。そうでありながらセレネ王女から参戦のお誘いが来た事は、彼女が戦争終結後にこの国、海と山と国に有利に働く様にとの王様とお后様へのお気遣いかと思われます。決して悪い話とは思えませぬ!」
普段真面目で黙々と二人に仕えるコーディエがとうとうと語る事で二人は驚いた。
「つまりそなたは早めに参戦する方が良いという事を言いたいのだね?」
王様が一応念を押した。
「はっ恐れながらその様に……存じます」
「そうなのね」
再び王様はお后様を見て言った。
「この国は遥か昔から強固な防御結界に守られ中部小国群の争いにも、まおう軍とも争う事も無く中立を守って来た……しかしその実態は古くから暗殺や毒殺等の闇の力に頼って来た事も事実じゃ。わしらの代で言えば幼い夜宵に莫大な魔力を消費する完璧な国の危険予知を行わせ、その国と民を守る為とは言え幼い頃から高い魔法攻撃力を持った依世に人知れず暗殺や毒殺という恐ろしい事を行わせて来た……その様なやり方が二人に負担を掛けさせ家出する原因になってしまったのだろう……二人が姿を消した今、もうその時代に逆戻りする事は許されないのかもしれんな」
王様の娘二人を想う苦悩と後悔は兎も角、実際には夜宵と依世は予知も暗殺自体も特に苦にはしていなかった。二人が姿を消した原因はもっと個人的な理由による物だったが、二人には全く知る由も無かった。
「そうね……セレネさんや砂緒さんに会う事がどうかというよりも、この国が変わった方が夜宵や依世が戻って来そうな気もするし、それに私達何も出来ない二人に歯向かう事もせずに長年仕えてくれたコーディエみたいな忠実な軍人がどうしてもそうしたいって言うなら叶えてあげたい気もするわね……」
最終的にお后様の言葉が王様を動かした。
「よしそれではコーディエ、重臣達とよく討議してそなた達が良いと思う段階で同盟軍側として参戦する事を許可しよう。ただしくれぐれも無理はせず、民や兵達の苦しむ事が無いようにな……」
「ははっ有難き幸せ、このコーディエこの国の平和を守り名声を高める為に身命を賭して努めとう御座います!!」
「うむ。わしはセレネ殿に返礼の書をしたためようぞ」
王様とお后さまが頷くとコーディエは深々と礼をして喜び勇んで軍府に向かって言った。何時頃から成立したのかは不明だが、古代から続く海と山とに挟まれた小さき王国にとって、初めての本格的な遠征を要する対外戦争参加となった。
(ああ、夜宵さま何処へ……どうかご無事でご健勝で……)
歩きながらコーディエは王様とお后様の会話に登場していた行方不明の夜宵王女の事が頭から離れなかった。コーディエは軍人と言っても髭の大男等では無く、アルベルトやレナードと同世代のフルエレより少し上の年代の好青年であり、幼い頃から類稀な美貌の持ち主だった夜宵王女を遠くから眺めていた者の一人であった。夜宵はこの様に周囲の男性達から高嶺の花の憧れの存在だった事に自身が一切気付く事無く、この地をあっさりと去ってしまっていた……
「Y子さま調理場でお菓子を発掘したの、一緒に食べましょう!」
中部小国群のロミーヌ王国の同盟軍が仮住まいしている宮殿では、大量のお菓子を持ったユッマランドのミミイ王女が、セレネと砂緒の共同控室で無言で佇む黒兜の騎士Y子こと雪乃フルエレとメランのもとに戻って来た。飲みかけた紅茶は手が付けられる事も無く冷めきっていた。
「……Y子さま、Y子さま!」
メランがY子の背中をつんつん突く。ミミイ王女が二人と関係を修復する為に笑顔を作って大量のお菓子を持って戻って来たのは明白だった。メランは出会って短時間でミミイ王女が戦闘も普段の行動も全て直線的であり心に表裏無く誰かを騙そうとか嘘を付こうという気が全く無い人物だと分かっていたので、彼女なりに必死に取り繕うとしている事が痛い程に判った。だからY子にも応じて欲しかったのだ。
「あ、あ、ああ、うん、丁度お菓子が欲しいな~~なんて、思っていたんだ」
フルエレもこうした事は相当に苦手だが、二人の気持ちを察して先程の会話は一旦忘れて明るく笑顔で対応した。最も黒い兜で表情は見えないのだが。
「ミミイ、発掘って何を見つけて来たのよ?」
「んっとねワッフルとマカロンとカヌレとフィナンシェとあんバターサンドとパンナコッタがあったわっ」
グルメタウンに近い土地柄なのか、確かに色とりどりの大量のお菓子がミミイが両手で支える銀の細長いトレーの上に乗っていた。
「乾きものなら兎も角、あんバタとかパンナコッタなんて普通放ってある?? 腐って無いの??」
「失礼ねーーー要らないなら食べないで頂戴」
「凄い……食べたい、凄く食べたい……」
Y子ことフルエレは大量のお菓子を目の前にして、もはや兜の奥で目がギラギラ輝いていた。
「食べましょ食べましょー!!」
ミミイが元気よく言った。二人はミミイのこうした明るい面に救われた。
「コレおいしい美味しいわっ」
「太ってしまう……確実に太ってしまう!」
「今日一日だけで確実に太るわね」
等と言いながらも三人は紅茶が冷たい事も気にせずもしゃもしゃと物凄い勢いでお菓子を食べだした。
「おおーーい皆の衆! セレネ総司令とついでに砂緒殿の御帰還だぞ! 手の空いている者は外に出て出迎えろ!!」
キィイイイイイイイイイイイイン
夢中で食べ続ける三人の頭上に航空機の様な甲高い音が響き渡る。蛇輪が翼から金色の粒子を発してホバリング状態で中庭にゆっくり着地しようとしているのだろう。
「行くのですか?」
メランがY子に訊いた。
「何であんな頭のおかしい二人の為にわざわざ出迎えなくちゃなんないのよ! ムシよムシ!!」
ブフーーーーー!!
黒い無骨な兜を被り、ボンデージ風の衣装で両手にお菓子を握り頬をリスの様に膨らませ必死に食べ続けながらブツブツ言うY子の姿を見て、ミミイが思わず紅茶を噴き出した。
「きったな~~い、もう何なのよ!」
「だってY子さまが面白くてわははははははは」
何かのツボに激しくハマったのかミミイが腹を抱えて手を叩き笑い出した。
「そ、そうね確かにうふふふふふふふ」
「あはははははは」
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